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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,訴外エチル・コーポレーションが,2001年(平成13年)3月23日の優先権(米国)を主張して,平成14年3月15日,名称を「ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物」とする発明について特許出願(特願2002-72173)をし,特許庁より拒絶査定を受け,これに対する不服審判の請求をしたものの,拒絶審決(サポート要件違反)を下されたため,この出願を譲り受けた原告が,不服として,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(塩月さんの合議体です。)は,審決を取り消しました(要するに,サポート要件の違反なし。)。

 今回明細書の記載に関することで,しかも,判示したことが,通説寄りの説かなあということもあって取り上げました。

 なお,審決は,「しかし,発明の詳細な説明には,本願発明の組成物を具体的に製造し,その酸化安定性,油溶解性,揮発性及び生物蓄積性について確認し,上記課題を解決できることを確認した例は記載されていないから,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により,上記課題を解決できると認識できるものとはいえない
 また,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤よりも低レベルの単環ヒンダードフェノール化合物,すなわち,「(a)3.0 重量%未満のオルソ-tert-ブチルフェノール,(b)3.0 重量%未満の2,6-ジ-tert-ブチルフェノール,および (c)50ppm未満の2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールを含む」ことにより,「酸化安定性,油溶解性,揮発性及び生物蓄積性」が改良されることが,当業者であれば,出願時の技術常識に照らし認識できるといえる根拠も見あたらない。そうすると,具体的に確認した例がなくとも,当業者が出願時の技術常識に照らし,本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。」と,基本,パラメータ事件大合議判決に則り,判断しているようです。

2 問題点
 問題点はここで散々やりましたので,いいですかね。
 条文だけ。
  「6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。

 あとは,前の記事を見てください。

 で,端的な問題点は,そうとしても,実際クレームした発明が,明細書中に書いてあるかどうかという点は,結局どの程度書いていればよいのか問題となります。

 私がソニーで知財部員やってたころは,進歩性は結構厳しかったのですが,明細書の記載要件なんて大して問題になりませんでした。もう形式的に,クレームのコピペが明細書中にあればそれで十分ってことだったと思います。まあ条文上,「記載」とだけありますので,単なるコピペでも記載には違いありませんからね。

 でも,これじゃあ,この条文の意味がないし,もうちょっと実質的に考えないといけないんじゃないの,てなことで,実質的に記載がないとダメだ,となったと思います。ただ,この実質的に,っていうのはよくわかりませんよね。非常に細かく記載する必要があるのか,いやコピペに毛が生えたくらいでいいんじゃないの~,と様々でした。勿論審査基準も,公表されておりましたが(これがまたきついもので。。),判決での明示がないので,ある種の疑心暗鬼にあったような感もありました。

 その中で出たのが,例のパラメータ事件の大合議の判決です。特許庁実務,他の判決もその後は,これにしたがっておりました。

 他方,近時,飯村さんの合議体では,ちょっと違う判決も出たというところでしょうね。

 さて,今回のは?

3 判旨
 「・・・本願発明の課題は,従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも,向上した酸化安定性,向上した油溶解性,低い揮発性及び低い生物蓄積性を有するものを得ることと認められる。
2 本願明細書の発明の詳細な説明における課題解決の記載発明の詳細な説明には,「これらの単環ヒンダードフェノール化合物は水溶性であり,そして多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤よりも揮発性である。多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤はそのより高い分子量により,水溶性が一層低く,しかも揮発性が低い。」(段落【0008】)と記載されているが,この記載は,単環フェノールがメチレン架橋化多環フェノールよりも,より揮発性であり,より水溶性であり,油溶解性が低いという当業者の技術常識に沿った記載である。また,発明の詳細な説明には,「低揮発性成分は,潤滑剤の使用期間中に蒸発により失われないのでより効果的な酸化防止剤である。それゆえにそれら(判決注:酸化防止剤組成物のこと)は潤滑剤中に留まり,潤滑剤を…酸化の悪影響から保護する。」(段落【0022】)と記載されているところ,酸化防止作用を示す成分が揮発することによって減少すれば,組成物の酸化防止能も減少するので,組成物中の揮発性の成分の量を減らすことにより組成物の酸化防止能が向上することも,当業者の技術常識に沿った記載である。
 このように,発明の詳細な説明には,非常に低レベルのOTBP,DTBP及びTTBPの単環ヒンダードフェノール化合物を含有することによって,従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも向上した油溶解性を有する組成物を得ることができ,また,低い揮発性を有し,その結果,向上した酸化安定性を有する組成物を得ることができる点が記載されているということができるから,発明の詳細な説明の記載から,本願発明の構成を採用することにより本願発明の課題が解決できると当業者は認識することができる
 したがって,発明の詳細な説明は,請求項1に係る発明について,その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されているということができるから,請求項1に係る発明は発明の詳細に記載されているということができる。これとは異なるサポート要件に関する審決の判断には誤りがある。」

4 検討
 判決では独自のことはあまり言っていないように思います。ま,パラメータ事件大合議のやつだと思います。
 審決のとおり,例も載っていないし,製造方法も載っていないんだけど,組成物中の揮発成分が少なくなれば,より長時間組成物中の成分,そして機能は変わらないことにもなり,課題解決につながる,と。そして,そういうことは,当業者ならわかるよね~♪というわけです。

 まあこれはわかります。この前の芝田さんの合議体の判決よりは,わかりやすいかなと思います。
 あと,余事事項ですが,「また,発明の詳細な説明には,生物蓄積性についての課題が解決できることを示す記載はない。しかし,発明の詳細な説明の記載から,本願発明についての複数の課題を把握することができる場合,当該発明におけるその課題の重要性を問わず,発明の詳細な説明の記載から把握できる複数の課題のすべてが解決されると認識できなければ,サポート要件を満たさないとするのは相当でない。」との判示もあります。
 これなんかは,日々審査の荒波をくぐり抜けないといけない弁理士の方には非常に参考になるのではないかなあと思います。

5 その他
 昨日,弁理士会会長選の開票でした。
 結果はこっちを見てください。
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