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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「船舶」とする本件特許第4509156号(出願日:平成19年9月13日,登録日:平成22年5月14日,特許権者は,原告三菱重工と原告日立製作所)に対して,被告ら(三井造船,川崎重工,佐世保重工,住友重機械マリンエンジニアリング,内海造船,名村造船,函館とっくと株式会社アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド)が共に,平成23年12月22日,本件特許の請求項1,2,4~7について無効審判を請求した(無効2011-800262号)ところ,特許庁が,請求項6を無効とし,それ以外の請求項は不成立とした審決( 無効とした理由は新規事項追加補正。なお,平成22年3月24日付けでの手続補正(本件補正)あり。)が下されたため,請求項6を無効とされた特許権者である原告らのみ,不服として出訴した審決取消訴訟の事件です。

 これに対して,知財高裁2部(塩月さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。つまりは,新規事項追加の補正じゃなかったということです。

 同じ日にもう一つの判決(平成24年(行ケ)10424号,こちらはサポート要件違反,明確性要件違反です。こちらも原告らが逆転勝訴。)がありますが,結局本件のポイントは,新規事項追加の補正だったか否かですので,こちらを取り上げました。
 また,我が国を代表する大会社間の争いの上(代理人もビッグネームです。),技術がそんなに難しくないので,取り上げました。

 なお,問題となっている請求項6は以下のとおりです。

バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,
  バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とする船舶。

2 問題点
 新規事項追加の補正の禁止というのは,ここでも何度か説明しましたね。条文は特許法17条の2第3項です。
 「第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、・・・願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
 この趣旨は,簡単ですね。後出しじゃんけんの禁止です。出願を長く係属させ,その間にそれっぽい商品が発売された途端,その商品に合わせて,特許出願をいじることができたら??,侵害しない特許なんて無くなります。ですので,そんなことは許さない,出願時の内容そのままで勝負だ!というのがその趣旨です。

 ただ,具体的に何が新規事項追加となるかは,結構曖昧です。特許庁の審査基準もその点紆余曲折があり,私が弁理士試験の受験生だったころは,「直接的かつ一義的」じゃないとダメだと言われてました。
 ゴムの例示があっても,これをバネに修正する補正はダメだ!と言われてたのですね。いやあ何ちゅう杓子定規さ加減。確かにヨーロッパ起源のこの規定は,上記の趣旨ではあるのですが,地元ヨーロッパでもここまで厳しく無かったのです。日本人て,何でもキチキチやり,それが良いこともあるのですが,一旦決めると融通が全く効かねえというか,本当困っちゃいますよね。
 そうそう,早い所,ロースクールなんて廃止すりゃあいいのに(本日の日経紙の一面の春秋,参照。あんなにロースクールマンセーだった日経にも愛想をつかされておりますね。恐らく,ロースクール側からの,献金じゃなかった広告費が少なくなっているのでしょう。),なかなか廃止できないもんなあ。おっと,また議題がずれそうなので,戻します。

 今は,平成20年5月30日の大合議の判決で,新たな規範が定着していますので,それによります。それは,
「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
というものです。

 まあでも,新たな技術的事項って何じゃいな?って問題は残りますが。

 で,本件では,上記の下線をひいた部分,「非防爆エリア」が,問題になっております。
 これは,審決によると,非危険区域のことです。そして,当初明細書には,この非防爆エリアに,バラスト水処理装置が設けられているという記載はなく,それより狭い舵取機室9にバラスト水処理装置が設けられているという記載があるだけじゃん,何どさくさ紛れで,非防爆エリアなんて広げてんじゃ,このバカタレが,無効じゃ,ハゲとしたのですね。

 ですので,舵取機室9に限らずこの非防爆エリアにもバラスト水処理装置を設けてもいいよ~,というような記載があれば,原告の勝ちになるわけです。

3 判旨
「本件出願時点において,当業者にとって,船舶のどの場所が「非防爆エリア」であるかについても,以下の理由により明確であると認められる。
  すなわち,甲101(財団法人日本海事協会「2007 鋼船規則 鋼船規則検査要領 H編 電気設備」)には,タンカー,液化ガスばら積船及び危険化学品ばら積船のそれぞれについて,0種,1種及び2種の三段階で危険場所を分類しなければならないことが記載されており,どこを危険場所とすべきについても,危険場所の段階毎に具体的に例示されている。
  また,甲215(日本規格協会「JIS 船用電気設備-第502部:タンカー-個別規定」)には,危険区域の分類について詳細な規定が定められており,危険区域の分類の例についても具体的に図示されている。
  さらに,危険区域の分類については、甲216(日本規格協会「爆発性雰囲気で使用する電気機械器具-第10部:危険区域の分類」)においても詳細に定められている。
  これらの甲101,215,216に照らせば,本件出願時点において,当業者にとって,船舶のどの場所が危険場所又は区域になるのかは明確であり,そうである以上,危険場所又は区域ではない「非防爆エリア」がどこかも明確であるというべきである。
  また,甲101,215,216は,船舶を設計するにあたって遵守すべき基本指針に関するものであるから,本件出願時点において,「非防爆エリア」の意味はもとより,その具体的な場所についても,当業者の技術常識であったものと認めて差し支えない。
  上述したように,当初明細書において,「非防爆エリア」という用語の意味が記載されておらず,操舵機室以外に「非防爆エリア」の例示は存在しない。しかし,上記技術常識に照らせば,当初明細書に接した当業者は,「非防爆エリア」の意味や場所を明確に理解できるというべきである。また,当初明細書において,「非防爆エリア」という用語が一般的な意味,すなわち,「電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域」という意味で用いられていることは,【0030】の「舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」という記載と整合することからも明らかである。 」
「 そうすると,当初明細書の趣旨が全体として舵取機室に主眼を置かれており,【0030】の記載が操舵機室の効果を文理上述べているとしても,【0030】の記載に接した当業者は,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」が舵取機室特有の効果であると理解することはなく,舵取機室には限定されない,より広義の「非防爆エリア」に着目した効果であると即座に理解するものと認めることができる。そして,かかる理解の下,「非防爆エリア」についても,舵取機室とはほとんど無関係な単独の構成として理解するというというべきである。
  よって,【0030】の記載から,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設する構成によって,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむ」という効果を奏する,ひとまとまりの技術的思想を読み取ることができ,本件発明6の「非防爆エリア」は,【0030】において実質的に記載されているというべきである。「非防爆エリア」の構成について特許法17条の2第3項の要件を満たさないとすることはできない。」
「 バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設するという技術的思想は当初明細書の【0030】によってサポートされている以上,当初明細書において,舵取機室に関する特有の技術的思想が開示されているとしても,そして,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設することに関連する記載が【0030】においてだけであるとしても,「非防爆エリア」に関する本件発明6が特許法17条の2第3項の規定を満たすことについての判断を左右するものではない。 」

4 検討
 要するに,バラスト水処理装置をどこに置くかの話については,確かに舵取機室9を主眼としているけれども,よく見てちょうだい,当初明細書はそれだけだよ,っていうわけじゃないよね,非防爆エリア全体のことも指し示しているような記載もあるよね,だから,非防爆エリアと補正しても,新規事項追加じゃないんだよ,ってことなのですね。

 まあ,これはこれでいいのかもしれませんね。

 ただ,一点,苦言。ま,いつも苦言だらけで,何が一点じゃと思われるかもしれませんが,私,ためにするdisり,というのは一度もやったことはありません。やむにやまれずやっているだけですのよ,オホホホ。

 で,その今回の苦言ですが,用語が不統一ですね。

 本件特許のポイントは「舵取機室」ですが,判決中,この文言が,いつの間にか「操舵機室」に変わっております。恐らく,起案した裁判官の頭の中で,舵取りって結局操舵のことなのね~と思っていたのでしょうね。まあよくやることです。

 でも,世界のどこでも見ることのできる判決の写しに,明細書に使われていない言葉が突然登場するというのは頂けません。ちゃんとチェックしないとね,あチェックしきれなかった書記官も同罪。
 ちなみに,私もこんなミスをよくやりますが,私は単なる零細事業者なので,不問。しかも私は自分にとことん甘く,他人に異常に厳しいですからね。

 あと,気になったのは,この事件,無効審判段階では,原告は弁理士のみで対応しているのですね。他方,訴訟になると弁護士のみとなっております。まあ色々あるのでしょうね。でも,弁護士だけで,結構マニアックと思われる今回の論点をクリアしております(被告も弁護士のみですがね。)。
 ですので,この弁護士の方々には,スゲエじゃんと上から目線で褒めておきましょう。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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