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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,被控訴人ら(被告ら)が原判決別紙被告製品目録記載の製品(被告製品)を製造,販売等した行為について,控訴人が,被控訴人らに対し,①被告製品を用いた医療用可視画像の生成方法(被告方法)は,本件特許権(第4122463号。発明の名称「医療用可視画像の生成方法」)に係る控訴人の専用実施権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づき,被告方法の使用の差止めを求め,②被告製品は,本件各発明による課題の解決に不可欠なものであり,被控訴人らは,いずれも,被告製品が本件各発明の実施に用いられることを知りながら,業として,上記製造,販売等の行為に及んでいるから,本件特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条5号)と主張して,同法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,③控訴人は,本件特許権の特許権者から,被控訴人らに対する平成21年4月28日までの特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条,特許法102条1項)を譲り受けたと主張して,連帯して,上記損害金合計4000万円及びこれに対する平成21年7月7日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。

 原審の東京地裁民事第29部(大須賀さんの合議体です。)は,原告の請求をいずれも棄却しました。
 そして,この判決に不服の原告が控訴したのが,この事件なのですが,知財高裁4部(高部さんの合議体です。)も,控訴棄却(請求いずれも理由なし)しました。

 ま,ちょっと前の事件ではあるのですが,昨日,とある勉強会で,この判決について発表したので,ついでと言ってはアレですが,ここでも掲記する次第です。

 で,クレームから行きましょう。
  

1-A  複数種の生体組織が含まれた被観察領域を放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた,3次元空間上の各空間座標点に対応した画像データ値の分布に 基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し,該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値に基づき,対応する前記空間座標点毎の色度および不 透明度を設定し,この設定された前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度に基づき,前記被観察領域が2次元平面上に投影されてなる可視画像を生成す る医療用可視画像の生成方法において,

1-B 前記2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,該積算値を該各視線上の前記平面座標点に反映させると共に,

1-C 前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間において設定される前記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の大きさに応じて連続的に変化させることを特徴とする医療用可視画像の生成方法。

 こんな感じです。ポイントは,BとCの構成要件です。

2 問題点
 問題点は,上記BとCの構成要件充足性(+均等論)です。

 これ,どういう技術かというと,CTスキャナーで撮ったナマのX線の写真をコンピュータに取り込んで,立体透視した画像を合成するとかいう,やつなのです。

 そのため,A/D変換を行います。まず,ナマのデータ(CT値,骨なら白くて高い値を示すようなやつ)から,デジタルデータのα(不透明度)とC(色度)を出します。
 次に,仮想の視点から仮想二次元平面を通し,α(不透明度)とC(色度)があるところまで視線を伸ばします。
 最後にこの視線上のα(不透明度)とC(色度)を一定のルールで積算計算して,仮想二次元平面上にコンピュータグラフィックの立体透視した画像を得るというわけです。

 で,何が問題だったかというと,従来,α(不透明度)とC(色度)を出すのに,離散値をとっていたのですね。そうすると,骨と軟組織は区別できたのですが,軟組織と血管の区別ができなかったのです。
 もう1つ,従来,データの量が多いと演算に時間がかかっていたので,α(不透明度)とC(色度)の情報を間引いて演算していたのです。つまり,圧縮をやっていたわけです。でもそうすると,画像は悪いですよね。

 ということで,クレームのCにあるように,α(不透明度)及びC(色度)をある区間を設定してそこで連続的に変化させるようにして,さらにクレームBにあるように,すべてのα(不透明度)とC(色度)について演算するようにしたのです。

 だが,しかし,被告の方法は,α(不透明度)とC(色度)について演算時に間引いてはいなかったものの,途中で打ち切り処理をしていたのです。また,α(不透明度)とC(色度)が一方は連続的に変化し,他方は離散的に変化する領域があったのです。

 ということで,一審は,クレームB,Cとも構成要件充足性がないとして切りました。「全て」とあるんだから,途中打ち切りの演算は該当しない!また「及び」とあるんだから,一方のみ連続的に変化させるものは該当しない!と判断したわけです。

 納得行かないのは,原告です。せめて均等論で何とかならんのかということもあり,控訴したわけでしょうね。

3 判旨
Bの構成要件の均等論の判断
「②被告方法においては,被告数式1の積算処理は,被告数式2で設定された閾値に達した時点で打ち切られるため,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現する観点からは,画質に対して悪い影響を与えるものである。被告方法による可視画像の生成は,本件発明1の方法によるほど生体組織を明確に区別するという作用効果を奏するものとはいえないものと解される。
 したがって,被告方法は,本件発明1の目的を達し,同一の作用効果を奏するとまではいえないものであるから,均等の第2要件を欠くものである。」
「⑤仮に控訴人が主張するように,従来技術に係る「間引いて」の反対語が「間引かずに」ということであれば,出願人において特許請求の範囲に「間引かずに」と記載することが容易にできたにもかかわらず,本件発明1の特許請求の範囲には,あえてこれを「全て」と記載したものである。このように,明細書に他の構成の候補が開示され,出願人においてその構成を記載することが容易にできたにもかかわらず,あえて特許請求の範囲に特定の構成のみを記載した場合には,当該他の構成に均等論を適用することは,均等論の第5要件を欠くこととなり,許されないと解するべきである。 」

Cの構成要件の均等論の判断
「①本件明細書及び図面の記載を総合すると,本件発明1は,従来技術と対比して,色度及び不透明度を補間することを新規な技術的特徴とするものである。
 したがって,色度及び不透明度を連続的に変化させる補間区間を設定し,当該補間区間において色度及び不透明度を連続的に変化させることは,本件発明1特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,すなわち本件発明1の本質的部分に当たる。
 よって,この点において本件発明1と異なる被告方法は,均等の第1要件を欠くものである。」

①,②,⑤はそれぞれ,均等論の最高裁の要件の番号です。

4 検討
 構成要件充足性の判断は,1審とおりです。で,この2審で新しいのは,均等論の判断ですね。

 ま,これもよくあるパターンなのですが,悲しいのは,Bの構成要件の均等論で,均等の第5要件で切られたという所です。

 つまり,出願時に,「間引かずに」と書きゃあ良かったのに,書かなかったてめえが悪んだよ,何が「全て」も該当するだよ~,全てって言ったら全部なんだよ,バーカ!というのを丁寧に言っただけの判旨です。

 判例時報の評釈も,この点を指摘してますし,早稲田の高林先生の基本書にも,過誤明細書を救済するのが均等論ではない,旨書かれていたりしています。

 でもさー,これ進歩性と同じだと思うんだよね。出願時にありとあらゆる可能性を考えれば,「間引かずに」って書けるじゃん,って思うのはまさに後知恵ですよ。
 今から思えば,ああ,あの御前会議で海軍は初戦に勝ってもその後アメリカの巻き返しに遭うでしょう,って言ってりゃあ良かったなあとか,もうちょっと我慢して国際連盟にもいりゃあ良かったなあとか思うのと同じですよ。

 訴訟なんか個別具体的な事案ばかりなんだから,時には過誤明細書を救ってもいいんじゃないですかね(今回は他の要件もダメだったと思うけど。)。本当,自分で一遍明細書書いてみりゃわかるで。

5 その他
 ところで,昨日の発表は,実は去年の夏以来だったのですが,その時うざい発表者が居て,本当にうざかったのですが,昨日はそんなことありませんでした。発表者も皆きちんとしてました(恐らく,例の綺麗だなあとコメントした先生がこの前結婚を発表したので,もう出てもしょうがねえやということで,うざ坊はいなかったのかもしれません。)。

 で,私の発表を聞いた人は,恐らくブログで大口たたくだけのことはあるなあと思ったことと思います。勿論,他人の頭の中身なんて人嫌いの私にはわかるべくもありませんが,自画自賛の過度の割合を差っ引いても,そういう感想じゃないかと思うのです。

 何故か?いや,別に私が地頭がいいとか優れているとか言う気は全くありません。むしろ,逆,既にアラフィフのおっさんですので,記憶力も低下し,若い人に比べて本当能力は低いと思います。
 ただ,無茶苦茶準備をきちんとやっただけです(上記の技術は,エンジニア時代にやっていた技術でも何でもありません,念の為。)。
 何でもそうですね~,人の能力ってそんな差はないと思いますよ。どこで差がつくかって準備じゃないですかね。

 例えば,司法試験の受験生時代,当時の会社の同僚で,私も昔だったら,こんな本2回も読めばわかったのに~♫と言う人がいました。
 私が何と答えたかというと,そうそう,僕も2回は無理としても昔は5回くらいかなあ,でも今はそれじゃあとても追いつけないから,10回でも20回でもそれこそ100回でも読んでますよ,と答えました。その人は,ああと何かに気がついたような顔をしてましたけどね。

 当たっただけで胃液が口から飛び出るようなボディフックの練習を来る日も来る日も来る日も練習してるんだから,私の相手をするならそのつもりで来てもらわないと困りますわ。
 ガチンコ勝負において強い相手の本気ほどワクワクするものはないですからね。

 とは言うものの,その後の飲み会でビールを飲んだため,先週末から痛かったひざの裏が更に痛くなってしまいました。
 これは痛風ですね~。参った参った。ただ,弁護士の人とは普段あまり飲みに行かないので,結構面白い話が聞けて良かったですけどね。


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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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