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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,名称を「高強度部品の製造方法と高強度部品」(平成21年3月12日付けの補正により「高強度部品の製造方法」と変更)とする発明について特許出願(特願2004-293455号)をした原告が,拒絶査定を受けたため,これに対する不服審判請求をしたもの,結局,特許庁が,拒絶審決(進歩性なし)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(塩月さんの合議体です。)は,原告の請求を認め,審決を取り消しました(要するに,進歩性なしとは言えない。)。

 まあよくあるパターンですが,これを取り上げたのは理由があります。
 クレームは,以下のとおりです。
「【請求項1】
 質量%で,
 C:0.05~0.55%,
 Si:2%以下,
 Mn:0.1~3%,
 P:0.1%以下,
 S:0.03%以下,
 Al:0.005~0.1%,
 N:0.01%以下,
 Cr:0.01~1%,
 B:0.0002~0.0050%,
 Ti:3.42×N+0.001%~3.99×(C-0.1)%,
{ただし,Nは窒素の質量含有率(%),Cは炭素の質量含有率(%)}
 残部Feと不可避的不純物からなる鋼板を用い,水素量が体積分率で10%以下,かつ露点が30℃以下である雰囲気にて,Ac3~融点までに鋼板を加熱した後,
 フェライト,パーライト,ベイナイト,マルテンサイト変態が生じる温度より高い温度でプレス成形を開始し,成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,下死点から10mm以内にて剪断加工を施す
 ことを特徴とする高強度部品の製造方法。」

 ということですので,典型的な数値限定発明です。
 ところが,上記のとおり審決は取り消され,その取り消した理由の中で,数値限定の臨界的意義に触れていないことから,今回取り上げてみました。

2 問題点
 数値限定発明って何じゃ?というのは,もういいでしょう。
 ここで何度も取り上げてるし,そもそもこの部分を読んでいる人には説明する必要がないでしょうし。

 で,その数値限定発明には臨界的意義というものが付き物だというのもよく知られた話です。というのは,通常,数値限定発明というのは,数値限定以外,公知技術と異なる所がないものです。
 ですので,それでも進歩性を認めるためには,その数値で区切ったことによる,顕著だったり有利だったりの際立って良い,抜群の効果が認められないといけないわけです。
 それ故,高林龍先生などは,数値限定発明は選択発明の一部に過ぎないと述べております(標準特許法第3版,p57)。まあそれはそのとおりなんですが,これは数値限定発明の定義次第かなあという気もします。

 私はどう考えているかというと,昔,「知財管理」に論文を載せました。
 知財管理誌の2007年7月号です(「知財高裁における数値限定発明の進歩性の判断手法について」)。
 ただ,今の考えは,ちょっと違っておりまして(本質は変わらないのですが・・),結局,数値限定に臨界的意義が必要な発明と,そうでない発明があるという区別で足りるのではないかと考えております。

 要するに,高林先生のいう選択発明的なものってそりゃ数値限定に臨界的意義が必要でしょうけど,出願人の方で限定しすぎの発明(数値限定は不要だったり,さらに構成要件の一部ですら不要な,本来革新的な発明)には,そのやり過ぎの数値限定に臨界的意義など必要なわけはないですよね。
 ですので,私はもうこの区別だけでよいと思ってます。

 そして,この考え,まさに法曹的な考え,つまり,効果(後からわかること)から,さらに言えばケツから考えるというやつです。

 どういうことかというと,素人さんは,すぐに要件から考え始めるのですね。これに当たる,これに違反する!どうしようどうしよう・・・などなどです。
 ところが,私のような質の悪い法律家はそんな風に考えません。これに当たるとして,これに違反するとして,それでどうなるの(効果)?ってことです。効果が同じなら,要件の違いなど考えてもあまり意味がありません。
 ですので,数値限定発明も同じです。裁判所が気にしているのは,臨界的意義の要否だけ,ですので(臨界的意義の存否じゃないですよ。),考えるのも,ここだけでいいのではって話です。

 ただ,この考え方,弁護士のような後で相談を受ける場合にはこれでよいのですが,出願のときにそこまで考えられるのか?という問題点はあります。
 つまり,出願のときに,この限定でいいのか,限定しすぎなのではないか,ということは審査を経ていないので,正確なところはわからないのです。

 このことを以前弁理士の人に聞いてみたところ(私も弁理士ではあるのですが,出願をやらないもので。。),今は,出願前の調査をしっかりやるので,公知技術に照らしての限定をすることができ,それ故,限定しすぎなんてことは生じないとおっしゃってました。
 これが本当だとすると,巷の数値限定発明は常に臨界的意義は必要な出願ばかりとなり,進歩性の論点では,臨界的意義の存否のみ問題となる,というわけですね。

 まあ何事も懐疑的な私からすると,そんな完璧な調査なんかできるわけないし,どうなのかなあ〜ってところでした。

3 判旨
 「上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れし,その後に加工するという従来技術においては,焼入れにより硬度が上昇してその後の加工が困難になるなどといった問題点があったことから,これを解消するために,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させる,すなわち,加工が必要な部位の焼入れ硬度を低下させ,その部位の加工を容易にすること(【請求項1】,第1実施形態に係る発明)を中心的な技術的思想とするものである。そして,プレス成形に引き続き成形品が冷却され硬化する前に成形型内で加工を行うという構成(【請求項9】,第4実施形態に係る発明)についても,【請求項9】が【請求項1】を全部引用していることに加え,「第9の発明では,第1の発明の効果に加えて…」(段落【0012】),「本実施の形態(判決注:第4実施形態)においては,第1実施形態における効果…に加えて,下記に記載した効果を奏することができる。」(段落【0076】)などの記載があることに照らすと,成形型内で加工を行うに当たっても,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工することが前提となっているものと認められる。このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。
 しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。」

4 検討
 判旨は,数値限定の臨界的意義などに,一言も触れておりません。
 まあ,特許庁が引いてきた引用発明があまりにも本願と違いますからね。ということで,まだまだ世の中には限定しすぎの発明がたくさんあるということです(ちなみに本願は,平成16年10月6日の出願。)。

 さらに言えば,本願発明は数値限定が不要,さらには構成要件の一部も不要な,ある意味画期的な発明だった可能性があります(限定しすぎの発明だから。)。

 ただ,本願の戦略からすると,進歩性が確実に認められているわけではありませんから(判決をよく読んでください。),審判に戻った段階で分割しておいた方がいいですね。そして,もうちょっと,広いクレームの出願をどこかで確保しておいた方がいいでしょう。
 一方本願は,このままで,いいんじゃないですかね~♪


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