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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「雨水貯留浸透槽・軽量盛土用部材」とする特許権(本件特許権)の特許権者(株式会社林物産発明研究所)から専用実施権の設定を受けた原告(シンシンブロック株式会社)が,被告による別紙被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載の1~4の各製品をそれぞれ「被告製品1」などといい,これらを併せて「被告各製品」という。)の製造,販売及び販売の申出が専用実施権の侵害に当たるとして,被告に対し,民法709条,特許法102条2項に基づく損害賠償として6600万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成24年7月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。

 これに対して,東京地裁民事46部(長谷川さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。

 というよくある特許侵害訴訟の事案ですが,面白い抗弁が成立したので,それで取り上げました。

 まず,クレームは以下のとおりです。
 A1  平板部と
 A2  平板部に開口し端部が閉じられた筒状部
 A3  を有する部材であって
 B  地下に配列し空間を形成し,当該空間をシートで覆って雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土とする部材において,
 C  前記部材の筒状部の側面には,上下方向に沿って複数の張り出し状のリブが設けられ,
 D  筒状部は,開口部から閉じた端面に向かって狭くなるテーパが設けられた
 E  雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土用部材。

 で,被告は, 株式会社シンシンブロック(原告とは異なる会社です。前株か後株の違いです。)と,平成20年4月1日,契約期間を5年間とする通常実施権許諾契約(本件契約)を締結していたのです。この本件契約の対象となる別表1の5件の特許が本件特許権も含むのか,別表1の添付がないのでよくわかりませんが,判旨によると直接には含まれていなかったのでしょうね。
 あと,前株か後株の違いだけというのも,ポイントになるわけです。

2 問題点
 問題点は,技術的範囲の属非と,上記の通常実施権の話がありますので,実施権の抗弁の話がメインですね。

 で,抗弁,抗弁と言いますが,否認とちゃんと区別できてますかね~。
 まず,否認というのは,請求原因の否定ですので,請求原因と両立はしません。例えば,技術的範囲に含まれていない,文言も均等侵害もしていない,というのは典型的な否認です。原告には請求原因の立証責任がありますので,技術的範囲に含まれるということを証明していかないといけません。

 他方,抗弁というのは,請求原因とは両立します。そして,立証責任は被告にあります。だから,否認と抗弁は全然違うものですね。有名なのは,無効の抗弁であり,本件で出た実施権の抗弁も,そこそこ典型的だと思います。つまりは,技術的範囲に入るかもしれないし,実施にも当たるかもしれない~でも,あんたの特許には瑕疵があるし,あんたからライセンスもらってるもんね~ってやつです。

 さて,本件では,技術的範囲の属非として,クレームA2の「端部が閉じられた筒状部」が問題となりました。
 他方,被告製品は,雨水流通孔が設けられてちょっと開口していたのですね。ですので,ここのクレーム解釈とその後の照らし合わせが問題となったのです。

 そして,次に,被告は前株のシンシンブロックとライセンスを交わし(そこから解除通知はされていたようですが。),一方で後株のシンシンブロックから訴えられたという経緯なのです。ですので,この前株と後株のシンシンブロックの一体性が問題となりそうですね。

3 判旨
技術的範囲の属非
「ア  特許請求の範囲には「端部が閉じられた」と記載されているところ,一般に,「閉じる」との語は,「ふさぐ」,「しめる」などの意味で用いられるものである。これに加え,構成要件A2においては,筒状部が「平板部」の側では「開口し」,「端部」では「閉じられた」と記載されているのであるから,「端部が閉じられた」との文言は,「開口」の対義的な表現として用いられたものと解される。そうすると,構成要件A2の「端部が閉じられた」とは,文言解釈上,端部が塞がれており,端部に開口部がないことを意味するものと解するのが相当である。
 これに対し,被告各製品には,別紙被告各製品の構成に記載のとおり,いずれも構成要件A2の「端部」に相当する上端部(上面板)に,開口部(雨水流通孔)が1個又は4個設けられている。したがって,被告各製品が構成要件A2の「端部が閉じられた」の要件を充足すると認めることはできない。 」

実施権の抗弁
「 上記事実関係によれば,① 株式会社シンシンブロック,原告,林物産及び発明研究所は,実質的な経営者を共通にし,互いに密接な関係のあるグループ会社であること,② 上記各社は,本件特許権を含む知的財産権の対外的な行使に当たっては,特許登録上の権利の所在等にかかわらず,株式会社シンシンブロックを中心として行動していること,③ 原告は,株式会社シンシンブロックが多額の負債の弁済に窮しているという状況下で,同社の商号に「新」を付した商号で設立された後,その商号を同社と酷似する「シンシンブロック株式会社」に変更したことが明らかであり,さらに,株式会社シンシンブロックが保有していた特許権を他のグループ会社に譲渡した旨の登録をする,グループ内に同一商号の会社を設立するなど,債権者の追及を免れるために法人格を濫用していることがうかがわれる。これらの事情を総合すると,本件特許権の専用実施権者である原告が,グループ会社が有する特許権の通常実施権を許諾することを内容とする本件契約につき,契約当事者は株式会社シンシンブロックであって原告は本件契約と無関係である旨主張することは,法人格濫用の法理により許されず,原告は,本件契約において特許権者の側が負うべきものとされた義務の履行を免れないと解するのが相当である。 」

「本件特許は,本件契約の文言に照らすと,ア  別表1の特許として列挙されていないこと,イ  権利の主体が発明研究所及び原告であること,ウ  契約締結の時点で「現に」存在するものでないことから,実施許諾の対象になるかどうかにつき疑義があるといえるが,これらの点に関しては次のとおりに解するのが相当である。
ア  本件契約は,許諾の対象には「別表1に記載のものを含む」旨規定しており,これが例示にとどまることはその記載から明らかである。
イ  権利の主体に関しては,上記で説示したところに照らせば,株式会社シンシンブロックだけでなく,発明研究所及び原告が有する権利を含むと解すべきである。
ウ  被告各製品は,本件契約にいう本製品(シンシンブロック)に該当するものであるので(甲6,8,9の1及び2,10参照),これが本件発明の技術的範囲に属するとすれば,本件特許権は「本製品に関わる産業財産権」に当たることになる。また,本件特許権は,登録がされたのは本件契約の締結後であるが,それより前に出願され,出願公開もされていたから(甲3,4),上記グループ各社は,本件契約の締結に当たり,これが登録されれば上記の「産業財産権」になることを当然に認識していたと解される。したがって,被告は,本件契約により,本製品の製造販売のために本件発明を実施することを保証されていたと認めることができる。
 したがって,本件特許権は本件契約の対象となり,被告は本件契約により本件特許権について実施許諾を受けたものと認められる。 」

「本件契約は,相手方の契約違反を理由として解除することができる旨定めるとともに,「本契約を解除するにあたり,甲乙相互に債権,債務を精算しなければならない。」と定めている(甲は被告,乙は株式会社シンシンブロックを指す。乙5)。そして,契約が解除された場合,契約当事者の間にはその後も原状回復その他債権債務を精算すべき関係が残るのは当然であるから,上記の条項は,解除の効力を生じさせるためには解除の前に債権債務を精算することを要すると定めたものと解するのが合理的であり,「解除するにあたり」との文言もこのような解釈に沿うとみることができる。
 さらに,株式会社シンシンブロックが被告に対し多額の債務を負っており,被告がこれを回収する手段の一つとして本件契約を締結したと考えられること(本件契約により被告が株式会社シンシンブロックに支払うべき実施料と,同社が被告に対して負う債務を相殺する形になる。)に照らすと,被告においては,債権債務が回収される前に本件契約が解除され,本製品の製造販売ができないことにされると,多大な不利益を被ることになる。そうすると,上記条項は,そのような事態を避けるため,債権債務を精算しなければ本件契約を解除することができないと定めたものと解するのが相当である。
 そして,証拠(甲31,乙6)及び弁論の全趣旨によれば,被告と株式会社シンシンブロックの間の債権債務はいまだ精算されていないと認められるから,本件解除は効力を生じないというべきである。」

4 検討
 技術的範囲の属非は,結構単純です。閉じられた,とあるのに,閉じていないから,属していない,というわけですので。

 判決の主文を出すには,この判示だけでいいはずです。ところが,本件では,「さらに,念のため」として,実施権の抗弁も判断しております。
 この実施権の抗弁は単純ではありません。論理を3つほど組み立てております。
 というのは,①被告が受けたライセンスの相手は原告ではなく前株シンシンブロックで,②ライセンスの対象には明文上本件特許は含まれておらず,さらに,③ライセンス自体も解除されていたわけです。ですので,①原告ではない前株シンシンブロックからのライセンスも有効で,かつ②ライセンスの対象に本件特許も含まれていることにならないと都合が悪く,さらに③解除も無効である必要があるわけですね。

 法律ってやっぱ屁理屈言いのものだってわかりますよね。
 ①として,原告,特許権者,前株シンシンブロックは法人格否認の法理によって,別々の人格であると主張することは許されないと,ここをクリアしております。
 ②としては,明文はないけど,認識予見していたでしょ,しかも対象特許は例示でしょ,ということでクリアしております。
 ③としては,お金を借りてそのお金を返すことの一環としてライセンスを結んでいるんだから,金の精算のない解除なんて認められるわけねーじゃん,ということでここもクリアしております。

 どの要件も形式的には,原告有利なものばかりですが,価値判断として,これで原告を勝たせるわけにはいかんというのがあったのでしょうかね~。所謂原告筋悪事件のように見えるわけです。

 というのは,技術的範囲の属非だけで結論を出すと,知財高裁で,均等論などでひっくり返る可能性があります(本件では均等論も当然否定なのですが。)。
 ですので,そんな可能性を無くすため,筋悪なんだから控訴すんなよ,と裁判所は言っているわけです。

 これが本当かどうかは判決文だけなので,よくわからないところです。ともあれ,実施権の抗弁というのは面白いと思います。


 

 

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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