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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が,発明の名称を「殺菌消毒液の製造方法」とする発明について,平成17年7月28日に特許出願(特願2005-218755号)をした所,平成21年8月26日付けで拒絶査定を受けたので,同年11月11日,これに対する不服の審判を請求し,特許庁は,この審判を,不服2009-21966号事件として審理し,この審理において,特許庁は,平成24年7月18日付けで拒絶理由通知(進歩性なしなど)を行い(本件拒絶理由通知),原告は,同年8月27日付けで,本願の特許請求の範囲について,請求項の数を2から1へ減少させるなどの手続補正を行った(本件補正)ものの,特許庁は,同年10月9日,本件補正後の本願について,拒絶審決(新規性なし)をしたため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(設樂さんの合議体です。)は,原告の請求を認め,審決を取り消しました。

 いやあ,珍しい,手続違背の事例で,しかも,あそう,今ってそうなってんだ!ということで,取り上げました。

2 問題点
 訴訟上の問題点は4つくらいあったようですが,注目すべきは,特許法159条2項の話ですね。

 まず,159条2項です。

 「第五十条及び第五十条の二の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。この場合において、第五十条ただし 書中「第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に 限る。)」とあるのは、「第十七条の二第一項第一号(拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限るものとし、拒絶査定不服審判の請求前 に補正をしたときを除く。)、第三号(拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)又は第四号に掲げる場合」と読み替えるものとする。」

 
 これ,条文は長いのですが,趣旨は簡単です。憲法31条にも通じる手続保障,不意打ち防止ですね。つまり,新たな拒絶理由(特許性がないということ)を発見した場合は,ちゃんと拒絶の理由を通知して,意見書を提出する機会を与えないといけない,ってやつです。まさに,告知&聴聞の保障と言えます。

 じゃあ,具体的にはどういうのがそれに当たるかというと,典型的なものは,引用例が違う場合です。基本特許庁の審判は職権主義なので,当事者の主張には縛られません。
 査定系の審判ならさらに顕著で,もう意地でも引例調査して,前の査定などよりも更に近づいた引例を探してきます。ただ,こういう新しい引例で拒絶審決すると不意打ちになりますので,まずは拒絶理由を通知しないとね,ってことになります。

 じゃあ,新しい引例じゃないんだけど,理由が違う場合はどうでしょう?あり得るのが,前が新規性で後が進歩性です(パターン1)。逆に,前が進歩性で後が新規性ってのもあり得ます(パターン2)。

 なぜ分けたかというとちょっと不意打ち度合いが違うわけです。パターン1の場合は,最初新規性ですから,出願人の対応としては,ちょっとの差異でも見つけりゃそれで終わりなわけです。新規性は,同一性ですからね。にも関わらず,後で進歩性ってなったら,そりゃ不意打ちです。進歩性をクリアするには,論理付けだの動機付けだの,顕著で有利な効果だの,色んなことを言わないとクリアできません。ですので,そういうことをきちんと言わせておかないと,こりゃ手続き違反になりますわな。

 他方,パターン2の場合は,初めが進歩性ですので,色々主張はさせてもらっているし,進歩性は,「前条各号に掲げる発明に」というものでもあるので,不意打ち具合はパターン1に比べれば,随分小さいわけです。ま,法曹にわかりやく言えば,訴因の縮小認定,大は小を兼ねるってやつに似ていると思います。

 ですので,私が受験時代に愛用していた某予備校発行のサブノートは,パターン2の場合に,「改めて拒絶理由通知をする必要はないと解する」と書いています。私の記憶もこれでした。つまり,1999年当時の実務の運用はこうだったのでしょうね。ところがですよ~。

 ま,判旨に行ってみますか。

3 判旨
 「 上記ウに対し,特許庁が平成24年7月18日付けで行った本件拒絶理由通知における拒絶の理由は,以下のとおりであった(甲16)。
(ア)  拒絶の理由1
    補正前発明1のうちで,塩素剤として「次亜塩素酸ナトリウム」,炭酸源として「炭酸ガス」,酸性物質として「酢酸,塩酸,硫酸より選ばれる少なくとも一種の酸性物質又は希塩酸水溶液」を選択する態様と,引用発明との間に差異はない。
    したがって,補正前発明1は,刊行物1に記載された発明(引用発明)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
(イ)  拒絶の理由2
    補正前発明1と引用発明とは,①塩素剤の種類,②炭酸源が補正前発明1は「炭酸水」であるのに対し,引用発明では「炭酸ガス」である点,③酸性物質の種類,の点で相違するが,いずれも当業者が容易に想到できたものである。また,補正前発明2と引用発明とは,上記①ないし③に加え,④炭酸水の遊離炭酸濃度が,補正前発明2では「100ppm~3000ppm」であるのに対し,引用発明ではそのような特定がされていない点(相違点4)で相違するが,いずれも当業者が容易に想到できたものである。
    よって,補正前発明1及び補正前発明2は,刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(ウ)  拒絶の理由3
    本願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,特許法36条6項に規定する要件を満たしていない。
オ  原告は,平成24年8月27日,本件補正を行い,補正前発明1に係る請求項1を削除するとともに,補正前発明2を請求項1に繰り上げた上,同請求項中の明瞭でない記載の釈明を目的とする補正を行い,本願発明とした。
  特許庁は,同年10月9日にした審決において,本願発明の特許要件について,事案の概要第3項のとおり判断した。
(2)  上記のとおりの本願についての手続の経過に照らすと,本願発明が引用発明と一致し相違点を有しないから新規性を欠如するとの拒絶理由は,拒絶査定において示されていないから,特許法159条2項の「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たる。そして,上記(1)オの本件補正の内容に照らすと,本願発明は,実質的には補正前発明2に当たるところ,補正前発明2については,本件拒絶理由通知においては進歩性を欠如するとの拒絶理由が通知されていたものの,補正前発明1とは異なり,引用発明と差異はないから新規性を欠如するとの拒絶理由が通知されたとは認められない。
    この点,本願発明の請求項の記載に照らして,遊離炭酸濃度の特定事項が炭酸源として炭酸水を用いる場合のみに係ることが一義的に明確であると解されることは前記1のとおりであるから,補正前発明1について新規性を欠くとする本件拒絶理由通知によって,炭酸源として炭酸ガスを選択する態様については引用発明と同一であるとの拒絶理由が,実質的には通知されていたと評価する余地もないわけではない。
 しかしながら,本件拒絶理由通知は,あえて補正前発明1についてのみ,引用発明と差異がないとの拒絶理由を通知し,補正前発明2については,相違点4等が存在することを理由に,進歩性を欠くとの拒絶理由のみを通知したにすぎないから,出願人である原告において,本件拒絶理由通知によって,補正前発明2のうち炭酸源として炭酸ガスを選択する態様については引用発明と同一であるとの拒絶理由が示されていることを認識することは困難であったと考えられる。
 そうすると,審決は,かかる拒絶の理由を通知することなく行った点で,特許法159条1項(ママ)の準用する同法50条の規定に違反したものであるといわざるを得ず,出願人の防御権を保障し,手続の適正を確保するという観点からすれば,かかる手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。」

4 検討
 経緯が重要なので,若干長めに引用しました。

 要するに,審判内で拒絶理由通知が3つ来た(新規性,進歩性,記載要件),そこで,出願人は,新規性でNGの請求項を削り,進歩性と記載要件のNGの請求項は補正した,わけです。これで少なくとも,新規性はクリアできた筈です。だって,新規性NGだった請求項を削ったのですから。
 ところが,最終的な審決では,進歩性ではなく新規性でNGだったので,びっくり!てなことです。

 で,あとは評価というか価値判断の問題になるのですが,近時は,大は小は兼ねるというわけにはいってないらしいです。だから,私には非常に意外だったのです(要するに,頭の中が,受験時代で止まっている!)。
 審判便覧もそのようです。結局,引例と差異があるという前提での検討(進歩性)と,差異がないという前提での検討(新規性)は,兼ねられるもんじゃないということなんでしょうね。ま,よく考えればそりゃそうだなあって所ですが。

 おーこの判決はいい勉強になりましたね。ただ,条文の間違いがあるんだなあ,これが。作成した左陪席と書記官に大目玉ってところでしょうか。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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