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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「半導体装置および液晶モジュール」とする特許第4550080号の特許権者である原告が,平成24年1月30日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明に係る特許につき,特許無効審判(無効2012-800006号事件)を被告より請求され,特許庁が,同年9月19日,「特許第4550080号の請求項1なしい請求項6に係る発明についての特許を無効とする。」との無効審決(進歩性なし)を下されたことから,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(飯村所長の合議体ですね。)は,原告の請求を認め,審決を取り消しました。要するに,進歩性はあるよ,ということですね。

 おおー飯村さんの合議体,しかも逆転で進歩性を認めた事例,これはこのブログで取り上げる価値はありそうですね。

 ちなみに,ポイントとなる請求項1は以下のとおりです。
「【請求項1】絶縁性を有するベースフィルム,該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層,および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有する半導体キャリア用フィルムと,前記配線層に接続された突起電極を有する半導体素子とを備える半導体装置であって,
 前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり,そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において,配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×10 5 ~2.7×10 6V/mであり,
 前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し,
 前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することを特徴とする半導体装置。 」

 簡単に言えば,液晶ディスプレイのドライバーICとかを載せて,それを液晶につなぐための導電性フィルムに関する発明ですね。

2 問題点
 問題点は,上のごとく進歩性です。ただ,進歩性って言ったって,論点はいろんな所にあります。
 前回もちょっと説明しましたが,まずは,事実の所です。
 いわゆる一致点・相違点認定の部分です。ここは技術がわかっていないとさっぱりの所ですね。つまりは,特許庁などの見逃し,ないしは勘違いで,一致点じゃないもの(本来は相違点とすべきもの)を一致点だと看過しちゃって,しかもでかい見落としのために,審決が取り消されるってやつですね。
 審決が取り消される最も多いパターンだと思います。

 次に法的評価,つまりは容易想到性の判断の部分です。ここは,逆に法的評価の所ですので,技術がわかってなくてもよろしい~と言いたい所なのですが,結局上記の所で,相違点はあるけれど(相違点がなけりゃあ新規性で切られる),その相違点が大したものなのかそれとも大したものじゃないのかは,結局技術的判断が入り込みますので,やはり技術がわかっていないとダメなのですね。

 ね,文系の,学者の人達がこの進歩性を毛嫌いする理由がわかりますよね~。実務家はお金がかかっていますので,文系だろうがなんだろうが,否応なしにやらされますが(特にイソ弁),学問の自由のある学者の人達は別にようわからんものなんてやる必要ありませんからね。

 で,今回は,取り消された事由が,実は法的評価の方で,さらに具体的に言うと予想以上の効果があるか,という観点から取り消されております。最近じゃ珍しいのじゃないかと思います。

 ま,こういう効果重視って,化学や薬の分野でよくあるパターンです。化学や薬は,構成要件上,従来の発明とほんの小さな違いしかなく,これは微差でしょう~進歩性なしでしょう~と言うような場合でもその微差で効果が大きく違うということが起こりがちなのですね。そうすると,そんな一見微差しかない場合でも,進歩性を認め特許を付与していい!というような場合に対応すべく,効果を重視するわけです。

 ま,こんなところで判旨に行きますかね。

3 判旨
「 本件発明1は,高温高湿環境下であっても,マイグレーションの発生を抑制して,端子間の絶縁抵抗を劣化しにくくすることにより,ファインピッチ化や高出力化に適用できる半導体装置を提供することを課題とし,その課題解決手段として,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることとしたものであり,これによって,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率が向上して,バリア層を流れる電流が小さくなり,配線層を形成する銅の腐食を抑制することができ,また,バリア層の表面電位が標準電位に近くなり,バリア層を形成している成分の水分中への溶出を抑制することができ,マイグレーションの発生を抑制するとの効果を奏する
 これに対し,引用発明は,1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することができ,さらに,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密着強度を有するプリント配線基板用の銅層(銅箔)を提供することを課題とし,その課題解決手段として,支持基板と銅層との中間層にクロム層の代わりにCrを一定割合含有するNi-Cr合金層を用いた発明である。また,甲2文献には,マイグレーションの発生の抑制に関する事項については,記載及び示唆はない。

「以上によれば,原出願日当時,当業者において,半導体キャリア用フィルムにおいて,端子間の絶縁抵抗を維持するため,マイグレーションの発生を抑制する必要があると考えられていたこと,マイグレーションの発生を抑制するため,吸湿防止のための樹脂コーティングを行ったり,水に難溶な不動態皮膜を形成したり,半導体キャリア用フィルムを高温高湿下におかないようにしたりする方法が採られていたことは認められる。しかし,原出願日当時,本件発明1のように,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することにより,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率を向上させ,また,バリア層の表面電位を標準電位に近くすることによって,マイグレーションの発生を抑制することについて記載した刊行物,又はこれを示唆した刊行物は存在しない。そうすると,甲2文献に接した当業者は,原出願日当時の技術水準に基づき,引用発明において本件発明1に係る構成を採用することにより,バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは,予測し得なかったというべきである。したがって,本件発明1が容易想到であるとした審決の判断には誤りがある。 」

4 検討
 上記の判旨で甲2文献って出ていますが,これは主引例ですので,お間違えなきよう。これねえ,シャープの代理人が古い付番をしたのでわかりにくくなってますよね。主引例は甲1にしないとわかりにくい!って裁判所も言っているのに,いまだ主引例を甲2とするとはね~。

 本題じゃないところから入りましたが,まあ判旨のとおりです。
 要するに,今回の発明は,導電性フィルム上で,配線間にマイグレーション(電池反応というか,電食というか,サビというか。長く使っていると,空気中の水分によって化学反応が起こり,配線間でショートするのですね。)が起こりがちだったので,それを防ぐために,バリアメタルの組成を工夫したというのがポイントだったようです。
 
 他方,引用発明は,似たような構成ではあったのですが,マイグレーションを防止するという所は全くノーマークだったようです。恐らくこれは,フィルム上とプリント基板(ポリイミド)上での違いがあるのでしょうね。マイグレーションを起こすのは,塩素イオンが悪さをすることが発端になるのですが,ポリイミドではあまり問題にならなかったのかもしれませんね。

 あと,今回,このマイグレーションについては,本件発明の構成の要素でもあることに留意してください。構成要件の最後に「前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」と思っきし書いてますからね。ですので,効果の違いというよりも,そもそも構成の違いと言ってもよいかもしれません。

 ただ,今回のこういう特許性の争いのときには,効果を構成要素としたため救われましたが,侵害訴訟では通常逆ですね。
 効果を構成要素としてしまうと,相手方からは,効果がねえよ,うちの製品はそんな効果はねえんだよ,と言われてしまいます。構成自体は全く同じだとしても,そういうしょうもない所で争われて,いやあ効果はこのとおりあるんだという面倒くさい実験報告書を出し,これに対して相手方もいやあ効果はこのとおり全くないんだという面倒くさい実験報告書をこれまた出し,実験報告書の争いという,裁判所にとっては,どこか他所でやってくれないかなあ~♪というような泥沼にはまります。

 ま,兎も角も効果の違いで救われたというあまりない例だったので,参考になるのではないでしょうか。そそ,技術もそんなに難しくないですしね。

 ただ,飯村さんの逆転判決~しかも進歩性で~というほどのものではありません。弱火です。

5 追伸
 本日は非常に涼しいというかもはや寒いくらいの東京ですが,来週はいよいよ10月の2週目ということになります。いやあ,それが何か~?という所でしょうが,大ありですよ。所謂,ノーベルウィークってやつです。

 医学生理学賞から始まり,ノーベル賞の受賞者が毎日決まります。私も,電話の前でワクワクドキドキしておかないと~♫

 ま,冗談はさておき,今年も下馬評じゃ,日本人の候補は結構いるようです。医学生理学賞もそうですが,物理学賞でも候補の先生はいるようです。
 ただ,物理学賞は,東大のグループの追試などによりヒッグス粒子の存在が確定しましたので,ヒッグス粒子の可能性も高いです。でも今週の成果でもう来週に迫ったノーベル賞の結果に何か影響が出るのかなあという気がしますけどね。
 あとは,文学賞はいつものとおりです。ですが,今年はあまり騒がれていませんので,昨年の山中先生のように忘れた頃に来た~!ってなるかもしれません。

 あと,日経紙をはじめ,マスコミはいつも間違えておりますが,ノーベル賞は,ノーベルの遺言によって出来た賞ですので,医学生理学賞,物理学賞,化学賞,文学賞,平和賞の5つしかありません。

 経済学賞はって?そんな賞はありませんよ!ちょっと調べりゃわかりますが,所謂経済学賞って,確かスウェーデン銀行特別賞みたいな正式名称で,ノーベル賞じゃありませんからね。つーか,そもそも経済学って,学問~?プッってな感じですからね。

 ま,兎も角も,来週を楽しみに待ちましょう。
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自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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