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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「医薬」とする特許出願(国内優先権主張日を平成7年6月20日,原出願日を平成8年6月18日とする特願平8-156725号の一部を特許法44条1項に基づき新たな出願としたもの)をして,設定登録(特許第3973280号)を受けた被告保有の特許に対し,原告が,特許無効審判を請求したものの,被告が,訂正請求をしたため, 特許庁は,「訂正を認める。特許第3973280号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。特許第3973280号の請求項7ないし9に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」旨の本件審決をしたことから,これに不服の原告及び被告とも,審決取消訴訟を行った事件(原告は10147号事件の「原告」で,被告は10146号事件の「原告」です。)の判決です。

 要するに,クレーム1から6について無効(実施可能要件違反及びサポート要件違反)と言われた被告は気に入らず,クレーム7から9について有効(進歩性あり)と言われた原告は気に入らなかったのですね。

 これに対して,知財高裁4部(滝澤部長の合議体ですね。)は,審決全部を取り消しました(要するに,被告の言い分も原告の言い分も理由がある,すなわち,実施可能要件とサポート要件の違反はないが,進歩性はなし!ってなわけです。)。

 今回これを取り上げたのは,なんて絵に描いたようにうまく?はまったのだろうという理由ではなく(まあそれもあるのですが。),サポート要件と実施可能要件の両方に言及があるからですね。
 
 ようやく新年度一発目の判決紹介です。

2 問題点
 記載要件のうち,サポート要件と実施可能要件というのは,無効2大理由でしょうね。
 ただ,サポート要件と実施可能要件の関係に関して,どう考えるかで,色んな説があるようです(特許判例百選の22番,前田健准教授の解説による。)。
 1つがA表裏一体説です。パラメータ事件大合議がそうですし,従来の実務がそうでしょうね。
 他の1つが,B区別説です。これは知財高裁H22.1.28判決(飯村所長の合議体)が代表でしょう。

 私がちょっと前に「知財管理」誌に書いた論文で,「近時の特許侵害訴訟における記載不備による無効の判決について」というのがあります。これはA説で書いてあるのですが,ある匿名のブログ(おそらく弁理士だろうと思います。)でけちょんけちょんに貶されたことがあります。
 まあサポート要件と実施可能要件を区別しなかったのが,その弁理士に気に入らなかったのでしょう。
 本でも論文でも出せば毀誉褒貶はあります。でも男なら,私のように堂々と悪口を言ったらどうなんだ?と思いましたけどね(かなり痛いところを突かれてもいましたので,負け惜しみです。)。

 本題からいつものように外れましたが,ともかくもサポート要件と実施可能要件には,結局同じことか,それとも別のことか,という問題があるのです。

3 判旨
 実施可能要件
 「特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
 そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。」

 サポート要件
 「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。 法36条6項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの・・・」

4 検討
 今回の判決でのサポート要件の判断は,明確にパラメータ事件大合議の規範です。
 他方,実施可能要件の判断は,審査基準と同じというか,まあよくある規範です。
 つまり,この滝澤部長の判決は,上のA表裏一体説に則っていると思います。少なくとも,飯村所長と同じ説はとらねえぞということなんでしょうね。
 
 ちなみに,進歩性の部分では,進歩性なしとなってますから,原告も被告も見事,取消事由が認められたというわけです(代理人はウッシシでしょうね。)。ただ,進歩性なしの部分はキツいでしょうね。もう一度訂正をやらないといけないでしょう(新法はいまだ適用されないようですから,審判に差し戻して,無効審決をくらった後,訂正審判ですかね。)。

 ところで,滝澤部長と飯村所長ですが,飯村所長の方が年下なのに(滝澤部長1947年生,飯村所長1949年生),期は上(滝澤部長27期,飯村所長26期)なので,色々あるのでしょうね。
 まあ私の場合,40歳近くなってから修習生をやりましたので,期と歳のことを言い始めたらキリがないし,こうも離れていたらもうどうでもいいって感じなのですけど,逆にある程度スムーズに行った中での,年下の期上と年上の期下の関係というのは傍ではわからないものがあるのかもしれません。結局,世の中の悩みの99%は,人間関係ですからね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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