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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 名称を「気相成長結晶薄膜製造装置」とする発明につき,訴外佐藤制御株式会社が行った特許出願(特願2000-188412号)を譲り受けた原告に対し,特許庁から拒絶査定がされたため,原告は拒絶査定不服審判請求(不服2010-4969号事件)をし,更に平成23年1月4日付けで補正(同補正により発明の名称が「気相成長結晶薄膜製造方法」と変更されました。この補正後の本願の請求項1ないし5に記載の発明を「本願発明1」等といいます。)をしたものの,特許庁が,拒絶審決をしたことから,これに不服の原告が,審決取消訴訟を提起した(平成23年(行ケ)第10140号事件)のが前回裁判です。この前回裁判は,原告の請求を認め,前回審決を取り消す判決をしたのですが,審判に戻った所,やはり特許庁が拒絶審決(進歩性なし)を再度下したため,これに不服の原告が再度審決取消訴訟を提起したのが,本件です。

 これに対して,知財高裁1部(飯村所長の合議体ですね。)は,再度審決を取消しました。要するに,進歩性はある,ということです。

 今のクレームは以下のとおりです(クレーム1)。

 「結晶薄膜の原料となる超微粒子又は化合物を水又は溶液に溶かしてゾル化した液体を準備し,超音波を用いて,準備した液体から超微粒子又は化合物を含有した霧を発生させ,発生させたこの霧を,搬送ガスを用いて高温炉の内部に搬入し,この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水又は溶液の霧に分解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら,前記高温の超微粒子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法であって,
 前記基板表面にマイクロ波を照射しながら高温の超微粒子を前記基板表面上に結晶を成長させることを特徴とする気相成長結晶薄膜製造方法。

 そして,問題となった相違点Dについて,審決は以下のように判断しました。

 「相違点D 本願発明1は,「高温炉」の中で基板表面上に結晶を成長させているのに対し,引用発明では,「プレートが配設場所にある電気抵抗器により約380℃から430℃の温度へ上昇させたチャンバー」により多結晶化された酸化マグネシウムの付着層を生じさせると特定されている点

 「「引用発明においてもプレートは,抵抗器により加熱されており・・・「他の加熱装置,例えば赤外線加熱の利用も考えられる。」として,プレートからの伝熱に加えて赤外線加熱,即ち輻射熱の利用が可能なことが記載されている。そして,引用文献2・・・には,「膜形成用基板1は,ヒータ9により加熱される搬送ベルト12からの伝熱とマッフル炉11内からの輻射熱により表面温度を550℃に保持した。」として,膜形成のための加熱装置として伝熱と輻射熱によるマッフル炉の使用が明記されている。この記載事項及びマッフル炉が「外部加熱される室をもつ炉。室の壁からの放射熱により内容物が加熱される。」・・・という技術常識からみて,マッフル炉が温度的にも加熱の原理からも本願発明1でいう高温炉に相当することは明らかであって,相違点Dに係る高温炉の使用も引用文献1・・・に示唆されているということができる。そうすると,相違点Dは,当業者であれば容易に想到し得る設計事項の採用というべきである。

2 問題点
 問題点は,進歩性です。個人的に進歩性のことを再考中であるということは,ここで書きました。まあしかし,考えれば考えるほどわからなくなります。
 今回の例では,あまり明示的に示されておりませんが,今悩んでいるのは,周知例(周知技術,技術常識等々)の扱いです。

 あまり長くなると本件から外れるので止めますが,周知例って,引用発明(公知例)なんですかね~?それとも違うのですかね~?特許庁は,よく引用発明として扱っているような気がします。謂わば副引例的なものです。

 ところが,審判や訴訟でヤバくなると,途端に,周知例を追加してきます。ほんで,主張も,新たに追加した周知例と前の主引例からすると,想到容易だ!な~んて平気で言ってきます。主引例の差し替えは,特許法159条2項違反であることが明白ですが,周知例の差し替えは,おそらく特許法159条2項違反じゃないのでしょうね。じゃないと,実際バンバンやりませんわな。

 ただ,実際に一致点・相違点認定→想到容易性判断に違いが出るのであれば,再度の拒絶理由通知をしないといけないでしょうね,事例としては少なそうですが。

 裁判所は,なんとはなくですが,周知例を,引用発明(公知例)として扱っているような感じがします。つまり,周知例にも,何らかの論理付けできる記載や示唆がなければ,主引例との組合わせ・適用に消極的なような気がするのですね。

 では,そろそろ本題に行きますかね。本当,関係無かったなあ。

3 判旨
 「(1) 本願発明1の高温炉及び引用文献2のマッフル炉の技術的意義
ア 本願発明1の特許請求の範囲に「この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水又は溶液の霧に分解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら,前記高温の超微粒子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法」と記載されていること,及び本願明細書の【0003】,【0004】,【0006】等の記載を参照するならば,本願発明1においては,高温炉は,その炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の範囲の温度に加熱されるものであり,超微粒子を含んだ霧粒が,高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解し,高温の超微粒子は基板表面に結晶薄膜を形成するものであると認められる。このように,本願発明1の高温炉は,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものである。
 他方,引用発明のチャンバーについては,チャンバー自体が加熱されることや,霧がチャンバーの壁に接触して分解されることに関する記載はないそして,これらの技術的内容は,第2の1のとおり,確定した前回判決において,既に認定,判断された事項である。本願発明1と引用発明の間の相違点についての容易想到性の有無を判断するに当たっては,前回判決が指摘した本願発明1の「高温炉」と引用発明の「チャンバー」との相違点の技術的意義が考慮されてしかるべきである。
イ 上記の点を踏まえて,引用発明に,引用文献2に記載された発明を組み合わせることにより,相違点Dに係る構成に至ることができるかを検討する。
 前記1(3)のとおりの引用文献2の記載(特に【0008】,【0009】,【0017】)からすると,引用文献2に記載された発明は,微粒子化された溶液中の化合物を,ヒータにより加熱される搬送ベルトからの伝熱とマッフル炉内からの輻射熱によりあらかじめ加熱した膜形成用基板の表面に接触させることにより,基板表面又は基板近傍で熱分解させるものである。したがって,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのものであって,引用文献2には,マッフル炉の壁面に接触した超微粒子を含んだ霧粒が加熱されて分解されることについての記載はない。
 このように,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのもので,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものではないから,引用発明に引用文献2に記載された発明(及び周知の技術的事項)を組み合わせることによっては,相違点Dに係る構成に,容易に至ることはない。」

4 検討
 本願発明は,「霧粒を反応器の壁に接触させることによって揮発させ反応生成物を分解する」ということに特徴があるようなのですね。高温炉というのもそこにポイントがあるようです。
 他方,引用文献2の発明では,炉はあくまで基板を加熱させるためにあるのもので,直接に反応対象物を加熱させるものではなかったのです。ですので,課題も違うし,課題解決手段が,そのように違いますから,「その目的,機能が異なって」おり,動機付けできないというわけです。

 細かいっちゃあ細かいのですが,化学系の分野,しかも製造方法ですので,微差こそ大差になるわけで,ああざっくりざっくりでは一昨日きやがれってなってしまいます。
 しかし,前回の進歩性の判決といい,今回の進歩性の判決といい,こんな判断ばっかだと,逆に進歩性の認められない発明ってどんな発明なんだろう??と思ってしまいますね。

 ところで,今回の判決,審決を逆転しているわけですので,誰が代理人か気になりますね。で,当事者の欄を見るとわかりますが,これ,代理人がいない本人訴訟です!すごい!

 確かに一遍訴訟で勝っているので,行訴法の拘束力違反だとかいう取消事由がないのは,素人ゆえでしょうが,それ以外の主張は立派です。少なくともこれくらいの主張ができる弁護士は極めて少ない(恐らく日本で十人,二十人の単位でしょう。)と思います。まあ,弁理士ならもっとたくさんいますけどね。兎に角素晴らしいです。

 で,興味があったので,更に遡ってみると,審判の請求も本人でやっているのですね。いやあ審判請求もまた大変ですよ,こりゃ。ということは?と思い,更に遡ってみると,これはやはり本人出願です。つまり,弁理士に頼まず,自分で明細書を書いております。なんちゅうスーパーマンじゃ。
 この方,自分で会社をやっており(当初はそこから出願したようです。),経営の傍ら,非常に専門的なことをいとも簡単にやってのけており,本当凄いですね(裁判所がかなり釈明した跡はありますよ,勿論。でもいいじゃないですか~。)。
 私は弁理士会で研修の担当ですが,講師として呼びたいですよね。こういう人の話を聞くと何が足りないかわかってよいと思います。

 しかし,こんなスーパーマンばっかだと,弁護士は勿論,弁理士も必要ありませんね~。いやあ,日々の鍛錬を惜しまずやっておかないと,本当しょうもないコンサル程度になってしまいますニャー。



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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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