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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「防眩フィルム,偏光素子及び表示装置」とする特許第3507719号の特許権者である原告が,被告の無効審判の請求(無効2010-800032号),その後の特許庁の無効審決に対抗し,前訴たる審決取消訴訟を提起(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第10077号)し,さらに,訂正審判の請求により,上記審決を取り消す旨の決定を受け,さらに,原告が,審決取消し後の同年7月13日に訂正請求をしたものの,特許庁は,再度の審決で,訂正は認めるものの,再度の無効審決(明確性要件違反,サポート要件違反,実施可能要件違反)を下したため,原告が再度の審決取消訴訟を提起したものです。

 いやあややこしいですね~。まさにキャッチボール~♪永遠の魂のルフランというところでしょうか。

 これに対して,知財高裁1部(飯村さんの合議体です。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決のとおりでよし,というわけです。

 問題点は,上記の審決のとおり,明確性要件違反,サポート要件違反,実施可能要件違反に関するものですが,特に,飯村さんの合議体の例の判決で,サポート要件の新しい話が出ましたので,所長になってもやんのか,やんないのか,え!というところに注目です。

2 問題点
 というところで,問題点に行くわけですが,結局,進歩性にしろ,記載要件にしろ,背景にある技術を理解しておかないと,抽象的にしか理解できません。
 それ故,これらの大論点に関しては,全く学者連中が頼りにならないのですが(来年こそは,ちゃんと進歩性のことを書いている基本書が出ますように~。いい子にしているので,ちょっと遅れたクリスマスプレゼントでもいいですよ~。),ここは実務中心で行きましょ。

 まずはクレームです。
 「【請求項1】透明基材フィルムの少なくとも一方の面に,屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し,この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hs を7<hs<30,前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hi を3≦hi≦12としたことを特徴とする防眩フィルム。
 クレームは16まであるのですが,これが基本ですので,これだけで十分です。

 要するに,液晶ディスプレイの表面などに貼って,外部照明が写り込んだり,反射したりの間接光や,はたまたバックライトからの直接光からの眩しさを低減するフィルムに関するものです。その防眩の機能を,外部(表面)の凸凹に基づく表面ヘイズ値と内部拡散に基づく内部ヘイズ値とで規定した数値限定発明ですね。

 で,このヘイズ値というのはそんな難しい概念ではなく(パープルヘイズのヘイズです。曇り,と訳せば十分です。),高ければ,曇って防眩の効果は高いものの,くもりガラスと同じでコントラストは急低下,何が何やらわからない。他方,低ければ,そりゃ透明度は高いけど,無いのと同じ~♪てなわけですね。

 ですので,高すぎてもダメ,低すぎてもダメ,っていう数値であることは確かです。
 とすると,数値のいいところが,発明の肝,というわけになるのですが,勘の良い人はお分かりですね~。こういう化学系の数値限定発明で,ちょうどいいところを規定するとどういう目に遭わされるかってことを。

 また,表面ヘイズ値は,まだわかりますが,内部ヘイズ値って何だろうという感もしますね。というのは,結局光は外部で認識されるものですから,表面だろうが内部だろうが,外部に出たときはその合算になるだけで,為にする!議論ってやつじゃないかな~とも思いますね。

3 判旨
(1)実施可能要件 
 「ア 発明の詳細な説明欄には,防眩層における表面ヘイズ値・内部ヘイズ値は,「透光性拡散剤14と透光性樹脂16との比であるフィラー/バインダー比,溶剤等を調整して得られる」(【0039】),「主として表2におけるP/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の種類等により適宜選定することができる」(【0139】)とされ,①P/V比,②P及びVの屈折率差,③溶剤の種類の3つの組合せによって,適宜選定できると記載されている。しかし,本件明細書には,透光性拡散剤の平均粒径と内部ヘイズ値の関係についての記載はあるものの(【0038】),それ以外に,上記の三つの要素が表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値に対し,どのように関係するかの直接的な説明はない。そこで,当業者において,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づいて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的な関係や相関的な関係を把握することができ,その結果,発明の詳細な説明は,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものと解することができるか否かについて検討をする。
イ 防眩層は「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる」(【請求項1】)ところ,発明の詳細な説明には,透光性樹脂としては,「主として紫外線・電子線によって硬化する樹脂,即ち,電離放射線硬化型樹脂,電離放射線硬化型樹脂に熱可塑性樹脂と溶剤を混合したもの,熱硬化型樹脂の3種類が使用される」(【0044】)とされ,様々な材料及びその組合せからなる透光性樹脂が用いられることが記載されている(【0045】ないし【0053】)。また,透光性拡散剤についても,様々な材料,屈折率,粒径からなる透光性拡散剤が用いられることが記載されている(【0054】ないし【0058】)。さらに,使用する溶剤の種類についても,発明の詳細な説明に列記はされていないものの,実施例の記載の中に数種類の溶剤を単独又は組み合わせて使用することが記載されている(【0125】,【0158】,【0160】)。このように,発明の詳細な説明には,防眩層を構成する素材としては様々な組合せが可能である旨の記載がされている。・・・・
 しかし,実施例1と2をみると,P及びVの屈折率差を同一にして,P/V比を減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値は7から5に減少し,表面ヘイズ値は19から25に増加している。他方,実施例2と比較例2をみると,P及びVの屈折率差を同一にして,P/V比を減少させ,溶剤を変化させると,内部ヘイズ値は5から1に,表面ヘイズ値は25から14に減少している。前記の実施例1と比較例2での変化の傾向に加えて,これらの比較からは,表面ヘイズ値と内部ヘイズ値は溶剤の種類による影響が大きいことが推認されるが,溶剤の種類とP/V比が,協働して表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の値に影響を与えているのか,それぞれ独立して影響を与えているのかは,全く不明である。
 また,実施例1とこれに対して溶剤のみを変えた比較例5を比較すると,内部ヘイズ値は7から9に増加するのに対して,表面ヘイズ値は19から3に減少し,実施例2とこれに対して溶剤のみを変えた比較例4を比較しても,内部ヘイズ値は5から3に減少するのに対して,表面ヘイズ値は25から47に増加している。上記の対比結果によれば,溶剤の種類が,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の双方に影響を与える重要なファクターであり,溶剤には,表面ヘイズ値を増加させ内部ヘイズを減少させる作用を有するものや表面ヘイズ値を減少させ内部ヘイズを増加させる作用を有するもの等,様々な種類があると認識できるが,そのような知見を超えて,いかなる種類の溶剤を用いれば表面ヘイズ値・内部ヘイズ値を所望の数値に設定できるかについて,当業者において認識・理解することはできない。
 さらに,実施例2と比較例1をみると,P/V比と溶剤を同一にして,P及びVの屈折率差を変化させると,内部ヘイズ値は5から0.7に減少し,表面ヘイズ値は25から30に増加していることが示されているが,他の比較例はなく,P及びVの屈折率差が表面ヘイズ値・内部ヘイズ値にどのような影響を与えるかは不明である。
 そうすると,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づいて,当業者は,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が,P/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の種類の3つの要素により,何らかの影響を受けることまでは理解することができるが,これを超えて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的な関係や相関的な関係や三つの要素以外の要素(例えば,溶剤の量,光硬化開始剤の量,硬化特性,粘性,透光性拡散剤の粒径等)によって影響を受けるか否かを認識,理解することはできない。

(2)明確性要件
 「ヘイズは,試料表面の凹凸などの不規則性や物質中の密度や屈折率の不均一性に起因する光の拡散又は散乱によって生じるものであり,試料の全透過光量と拡散透過光量との比によって得られるヘイズ値(全ヘイズ値)は,当該光の拡散又は散乱の総和,すなわち,試料表面で生じるヘイズ(表面ヘイズ)と試料内部で生じるヘイズ(内部ヘイズ)の和である。
 ところで,内部ヘイズのみによるヘイズ値は,試料表面における屈折率の不均一性を与えることなく試料表面の凹凸を除去した状態,すなわち,試料と同じ屈折率の物質を用いて試料表面の凹凸を除去した状態でヘイズを測定し,表面ヘイズの影響を除外することによって得ることができる(甲42・特開平10-272678号公報【0026】)。
 しかし,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」においては,透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われていないことが想定され,そのような場合,透光性樹脂と同一の屈折率を有する物質を用いて凹凸を除去すると,前記凹凸を除去するために用いた透光性樹脂と同一の屈折率の物質と,透光性樹脂によって実効的に覆われていない透光性拡散剤との界面で新たな内部ヘイズが生じることになり,新たに生じた内部ヘイズを補償する必要性が生じる。
 なお,発明の詳細な説明には,「又,表1において,ヘイズ値は,村上色彩技術研究所の製品番号HR-100の測定器により測定し,反射率は,島津製作所製の分光反射率測定機MPC-3100で測定し,波長380~780nm光での平均反射率をとった。」(【0131】)と記載されている。同記載によれば,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値とも,HR-100の測定器によって測定されることが説明されているが,内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また,HR-100の取扱説明書(甲14)にも,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」の内部ヘイズ値の測定方法に関する具体的な説明はない。また,この点についての何らかの技術常識が存在すると認めるに足りる証拠もない。
 そうすると,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」の内部ヘイズ値を測定する方法は,発明の詳細な説明の記載,及び本件特許の出願当時の技術常識によって,明らかであるとはいえない。内部ヘイズ値が一義的に定まらない以上,総ヘイズ値から内部ヘイズ値を減じた値である表面ヘイズ値も一義的には定まることはない。」

4 検討
 実施可能要件については,過度の試行錯誤パターンでしたね。
 これで有名なのは,平成18(行ケ)10487号(知財高裁平成19年7月10日判決)です。これは特許性検討会でも検討したくらい,有名なものです。

 やはり,パラメータが3つもあって,それにも関わらず構成でクレームするのではなく,結果として得られる何らかの物理量でクレームするのであれば,まちっときちんとどうやって作るか示さんかい,というのは理解できるところです。

 明確性要件についても,これも,ポイントとなるクレームの要件であれば,少なくともどう測るくらいは示さんと(定義もイマイチのようですしね),というところは理解できるところです。

 しかし,残念なのは,サポート要件の判示はないのです!ガーン。これを注目していたのに・・・・。

 まあ私のような外野が最近五月蝿くて,変節した飯村所長とか書かれるのが嫌だったか,それとも,退官後の天下り先を見越して波風立てるのを自粛されたのかよくわかりませんが,誠に残念です。要らんことを書くのが飯村節だったはずですけどね~♪

5 ということで,本年のまともな更新はこれが最後となりそうです。
 事務所の公式な予定は昨日で全て終了しましたので,あとはちょっとした起案や宿題をやるだけとなっております。

 去年の冬も寒かったですが,今年の冬はそれ以上です。昨年末に帰省したときは,何十年ぶりに東京よりも暖かいと思ったものですが,今年はどうでしょう。今の所,去年と同様になる可能性大です。11月の末からすごい寒さになり,12月の半ばに一旦緩んだものの,ここへ来てまた無茶苦茶寒いです。

 夏生まれの私は本当嫌になります。
 早く夏になって,いやあもう死ぬほど暑くて早く冬になって欲しいと早く言いたいものです。

 ともかくも,もう年内の更新はないかもしれませんので,今年一年のご愛顧に感謝致すとともに,来年もまた同じようなペースで,基本悪口と金の話中心でやってみたいと思いますので,皆さんよろしくお願いします。

 それではよいお年を。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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