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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「無燃料発電装置」とする特許を出願した(特願2006-227149)原告が,拒絶査定を受け,さらに,拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が拒絶審決(自然法則を利用した技術的思想の創作でない,実施可能要件違反,明確性要件違反,進歩性なし)をしたことから,その取消しを求める審決取消訴訟です。

 これに対して,知財高裁第4部は,請求を棄却しました(要するに,特許庁の審決とおりで,よし!)。

 久々の判決紹介ですが,まあこれはそんな肩肘張った話ではありません。発明の名称を見るとよくわかりますし,拒絶理由に,29条1項柱書がありますからね。
 何かと言いますと,永久機関の出願です!
 いまだにこんなの出願する人がいるんだねえ,ってところでしょうかね。

2 問題点
 特許法の勉強しはじめのとき,どういうものが特許をとれないかと,まあ生徒諸君の興味を惹くため雑談混じりに話される内容に,永久機関があります。

 永久機関ってえのは,吉藤先生の「特許法概説」(やはりこういうのまで載っているので,一番に見るのがこれですね。中山先生の基本書の索引には永久機関の項目すらありません。)によると,高所からの落水で水車をまわし,その回転力でポンプを動かし,ポンプで落水を高所に汲みあげ,再び低所に落とすことによって,以上の運動を永久に継続することができるものをいう,そうです。
 ちなみに,この機械,時間が経つに従って,汲みあげる水の量が減っていき,遂には止まるということになると思います。

 吉藤先生は反復可能性がなく,自然法則を利用したことにならないとしております。

 他方,薄い本ですが,高林龍先生の標準特許法にも永久機関の話が載っております(さすが!)。高林先生は,自然法則に反するので,自然法則の利用と言えないとしております。

 おっと,「自然法則の利用」がしょっちゅう出てましたが,説明が遅れました。
 特許法2条1項に,「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」とあるからです。トンチンカンな発明とは言え,拒絶理由は限定列挙(49条各号)ですので,法律の規定に則り,拒絶するわけですね。
 ですので,今回も「自然法則の利用」の条文解釈の話です。

 ちなみに,原告(出願人)は,特許庁の審決にどう言っているかといいますと,
本願発明は,ギヤ比により発生するエネルギーを用いることにより,出力エネルギーが入力エネルギーより大きくなり,永久機関を成立させているのであるから,エネルギー保存の法則は,本願発明によって打破され,失効したものということができる。本件審決の判断は,その前提自体が誤りである。
本願発明が前提とする「ギヤ比により発生するエネルギー」とは,ギヤ比を用いることによりギヤ比が最大効率3割増しの力学的仕事をなし得る能力を有するため,増力が発生することを意味するものである。本願発明では,増加された能力(エネルギー)の範囲内で,駆動ギヤと従動ギヤとの関係((駆動ギヤのトルク×駆動ギヤの角速度)=(従動ギヤのトルク×従動ギヤの角速度))に基づき,駆動ギヤの歯数を従動ギヤの歯数より小さくし,増力を求めるものである。
 「ギヤ比により発生するエネルギー」が,ギヤを用いることによって,機械損失等の影響は受けるものの,3割強のエネルギーが増加することを意味するものであること及びその原理は一般常識であり,説明は不要である。この原理は,参考書等にも記載されているが,原告は,現時点で,この原理が記載された参考書を特定し,書証として提出することはできない。もっとも,丸ノコギリがギヤ比により増力を得て木材を切断することは,この原理の活用例であるし,小,中学校における理科の授業でも取り上げられているものである。特開昭53-28213号公報にも,「ギヤ比より発生するエネルギーに相当する電力が有効発電力として扇風機や電灯に用いられている」と記載されている。本願発明は,ギヤ比のメカニズムの解明を目的にしているのではなく,ギヤ比の機能(自然法則)を利用することを目的としているものにすぎず,自然法則を利用した技術的思想の創作というべきである。すなわち,本願発明は,ギヤ比の機能という自然法則をもって,従来,自然法則とされていたエネルギー保存の法則を打破したものである。

 読んでていてさっぱりわからないということはありませんが,大きな誤解をしているような感があります。
 まあ,判決に行ってみましょうか。

3 判決
 「原告は,本願発明は,ギヤ比により発生するエネルギーを用いることにより,エネルギー保存の法則を打破したものであるなどと主張する。
 しかしながら,本件審決が指摘するとおり,ギヤとは,動力の伝達に用いられるものであって,回転軸の減速・増速,回転軸の向きの変更,回転方向の変更,動力の分割等に用いられるものであることは,本願出願時における技術常識であることは明らかである。そして,二つのギヤを噛み合わせ,一方(駆動ギヤ)を回転させて他方(従動ギヤ)に動力を伝達する際,駆動ギヤと従動ギヤとの間には,原告も認めるとおり,「(駆動ギヤのトルク×駆動ギヤの角速度)=(従動ギヤのトルク×従動ギヤの角速度)」との関係があり,ギヤのトルクはギヤの角速度に反比例して変化するが,駆動ギヤを回転させるために加えられたエネルギーは,摩擦抵抗等による損失を無視すれば保存され,ギヤを介しても変化しないこと,すなわち,駆動ギヤと従動ギヤとの歯数の比(ギヤ比)によってエネルギーが発生しないことも,本願出願時における技術常識である。
 そうすると,本願出願時における技術常識に照らせば,本願発明において,エネルギー保存の法則に反し,三相交流誘導電動機と三相交流発電機とを連結しているギヤ比によりエネルギーが発生するとは認められない。」

4 検討
 自転車に乗っている時によくわかりますが,坂道でギヤを小さくすると,楽にこぐことができます。ただ,楽ですが,かなりクルクルと早くペダルをこがなければなりませんね。
 このように,ギヤがあるから,効率は良くなりますが,ギヤから不思議なエネルギーがやってきて,ペダルのこぎをアシストしてくれるわけはありません。

 私は弁護士なので,法律相談にやってくるお客さんにどうにも困ったタイプがいるわけです。一般的にも,弁護士ってそういうお客さんを相手にする機会って多いのではないかと思われるでしょう。

 他方,じゃあ発明とか特許とかにそういうタイプがいないかというと,そうではありません。まあそれでもお金を持っていれば弁理士等も多少相手をするのでしょうけどね(それがこの事件でしょう。)。しかし,お金もなければ,本人訴訟ならぬ,本人出願で,今回のような話になってしまいます。

 ちなみに,特許庁で,出願番号から,本件の明細書を見ることができますが,この事件の場合,明細書は1ページ半で,図も1個のみです。
 これじゃあ,形式的にもすぐにあの世行きになることがわかります(明細書の要件も厳しいですよ。)。

 冷たいようですが,特許法は,産業の発達に寄与することが大目的の法律です。弁理士に頼めないような発明及び発明者が産業の発達に寄与することなんてありませんから,国の機関(特許庁,裁判所)の無駄使いはやめてほしいものです。

 ただ,こういう発明に特許を付与しても,別にいいと言えばいいわけです。
 だって,永久機関なんてマネしようがありませんから,絶対に技術的範囲に入ることなんかありえないというわけです。勿論,永久機関が出来たという山師に対し権利行使するのかもしれませんが,それはそれで似たもの同士で勝手にどうぞ~とも言えるわけですからね。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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