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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法」とする特許権(特許第4274630号 )を有する原告(三井金属鉱業)が,被告(日揮触媒化成)による別紙被告方法目録記載の方法(被告方法)の使用等が上記特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,上記方法の使用の差止め,別紙物件目録記載の製品(被告製品)の使用等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害に基づく損害賠償金の支払(一部請求)を求める特許権侵害訴訟の事案です。

 これに対して,東京地裁民事46部(長谷川さんの合議体ですね。)は,原告の請求を一部認めました。つまりは侵害あり!ってわけですね。

 ま,非常にオーソドックスな特許権侵害訴訟で,しかも原告勝ち筋(若干引っ掛かる所もあるのですが。)という,ある意味滅多にないもののため,取り上げました。

 クレームは,このとおりです。
「A  電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物もしくはカリウム化合物で中和し,pHを2以上とすると共にナトリウムもしくはカリウムの含有量を0.12~2.20重量%とした電解二酸化マンガンに,
B  リチウム原料と,
C  上記マンガンの0.5~15モル%がアルミニウム,マグネシウム,カルシウム,チタン,バナジウム,クロム,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の元素で置換されるように当該元素を含む化合物と
D  を加えて混合し,750℃以上の温度で焼成する
E  ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。 」

 で,構成要件該当性での実質的に争いのあるのは,DとEのみです。A~Cまでは争いがないのです(ここが引っ掛かる点ですけどね。)。

 つまり,被告のやっている製造方法は,A~Cに加えて,「マンガンの一部がホウ素で置換されるようホウ酸」を加え(ホウ酸添加工程),その後,粉砕し,Dの工程に進む,という所が違うのですね。

 被告の言い分によると,これで,スピネル型マンガン酸リチウムとは違うものが出来上がるし,Cの工程の元素は限定列挙だからそこも違う筈だというわけです。
 あ,スピネル型というのは結晶構造の一つで,平たく言うと宝石のような8面体構造の結晶構造のことをいうらしいです。ま,あんまりそういうことは本質とは関係ないのですけどね。

2 問題点
 上記のとおりですので,問題点としては,AからEに加え,Fホウ酸添加工程が加わった場合,技術的範囲から外れるかどうかが問題となります。
 と言っても通常は,こんなことをして技術的範囲から外れることはありません。
 権利一体の原則からして,A~Fからなる実施技術(日揮触媒化成の技術)は,A~Eを全部具備しておりますので,文言侵害は明白です。ちなみに,こういうのを利用関係っていうのですね。

 まあ世の中にある99%いや99.9999%の発明は利用発明だと思います(本当は100%だと思いますが,これは悪魔の証明なので。)。利用される側の先願発明(本件だと三井金属鉱業の方)の寿命が切れたパターンも多いでしょうが,世の中そんなものです。全くのオリジナルな技術なんてありません。本当に画期的で革命的なイノベーションなんて,それこそ,20年に一遍,マスコミを挙げての大騒ぎになるくらいのものですから,そんなに起こるわけがありません。

 ただ,例外もないわけでなく,もうA~Eの組み合わせ等が唯一絶対で,それに何かの要素を加えたら違うものだ,とクレームとか明細書で言ってた場合は,それに付加したら技術的範囲の外~♪になりますね。

 こういうのは,米国の特許出願やっている人はすぐわかりますよね。compriseとconsist ofの違いですわ。
 例えば,上記の三井金属鉱業の日本出願を米国出願する際,そのclaimは,comprisingを使わないといけません。

 E comprises A,B,C and D

 という風にしないといけません。いわゆるオープンエンド型です。こうすれば,日揮触媒のやったA~Fからなる実施技術をも把握できます。

 他方consist ofの方です。

 E consists of A,B,C and D

 としてしまうと,クローズドエンド型のクレームになりますので,日揮触媒のやったA~Fからなる実施技術は素通りです。
 そんなら普通は,compriseでよく,consist ofは使わなきゃいいじゃんという話ですが,まあそれはその通りです。
 ただ,限定に限定を重ねるしか特許を取れる範囲がないというときには,consist ofを使うしかないときもあると思います。それに,技術的思想が,他の要素の付加を許さない場合は,そもそもconsist ofを使うしかないわけです。

 ま,私は日本の資格は一通り持ってますが(弁理士も弁護士も全部試験に受かってます。),外国の資格は全くありませんので,詳しくは当該国の資格を持っている人に聞いた方がいいと思いますよ。じゃないと責任は取れませんので。

 でも,こういう例を検討するとよくわかるでしょ,ということです。

 で,日本のクレーム解釈の場合,compriseとconsist ofの文言上の違いはありませんよね。ですので,原則として,compriseで解釈し,何か特別の文言を付加しているような場合はconsist ofと解釈する,というのが通例だと思います。

 ということで,判旨に行ってみましょうか。

3 判旨
「(2)  これに対し,被告は,構成要件Cにおいてマンガンを置換するのは特許請求の範囲に記載された列記元素に限定されており,これに加えて非列記元素でも置換するものは本件発明の技術的範囲に含まれないという解釈を前提に,被告の使用する方法ではマンガンがホウ素により置換されることから,本件発明とは混合及び焼成がされる対象物が異なり,これにより生成される物も異なるので,構成要件D及びEを充足しない旨主張する。そこで,以下,この主張の当否について検討する。
ア  まず,被告の主張する製造方法においてマンガンがホウ素により置換されているとの立証はない(被告はその実際の製造方法を具体的に立証していない上,被告の出願に係るホウ素(ホウ酸)を添加する発明についての明細書を見ても,ホウ素はマンガンの一部を置換していると考えられる旨記載されているにとどまる。乙8,24参照)。
イ  上記アの点をおくとしても,本件発明の特許請求の範囲の記載上,マンガンの置換に関しては,その一定割合がアルミニウム等の列記元素で置換されることが要件とされているが,この要件が充足されていれば,これに加えてマンガンの他の部分が非列記元素により置換されることが排除されているとみることはできない。
  なお,列記元素と非列記元素を合わせた置換割合が15モル%を超え,本件発明の効果を奏しないような場合には,その技術的範囲から外れると解する余地はあるが,本件の被告方法ないし被告製品において置換割合が15モル%を超えたり,上記効果を奏しなかったりすることはうかがわれない。
ウ  また,本件明細書(甲1の2)の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明は,非水電解質二次電池用正極材料としてのスピネル型マンガン酸リチウムには,高温においてマンガンが溶出し,高温保存性,高温サイクル特性等の高温での電池特性に劣るという問題があることから
(段落【0001】,【0004】,【0005】),この課題を解決するために,原料である電解二酸化マンガンの中和条件と,マンガンを置換する元素に着目し,電池特性を向上させるのに適した中和条件及び置換元素を特定することで(段落【0006】~【0008】),高温下でのマンガンの溶出を抑制し,高温保存特性,高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させ,また電流負荷率を改善するという効果を奏することができる(段落【0028】,【0072】)スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法を提供するという発明である。そして,本件明細書には,置換元素を加えることなく電解二酸化マンガンとリチウム原料だけを混合した場合は効果が不十分であることは記載されているものの(段落【0020】),置換元素を加える場合については,実施例及び比較例(段落【0030】~【0066】)に,列記元素により置換したものの記載しかなく,非列記元素との比較において最適の列記元素が特定されたことを示唆する記載はない。また,列記元素と共に非列記元素を添加した場合に,そのような添加をしない場合と比較して高温下での電池特性が低下するなど好ましくない結果となることを示唆する記載もない。このように,本件明細書には,非列記元素の使用や添加を好ましくないものとして排除することを示唆する記載は見当たらない。
  そうすると,本件明細書の記載を参酌しても,原料混合の際にマンガンの一部が置換されるように列記元素に加えて非列記元素が添加されたということで本件発明の技術的範囲から外れることとなるという解釈を裏付けるような記載は見当たらないというほかない。
(3)  以上によれば,被告の前記(2)の主張は,その前提を欠き,採用することができないというべきである。 」

4 検討
 ということで,原則とおり,compriseの解釈でよいというわけですね。

 ただ,私が引っ掛かるのは,どうして,ここまで被告が追い込まれたかということです。これはスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法で,現物は,勿論,スピネル型マンガン酸リチウムではあるのですが,実際には,電池からしか得ることができないと思います。

 とすると,市販の電池を分解して,スピネル型マンガン酸リチウムを取り出し,それにリバース・エンジニアリングをかけて,上記A~Eまでの工程を経ていると特定するのは非常にハードルが高い話だと思うのです(被告方法参照。)。
 普通は,製造方法の特許,しかも化学系のものなんて,実際どうやっているかなんて全くわかりません(そのため,特許法104条なんてありますが。)。だから,一体原告がどうやって,被告がこういう窮する所まで追い詰められる程の証拠を集めたのか,それが実に気になりますね~。だから,そこの所が,ちょっと,引っ掛かる~♪と書いたのです。

5 追伸
 本日,関東地方も梅雨明けしたそうです。梅雨の後半は何だか不安定で,肌寒い日もありましたが,漸く梅雨明けです。
 ですが,平年に比べて1日遅い程度だそうです。去年は7/6と早すぎましたからね。それと比べてもしょうがなく,いつも通りの梅雨明けと言ってよいのではないでしょうか。

 土曜もそうですが,海パンでサーフィンできる季節は本当にいいものです。

6 さらに追伸(16/4/7)
 本件の控訴審判決が出ました(知財高裁2部平成26(ネ)10080等,平成28年3月30日 )。
 逆転で請求を棄却しております。

 進歩性があるとした原審に対し,進歩性なしとしたのがポイントのようです。引用文献はほぼ原審と同じのようですから,これは裁判所の胸先三寸次第ということでしょう。

 とは言え,逆転で勝った被告(控訴人)側は,原審と比べて代理人が変わっております。多少なりともその影響もあったのかもしれません。

 ちなみに,私が上記で問題とした着目点は,控訴審では特段何の問題にもなっておりません(普通の進歩性が問題になっただけです。)。相変わらず見る目は無く,節穴と言ってよいかもしれませんね。あーあ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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