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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要  
 本件は,発明の名称を「強接着再剥離型粘着剤及び粘着テープ」とする発明につき,平成11年2月17日に特許出願(特願平11-38529。請求項の数7)を行った原告が,特許庁から拒絶査定を受けたため,同年8月18日,これに対する不服の審判を請求したものの(不服2009-14917号事件),結局,特許庁より,拒絶審決(サポート要件違反)を受けたため,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。  

 これに対して,知財高裁4部(土肥さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決とおり,サポート要件の違反があるということですね。  

 ここで取り上げる理由は簡単ですよね。記載要件の不備がある,というわけです。  

 で,クレームも書いておきましょう。
 
(a)n-ブチルアクリレートを50重量部以上,カルボキシル基を持つビニルモノマー及び/又は窒素含有ビニルモノマーの一種以上を1~5重量部,水酸基含有ビニルモノマー0.01~5重量部を必須成分として調製されるアクリル共重合体100重量部と,(b)粘着付与樹脂10~40重量部からなる粘着剤組成物を架橋した粘着剤を基材の少なくとも片面に設けてなる粘着テープであり,  
 前記粘着剤の周波数1Hzにて測定されるtanδ のピークが5℃以下にあり,50℃での貯蔵弾性率G’が7.0×104~9.0×104(Pa),130℃でのtanδ が0.6~0.8であることを特徴とする粘着テープ。

 まあ,かなり数値限定した化学の分野の発明であることがわかりますが,それ以上に気がつくのは,ちょっと,原料の種類が多く,パラメータも多いぞ~,しかも粘着剤~♪嫌な予感がしますよね。オホホホ。

2 問題点
 記載要件の違反,そのうちでサポート要件違反というのは,ちょくちょく現れます。条文を見てみましょう。

 「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」


 特許を受けようとする発明が,発明の詳細な説明,つまりは明細書に記載されていないといけない,というわけです。

 ですので,その昔は,クレームのコピペをそのまま明細書にしただけ,という明細書がたくさんありました。ところが,そんな意味のないことをやってもしょうがないだろう,ということで,クレームをもうちょっと噛み砕いた説明を行うというのが通例となり,更に,パラメータ事件判決もあり,結構厳しいもんだなあという具合になったと思います。ただ,このパラメータ事件の判決の規範にそんなに異論はなく,数年間は波風立たないまま推移したと思います。

 ところが,飯村さんの合議体が,このパラメータ事件の判決に真っ向から対立するような判決を出したため,少々さざ波が立ちました。でも,飯村さんが判示した条件に当てはまらない場合でも,パラメータ事件の判決の規範は構わず使われておりますので,さざ波も静まったという所でしょう。

 で,どんな規範でやろうとも,やはり問題なのは,化学とか薬とかの分野ですね。機械とか電機の分野で,記載不備が問題になることは,まあありません。仮にあるとしたら,そりゃ弁理士のミスですわ。
 というのは,化学とか薬とかは,全体の分量に比して少量の原料の違いや,有機物で,C一個の違い,などの,一見微差と思われるようなことで,作用効果が全く違うのですね。ですので,発明が明細書に書かれていると,評価できるためには,結構詳しく書かねばならぬとなってしまいます。ところが,機械とか電機とか,要素の違い,それが少量だろうが,微差だろうが,かなりの精度で予想がつくのですね。結局は,化学や薬は,外部の擾乱を初めとして,パラメータが多すぎるのですね。

 ま,それはいいとして,ただ,弁理士の皆さんも気をつけてはいますから,そんなに妙なものは少なくなっています。

 しかし,上記のとおり,粘着剤~♪と書きました。これは何が言いたいかと言うと,思い出しませんかね。水性接着剤事件(平成18年(行ケ)第10487号,平成19年7月19日判決)です。この事件も粘着剤の発明です。

 水性接着剤事件は,平たく言えば,相反する物理量をうまく調整して,ある数値限定の範囲にしたものの,それを達成するための,材料その他のパラメータが多すぎて,明細書に書かれていたのは,そのほんの一部だけ,ということで,実施可能要件でNGとなったものです。

 勿論,実施可能要件とサポート要件は違いますが,私は実質的には同じものだと思っております(特許庁実務,飯村さん以外通説というところでしょうか。)。

 ですので,今回は,土肥さんのところがどう判断したか気になりますね。

3 判旨
「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。法36条6項1号が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり(前記知財大合議判決参照),この点に関する原告の主張は,採用することができない。」

「実施例1ないし4は,いずれも,n-ブチルアクリレート(表1のBA)を90重量部程度有し,任意モノマーとして酢酸ビニル(同VAc),カルボキシル基を持つビニルモノマーとしてアクリル酸(同AA),窒素含有ビニルモノマーとしてNビニルピロリドン(同NVP),水酸基含有ビニルモノマーとしてヒドロキシエチルアクリレート(同HEA),粘着付与樹脂としてロジンエステル系樹脂A-100(荒川化学社製)及び重合ロジンエステル系樹脂D-135(荒川化学社製)を用いたものであって,請求項1に記載された組成の中のごく一部のものにすぎない。
 また,請求項1に記載された粘弾特性のパラメータであるtanδのピーク,50℃での貯蔵弾性率G’及び130℃でのtanδのそれぞれの値を制御するには何を行えばよいのかについて,本願明細書の発明の詳細な説明には,何らの記載もない。
 さらに,例えば,甲20(佐藤弘三「粘弾性と粘着物性」)の図6には,モノマー組成が同一のアクリル系粘着剤であっても分子量が大きいほど,50℃での貯蔵弾性率G’は小さく,130℃でのtanδが大きいことが記載され,また,図7には,架橋剤量が多いほど,50℃での貯蔵弾性率G’は大きく,130℃でのtanδは小さいことが記載されているように,粘着剤の技術常識によれば,請求項1に記載された粘弾特性の各パラメータの値は,アクリル系共重合体を構成するモノマーの種類(官能基の種類や側鎖の長さなど)や各種モノマーの配合比だけでなく,それらが重合してなるアクリル重合体の分子量,粘着付与樹脂の種類や配合量,架橋の程度など,様々な要因の影響を複合的に受けて変化するものである。
 そうすると,粘着剤が請求項1に記載された組成を満たしているとしても,それ以外の多数の要因を調整しなくては,請求項1に記載された粘弾特性を満たすようにならないことは明らかであり,実施例1ないし4という限られた具体例の記載があるとしても,請求項1に記載された組成及び粘弾特性を兼ね備えた粘着剤全体についての技術的裏付けが,発明の詳細な説明に記載されているということはできない。また,そうである以上,請求項1に記載された粘着剤は,発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき,当業者が本願発明の前記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。」

4 検討
 この発明は,粘着剤の発明ですので,糊残りなく剥がれることが必要だけど,だからと言って,接着力が弱いと話にならないし,しかも,普通は剥がれやすかったウレタンフォームなどにも接着できるような粘着剤を見つけた,というものです。

 ですので,上記の水性接着剤事件同様,相矛盾する物理量をうまく調整したことに意義のある発明です。とすると,サポート要件か実施可能要件かわかりませんが,公開の代償としての特許権という趣旨にかなうためには,相当詳しく記載しておかないとダメ!ってわけです。

 そして,土肥さんの合議体では,パラメータ事件の判決の規範によって判断しております。そうすると,サポート要件違反の判断も実施可能要件違反の判断とほぼ同様となりますね。上記のとおり,実際の当てはめでは,明示はしておりませんが,製造するのに試行錯誤を要するのでダメと言っているのとほぼ同じですね。だって,物の発明の場合,課題の解決=使用(実施の一種)ということですし,使用するためには,製造できないといけないわけですからね。サポート要件=実施可能要件,とならざるを得ないのです。

 で,学者とかはいや違うとか同じとか,暇だなああんた達という感じですが,私に言わせりゃ,どっちでもいいし,どうでもいいですよ。サポート要件と実施可能要件は,大体同じで,時々違うこともあるという,司法によくある感じでいいんじゃないですか~。個別の事件の解決には,それで全く困らないのですからね。

 ところで,じゃあ,こういう判示がこれからも続くかというとそうではないと思います。よく見て下さい,この出願は,結構前のものです。H11年ですから,1999年,私が弁理士に受かった年ですね。水性接着剤事件も優先日がH13年,2001年ですので,ほぼ同時代の発明と言えます。その後,パラメータ事件の規範(厳しいもの)が出ましたので,以降の明細書は,弁理士の方も気をつけている?!はずですからね。

5 追伸
 先日,アメリカをdisった所,なんか,ワシントンの日本大使館も盗聴されていたという問題が発覚したらしいですね。これに対する我がポチ政府の対応が見モノです。

 ま,しかし,アメリカの二枚舌は相変わらずですね。キリスト教国のいう自由だとか,民主だとか,所詮こんなもんだと思うのですが,それを素直に信じている人がいるのは驚きです。

 例えば,先日送られてきた「関弁連だより 197」にレペタ氏(あの有名なメモ取り事件の人です。)のインタビューが載っておりましたが,まあなんて小学生並みに素直に信じられるのだろうという感じです。
 ここで,いつか人権も人絹も大して変わらねえじゃん,と書いたのですが,私は理系なのか,それとも性格なのか,どうも,素直に,アプリオリに受け入れるということはできないのですね。だって,所詮人の考えたことじゃないですか~♪弁護士って,もうちょっと疑り深い人ばかりと思っていたのですが,意外と~ウブね♥

 人権とか民主とか,まあ悪くはないとは思いますが,本当に普遍的なものなんすかね~♪
 実は,スマホのようなもので,そのうちガラケーや,ポケベルの如 く,次の流行りの考えに淘汰される運命ということはないのでしょうかね♪ま,私は,所詮,不信心者で,信仰熱心じゃありませんので,そう思うだけなのかも しれませんがね。

6 更に追伸
 こういう記載要件の話や,ポチ政府の話よりも,特許業界では,今別のホットイッシュ―があり,皆さん,そちらの方が関心が高いかもしれませんね。

 そ,あれです。と或る事務所の分裂騒ぎです。法律事務所だと,四大事務所というのが有名ですが,特許の世界で,それに匹敵する事務所の騒ぎですから,外野の注目は否が応でも高くなるということでしょうか。

 いやあどうなるんでしょうね~,下衆の極みの私としては,他人事だと面白いですよね~。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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