忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称「半導体装置の製造方法」を出願した原告(ルネサスエレクトロニクス)が,特許庁から拒絶査定をされため,これに対し,拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2009-3734号)をするとともに,同日付けで手続補正をし,さらに,平成23年1月24日付けで手続補正(本件補正)をしたものの,結局,特許庁から拒絶審決(進歩性なし)を下されたため,これに不服として,知財高裁に出訴したものです。

 これに対して,知財高裁3部(飯村さんの合議体)は原告の請求を認め,審決を取り消しました(要するに進歩性あり。)。

 さあ,今日は閲覧数が大きく下がりそうですね。とても,ディープな特許,しかも進歩性の世界へようこそ~♪です。進歩性にあまり興味のない人は飛ばすことをおすすめしますよ。

 ところで,念のため言っておきますが,パブリシティの最高裁の判決の件です。
 重要なことは確かでしょうが,その当否は別にして,事実認定,判断の内容ともに,特段難しいところはないですから,わざわざここで取り上げる必要はないと思い,マニアックな方を優先しました。まあへそ曲がりなもので・・・。

 さて,クレームです。
「 (a) 上面と,前記上面に設けられた複数の半導体チップ搭載領域と,前記上面とは反対側の下面とを有するマトリクス基板を準備する工程,
(b) 複数の半導体チップを前記複数の半導体チップ搭載領域に,それぞれ搭載する工程,
(c) 前記複数の半導体チップのそれぞれと前記マトリクス基板に形成された前記複数の第1パッドとを,複数のワイヤで接続する工程,
(d) 前記複数の半導体チップおよび前記複数のワイヤを樹脂で封止する工程,
(e) 前記複数の半導体チップのうちの互いに隣り合う領域における前記マトリクス基板および前記樹脂を切断し,複数の樹脂封止型半導体装置を取得する工程,を含み,
 取得された前記複数の樹脂封止型半導体装置のそれぞれは,分割された前記マトリクス基板の前記下面に,複数の第2パッドと,複数の配線と,アドレス情報パターンとを有し,
 分割された前記マトリクス基板の前記上面は,前記樹脂で覆われており,
 前記複数の配線は,前記複数の第2パッドのそれぞれと一体に形成され,
 前記アドレス情報パターンは,前記複数の第2パッドおよび前記複数の配線を除く領域に形成されており,
前記アドレス情報パターンは,前記(b)工程に先立ち,形成されていることを
特徴とする樹脂封止型半導体装置の製造方法。

 ポイントは,ダイシング後でも,ダイシング前のチップ位置がわかるようにしていることですかね。これは不良品の解析の便宜のためです。

2 問題点
 問題点は,進歩性です。と言ってしまえばそれっきりのものですが,さらに具体的な問題点としては,今回周知技術の認定などが問題になっております。

 進歩性というのは,平たく言えば,現在あるものと類似の技術には特許しない,ということです。多少工夫がされていても,そんなものは人の欲は無限ですから,特許制度がなくても,自然になされる工夫なんてものに特許を与える意義に乏しいってことなんでしょう。

 ただ,類似の技術というわけですので,一致していない部分もあるわけです。そうすると,ある引用発明を取り出してきて,これより超過する一致していない部分については,他の発明で補わないと,特許を与えない屁理屈が成り立ちません。
 その場合,きちんとした他の証拠から,その超過部分を補うのならまだよいのですが,そんな超過部分は大したことない,周知技術だナンダカンダで,まともに証拠を挙げてこないときがあるのですね(特許庁の審査等でのことですよ。)。

 今回もメインの引用発明を挙げただけで,超過部分(相違点のことです。)については,周知例1~4を挙げて,ある意味ぶっきら棒に拒絶していたのです。

 判旨はそういうぶっきら棒さを突いているような気がします。

3 判旨
 「当該発明が,発明の進歩性を有しないこと(すなわち,容易に発明をすることができたこと)を立証するに当たっては,公平かつ客観的な立証を担保する観点から,次のような論証が求められる。すなわち,当該発明と,これに最も近似する公知発明(主引用発明)とを対比した上,当該発明の引用発明との相違点に係る技術的構成を確定させ,次いで,主たる引用発明から出発して,これに他の公知技術(副引用発明)を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に至ることが容易であるとの立証を尽くしたといえるか否かによって,判断をすることが実務上行われている。
 この場合に,主引用発明及び副引用発明の技術内容は,引用文献の記載を基礎として,客観的かつ具体的に認定・確定されるべきであって,引用文献に記載された技術内容を抽象化したり,一般化したり,上位概念化したりすることは,恣意的な判断を容れるおそれが生じるため,許されないものといえる。そのような評価は,当該発明の容易想到性の有無を判断する最終過程において,総合的な価値判断をする際に,はじめて許容される余地があるというべきである。
 ところで,当業者の技術常識ないし周知技術についても,主張,立証をすることなく当然の前提とされるものではなく,裁判手続(審査,審判手続も含む。)において,証明されることにより,初めて判断の基礎とされる。他方,当業者の技術常識ないし周知技術は,必ずしも,常に特定の引用文献に記載されているわけではないため,立証に困難を伴う場合は,少なくない。しかし,当業者の技術常識ないし周知技術の主張,立証に当たっては,そのような困難な実情が存在するからといって,①当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に当たって,特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をすることが,当然に許容されるわけではなく,また,②特定の公知文献に記載されている公知技術について,主張,立証を尽くすことなく,当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱うことが,当然に許容されるわけではなく,さらに,③主引用発明に副引用発明を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に到達することが容易であるか否という上記の判断構造を省略して,容易であるとの結論を導くことが,当然に許容されるわけではないことはいうまでもない。

 上記観点に照らすならば,被告の主張は,次の理由から採用することはできない。すなわち,前記のとおり,引用発明は,その解決課題を「基板と,集積回路を形成し,該基板の1つの領域に取り付けられるチップと,該チップを該基板の1つの面に位置する外部電気接続領域に接続する電気接続手段と,封止容器と,をそれぞれに含む複数の半導体パッケージの製作の効率化」とする発明にすぎず,引用発明には,配線基板上にマトリクス状に搭載した複数の半導体チップを一括して樹脂封止した後,この配線基板を分割することによって複数の樹脂封止型半導体装置を製造する,樹脂封止型半導体装置の製造方法において,配線基板の上面に複数の半導体チップを搭載する工程を前提として,これを樹脂封止する工程に先立って,上記配線基板の下面のパッド及び配線を除く領域にアドレス情報パターンを形成するとの構成を採用することにより,上記アドレス情報パターンをカメラ,顕微鏡,目視等で認識することができ,個々の樹脂封止型半導体装置が元の配線基板のどの位置にあったかを配線基板の分割後においても容易に識別できること,依頼メーカの標準仕様(既存)の金型を使用する場合にも適用することができるため,樹脂封止型半導体装置の製造コストを低減することができることという本願発明の解決課題及びその解決手段についての開示ないし示唆は,存在しない。したがって,被告の主張に係る「製造工程において素材あるいは製品を分割して,個々の製品を製造する場合に,分割前の素材に,素材の機能に影響を与えない箇所に記号等を表示しておき,製品となった後に,その記号等を利用して分割前の場所に起因する不良解析を行う」との技術が,周知技術又は当業者の技術常識であるか否かにかかわらず,引用発明を起点として,周知技術を適用することによって本願発明に至ることが容易であるとはいえない。
 のみならず,被告の主張に係る「製造工程において素材あるいは製品を分割して,個々の製品を製造する場合に,分割前の素材に,素材の機能に影響を与えない箇所に記号等を表示しておき,製品となった後に,その記号等を利用して分割前の場所に起因する不良解析を行う」との技術が,周知例1ないし3の具体的な記載内容を超えて,技術内容を抽象化ないし上位概念化することなく,当然に周知技術又は当業者の技術常識であると認定することもできない。さらに,周知例1ないし3には,本願発明の相違点2に係る構成を採用することによる解決課題及び解決手段に係る事項についての記載も示唆もない。
 そうである以上,引用発明を起点として,周知技術を適用することによって本願発明に至ることが容易であると解することはできない。」

4 検討
 ちょっと長めに引用しました。
 要するに,引用発明は単なる半導体パッケージの効率化(当然ダイシングはありますよ。)の発明で,他方,周知技術も,元々の個別の半導体のダイシング前の特定の位置がわかるようにしていることなどの課題やその解決手段を開示しているものではないのですね。

 つまり,引用発明も周知技術も,今回の本願発明の課題やその解決手段を何ら開示していないのですよ。しかも,特許庁は,ぶっきら棒に認定していますから,飯村さんの指摘した(おっと,もはや個人名)①~③をクリアできていないのですね。

 それじゃあダメっすわな。
 ただ,この手の特許庁の判断は本当によくあります(最近出願実務やっていないので,正確に言えば,昔は本当によくありました,かな。)。
 ですので,引用発明1つと,あとは周知技術じゃ,ほれって,複数の公報を投げ捨てるように書かれた拒絶理由通知書への対応に関し,今回の知財高裁の判示は非常に役に立つのではないでしょうか。

 さて,ここまで読んでいただいた方,ありがとうございました。この記事で,めでたく特許の記事100となりました。
 明日はきっといいことがあるかもしれません。
PR
401  400  399  398  397  396  395  394  393  392  391 
カレンダー
09 2017/10 11
S M T W T F S
8 9 11 14
15 16 18 20
22 24 25 26 27 28
29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]