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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「アクティブマトリクス型表示装置」とする発明につき特許出願をし(特願2001-228043号),平成21年6月15日付けで本件補正を行い特許登録(特許第4353660号)を受けた原告(三洋電機!)保有の特許に対し,被告(シャープ)が,本件特許の請求項1~6につき無効審判を請求し,その中で原告は,訂正請求をしたものの,特許庁が,「訂正を認める。特許第4353660号の請求項1,3ないし6に係る発明についての特許を無効とする。特許第4353660号の請求項2に係る発明についての審判請求は成り立たない。」旨の審決をしたため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 なお,審決は,本件補正が新規事項追加の不適法補正,サポート要件違反,進歩性なし,と判断しております。

 これに対して知財高裁2部(塩月さんの合議体です。)は,無効と判断した部分の審決を取消しました。要するに,新規事項追加の補正じゃないし,サポート要件にも反していないし,進歩性もある,ということです。


 今回大手企業同士で意外と珍しいということもあったのですが,エンジニア時代,そして知財部時代のメインでやっていた技術分野ドンピシャだったので(ということは,いつも以上に自慢気な話が増えるということです。),取り上げました。

2 問題点
(1)今回進歩性もあるのですが,ポイントは補正の新規事項追加です。
 補正のこの新規事項追加という基準については,これまで色んな推移があります。

 まずは,新規事項追加の規定が追加される前の基準は,要旨変更じゃなきゃいいってやつでした。最近特許実務始めた人は何のこっちゃというところでしょうが,意匠や商標だとまだこの基準ですからね(意匠法だと17条の2第1項,商標法だと16条の2第1項)。こういうのがパッと出るのは,弁理士上がりだからでしょうね(まず一発目の自慢)。

 つぎに,平成5年改正法で,新規事項追加が加わりました。基本,今の規定も文言はそのままです。特許法17条の2第3項です。
 「3  第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、・・・・、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面・・・・に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

 そして,この「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」の範囲は,当初,審査基準で,「直接的かつ一義的」なものじゃないと追加できないという誠に狭いものでした。私が弁理士試験の受験生であったころは,この基準だったので,お経のように唱えていた記憶すらあります。

 ところが,この基準は,世界一厳しかったので,国内外から不満がブーブー,外人には弱いが弁理士には強い特許庁もさすがに,これではまずいと思ったのか,「直接的かつ一義的」はやめて,「自明な事項」であればよいとしたわけです。これが平成15年くらいだったと思います(でも,直接的かつ一義的時代は10年もあったわけです。そうすると,本来広い発明が狭くさせられた可能性が非常に大きいと思います。刑事で言う冤罪事件のようなものです。私はこの件について,特許庁に国賠訴訟を提起してもいいんじゃないかなあと思いますけどね。)。

 そして,除くクレームの大合議判決により,今は,「新たな技術的事項を導入しない」かどうかという基準になっております。

(2)では,本件では具体的にどんな補正が問題になったかというと,「補助容量連結ラインは,赤,緑,青の三原色のうちの緑に限定されない特定の色を表示する画素電極を有する画素領域にのみ選択的に形成される,カラー表示を行うアクティブマトリクス型表示装置」(技術的事項A)の追加が,新規事項かどうか問題になったのです。

 ところで,この問題となっている補助容量のことはわかりますかな。
 下記にポイントとなる等価回路図を示すのでそれを見たほうが早いかもしれません(等価回路図を見た方がいい,俺は技術がわかる~第二の自慢です。)。


48dd8b02.jpeg

 左図のシフトレジスタから,テレビの信号等が信号線を介して送られてくるのですが,ゲートドライバーからの信号で,トランジスタのゲートが開かれ,これによって,画素(図で,△▽を重ねたようなもの)に書き込みがされます。ただ,次の信号が来るまで,書き込まれた電荷を保持しておかないとドンドン画が消失することになります。他方,この画素の電荷保持力というのは小さいのです。ですので,画素とパラレルに容量を追加して,減衰する電荷を補い,画を高品質にしようとするのです。これが補助容量の趣旨で,上の図で補助容量バスラインにつながっております(図で言うと画素毎にあるコンデンサの記号)。

 本件発明では,この補助容量について,バスラインから来ているものの,それだけでは,結合容量等により画素の劣化も起こる場合もあるとして,さらに,補助容量連結ラインを設けたというのがポイントです。で,さらに言えば,ただ設けたというのではなく,その設け方にポイントがある,っていうところでしょうか。

 さて,やっと本件の問題点まで来ましたが,この補助容量連結ラインが,緑に限定される場合なら,問題なかったようです。明細書中には,そのような記載があったからです。他方,本件補正は,緑に限定されないような補正だったので,問題になったわけですね。

 私見ですが,審決は,明細書の記載を重視し,判決は図まで考慮したのが違いのような気がしました。

3 判旨
 新規事項追加のところだけ
 「まず,当初明細書等の段落【0027】,【0028】,図3及び図4の記載によれば,本件特許にかかる発明の第2の実施形態として,赤,緑,青の三原色によるカラー表示を行うアクティブマトリクス型カラー液晶表示装置であって,各画素領域12が,列単位で赤,緑,青のいずれかの色を表示するストライプ状配列となっており,赤,緑,青の各色が3列おきに繰り返し配置されているものが記載されていることが認められる。
 次に,段落【0029】及び図3には,第2の実施形態は,各列に補助容量連結ライン16を配置した第1の実施形態の変形例であって,ドレインライン10の3本につき1本の補助容量連結ライン16を配置するものであることが記載され,また,段落【0030】には,第2の実施形態は,第1の実施形態より補助容量連結ラインの本数が少なくても,近くに配置された補助容量連結ラインを介して他の補助容量ラインから電荷を補い,信号電圧を矯正することができ,さらに,第1の実施形態よりも補助容量連結ラインが少ないため,補助容量連結ラインによる開口率の低下を抑えることができるという効果を奏するものであることが記載されているといえる。
 そうすると,第2の実施形態は,赤,緑,青の各色が3列おきに繰り返し配置されている画素領域の3列につき1列に補助容量連結ラインを設けることによって,上記効果が得られるものであって,その効果は,補助容量連結ラインを赤,緑,青のいずれの画素領域の列に設けても得られるものであるということができる。そして,補助容量連結ラインによる開口率の低下が問題となっていることから,透過型の表示装置について記載したものであると認めることができる。
 以上より,当初明細書等には,補助容量連結ラインが,赤,緑,青の三原色のうちの緑に限定されない特定の色を表示する画素電極を有する画素領域にのみ選択的に形成される,カラー表示を行う透過型のアクティブマトリクス型表示装置,すなわち,技術的事項Aが記載されているものと認められる。」

4 検討
 審決はちょっと杓子定規なところがあったかなあと思います。
 ただ,そう判断するのがすごく不当とも言えないところもありました。緑に補助容量ラインを形成するとそれ相応の効果があったからです(人間の目では,緑の感受性が高いので,開口率が低くても大丈夫。)。

 ただ,図まで含めて全体を見ると,特段緑だけ,というわけでは無さそうです。勿論,進歩性との兼ね合いがあり,緑に限定しないとダメな場合もありますが,今回の引例はそこまで近接したものではなかったので,この点もOKでした。

 ということで,これは致し方ないかなあってところです(図に書いていれば,一番厳しかった「直接的かつ一義的」時代でもOKのはずですからね。)。


 
 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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