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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「シリカ質フィラー及びその製法」とする特許第3445707号の特許権者である原告が,被告による別紙物件目録記載のシリカ製品(被告製品)の製造,販売及び販売のための展示等が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償の一部請求として1億円及び遅延損害金の支払を求めた,所謂特許侵害訴訟の事案です。

 これに対して,東京地裁民事46部(大鷹さんの合議体です。)は,原告の請求を棄却(構成要件充足性なし。)しました。

 ま,よくある特許侵害訴訟ですが,何故か問題になることの多い,特異な技術分野の訴訟ですので,取り上げました。

 クレームを見ましょうね。それだけでピンと来るかもしれませんので。

 A シリカ質粉末を可燃性ガス-酸素火炎中で溶融して得られた球状シリカであって,
 B 粒径が30μm以上の粒子を30~90重量%含有してなり,
 C 該粒径30μm以上の粒子の真円度が0.83~0.94,
 D 粒径30μm未満の粒子の真円度が0.73~0.90である
 E ことを特徴とするシリカ質フィラー。

 という5つの構成要件で,特に問題になったのが,構成要件Dですので,下線を引いております。実務家の皆様ならわかりますね。いやあ本当「粒径」には注意!です。

2 問題点
 本件で,問題になったのは,上記構成要件Dの「真円度」なのですね。より具体的に言えば,原告主張の測定方法だと構成要件D内に入り,他方被告主張の測定方法だと構成要件D外だったのです。

 まあというわけで,粒径そのままが問題になったわけではありませんが,やはり粒径同様,わかっているようでわかっていない物理量が問題になったというのは同じですね。

 粒径が問題になった有名な判決があります。知財高裁平成21年3月18日判決の,H20(ネ)10013号,遠赤外線放射体事件です。

 この事件では,構成要件の「平均粒子径10μm以下」という文言について,その意義を理解することができないとして,記載要件の明確性要件に違反があるとして,無効の抗弁で棄却されたという,今から考えれば極めてレアな事例です。

 この判決については,私もちょい昔,知財管理誌の論文で取り上げ,それを元に弁理士会の研修で講義をしたこともあります。
 今回のこの記事のために,そのときの資料を見返したのですが,論文はともかくも,講義は結構いい所を突いているし,問題意識も高いですね,今とは大違いです。

 そう言えば最近このような論文をかいておりませんし,当然講義もしておりません。勿論ニーズがないから,なのですが,前提として私のやる気がない!というのがあります。

 若干脱線しますが,上記の論文を書いた年に,弁理士会での講義も行ったわけです。私はここで何度も書いてますが,人嫌いの真面目嫌い,つまり人前で何か喋るなど,身内のお祝い等でも逃げ出すくらいですので,とてもやれません。
 ですが,独立直後で仕事も欲しいということもあり,営業を兼ねてやることにしたわけです。

 ところが,論文の反響も,講義の反響も一切ありません。
 まさかの問い合わせ0件!です。
 で,私は悟りました,全く必要とされていないのね~♪ってことを。ですので,心が折れてしまったのです。
 ま,元々非常に打たれ弱く心が折れやすい質ですので,それはそれでよいのですが,論文を書く気も講演で何か喋る気も全くなくなりましたね。

 ですので,こうやってブログで憂さ晴らし程度が丁度良いのです。

 おっと,脱線しましたね。さて,話を元に戻すと,上記の判決は私以外も色んな方が論文等を書いていますので,詳しくはそれを見て下さい。
 それ以外でも,やはり粒径が問題となった判決があります。

 それが,東京高裁平成17年03月30日判決,平成15(行ケ)272号です。

 これは,クレームの「平均粒径が3~15μmの不活性微粒子」について,「平均粒径の意義,測定方法の特定がなく,また,メーカー名・商品名を明示することにより用いる不活性微粒子を特定してもいない。そうすると,当業者は,どのような不活性微粒子を用いればよいか分からないのであるから,本件明細書は,当業者が発明を実施できるように明確に記載されていないことになる。」として,特許を取り消した特許庁の判断(明確性違反)を是認しました(昔の特許異議ですね。)。

 この二番目の判決は審決取消訴訟の類ですが,やはり化学の分野で,粒径が問題になったわけですね。
 ですので,判決になっているだけでも,これだけ挙げられるのですから,いかにこの分野のこの手の用語が問題になっているかわかると思います。

 で,このように,粒径のようなわかったようなわからない物理量についてその定義自体が問題となるパターンもありますが(これが正面から争われると明確性要件の話になります。),何だか最近,無効の抗弁でNGにするのを裁判所が避けているのではないかと思われることもあり,そうすると,正面ではなく多少斜めから争うことになります。

 それが本件のパターンじゃないでしょうか。上記のとおり,実務家の皆様にはピンとくるかも,と言いましたが,こういうわかったようなわからない物理量って,定義で一悶着あった後,必ず,ある測定方法で測ったら範囲内で,ある測定方法で測ったら範囲外になるということで一悶着になりますね。

 結局,明細書にそこら辺よく書いていないのが問題なのですね。定義に加えて測定方法まで書けば,こんな争いなくなりますが,他方,あまり詳しく書くとノウハウが流出しちゃうし,回避されちゃうという問題が出てきますので,バランスが大事です。

 で,ともかくも,記載要件の問題をクリアしても,その許容範囲内のある測定方法で測ると範囲内,他方別の方法で測ると範囲外だった場合,これは構成要件充足しているの?それとも充足していないの?気になりますね~♪

3 判旨
 「本件発明の真円度を測定するに当たっては,乾式の試料又は湿式処理をした試料のいずれを用いても差し支えないことは,前記ウで認定したとおりである。
 ところで,本件発明の真円度の測定に当たり乾式の試料を測定対象とするか,又は湿式処理をした試料を測定対象とするかによって真円度の数値に有意の差が生じる場合,当業者がいずれか一方の試料を測定対象として測定した結果,構成要件所定の真円度の数値範囲外であったにもかかわらず,他方の試料を測定対象とすれば上記数値範囲内にあるとして構成要件を充足し,特許権侵害を構成するとすれば,当業者に不測の不利益を負担させる事態となるが,このような事態は,特許権者において,特定の測定対象試料を用いるべきことを特許請求の範囲又は明細書において明らかにしなかったことにより招来したものである以上,上記不利益を当業者に負担させることは妥当でないというべきであるから,乾式の試料及び湿式処理をした試料のいずれを用いて測定しても,本件発明の構成要件Dが規定する粒径30μm未満の粒子の真円度の数値範囲(「0.73~0.90」)を充足する場合でない限り,構成要件Dの充足を認めるべきではないと解するのが相当である。
 しかるところ,前記(ア)のとおり,原告測定データ3は,被告製品の乾式の試料を対象として粒径30μm未満の粒子の真円度を測定した場合に,被告製品が構成要件Dの数値範囲内にあることを示している。
 しかし,他方で,本件においては,被告製品の湿式処理をした試料を対象として粒径30μm未満の粒子の真円度を測定した場合に,被告製品が構成要件Dの数値範囲内にあることを認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記(イ)のとおり,湿式処理をした試料を対象にした被告測定データ1によれば,被告製品は構成要件Dに規定する数値の範囲外にあるというべきである。
 したがって,被告製品は,構成要件Dを充足するものと認めることはできない。」

4 検討
 疑わしきは罰せずというところでしょうかね。まあ妥当な判断だと思います。

 事例判断かもしれませんが,ある測定方法で構成要件内,もう一つの測定方法で構成要件外の場合は,構成要件充足性なしというわけです。許容出来る色んな測定方法で全部充足しないとダメなわけですね。ま,ギリギリのところの争いですので,やむを得ないと思います。

 他方,そうすると,さらに,こういう粒径関係だと,定義に争いはない,また測定方法に争いはない,ただ,その許容範囲のその測定方法で測定したところ,イ号物件の70%は構成要件を充足していたが,30%は範囲外だった,とかその逆とか,さてさて,そのような場合はどうなるんでしょうね??

 実務家の皆様には,そうそう,そういう場合も問題になるんだよね~って思うのではないでしょうか。ざっくり過半でよいのか?それとも疑わしきは罰せずなのか?どういう判断が妥当なのでしょう。
 これが問題となった事件の判決は,私の記憶ではいまだないと思います。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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