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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 平成16年8月13日,発明の名称を「太陽電池用平角導体及びその製造方法並びに太陽電池用リード線」とする特許出願(特願2004-235823号)をした原告(日立電線)が,特許庁から拒絶査定を下されたため,同年12月28日,これに対する不服の審判を請求したものの(不服2011-28155号事件),さらに特許庁から,平成24年11月5日,拒絶審決(29条の2)を下されたため,これに不服として,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁4部(富田さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。つまり,先願の明細書に記載された発明と本件発明は同一でない,ということです。

 おっと珍しい29条の2ですね。

2 問題点
 問題点は29条の2の要件に当てはまるかどうか,文言で言えば「同一」かどうかということです。
 さて,29条の2はこんな条文です。
 「特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願・・・であつて当該特許出願後に・・・特許掲載公報・・・の発行若しくは出願公開・・・がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲・・・又は図面・・・に記載された発明・・・と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」

 重要でない部分は外しました。ま,この条文は特許法を習うときの最初の躓きの石でしょうね。法学部出身の人からすると,別に大した条文ではないのですが,全く法律の知識のない理系の人が,新規性とか進歩性とか,そこそこわかったのに,この条文で,どう読んでいいかわからん,がっくしとなるくらいの長さですからね。

 具体的に考えてみましょう。
 例えば,本件のように,平成16年8月13日に出願した特許出願に対し,先願が,平成16年5月21日の出願だとしますね。3ヶ月弱くらい,先願の方が早いわけです。
 ただ,この場合,先願の公報は,通常,出願日から1年半後くらいにしか発行されておりませんので,この例の特許出願は,新規性をクリアできます。新規性をクリアできると自動的に進歩性もクリアできます(「前項各号に掲げる発明・・・・」)。そして,先願の39条は,ダブルパテントの防止の趣旨ですので,クレームとクレームを対比して,同一できなければ,クリアとなります。

 そうすると,この例のように,先願の出願書類(クレームじゃない部分,例えば明細書とか図面とか)に既に載っていた発明にも関わらず,新規性とか先願とかクリアできたからって,特許されるというのは,そりゃオカシイんじゃないの,ってことで設けられたのがこの条文です。

 ま,弁理士試験の受験生はよくよく注意してくださいね。例外にも注意です。

 ですので,その要件は,先願の出願書類に記載されていた発明と同一かどうかです。

 ただ,この同一というのが曲者です。というのは,新規性の場合,進歩性という,同一に対して,類似の発明のケアがあります。ところが,29条の2の場合,同一のみのケアしかないのです。ですので,29条の2の場合,新規性での同一の概念よりも,同一の概念が膨らんでいるのではないかという議論があります。ですので,実質的同一かどうか,これが重要ということになります。
 
 なお,先願の発明と本件発明との一致点,相違点は以下のとおりだったようです。
(一致点)
 体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下である太陽電池用平角導体
(相違点 )
 本願発明は,引張り試験における0.2%耐力値について,「(ただし,49MPa以下を除く)」とされている点 →つまり,先願発明は,49MPa以下に特定したもので,本件発明は,49MPaを超えるものに特定したものと言えます。そのため,重複部分はありません。

3 判旨
 「ア  前記(1)及び(2)によれば,本願発明と先願基礎発明とは,体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角導体である点で一致する(その点で,体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下で一致するとする本件審決の認定は相当ではない。)にすぎず,引張り試験における0.2%耐力値については,本願発明は90MPa以下で,かつ49MPa以下を除いているため,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲(19.6~49MPa)を排除している。
 したがって,本願発明と先願基礎発明とは,耐力に係る数値範囲について重複部分すら存在せず,全く異なるものである。
イ  先願基礎発明は,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとするものであるが,先願基礎明細書(甲10)には,太陽電池用平角導体の0.2%耐力値を,本願発明のように,90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることを示唆する記載はない。また,半導体基板に発生するクラックが,半導体基板の厚さにも依存するものであるとしても,耐力に係る数値範囲を本願発明のとおりとすることについて,本件出願当時に周知技術又は慣用技術であると認めるに足りる証拠はないから,先願基礎発明において,本願発明と同様の0.2%耐力値を採用することが,周知技術又は慣用技術の単なる適用であり,中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項であるということはできない。
 したがって,本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構成(耐力に係る数値範囲の相違)が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。
ウ  本願発明は,前記(1)のとおり,耐力に係る数値範囲を90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることによって,はんだ接続後の導体の熱収縮によって生じるセルを反らせる力を平角導体を塑性変形させることで低減させて,セルの反りを減少させるものである。
 これに対し,先願基礎発明は,前記(2)のとおり,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとすることによって,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消させて,半導体基板にクラックが発生するのを防止するというものである。
 そうすると,両発明は,はんだ接続後の熱収縮を,平角導体(芯材)を塑性変形させることで低減させる点で共通しているものの,本願発明は,セルの反りを減少させることに着目して耐力に係る数値範囲を決定しており,他方,先願基礎発明は,半導体基板に発生するクラックを防止することに着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのであって,両発明の課題が同一であるということはできない。 」

4 検討
 何だか,進歩性の判断のようですね。
 何故,進歩性の判断のようなのか?,これは上記で説明したとおりです。29条の2には,進歩性にあたる条文のケアがありませんので(ということは,本来,法の欠缺として,放っといてもいい部分なのかもしれませんがね。),実質的同一ということにして,若干進歩性的な判断を取り込んでいるのです。

 ですので,本当に同一の文言に拘るのでしたら,上記の判示のうち,イとかウとかは要らない筈です。ダブリなし!同一じゃない,終わり!の筈ですからからね。29条第1項の新規性ならば,そう判断する筈です。
 でもこれが,29条の2の面白さというか,適当なところです。同一じゃないんだけど,ちょっと同一の概念が膨らみ,実質的同一ということで,類似性要するに進歩性の判断までしてしまっているということです。

 で,私としては,法の欠缺のあるところなので,厳密に,そう,今回の知財高裁の結論でいいと思いますよ。ただ,知財高裁も,課題が同一とか,本来の構成とは関係ない所に足を踏み込み過ぎだと思います。これじゃあ全く進歩性と同じです。それじゃあ,ある意味特許庁の土俵で相撲を取っているに過ぎず,たまたま今回は課題が同一でなかったので,29条の2をクリアしたとも言えるわけですからね。
 私は,「同一」の文言は構成の同一のことだと思いますので,構成が明らかに相違すれば(つまり微差じゃなければ),もうそこで切っていいと思います。わかってくれたかなあ,富田さん~♫

5 追伸
 昨年,iphone5にした話をしましたが,iphone5s発売に伴ってiOS7にアップデートされてしまいました。慣れていないからでしょうが,何かデザインがのっぺりした感じですね。まさにフラットデザインてやつですか?
 でもこのフラットデザインとか,結構使われている用語のようですが,全くわかりにくいです。近時,NHKに対し,横文字を使いすぎるぜ,売国奴♡ってな感じで訴えが提起されましたが,ま,それは極端かもしれませんが,兎も角わかりにくい横文字は多いです。

 こういうのって,もっとわかりやすく言うことができると思いますよ。だって,こんなの単純なデザインって言えばいいだけですよね。別にデザインって用語まで日本語に置き換える必要はないと思います。でも,フラット~ていう意味は,内容からして直感的ではないので,ここは日本語の方がいいんじゃないかなあと思うわけです。

 ま,昨今こういうのって多いですよね。インチキ業界人の業界用語みたいなもんで,それっぽく見せるために,一般人をけむにまく用語を用いるという詐欺師がよく使う手ですよ。最近は,弁護士や弁理士のやるセミナーまでこんな感じですので,大笑いですわな。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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