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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,平成14年12月18日,発明の名称を「口腔内投与のためのニコチンを含む液体医薬製剤」とする特許出願(特願2003-556064号)をした原告が,特許庁から拒絶査定を下されたことから,不服の審判を請求したものの,更に特許庁から不成立審決(進歩性なし)を下されたため,これに不服として,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁4部(土肥さんの合議体です。)は,審決を取り消しました。要するに進歩性ありということです。

 クレームは以下のとおりです。
 「ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤であって,スプレーにより口腔に投与するためのものであり,そして緩衝および/またはpH調節によってアルカリ性化されていることを特徴とする液体医薬製剤

 ま,早い話,禁煙のための禁煙補助薬の発明ですね。で,技術のポイントは,専ら口腔経由でのアルカリ性化にあるようです。口腔内の唾液のpHが6.8と若干酸性にあるため,アルカリ性にすると粘膜からの吸収が良くなるようなのですね。

 さて,私もタバコをやめてもう2年半も経ちますね~。
 飲みに行くと吸いたくなるかと思いきや,全くそんなことはありません。かと言って,飯がうまくなったということもありません。ただ,息があまり臭くなくなったのと,歯周病が進まなくなったのは良いことだと思いますね。
 ともかくも私は,スムーズにやめられましたが,普通は,この手の禁煙補助薬みたいなものを使わないとなかなかうまく行かないようです。

 で,そういう題材だったから選んだわけではありません。進歩性が問題になっている割には,技術的にわかりやすかったからです。

2 問題点
 特許や発明に纏わる争いが,争訟の世界の中でも専門訴訟,しかも極めて専門性の高いものとされている理由は,単に1つだけだと思います。勿論,技術がわからないと,そもそも何のこっちゃさっぱりですが,中でも,技術の把握を極めて高いレベルで要求されるのが進歩性の論点ですので,結局,進歩性こそが特許訴訟の敷居の高さの源なのですね。

 ですので,法学部出身の純粋法律家は,この論点に極めて及び腰です。その及び腰加減はこのブログでも散々貶したからお分かりでしょう。
 他方,技術者出身の弁理士の方々は,ここぞとばかりにこの論点を語り始めることになるのですが,理系特有の木を見て森を見ず加減がこちらもハンパなく,もっとシンプルに考えられないかなあと思わせるに十分です。

 とすると,現在の進歩性の教科書は,判決以外にはありません。判決を地道に読むことが進歩性の一番の勉強でしょうね。

 で,その判決の現在のトレンドですが,ちょっと前に一世を風靡した飯村さんの新傾向判決,みたいなものはありません。ですので,非常に安定していると評価できるのではないでしょうか。いやいや,別に昔に戻ったというわけではなく,この飯村さんの新傾向判決の考え方が実務に定着し,安定したのではないかと思うのです。
 他方,サポート要件に関する新傾向判決もありましたが,それは,実務に定着しないまま鬼っ子として,一時のものになりそうです。

 で,本件の進歩性の中身に行きましょう。審決段階で,出てきた主引例との差等は以下のとおりです。
「ア 引用発明1:ニコチンを緩衝液中に含有することを特徴とする,純ニコチンを含有するスプレーであることを特徴とする,薬剤
イ 一致点:ニコチンを含む液体医薬製剤であって,スプレーにより口腔に投与するためのものであり,そして緩衝されていることを特徴とする液体医薬製剤
ウ 相違点1:本願発明では緩衝によりアルカリ性化されているのに対し,引用発明1では単に緩衝されることが明らかにされるのみである点
エ 相違点2:本願発明ではニコチンがニコチン遊離塩基であるとされるのに対し,引用発明1では単にニコチンとされるのみである点


3 判旨
・動機付けについて「上記(ア)及び(イ)によれば,引用例2及び3には,口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる。
 しかしながら,引用発明1は,使用者の好みに応じて,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから,口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし,引用例1には,口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない。
 したがって,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることについて,動機付けを認めることはできない
。」
・阻害事由について「本願優先日当時,鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって,ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では,生理的に悪影響があることが周知であったということができる。
 したがって,引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには,阻害事由が認められる。


4 検討
 読んでみると,結構危ういなって気がします。要するにギリギリセーフって所じゃないでしょうか。
 ですので,通常は,動機付けがなく,それだけで進歩性有りとするところを,わざわざ滅多にない阻害事由についても判示したのだと思います。

 結局,一番のポイントは,専ら口腔粘膜のための本件発明に対し,主引例がそうでなかったということに尽きると思います。
 でも,よく見て下さい~。上記の審決時の一致点・相違点認定では,この点は,一致点で挙げられているのですね。そして,今回の訴訟でも,その一致点の認定には誤りがないとしたのです。つまり,「口腔」に関して,構成の共通性はあったものの,課題の共通性はなかったと解釈できるわけです。

 どうなんですかね~。普通は,そのポイントに関して,構成の共通性があれば,課題も共通になるような気もします。おそらく,一昔前の判決だと,こういうタイプのものに進歩性を認めることは無かったと思います。
 他方,今回の判決は,課題の共通についての明示の示唆等がないとして,進歩性ありに舵を切ったわけなので,上記のとおりの現在の判決トレンドに属するものと思われます。

 というわけで,今回のこの判決は一層現在の判決トレンドが強固なものであることの証拠になるような判決だと言えるのではないでしょうか。ですので,実は結構重要な判決だったりして~♪

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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