忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,原告が,被告の製造販売に係るデジタルカタログについて,原告の特許権(特許第4431118号)を侵害している旨主張して,被告に対し,①特許法100条1項に基づく差止請求権として,デジタルカタログ表示装置の製造,販売,又は販売の申出の禁止,②同条2項に基づく廃棄請求権として,デジタルカタログ表示装置におけるデジタルカタログ表示のためのプログラム及びデータベースの廃棄,③不法行為に基づく損害賠償として,同法102条1項の推定による損害額1億0962万円のうち3139万3320円と弁護士費用相当額313万9332円の合計額である3453万2652円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案です。

 これについて,東京地裁民事29部(大須賀さんの合議体です。)は,訴えを却下!しました。

 主文が稀に見るパターンですね。しかも特許侵害訴訟で。一言で言うと,原告さん,ジャハンナムにようこそ~という所です。

 ここしばらく,法律関係の記事のときには,倒産と知財というネタが多かったと思います。そして,今回,珍しく特許侵害訴訟で,それに関することが出ましたので,紹介することにしたわけです。

2 問題点
 本件の原告は自然人です。具体的には,特許電子図書館で,上記の特許権番号を引けばわかります。そして,この自然人ということが非常に重要なわけですね。
  どういうことかというと,原告は,この侵害訴訟を提起する直前に破産の申立を行なっているのです。判決からわかる時系列を挙げます。

 H22.4.13  破産手続開始・免責許可申立(福岡地方裁判所小倉支部)
 H22.8.20  開始決定
 H23.11.21 破産手続廃止・免責許可決定(破産財団僅少,異時廃止)
 H23.11.26 特許侵害訴訟提起(訴状記載の日付は11.25)
 H23.12.21 破産手続廃止・免責許可決定確定
 
 なお,開始決定から手続廃止まで,結構な期間かかっておりますが,これは同時に原告が代表者を務めていた法人の破産も申立てたようですので,そのため財産の把握と換価等で時間を要したものと推測できます。

 以上の時系列ですので,異時廃止等の決定が出てすぐに,特許侵害訴訟を提起したことがわかります。そして,一番重要なことは,「上記破産手続開始・免責許可申立ての際に,原告が提出した資産目録一覧,資産目録詳細説明書等の書類には,本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権についての記載はなかった。」ことです。
 そうすると,当然,「本件破産管財人作成の財産状況報告書には,本件特許権及びこれ基づく損害賠償請求権についての記載はなかった。」ということになってしまいます。
 つまり,破産手続の間,本件の特許権は,破産手続開始の申立代理人(明確ではないのですが,おそらく。)も,破産裁判所(福岡地裁小倉支部)も,破産管財人も,知られなかったわけです。

 ですので,こういう価値あると思われる財産が破産手続終了後に出てきてしまった場合,その管理処分権は,引き続き管財人なのか,それとも当該破産者になるのかが問題になるわけですね。
 なお,原則というか,通常は,自然人の場合,破産手続が終了すると,管財人の管理処分権(破産法78条1項)は失われ,自然人の管理処分権が復活します(そうじゃないと,買ったり売ったりなど,何もできないままということになってしまいますからね。)。

 この点について,法律上,明文のあるときは,そりゃ管財人です(破産法90条)。そうでなく,ここで問題なのは,明文に当たらないときの話です(今回のように,急迫の事情もなく,財団債権じゃない場合)。

 判例(最高裁平成5年6月25日判決,民集47.6.4557)は,「破産手続が終結した後における破産者の財産に関する訴訟については、当該財産が破産財団を構成し得るものであったとしても、破産管財人において、破産手続の過程で破産終結後に当該財産をもって破産法二八三条一項後段の規定する追加配当の対象とすることを予定し、又は予定すべき特段の事情がない限り、破産管財人に当事者適格はないと解するのが相当である。」というのがあります。ですので,特段の事情があれば,管財人に管理処分権があり,そのときは,原告適格も管財人となるわけです。

 まあでも本件では,まずは,この論点とは違うところから始まるのですね。
  というのは,上記,「破産手続終了後」というのは,異時廃止の決定確定後,という意味ですので。むむむ,どういうことか??つまり,本件の場合,上記時系列のとおり,異時廃止の決定確定前に,特許侵害訴訟を提起しておりますので,破産手続終了後ではないのですね,ちゃんちゃん。
 ただし,本件で問題となっている原告適格は,訴訟要件ですので,口頭弁論終結時に備わっていればいいのですね(本案判決の要件だから。)。
 ですので,時間が進み,異時廃止決定の確定後に本件特許侵害訴訟の口頭弁論が終結しておりますので,最初に瑕疵があるとしても,治癒されているのではないか,そうすると,上記最高裁の論点が問題になってくる,という二重構造なわけです。

 ついてこれたかな。

3 判旨
論点の前提の話 「破産手続開始決定があった場合には,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は,破産管財人に専属するから(破産法78条1項),破産財団に関する訴訟は破産管財人が当事者適格を有する(同法44条1項・2項)。
 これを本件についてみるに,原告は,本件破産手続を廃止する旨の決定が確定した日(平成23年12月21日)よりも前である平成23年11月26日に本件訴訟を提起している(前提事実(2)オ,(3)イ)のであり,破産手続廃止の決定は確定しなければ効力が生じないから(破産法217条8項),本件訴訟の提起日においては,本件破産管財人が本件訴訟の当事者適格を有していたと解される。
 そうすると,本件訴訟は,その提起時において,原告適格を有しない者の訴えであったから,不適法な訴えであったといわざるを得ない。」

最高裁の論点の話「原告は,その後,本件破産手続が終了し,原告が本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権の管理処分権を回復したから,原告適格の欠缺は治癒された旨主張する。
 そこで検討するに,確かに,破産手続が終了した場合には,破産管財人の任務は終了し,原則として破産管財人の管理処分権限は失われるから,破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は中断し,破産者は当該訴訟手続を受継しなければならない(破産法44条4項・5項)。しかしながら,破産管財人の任務が終了した場合であっても,破産管財人は,急迫の事情があるときの必要な処分や財団債権の弁済をしなければならないし(同法90条),新たに配当に充てることができる相当の財産があることが確認されたときは,追加配当を行うことができる(同法215条1項後段)など,破産管財人の管理処分権限が認められる場合がある。
 このような破産法の規定に照らすと,破産手続が終結した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産終結後に当該財産をもって同法215条1項後段の規定する追加配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。そして,例えば,破産終結後,破産債権確定訴訟等で破産債権者が敗訴したため,当該債権者のために供託していた配当額を他の債権者に配当する必要を生じた場合,又は破産管財人が任務をけ怠したため,本来,破産手続の過程で行うべき配当を行うことができなかった場合などには,破産管財人において,当該財産をもって追加配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があるというべきである(最高裁平成3年(オ)第1334号同5年6月25日第二小法廷判決・民集47巻6号4557頁参照)。
 加えて,破産手続が廃止によって終了した場合であっても,破産管財人は財団債権を弁済しなければならない(破産法90条2項)のであるから,破産手続が廃止によって終了した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産手続廃止後に当該財産をもって財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。
 これを本件についてみるに,原告は,その陳述書(甲12)において,本件特許権を本件破産裁判所及び本件破産管財人に申告しなかったことを認めている上,本件破産手続の廃止決定以前に本件訴訟の委任状を作成し,その決定の5日後に本件特許権侵害の特許法102条1項の推定による損害額を1億0962万円と主張して本件訴訟を提起した(前提事実(2)オ,(3))のであるから,本件特許権が価値を有する可能性があることを知りながら,本件破産裁判所に対して本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権を申告しなかったと認められる。
 そうすると,原告の重要財産開示義務(破産法41条)の違反によって,本件破産管財人は,本件破産手続の過程において,本件特許権の換価やこれに基づく損害賠償請求権の行使の機会を失い,ひいては本来行うべき財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の機会を失ったというべきであるから,財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定すべき特段の事情があったと認めるのが相当である。」

4 検討
 東京地裁は,訴訟提起時の原告適格も,口頭弁論終結時の原告適格も,管財人にあるとしました。
 ですので,主文が却下なわけです。

 でも,却下判決には,既判力が生じませんから,原告としては,蒸し返すことも可能は可能です。しかし,また同じ理由で却下になるでしょうね。

 ところで,最初にジャハンナム行きだと書きました。実は,破産法にこういう条文があるのですね。

(詐欺破産罪)
第二百六十五条  破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(相続財産の破産にあっては相続財産、信託財産の破産にあっては信託財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。 一  債務者の財産(相続財産の破産にあっては相続財産に属する財産、信託財産の破産にあっては信託財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為

 今回の特許権は何で管財人に言わなかったのですかね~。10年以下の懲役って重いですね~。

 さらに,この詐欺破産罪が確定すると,こうなります。
(免責取消しの決定)
第二百五十四条  第二百六十五条の罪について破産者に対する有罪の判決が確定したときは、裁判所は、破産債権者の申立てにより又は職権で、免責取消しの決定をすることができる。破産者の不正の方法によって免責許可の決定がされた場合において、破産債権者が当該免責許可の決定があった後一年以内に免責取消しの申立てをしたときも、同様とする。
 折角得られた免責が水の泡ですね~。東京地裁では,過去1件あるそうです。福岡地裁小倉支部ではどうなのかなあ。

 あ,そうそう,この特許侵害訴訟は,本人訴訟ではありません。代理人弁護士が複数ついております。ちょっと調べりゃわかることだし,もしわかってやってたとしたら,本当最悪ですね。これで,原告本人が管財人から告訴されて,詐欺破産罪で起訴されたりなんかしたら,訴訟の着手金を全部返すところじゃ取り返しがつきませんね。

 原告本人は謂わば素人ですので,イケイケドンドンの面はあるでしょう。ですので,代理人でうまくコントロールしないと。。いやあ何やってるんだか。

 ところで,知財の専門家の皆さん,上記の判決,何が問題になっているか,ちゃんとわかりましたか?
 特許法だけ知っているようじゃ,このくらいの判決の意味もわからないと思います。本件,破産法,民事訴訟法の極めて基本的な知識が必須です。弁護士以外で,全部わかったさ~という方は,専門家を名乗られてよいと思いますがね。
PR
475  474  473  472  471  470  469  468  467  466  465 
カレンダー
04 2017/05 06
S M T W T F S
1 4 5
7 8 9 12 13
14 17 18 20
22 25 26 27
28 29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]