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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「半導体装置の製造方法および半導体装置」とする発明(特願2003-424821号)について,特許出願した原告が,拒絶査定を受け,さらに,拒絶査定不服審判を請求したものの,特許庁から拒絶審決(進歩性なし)を下されたため,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(飯村さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,進歩性あり,ということです。

 飯村さん,進歩性とくれば,このブログでよく話題にしてきた話です。
 他方,最近はそうでもない,若干遊びの判決も紹介してきました。
 さて,今回は,どちらでしょうか。前者です。ですので,そういうことに興味のない方は,ここまで読んでオシマイの方がいいでしょうね。閲覧数も激減しそうだ~♫

2 問題点
 特許実務の最大の問題点は何か?それは,均等論でも,渉外管轄でも,複数当事者の行為でも,・・・ありません。
 進歩性!です。これは日本に限った話ではありません。

 というのは,特許→発明→技術というのは,ほっといても進歩するのですよ。それ以上に,独占権たる特許権を付与してでも保護する価値のあるものって何?という特許制度の本質と密接に関連するから,進歩性というのが大問題になるわけです。別にエンジニア上がりの実務家の趣味・娯楽でやっているわけではありませんよ。

 そして,その判断構造も独特です。新規性というのは,昔からある発明と同じ発明を保護しないということでわかりやすいものです。構成要件を比べて,一々同じだったら,新規性なしとして拒絶すればよいのですから。
 他方,進歩性の場合はややこしいのです。新規性はクリアした,つまり,違う所がある,でもその違いが大きいのか,それとも小さいのか,が問題なわけです。小さい場合は,「容易に発明をすることができた」と認定されるでしょうし,大きい場合は,「容易に発明をすることができた」とは認められない,となるでしょう。

 そしてその判断手法について,飯村さんの所謂新傾向判決以前は,技術分野の関連性がほんの少しでもあれば,もう「容易に発明をすることができた」とされていたと思います。おかげ様で,日本国で特許侵害訴訟をやるバカはいなくなってしまいました。
 巷ではこういう風に言われていたらしいです,「ほーっ,無効にならない特許もあるんですね~。」っと。

 ただ,特許の場合,攻撃防御の相対性が極めて高い分野ですので,そういう旧来の傾向が一概に悪かったとは言えない面もあります。
 例えば,特許と同様の専門訴訟で有名なものに医療過誤訴訟があります。この場合,原告は患者で,被告は医者です。
 ですので,原告の勝訴率が上がれば,患者を一方的に利することになりますし,下がれば,医者を一方的に利することになります。
 さらに,労働訴訟などもそうです。原告は労働者で,被告は会社です。ですので,原告の勝訴率が上がれば,労働者を一方的に利することになりますし,下がれば,会社を一方的に利することになります。

 ところが,特許侵害訴訟の場合,基本同業社で争うわけですから,原告の勝訴率が上がった所で,特定の集団,階級,団体・・・を一方的に利するということにはなりません。
 他方,原告の勝訴率が下がっても,やはり特定の集団,階級,団体・・・を一方的に利するということにはなりません。原告になった会社が,次は被告となり,他方,被告となった会社が次は原告となる,こういうわけです。こういう相対性のある分野は,意外と少なく,知財でも特許くらいでしょうし,あとはM&Aの分野くらいでしょうね。
 ですので,旧来の傾向で特段悪かったかというとそうでもなかったわけです。

 にも関わらず,飯村さんが新傾向判決を出し,実務の流れをプロパテントに変えようとしたのは,外的要因なのでしょうね。しかも,イノベーションにはその方が役立つという,表面的な有りがちな理由ではないと思います。

 というのは,プロパテントだったら,イノベーションが活発になるかというと,そうとは限らないわけです。プロパテントというのは,特許で五月蝿く取り締まるということに他なりませんから,もっと緩い方が様々中小零細の起業家にとっては有難いという面もあると思います。特許で守られるのは既得権益だけ!なのかもしれませんしね。

 となると,飯村さんをプロパテントに駆り立てたのは何か?
 私はそれは足元に火がついたからだと思います。人間て意外とせこいもんです。日頃は偉そうなことを言っている物理学者も,文科省から科研費を減らすと言われて大慌て,なーんてことはたくさんあります。
 まあここまで言えばわかりますかな。実際東京地裁の刑事部は,この春から,2か部も休部になったらしいですからね(あ,弁理士に気を利かせたってことはありませんからね,念のため。)。

 おっと,いつものとおり,脱線だ~。で,飯村さんはこの春から知財高裁の所長にもなりました。今回の判決の紹介の本当の目的は,所長になっても芸風は変わらないってことです。何だ2行で済むなあ。

3 判旨
 「引用例2及び引用例3には,硬化性シリコーン組成物として,本願発明における硬化性シリコーン組成物と同じ組成を有する組成物が開示されている。しかし,前記のとおり,引用例2における硬化性シリコーン組成物は,LED表示装置等の防水処理のための充填剤や接着剤として使用するものであること,LEDや外部からの光を反射しないよう,艶消し性に優れているという特性を有することが示されている。半導体装置の封止用樹脂とLED表示装置等の充填剤や接着剤とは,使用目的・使用態様を異にするものであり,引用例2には,上記のような硬化性シリコーン組成物を,半導体装置の樹脂封止に使用するという記載も示唆もない。したがって,引用発明に接した当業者が,引用発明に引用例2に記載された技術的事項を組み合わせ,引用発明における封止用樹脂として引用例2に開示された硬化性シリコーン組成物を使用することを,容易になし得るとはいえない。
 また,引用例3における硬化性シリコーン組成物は,半導体素子の表面を被覆するための半導体素子保護用組成物として使用するものであり,前記のとおり,半導体素子の表面被覆は封止の前に行われる工程であって,半導体などを包み埋め込む「封止」とは,その目的等において相違する。引用例3には,硬化性シリコーン組成物の硬化物による被覆の後,同工程とは別個独立に樹脂封止が行われることを前提とした上で,硬化物と封止樹脂との熱膨張率が異なることによって生じる問題点を解決する組成物として,耐湿性及び耐熱性が優れた半導体装置を形成できる半導体素子保護用組成物である硬化性シリコーン組成物が示されている。「被覆」と「封止」とは,その目的等において相違する工程であることに照らすならば,引用発明に接した当業者が,引用発明に引用例3に開示された硬化性シリコーン組成物を組み合わせることを,容易になし得るとはいえない。
 以上のとおり,当業者が,引用発明に引用例2及び引用例3に記載された発明を組み合わせて,本願発明における相違点に係る構成に至るのが容易であるとは認められない。」

4 検討
 本件は,半導体チップの樹脂封止のところに関する発明です。
 本件発明は,特定の封止製法の際に,特殊な組成物を用いるという所にポイントがありました。
 他方,引用発明(引用例1)には,その特定の封止製法の記載があるものの,特殊な組成物の記載はなかったのです。ですので,特許庁は,その特殊な組成物について,他の引用発明(引用例2,3)に求めました。

 特許庁は,これで,組み合わせできるので,進歩性なしとしました。
 他方,知財高裁は,「引用例1には,半導体チップや回路基板の反りが大きくなるのを防止するという課題に関し,何らの記載も示唆もなく,また,樹脂材に関しては熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でも使用可能であるとの記載があるものの(段落【0018】),封止用樹脂の組成については何らの限定もない。」等の引用例1との課題の違い,上記判旨のとおりの,引用2,3との目的等の違い,から,組み合わることはできないとしたわけです。

 いやいやこれはこの判断で妥当なのではないでしょうかね。
 パターンとしては,本当よくある拒絶のパターンとは思いますが,しかし,こういうのは飯村さんが一番嫌うパターンでしょうしね。
 ですので,変わらぬ芸風というわけです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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