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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」とする特許第3277180号(本件特許)の特許権者である被告に対し,本件特許の共同発明者だと主張する原告が,平成23年7月26日,本件特許について無効審判を請求し(無効2011-800133号事件)たものの,特許庁が,平成24年1月16日,不成立審決(特許法38条違反はない)を下したため,これに不服の原告が,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(芝田さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。つまり,特許法38条違反はなく,原告は共同発明者ではない,ということです。

 技術もそんなに難しくありませんし,何よりも法的論点で結構興味深い話がありましたので,紹介しました。そう,共同発明違反が真正面から問題になったってそんなにないのですね。

 ちなみにクレームは,請求項1で以下のとおりです。
 【請求項1】
  延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,
  粘着剤を塗着することにより構成した,
  ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。

2 問題点
 共同発明,というか共同出願については,特許法38条で規定されております。

 「(共同出願)
 第三十八条  特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。」


 この規定に違反すると,無効事由となります(特許法123条1項2号)。更に,近時の法改正で加わった,特許権の移転請求もできます(特許法74条1項)。

 なお,その条文は以下のとおりです。
 「(特許権の移転の特例)
 第七十四条  特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。」


 更に,共同出願の場合は,特許法14条もありますので,拒絶査定不服審判の請求も共同してやらないといけません。

 ま,要するに,弁理士や弁護士にはあまりピンと来ないかもしれませんが,企業の知財部にとっては,非常に重要な(というより,面倒くさい~♪)概念です。

 共同で研究・開発すると(今後もそういう案件は増えるでしょうね。),勿論,契約問題が重要であることは確かです。さらに,ポシャった場合はむしろ良いのですが,珍しくうまくいった場合に,分け前をどうするかで非常に揉めます。ま,それも契約問題と言えばそうなのですが,その後の事業化など,最初の契約の射程外のことも発生し,法務部は大変~♪となります。

 他方,上記のとおり,知財部も共同発明の場合,非常に神経を使います。
 通常発明者が企業に跨って複数人いますし,他方,出願人も複数人いるわけです。そうすると,通常の譲渡証じゃダメですよね~。わかりますか?このことにピンと来ていないと,知財部員としては大失格ですよ!弁理士や弁護士でも,そう,このことにピンと来ていない人は,今すぐ仕事を私に回した方がいいでしょうね,ムフフフ。

 どういうことかというと,A社とB社の共同開発で,A社所属のXさん,とB社所属のYさんで共同発明が生まれたとします。共同発明者は,XさんとYさんです。
 通常の場合,職務発明規定に則り,XさんはA社に特許を受ける権利を譲渡し,YさんはB社に特許を受ける権利を譲渡し,それぞれの会社が特許出願するわけです。
 でも,今回は,A社とB社の共同出願です。これで,いつものとおりにやってしまうと,A社は,Yさん分の特許を受ける権利の幾ばくかを持っていないことになります。他方,B社は,Xさん分の特許を受ける権利の幾ばくかを持っていないことになります。

 ですので,このまま,A社とB社で共同出願してしまうと,特許を受ける権利を共有していないことになってしまいます(特許を受ける権利が分属するわけじゃないですからね。それぞれの寄与分を想定できるにしろ,きっちり分割できるような性質のものではありませんので。)。

 ですので,複数社に跨る共同発明があったときは,知財部としては,通常の譲渡証の条項に加えて,たすき掛けの条項も付加した譲渡証を作成しないといけないわけです。

 これは知財部の基本中の基本ですが,初めて知った!って人は結構いるかもしれないですね~。
 私は,企業知財部出身なので,こういうところは穴が有りませんね~。と,ステマの前置きはそろそろ終了しましょう。長かったですが,本論とはほとんど関係有りませんので(えーっって感じですかな。)。


 本論は,ずっと弁護士チックというか法律家チックな話です。共同出願違反の主張立証責任はどっちにあるのか?って話です。つまり,要件事実論ですね。

 要件事実についての説明は省きます。
 知っていることが前提ですし,若干高尚なところもありますので,私のようなチンピラ弁護士には荷が重いので,お利口な学者か裁判官の書いたものを見て下さい。

 さて,通常その主張立証責任は,利益の存する者が負担するのが原則です。お金が欲しいと請求する人が,どうしてそのお金の請求権があるのか主張立証責任を負うわけですね。ただ例外もあります。

 おまえのカーチャンでべそ,でべそじゃないよー,でべそだよー,でべそじゃないよー,じゃあでべそじゃないって証明しろよ,みたいな子供の喧嘩がありますよね。別にこの子供の喧嘩じゃなくてもいいのですが,ない証明ってできますかね?
 相手方が本人訴訟だとこんなことを本当に言ってきますが(弁護士でも似たようなことがたまにありますが。),それは無理ですよね。所謂悪魔の証明です。たった一つの反例で覆るからです。

 刑事事件でいうアリバイなんていうのは,まさにそのことです。犯行時刻にその犯行現場に居なかった,という証明はできません。ですので,代わりに,その犯行時刻に犯行現場でない場所に居た,という証明で代替しているわけですね(主張立証責任の所在には目をつぶってちょうだい)。

 では,共同出願の場合,どうなるんでしょうね??やはり,共同出願違反が認められると利益の存する方なのか?つまりは,無効審判請求人か?それとも,共同出願違反は悪魔の証明で,特許権者が負うべきなのか?というのが論点です。

 なお,冒認の場合は,昔から,特許権者側に主張立証責任があるというのが,通説です。

3 判旨
 「ある特許発明の共同発明者であるといえるためには,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従前の技術的課題の解決手段に係る部分,すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される。
 ところで,特許法123条1項2号は,特許無効審判を請求することができる場合として,「その特許が・・・第38条・・・の規定に違反してされたとき(省略)。」と規定しているところ,同法38条は,「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ,特許出願をすることができない。」と規定している。このように,特許法38条違反は,特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっているから,特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は,審判請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。これに対し,特許権者が「特許を受ける権利が共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば,特許権者に対して,他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり,不合理である
 特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても,上記と同様に解するのが相当であり,審判請求人(審判請求不成立審決の場合は原告,無効審決の場合は被告)が「特許を受ける権利が共有に係ること」,すなわち,自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負担すると解すべきである。」

 「本件発明1~3の特徴的部分は,被告が,平成12年8月頃,手元にあった各種テープを用いて自らを被験者として実験を行い,伸縮性のあるテープを引き伸ばした状態で瞼に貼り付けたところ,テープそれ自身が縮もうとする力によって瞼に食い込み,皮膚に溝ができることによって二重瞼が形成されることに気が付き,中でも,かつら用テープ(3M社製#1522)は適度の伸縮力があり,最も自然できれいな二重瞼を形成できることを確認した際に完成したものと認められ,この特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
 よって,本件発明1~3について,原告をその共同発明者と認めることはできない。」

4 検討
 この事案に関しては,共同発明者として特徴部分に関与したにしては,そのときの供述が色々変遷して,ホンマかいなというところが大きかったと思います。

 でもその前提として,判旨のとおり,特許権者ではなく,審判請求人が,共同発明者であることの主張立証責任を負うとしたことが大きいと思います。つまりは,冒認とは主張立証責任が違う!のですね。

 この点について,判旨でも書いておりますが,特許権者が主張立証責任を負うとした場合,特許権者は自分以外の発明者がいない,ないし特許を受ける権利の持分を持っている者がいない,ことの証明という,ない証明をしないといけないので,不合理としたのですね。

 他方,冒認の場合は,上記のとおり,昔から特許権者が主張立証責任を負うとされております。というのは,冒認の場合,共同出願と異なり,排他的な争いだからです(勿論,他の誰かのもの,という可能性はありますが,少なくとも争いの当事者間においては,排他的ということです。)。
 つまり,上記の例でいうと,冒認の場合,A社であればB社でなく,B社であればA社ではないという関係があります。ですので,特許権者に自分の権利がある,という証明をさせれば,逆に冒認主張者の権利は当然ない!つまり冒認ではないと証明できるわけです。ということは,冒認の場合,無効審判請求人でもいいと言えばいいのです(この点が,後で効いてきます。)。
 現在,特許権者の負担としているのは,条文の書きぶりと,先例踏襲主義としか考えられません。

 これに対し,上記のとおり,共同発明(ないし共同出願)違反の場合は,排他的な争いではありません。A社であってもB社かもしれませんし,そうでないかもしれません。ですので,共同出願違反の場合,特許権者にお前だけという証明をしろとならざるを得ず,これは悪魔の証明になってしまうわけですね。

 さて,本日も長いですが,もうひと考えいたしましょう。では,無効審判やその審決取消訴訟ではなく,近時改正された特許権の移転請求(74条),この主張立証責任は,請求人(原告)か,それとも特許権者(被告),どちらなんでしょうか?また,冒認の場合と共同出願違反で,変わるのでしょうかね?

 この答えは,ここまでちゃんと読んだ人には簡単ですね。
 冒認の場合でも共同出願違反の場合でも,主張立証責任は,請求人,すなわち原告だという王道,通例,原則とおりです。

 まず,共同出願違反の場合は,特許権者が負担するとすると,上記のとおり,悪魔の証明を特許権者にやらせることになりますので,絶対に,請求者側です。それに,請求者は,共同出願違反が認められると,自分も持分をもらえるということになりますので,利益の存する方です。そして,何よりも,条文も,そのとおりです。

 つぎに,冒認の場合です。上記のとおり,主張立証責任が請求者だろうと特許権者だろうと悪魔の証明にはなりません。ですので,請求者でも特許権者でもいいのです。
 ですが,請求者は,冒認が認められると,自分が特許権者だということになりますので,利益の存する方です。そして,何よりも,条文も,そのとおりです。ですので,こちらも,請求者でよし!ということになります。

 結構,一見,深いような話が続きましたね。あまり議論されていませんので,チンピラ弁護士が茶々を入れておきました。もっと詳しく知りたいひとは,きちんとした裁判官か学者の論文を読んだ方がいいですよ~,オホホホ。

(小追伸)
 本日届いたL&T59号に,武宮英子判事(知財高裁3部)の論文があります。「発明者性の立証責任の分配」です。
 問題意識は,上記の私の問題意識と同じです。自画自賛~♪

 ともかくも,様々な訴訟類型に対し,特許権者とそうでない側のどっちが主張立証責任を負うのだ?ということについて,まさにきちんとした裁判官の論文,と言えます。48期だそうなので,年格好は私と同じくらいだな~,法曹としてのキャリアは随分違うけど。

 ただ,当然,今回の判決のことには触れておりません。でも,今回の判決の部と武宮さんの部は同じ部なのですね~。とすると,下衆の勘ぐりですが,本件の論点があったので,合議体に入っていない武宮さん,論文を書いてはどうですか~と,どなたかの示唆があったのではないかと思いますね。

5 追伸
 いつものような昼行灯生活故,目黒川沿いの桜を見に行ってきました。
 IMG_0253.JPG
 ここは,事務所からすぐの場所ですが,とても,五反田!には見えませんね。大崎側の再開発地域ですからね。
 東京サザンガーデンだったかな。

 ほんのちょっい昔まで,池上線のホームから,ソープランド,のでかい看板が見えたのですが,時代は変わりますね。

IMG_0255.JPG 咲き方としては,どのくらいでしょうか。木によっても当然違いますが,平均すると5分弱ってところでしょうか。





IMG_0254.JPG このイマジカ前の桜は若干枝垂れ桜になっており,非常に見応えがありますね。
 
 今年は開花が早く,テレビでは色々言っているものの,そんなに早く咲いているわけねーじゃんと思い,見に行ったのですが,本当に咲いてますね。

 いやあ今週末は本当花見のタイミングでしょうね。

 ということで,本居宣長の和歌を。
 「敷島の大和心を人問わば朝日に匂う山桜花」
 と言っても,江戸末期に謂わばバイオテクノロジーによって生み出されたソメイヨシノとは違う品種ですけどね。

 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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