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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が,発明の名称を「ポリウレタンフォームおよび発泡された熱可塑性プラスチックの製造」とする特許第3949889号の特許権者である被告に対し,本件特許の請求項1ないし12,14ないし16,19及び20に係る発明についての無効審判請求(無効2010-800040号事件)をしたところ,被告は,本件訂正(本件訂正は,請求項1等の発泡剤としての組成物等を,HFC-134a又はHCFC-141bを含まないとした訂正。)をし,その上で,特許庁が不成立審決(進歩性あり)をしたため,これに不服の原告が,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(飯村さんの合議体です。)は,審決を取り消しました(要するに,進歩性なし,ということ。)。

 あとあと,問題となりますので,訂正後の請求項1を書いておきましょう。
 「発泡剤による発泡によってポリウレタン硬質フォームまたは発泡された熱可塑性プラスチックを製造する方法において,発泡剤として,
a)1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン50質量%未満(HFC-365mfc)および
b)ジフルオルメタン(HFC-32);ジフルオルエタン;1,1,2,2-テトラフルオルエタン(HFC-134);ペンタフルオルプロパン;ヘキサフルオルプロパン;ヘプタフルオルプロパンを含む群から選ばれた少なくとも1つの他の発泡剤
を含有するかまたは該a)およびb)から成る組成物(但し,HFC-134a又はHCFC-141bを含まない)を使用することを特徴とする,ポリウレタン硬質フォームまたは発泡された熱可塑性プラスチックを製造する方法。

 そして,これもまた別に問題となるのですが,引用の甲1発明との相違点は,甲1発明が「HCFC-141b」を成分として含有する点です。

 さてさて,これはいわゆる「除くクレーム」ですね。もちろん,そこも問題ではあるのですが,それ以外のところも非常に面白かったので,取り上げました。

2 問題点
(1)除くクレームの進歩性
 除くクレームとは上の請求項1みたいなものです。基本,化学の発明で多く,ちょっとまずい引例を引かれ,その引例との同一性を中心とした拒絶理由(新規性,拡大先願,先願)を回避するために行うものです。
 除くクレームで除かれた部分が,引例に載っているので,ここを除けば,少なくとも,同じじゃない!と言えるわけですからね。そして,これに伴い,訂正の新規事項追加の基準が問題になったのが,この前の前の知財高裁大合議のやつでした(平成18年(行ケ)第10563号,平成20年5月30日判決)。

  この判決については結構話題になり,実務的にはこの前のプロダクトバイプロセスクレームのやつよりよっぽど重要だったと思います。というわけで,私も論文 を書いたのですが,あまりにマイナーな媒体過ぎて誰も知らないというハメに陥っております。英語のIAM マガジンの,しかも電子版でしたからね。興味の ある方は,こちらをどうぞ(おっと,今は登録を要求されているなあ,けち臭い。)。
 で,私もそうなのですが,英語なんて読むの面倒くせーじゃん,というぐうたらのあなたにこの論文の原文を用意しました。それはこちらです。
ダウンロード(.)


 さて,そんなステルスマーケティングはどうでもよいとして,この除くクレームが問題となる場合って上述のとおり,同一性が問題になる場合が中心だったと思います。いやあ別に拡大先願や先願のみが問題になっているような場合は,いいですよ。同一性を回避できれば,大体特許性はOKになるのでしょうからね。
 でも,新規性が問題になっているような場合を中心として,除くクレームにより同一性を回避したあとの進歩性ってどうなるんでしょうか?とても気になりますよね。

 私は勉強不足のため,上記の大合議判決後,除くクレームの進歩性が問題になった事例を知りません。ということで,今回除くクレームの進歩性が問題になっており,まずはその理由で,取り上げたわけです。

(2)論理
 法律家で,「及び」と「又は」の区別ができない人はいないと思います。しかし,この否定(NOT,インバータ)がどうなるかは若干混乱するのではないでしょうか。

 こういうのは,理系,特にデジタル回路の設計屋さんは極めて得意のはずです。インプット(要件A,B),アウトプット(効果X)としてみてみましょうか。

 まずは簡単な「及び」(AND)です。
 Aの要件,Bの要件がともにOKの場合のみ(デジタル回路では,これが1),Xという効果が得られます。例えば,善意(A) AND 無過失(B)で,即時取得の効果(X)が得られる(デジタル回路では,ここも1),というやつです(民法192条。なお効果が得られない場合は,デジタル回路では,0となります。)。

 次に,「又は」(OR)です。
 Aの要件,Bの要件がどちらかOKで,Xの効果が得られます(ともにOKでも当然よいわけですが。)。例えば,公の秩序に反する事項を目的とする法律行為(A) OR 善良な風俗に反する事項を目的とする法律行為だと,無効(X)です(民法90条)。

 これからちょっと難しくなりますよ。では,ひっくり返し(NOT,インバータ)をANDとORに施すと論理回路はどうなりますかね。ちなみに,NOT(NOT A)=Aです。

 まずは「及び~でない」(NAND)からです。
 Aの要件,Bの要件がともにOKの場合のみ,Xという効果が得られない,ということになります。例えば,未成年(A) NAND 未婚(B) だと,成年(X)という効果が得られないことになります(NOT X)。これは,民法4条と753条ですかね(ちょっと強引でした。)。

 そして,本件で問題となったのは,「又は~でない」NORです。但し,HFC-134a又はHCFC-141bを含まない」ですからね。
 これについて,請求人(原告)は,HFC-134aかHCFC-141bかのどちらかは含むという意味だと主張したわけです。まあ主張自体失当に近い主張だとは思いますが,論理回路をみてましょうか。
 Aの要件,Bの要件がどちらかOKで,Xの効果が得られないことになります。(ともにOKでも当然得られないわけですね。)。例えば,・・・って法律では,この規定は多いですね。但し書きによくあります。ですので,法律は,各自見ていただき,本件をあてはめましょう。
 HFC-134(A) NOR HCFC-141b(B) だと,『HFC-134a単独』,『HCFC-141b単独』及び『HFC-134aとHCFC-141bとの併用』のいずれも含まないというわけになります。

 まあANDのひっくり返しのNANDはORに近く,ORのひっくり返しのNORがANDに近くなってしまうため,ちょっと戸惑いを感じることもあると思いますが,上記のとおり,きちんと論理をなぞっていけば,間違いありません。

 法律もこのとおりで,全部の場合を否定するには,「又は」でつなぐNORにしないといけません。内閣法制局の大きな役目もこういう間違い探しにあるのではないかと私は見ています。

 まあ半分余談のような話はさておき,判旨を見てみましょうかね。

3 判旨
(1)除くクレームの進歩性
「ア 上記(1) 認定の事実によれば,甲1には,HCFC-141bは高い熱的性能及び防火性能を有するが(ア),HCFC-141b等のHCFC類(HydroChloro Fluoro Carbon)(水素と塩素とフッ素と炭素を含む化合物)はオゾン層に悪影響を与えるという深刻な欠点を有しており,米国やEUではHCFC-141b等のHCFC類の廃止スケジュールが定められており(イ,ウ),HCFC類の代替物質としては,HFC-245fa及びHFC-365mfcが最も有望であること(エないしキ)が開示されているといえる。
 また,上記(1)エ には,HCFC-141bの全ての用途において置き換えが可能となる分子の候補として,HFC-365mfc,HFC-245fa等があり,発泡試験の結果,HFC-245faは,調査した熱伝導率,圧縮永久歪み及び連続気泡率の分野において良好な特性があり,HFC-365mfcは,従来の発泡剤よりわずかに劣るものの,より適した界面活性剤を使用すれば結果は向上すると考えられること,同オ,カには,この2種類のHFC類(HFC-365mfc,HFC-245fa)のいずれかを用いて発泡させたポリウレタンフォームは,HCFC-141bを用いたものより熟成が遅い(熟成後の熱伝導率がより高い)と期待でき,放散比較調査から,HFC-245faないしHFC-365mfcで発泡させたフォームの長期熱熟成は,HCFC-141bで発泡させたフォームと少なくとも同程度に良好なはずであることが記載されている。
 以上の記載によれば,甲1(甲6-2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC-141bの代替物質としてHFC-245fa及びHFC-365mfc(特に,HFC-365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる。なお,HCFC-141bを,その熱的性能,防火性能を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1(甲6-2)において,HCFC-141bの代替物質としてHFC-245fa及びHFC-365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC-141bを除去し,その代替物としてHFC-245faないしHFC-365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される。」

(2)論理
 「しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,本件において,「HFC-134a又はHCFC-141bを含まない」との構成は,「HFC-134aのみを含む場合」,「HCFC-141bのみを含む場合」及び「HFC-134a及びHCFC-141bの両者を含む場合」の全てを除外する趣旨と理解するのが相当である。」

4 検討
(1)除くクレームの進歩性
 相違点であり,問題となっているHCFC-141bについては,逆阻害要因みたいな感じです。従来発明(甲1)ではそれほどHCFC-141bを取り除く必要性がなく,当業者にも予測不可能だとして,進歩性ありとしたのが,審決でした。
 他方,本判決は,甲1には,HCFC-141bについてのデメリット(オゾン層破壊)やHCFC-141bの代替物質の示唆などもあるのだから,当業者に予測不可能ちゅうのは,おかしいんじゃないのってところです。

 あと,進歩性についての作用効果の話もありますが,それは各自見ていただきましょう。

(2)論理
 本件は,原告の勝ちだからよかったものの,恥ずかしい主張はやめた方がいいのではないでしょうか。代理人に弁護士もついているようですし,何故こんなことを言い始めたのかよくわかりません。
 受験時代,善意・無過失と悪意・無重過失の区別ができなかったのかな(ちなみに,前者は,善意かつ無過失の意味で,後者は,悪意又は重過失ある善意の意味ですけどね。)。

(3)怒られ
 あと,本件では,飯村さんの付言があります。審決を見てみると,引用発明の認定,一致点相違点認定の記載がないのですね。それを怒られているわけです。
 知財高裁判事ご出身の某弁護士の先生の講演のとき,裁判官には学者タイプと実務家タイプがおり,前者の典型が飯村さんで,後者の典型が中野所長だという話がありました。判決書も対照的ですが,結論も対照的ですね(正確に統計をとったわけはないですが。)。
 ともかくも,特許庁の審判部の審判官のみなさんも給料分の仕事はしてもらわないと困りますよ,ちょうど確定申告の時期ですからね,私からの「付言」でした。

5 蛇足
 本件の技術は,発泡のプラスチック,例えば,発泡スチロールとかの発泡剤の技術分野です。しかし,それだけではなく,一応サーフィンやる私からすると,サーフボードの素材の技術なのですね。要するに,サーフボードって,発泡スチロールのちょっと固めのヤツの真ん中に芯の木を通して,やはりプラスチック素材でグルグル巻きにしたものなのですね。

 で,そうだよなあということで,ちょっと検索したら非常におもしろいブログが出てきました。何と,その発泡剤から発泡プラスチックを作る!ところから始めたサーフボードの自作者の方のものです。キャラなのか何なのか,もう腹をかかえて笑わせていただきました。すばらしい!
 私も,金がねえ仕事がねえで恨めしげに書き連ねるのではなく,こんな感じに書かないといけませんね~♫

 いやあ本人に一度会ってみたいです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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