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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,被告が,発明の名称を「動態管理システム,受信器および動態管理方法」とする特許出願をし,平成23年6月17日,設定の登録(特許第 4763982号。請求項の数7)を受け,その本件特許に対し,原告が,平成23年10月24日,特許無効審判を請求したものの,特許庁から不成立審決(冒認でも共同出願違反でもない)を下されたため,これに不服として,審決取消訴訟を提起したものです。
  
 これに対して,知財高裁4部(土肥さんの合議体です。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決とおり,冒認でも共同出願違反でない,ということです。
 
 ですので,どうしてこの判決を紹介したかお分かりですね。そう,今流行の発明者性が問題となっていたからです。
 
2 問題点
 この前紹介した判決の記事の中で,何が問題になったのかは述べました。ただ,冒認と共同出願違反はよくごっちゃになると思いますので,もう一度レビューしましょう。

 冒認(特許法123条1項6号)
「その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき」

 共同出願違反(特許法38条)
「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。」
 
 ですので,これからどういうことが言えるかというと,冒認は,特許を受ける権利を有していないのです。
 他方,共同出願違反の場合は,特許を受ける権利を有しているのだが,全員で出願していないというものです。似ているようだけど,随分違いますよね。

 特許を受ける権利を有している者を●とし,特許を受ける権利を有していない者を○とし,無効審判請求人|特許権者,というような記号で概観してみましょう。
 
 まず,利害関係人が2人の場合です。
   ①   Bさん● | Aさん○ →冒認
   ②   Bさん● | Aさん● →共同出願違反
 
 これは簡単ですね。ちなみに,②が,前回紹介した判決の事例です。

 他方,今回の事例では,冒認か共同出願違反かどっちかだ〜♪ということです。ですが,どっちにしろ,Bさんが●であることの認定ができれば,決着は付きそうです。そうすると,本来,Bさんに自分が●であることの主張・立証をさせればスッキリしますね。

 他方,Aさんに,Aさんの状態を主張・立証させるのは,どうでしょう??冒認だと自分が●であること(これは特段問題ないかな),共同出願違反だとAさん以外の権利者がいないこと(これは面倒だ)の主張・立証させなければなりません。
 
 ですので,私の考えとしては,冒認でも共同出願違反でも,審判請求人に主張・立証させろ!ということです。
 
 次に,利害関係人が3人以上の場合です。
   ③  Aさん●Bさん●  | Cさん○     → 冒認
   ④      Bさん●| Aさん●Cさん○ → Aさん共同出願違反
                        → Cさん冒認
となるのではないでしょうか(これ以外の派生型もこれに含まれると思います。)。

 ③はわかりやすいでしょうが,④は若干複雑です。Aに関し共同出願違反で,Cに関し冒認ということになりますかな〜。
 
 さて,このような利害関係人が3人以上の場合でも,上記の私の説,「冒認でも共同出願違反でも,審判請求人に主張・立証させろ!」でうまく行くのでしょうかね?

 まず,③の場合ですが,別の観点の規制(特許法132条3項)があり,AさんとBさんは共同して請求しなければなりません。そういうこともありますので,AさんBさん側に権利があることの主張・立証させれば,Cさんに権利はないことになりますので(冒認ですので),問題はありません。

 次に,④の場合ですが,人数が増えただけで,本件の場合と本質的に同じです。つまり,①か②を選択的か予備的に主張しているのと等価なわけです。そうすると,請求人のBさんに主張・立証させるということで何の問題もないわけですね。
 
 以上のとおり,冒認でも共同出願違反でも,審判請求人に主張・立証させろ!という私の説が結構妥当だということがわかると思います。
 
 さて,では,本件の判決はどう言ったのでしょうか?
 
3 判旨
「ア 原告は,本件において, B が発明者であることの主張立証責任は,特許権者である被告にあり,原告は,冒認を疑わせる具体的な事情の内容を十分に主張立証していると主張する。
 なるほど,冒認又は共同出願違反を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,形式的には,特許権者が負担すると解すべきであるとしても,「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であること」は,先に特許出願されたという事実により,他に反証がない限り,推認されるものというべきである。
 本件においては, B は,遅くとも B メールを作成した平成15年11月14日には,本件発明1,6及び7に相当する技術的思想である甲6発明を実質的に知得していたものと認められるから,本件発明1,6及び7に相当する技術的思想を知得した上で先に被告が特許出願したことにより,被告が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であることは,他に反証がない限り,推認されるものというべきである。
 この点に関し,原告は,本件添付ファイルに記載された発明が本件発明であり, 本件添付ファイルに記載された発明はAが着想したものであることをもって, Aが本件発明の発明者である旨を主張するものであるところ,本件添付ファイルに本件発明が記載されているとはいえないことは,前記3のとおりであるから,原告のかかる主張立証が有効な反証といえるものでないことは明らかであるし,他に上記推認を覆すに足りる証拠はない。
 よって,原告の上記主張は,採用することができない。」
 
4 検討
 何だか,言い訳がましい判旨ですね。スッキリ,請求人に主張・立証責任があるんだ!って言えばいいのにねえ。
 それに,無効審判の123条などの文言を見ても,特許権者に形式的に主張・立証責任があるようには見えませんけどね〜。
 まあ私の目は曇っているのかもしれませんけど。例えば,新規性や進歩性の場合の主張・立証責任は,請求人にあると思うのですけどね〜。
 
 確かに一昔前は,無効審判請求人については,利害関係人でよし,とされてました(旧123条2項ただし書き)。権利者は勿論利害関係人には入るのですが,侵害訴訟の被告もその利害関係人に入るでしょうから,このような場合,上記①②③④の前提が成り立たず,そのため,形式的には特許権者に主張・立証責任がありとされたのでしょう(つまり,侵害訴訟を提起された被告に匿名の情報が入り,それによると,どうやら特許に冒認か共同出願違反の無効事由があるらしいとして無効審判を提起したような場合です。このような場合,請求人は,特許を受ける権利とは何の関係のない赤の他人ですので,そんな人に主張・立証責任があるとしたら,大変なことになりますよね。)。

 でも,平成23年改正法で,冒認と共同出願違反の無効事由については,権利者しか審判を請求できなくなったのです(新123条2項ただし書き)。
 ですので,今後,冒認や共同出願違反を理由とする無効審判請求は,私が上記に書いた①②③④の場合のみになったのです。つーことで,裁判官の皆さん,恐れることはありません!審判請求人に主張・立証責任があると判断しても,条文と,豊後高田のヒーローたるこの私が支えてあげますから〜♪(ただ,経過措置が気になるけどね,オホホホ。)。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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