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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「医薬」とする発明についての本件特許A(特許第3148973号)及び本件特許B(第3973280号)を有する原告(武田薬品) が,原告先行特許(ピオグリタゾン塩酸塩の特許,商品名「アクトス」)の存続期間が満了したことから,原告先行特許発明の技術的範囲に属し,原告製品と競合する被告ら(後発薬品メーカー)の各製品(被告ら各製品)について製造販売を企図し,厚生労働大臣から製造販売の承認を受け,被告ら各製品について,すでに健康保険法に基づく薬価基準収載を得て製造販売を開始し,又は,今後,製造販売を開始する予定があるという被告らの各行為が,原告の本件特許A又は本件特許Bを侵害するとして,差止等及び損害賠償を求めている特許侵害訴訟の事案です。
 
 これに対して,大阪地裁第26民事部(山田さんの合議体です。)は,原告の請求を全部棄却しました。
 
 武田薬品が訴状提出した段階では結構話題になりました。 要するに,アクトスの特許が切れたので,未だ存続中のアクトスと他の経口血糖降下薬の併用特許(この意味も実は問題になるのですが。)で,ジェネリクス医薬品メーカーに権利行使をして,言うことを聞かないところを訴えたというわけです。でも,裁判所は全部棄却したのですね~。
 
2 問題点
 医薬品特許の権利行使はよくあることだと思うのですが,昨日ノーベル医学生理学賞のついでに書いた懸念が既に現実となっていましたので,取り上げました。
 ただ,表の問題点はあくまで,間接侵害の成否のようですけどね。
 
 まず,武田薬品の持っていたアクトスの権利(物の発明,第1853588号)は,既に終了しております(平成23年1月9日まで)。
 他方,本件特許Aのクレーム1は,「(1)ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,(2)アカルボース,ボグリボースおよびミグリトールから選ばれるα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」です。
 また,本件特許Bのクレーム1は,「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,ビグアナイド剤とを組み合わせてなる,糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」です。
 というわけで,本件特許Aがピオグリタゾン塩酸塩+α-グルコシターゼ阻害剤で,本件特許Bがピオグリタゾン塩酸塩+ビグアナイド剤(BG剤ともいうそうです。)の組み合せ,ということになります。
 
 つぎに,被告らの行為は,本件特許A又は本件特許Bの一部の構成要件である,ピオグリタゾン塩酸塩の製造・販売(又はその予定)だけであって,それに加えてα-グルコシターゼ阻害剤やビグアナイド剤も製造・販売(又はその予定)したものではないのですね。
 
 そうすると,通常,権利一体の原則(復習はこちらで。)から,一部の構成要件に合致したところで,侵害とはならないのが原則です。
 でも,新薬会社の武田としては,このアクトスの売上次第で社運がどうこうなるレベルらしいので(全世界ですが,約3400億円というもの凄いものだったようです。),特許終了です,それではどうもお疲れ様でした,では済まないようなのですね。したがって,武田は,何としても後発薬の進出を止めたい,そのためにいかなる手段をとってでも,と考えても不思議じゃないですよね。
 となると,使える手は,権利一体の原則の例外の間接侵害の規定となります。
 
 そして,その間接侵害とは,「法101条は,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲で,その実効性を確保するという観点から,それが生産,譲渡されるなどする場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産,譲渡等に限定して,特許権侵害の成立範囲を拡張する趣旨の規定であると解される。」というようなものです。権利一体の原則の支配する直接侵害,もうそれと殆ど同じだ,にも関わらず,捕捉できないのでは可哀想,ということで設けられた規定なわけです。
 
 例えば,本件で問題となった間接侵害の規定である特許法101条2号は,「特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」を特許侵害とみなしております。
 ちなみに,今回の事件で問題となったのは,この規定の「その物の生産に用いる物」という文言です。つまり,原告曰く,本件特許でいう「組み合わせてなる」というのは,医薬組成物である配合剤に限られず,併用することも含まれるし,さらに,間接侵害規定でいう「物の生産」には,医薬組成物類型だけでなく,混合類型や併せとりまとめ類型も含まれ,加えて被告らの行為に関し,薬剤師による生産,患者による生産,そして医師による生産!?の3つの態様がある,よって間接侵害だというのですね。
 
 この最後の医師による生産,これが,漸く昨日の話題とかぶって来ました。
 
 つまりは,医師が,患者の同意を得て処方せんを作成し,各薬剤の併用を指導することが,規範的に見れば,「物の生産」だというのです。
 いやあびっくりしますね。今年一番のおもしろ主張,いやトンデモ主張ですかね。あとで,もう少し貶しますが,これが日本最大の医薬品メーカーの主張であり,関西一の法律事務所の主張だって言うんだから,世も末ですわな。
 
3 判旨
 「・・・・加えて,法101条の間接侵害についても刑罰の対象とされていること(法196条の2,201条)なども考慮すると,間接侵害の成否を判断するに当たっても,前記(ア)と同様に,特許権の効力を過度に拡張したり,適法な経済活動に萎縮的効果を及ぼしたりすることがないように,その成立範囲の外延を不明確にするような解釈は避ける必要がある。
 法101条2号は,「物の生産」に用いる物の生産等について間接侵害の成立を認めるものであるが,ここでいう「物の生産」が法2条3項の規定する発明の「実施」としての「物の生産」をいうことは,明らかなものというべきである。
そうすると,法101条2号の「物の生産」についても,前記(イ)と同様に,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいうものであり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないものと解される。このことは,法101条2号において「物の生産に用いる物」と規定され,「その物の生産又は使用に用いる物」とは規定されていないことからも,明らかであるといわなければならない。
(2) 本件へのあてはめ
ア 本件各特許は「特許が物の発明についてされている場合」に当たること
 前提事実のとおり,本件各特許発明の【特許請求の範囲】は,いずれも「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と,本件併用医薬品とを「組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。」というものである。
 したがって,本件各特許発明は,当該医薬品に関する発明,すなわち「物の発明」であると認めることができ,このこと自体は当事者間でも争いがない。
 なお,「組み合せる。」とは,一般に,「2つ以上のものを取り合わせてひとまとまりにする。」ことをいい,「なる」とは,「無かったものが新たに形ができて現れる。」「別の物・状態にかわる。」ことをいうものと解される。
 したがって,「組み合わせてなる」「医薬」とは,一般に,「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬品」をいうものと解釈することができる。
イ 本件各特許発明における「物の生産」
(ア) はじめに
 前記(1)イのとおり,法101条2号の「物の生産」は,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいう。すなわち,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であって,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれない。
 被告ら各製品が,それ自体として完成された医薬品であり,これに何らかの手が加えられることは全く予定されておらず,他の医薬品と併用されるか否かはともかく,糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療用医薬としての用途に従って,そのまま使用(処方,服用)されるものであることについては,当事者間で争いがない。
 したがって,被告ら各製品を用いて,「物の生産」がされることはない。
 換言すれば,被告ら各製品は,単に「使用」(処方,服用)されるものにすぎず,「物の生産に用いられるもの」には当たらない
(イ) 医師による,医薬品の併用処方が「物の生産」となるか否か
 原告は,本件各特許について,「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)に関する特許を受けたものであり,医師が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品の併用療法について処方する行為は,本件各特許発明における「物の生産」に当たる旨主張する。
 前記(1)アのとおり,「物の発明」,「方法の発明」及び「物を生産する方法の発明」は,明確に区別されるものであり,特許権の効力の及ぶ範囲も明確に異なるものであり,「物の発明」と「方法の発明」又は「物を生産する方法の発明」を同視することはできない。
 前記アのとおり,「組み合わせてなる」「医薬」とは,「2つ以上の有効成分を取り合わせてひとまとまりにすることにより,新しく作られた医薬品」をいうものと解されるところ,併用されることにより医薬品として,ひとまとまりの「物」が新しく作出されるなどとはいえない。
 複数の医薬を単に併用(使用)することを内容(技術的範囲)とする発明は,「物の発明」ではなく,「方法の発明」そのものであるといわざるを得ないところ,上記原告の主張は,前記アのとおり,「物の発明」である本件各特許発明について,複数の医薬を単に併用(使用)することを内容(技術的範囲)とする「方法の発明」であると主張するものにほかならず,採用することができない。
 また,法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と規定しているところ,医療行為に関する発明は,「産業上利用することができる発明」には当たらない。医師が薬剤を選択し,処方する行為も医療行為(医師法22条)であるから,これ自体を特許の対象とすることはできないものと解される。
 法69条3項は,「二以上の医薬(人の病気の診断,治療,処置又は予防のため使用する物をいう。以下この項において同じ。)を混合することにより製造されるべき医薬の発明又は二以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に係る特許権の効力は,医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬には,及ばない。」旨規定するが,これも同様の趣旨に基づく規定であると解される。
 このように,本件各特許発明が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)を技術的範囲とするものであれば,医療行為の内容それ自体を特許の対象とするものというほかなく,法29条1項柱書及び69条3項により,本来,特許を受けることができないものを技術的範囲とするものということになる。
 したがって,医師が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品の併用療法について処方する行為が,本件各特許発明における「物の生産」に当たるとはいえない。・・・・・
 
(3) 小括
 以上によれば,被告ら各製品を用いて本件各特許発明における「物の生産」がされることはないから,被告ら各製品は,本件各特許発明における「物の生産に用いられるもの」には当たらない。」
 
4 検討
 いやあこんなアホな主張をまともに取り上げないといけないというのは裁判所もご苦労様なことです。

 貧すれば鈍するとはよく言ったものですね。アクトス死亡で,パニクって,使える手は何でも使えということで,こんな主張をしたのでしょうが,まあ酷いものですね。
 代理人も,こんな主張が通ると思ったのでしょうかね。これは恐らくクライアントから,こういう主張をしてくださいよ,先生~♫って言われて断れないパターンだと推測しますが(大企業の知財部は,下手な弁護士では太刀打ちできない程専門の知識がありますもんね。)・・。ていうか,代理人からこういう主張しましょうと言ってやったんなら,特許訴訟を受任するのはもうやめた方がいいですね。はっきり言って,それくらい恥ずかしいものです。
 しかも,今回,無効の抗弁の判断もあり,それによると,本件特許AもBも無効のようです。こりゃいい気味ですね(なお無効審判→審決取消訴訟ラインもあります。本件特許Aについては,平成23(行ケ)10148 号で,審判では有効でしたが,訴訟では無効とされて,今最高裁です。他方,本件特許Bについては,平成23(行ケ)10146号で,審判では一部有効でしたが,訴訟では全部無効とされて,これまた今最高裁です。でもまあ特許そのものがあの世行きになるようですね。)。
 
 ただ,このように,かなり貶しましたが,TPPに加入すると,医療行為も特許の対象となるため(医療も産業だ!ということです。),医師の行為が絶対に「物の生産」に当たらない,とは言い切れなくなるのが恐ろしいことです。
 この点について,既に,医療行為も特許の対象となっているアメリカでは,現場での医師の行為に例外はあるようですが,今回の間接侵害のように,最終的には後発医薬品メーカーを追い落とし,医師の行為はそのための媒介みたいな場合には,例外には当たらないでしょうね。そして,TPPに加入した場合の日本でも同じだと思います。
 
 イノベーションが日本にとって,大事なのは言うまでもありません。
 でも,TPPに加入することが,イノベーションの促進に本当につながるかと言われると,違うのだと思います。TPP促進派は,TPPに加入すると何がどうなってイノベーションを促進するかというメカニズムさえ全く説明しません。
 そんなインチキに乗せられるわけねえじゃんということですけどね。でもまあ今回負けた武田は,今後どんな手を使っても日本をTPPに加入させようとするでしょうけど,ムフフ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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