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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,原告が,平成11年5月15日にした特許出願の一部を,平成19年1月9日に,発明の名称を「ポリウレタンフォームおよび発泡された熱可塑性プラスチックの製造」とする新たな特許出願(特願2007-1387号)としたものの,拒絶査定を受けたため,拒絶査定不服の審判を請求(不服2008-8607号事件)するとともに,手続補正書及び手続補足書を提出したにも関わらず,特許庁から拒絶審決(サポート要件なし)を下されたことから,これに不服の原告が,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(芝田さんの合議体です。)は,審決を取消しました。つまり,サポート要件違反はない,ということです。

 何か久々特許の王道のような話ですね。このブログは,本来こういうマニアックなものがメインだったのですが,最近違う意味でマニアックな方に行っております。まあ世の中思うようにはならない,ということです。

 ところで,今回の技術,これに類したものを以前このブログでも紹介したことがあります。案の定,同じ出願人(権利者)でしたね。

2 問題点
(1) 問題点は,上記のとおり,サポート要件があるかどうかということです。
 まず,条文です。特許法36条6項1号です。

 「6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
 
 そして,このサポート要件の判断に関しては,デフォルトが,大合議のパラメータ事件で,その規範が,

 「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。特許法旧36条5項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(平成15年法律第47号附則2条9項に基づく特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である。

 であることは有名です。
 この規範は,多くの判決でとられ,また特許庁実務でもこれを踏襲しておりましたので,これが揺らぐこともないとも思われておりました。
 私が以前書いた論文もこれに準じております。

 ただ,近時,それじゃあいかんのじゃないか,特に飯村さんの合議体の判決で,これに反するようなものが出たこともあり,サポート要件と実施可能要件の違い,ひいては,サポート要件って結局何なの?っていう議論が弱火ではありますが,一応あります。

 従来は,サポート要件と実施可能要件というのは本質的違いはない,というのが上記のとおり,通説だったと言って良いと思います。というのは,上記のとおり,大合議判決でも書かれている「当業者が当該発明の課題を解決できる」ということは,結局のところ,実施の態様の一つである「使用」にほかなりませんから,実施可能要件と同じ~♫になるわけですね。

 ただ,本当に同じなら,条文が2つもいるか,ボケ!っていうのはごもっとなことで,じゃあ違うんじゃないの,いや同じことでも条文がわかれていることある,などなどあるわけです。

 今回はもうこの辺にしておきますが,「特許法における明細書による開示の役割」前田健著(商事法務)には,この辺りの議論がたくさん載っております。この著者(新61期のようですが,)は,私と似た考えのようですが,いやあ学者って暇だなあって思いますね(それを読む私ってもっと暇か♫)。

(2)上記のとおり,そんな議論はあるのですが,今回はちょっと違うかなという気もします。
 まず,クレームです。

【請求項1】
発泡剤による発泡によってポリウレタン硬質フォームを製造する方法において,
発泡剤として,
a)5~50質量%未満の1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン(HFC-365mfc)および
b)50質量%超の1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン(HFC-245fa
を含有するかまたは該a)およびb)から成る組成物を使用することを特徴とする,
ポリウレタン硬質フォームを製造する方法。
です。

 ところが,実は今回の明細書,「本願明細書においては,発泡剤成分の組合せが新規な組合せである旨及び予測し得ない特殊な効果がある旨を述べているにもかかわらず,本願発明であるHFC-365mfcとHFC-245faとの組合せについては,その裏付けとなる実質的な実施例の記載がなく,HFC-365mfcと組み合せる対象として記載された多数の成分のうちからHFC-245faを特に選択することや,発泡剤組成物中のHFC-365mfc及びHFC-245faの各含有量を特定することについて,それらの関係を定性的に認識可能とする記載もされていない」のですね。

 おーっ,化学の発明なのに,これで大丈夫かいなってえくらいのもんです。上に規範を書きましたが,そんなレベルの話じゃないようにも思えますよね。

 まあ何でこんなことになったかは,特許実務者ならわかりますよね。この記事の最初の行にあるように,この出願は,分割出願なのです。明細書中のある発明を抜き出したわけですね。でも,その発明は,パラパラとあるその他大勢の記載中にはあるものの,個別具体的な実施例には書かれていなかった,でも様々な理由で分割出願したかったのでしょうね~(実施例追加すれば,新規事項追加でNGですよ!)。
 代理人と出願人との間で,議論があったことが推測されます。ダメ元でやってしまいましょう,てな結論だったと思いますね。
 私としても,上記の小難しい議論はともかくも,少なくとも,物の発明で言うと,当該発明を使用できる程度には書かれていないとまずいとは思います。

 さて,判決はどう判断したのでしょうね。

3 判旨
 「すなわち,本願明細書には,本願発明の課題は,選ばれた新規種類の好ましい発泡剤を用いてポリウレタン硬質発泡材料を製造するための方法を記載すること等であり,特定の発泡剤,すなわち,HFC-365mfcと一定の他の発泡剤との混合物を用いてポリウレタン硬質フォームを製造するための方法により製造されたポリウレタン硬質フォームは,約15度を下回る温度において,熱伝導率が低く,熱遮断能を有するという効果を有することが判明したこと,この方法で用いる発泡剤組成物は,成分a)HFC-365mfcと成分b)低沸点の脂肪族炭化水素等とを含むものであるが,有利な組合せの一つとして,本願発明で用いる発泡剤組成物である,成分a)HFC-365mfc及び成分b)HFC-245faの組合せがあることが記載されているといえる。また,本願明細書には,本願発明で用いる発泡剤組成物を用いてポリウレタン硬質フォームを製造したことを示す実施例は記載されていないものの,成分a)HFC-365mfcと組み合わせる成分b)として,HFC-152a(例1a),HFC-32(例1b),及びHFC-152aとCO2(例1c)を用いてポリウレタン硬質フォームを製造したことが,具体的に開示されているといえる。
 そうすると,本願発明で用いる発泡剤の成分b)であるHFC-245faは,上記のとおり,ひとまとまりの一定の発泡剤のひとつとして記載されている上,本願明細書の実施例で使用された成分b)であるHFC-152aやHFC-32と
同様に低沸点であり,技術的観点からすると化学構造及び理化学的性質が類似するといえることも併せ考慮すると,実施例1a)~c)と同様にHFC-245faを使用することによりポリウレタン硬質フォームを製造する方法が開示されていると解するのが相当である。」

4 検討
 これは微妙かなあって気がします。
 クレームのHFC-245faの化学的特性と,クレーム外で実施例記載の,HFC-152a(例1a),HFC-32(例1b),及びHFC-152aとCO2(例1c)の化学的特性とが極めて近似しているからこそのものだと思います。
 じゃないと,本件発明の課題を,クレームされた構成により解決できるかどうか,わかりませんわな。まあでも,そういう風に判断しているということは,この判決の判断の裏には,パラメータ事件大合議判決に通じるものが流れていると見て良さそうですね。

 いやあでも本当微妙~。これは例外中の例外だと思いますよ。実施例に書かれていない発明を分割するのは危険ですよね。あとで,分割する可能性があるなら,ちゃんと実施例にも書いておかないとね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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