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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,平成7年12月12日,発明の名称を「窒化物半導体発光素子」とする特許出願(特願平7-322924号。優先権主張番号:特願平6-320100号(本件基礎出願)」といい,同出願に係る発明を,「本件基礎出願発明」といい,同出願に係る明細書(甲13)を,図面を含め,「本件基礎出願明細書」といいます。国内優先権主張日:平成6年12月22日(本件優先日))をし,平成10年1月9日,設定の登録(特許第2735057号)を受けた原告が,原告の本件発明に係る特許に対する被告の特許無効審判の請求について,特許庁が本件特許のうち,請求項1,3,16ないし18に係る発明についての特許を無効とした無効審決(特許法41条による優先権主張の効果を認めることができず,本件発明は新規性がない。)を下したことから,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁第4部(土肥さんの合議体です。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決のとおりでよい,ということですね。

 何だか久々の特許の話ですし,久々の審決取消訴訟って感じです。

 これを取り上げたのは,ま,久々なので,何でも良かったのですが(裁判所HPの更新は,今えらい少ない。),ここで恐らく初めての論点というところで,取り上げました。

2 問題点
 問題点は色々あったのですが,審決取消訴訟で争われたのは実質1つです。それは特許法41条の所謂国内優先権の効果が認められるかどうかです。

 条文を見てみましょう(審決取消訴訟では,昔の条文ですが,基本同じです。)。

 特許法41条
 「特許を受けようとする者は、次に掲げる場合を除き、その特許出願に係る発明について、その者が特許又は実用新案登録を受ける権利を有する特許出願又は実用新案登録出願であつて先にされたもの(以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。ただし、先の出願について仮専用実施権を有する者があるときは、その特許出願の際に、その承諾を得ている場合に限る。
 一  その特許出願が先の出願の日から一年以内にされたものでない場合
 二  先の出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願若しくは第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願又は実用新案法第十一条第一項 において準用するこの法律第四十四条第一項の規定による実用新案登録出願の分割に係る新たな実用新案登録出願若しくは実用新案法第十条第一項 若しくは第二項 の規定による出願の変更に係る実用新案登録出願である場合
 三  先の出願が、その特許出願の際に、放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合
 四  先の出願について、その特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合
 五  先の出願について、その特許出願の際に、実用新案法第十四条第二項 に規定する設定の登録がされている場合


 この各号は,重要なのですが,論点とはずれますので説明は省きます(一号は時期的要件,二号は分割要件等まで審査し切れない,三号~五号は実質的に係属していないとダメ)。

 本件で関係あるのは,傍線部です。つまり,「願書に最初に添付した明細書等に記載された発明」って何?これが論点です。ただ,判決を見てもこの点を省いて書いているので,ようわからんのですよ(ちょっと省き過ぎです。)。
 ですので,無効審決を引いておきます。

 「本件発明1ないし5、7、8は「インジウムとガリウムとを含む窒化物半導体よりなり、第1の面と第2の面とを有し、さらに量子井戸構造を有する活性層と、・・・備え」、本件発明16は「活性層が量子井戸構造を有する」、本件発明17は「活性層がInxGa1-xN(0<x<1)よりなる井戸層を有する」、本件発明18は「活性層がInxGa1-xN(0<x<1)よりなる井戸層と、・・・組み合わせからなる」との構成をそれぞれ有するから、本件発明1ないし5、7、8、及び16ないし18は、活性層が量子井戸構造を有するものである。  
 下記1ないし3によれば、本件発明1ないし5、7、8、及び16ないし18における、活性層が量子井戸構造を有するとの構成が、基礎出願の明細書に記載されているとも、同明細書に記載された事項から当業者にとって自明の技術事項であるとも認められない。  
 よって、本件発明1ないし5、7、8、及び16ないし18についての、特許法第41条の規定による優先権主張の効果は認められない。



 ところで,国内優先権の趣旨はわかりますかね。弁理士やら知財部員なら,こんなの当たり前の話ですが,ここを読んでいる方には法曹関係者やエンジニアの方々もいるようですので,一応説明しておきます。

 ま,要するに最初から完全な出願はできないので,その補償というものです。
 この点について,渉外の出願に関するパリ優先権とは趣旨が違いますから,要注意ですよ。必ず試験に出る所です。ムフフフ。

 とはいうものの,出願しなおせばいいじゃんとか,補正すればいいじゃんとかあるわけですが,出願し直しても,前の出願でダブルパテントとして拒絶されるかもしれないし,補正なんか新規事項はそもそも追加できませんので,限界があります。そこで,この国内優先権という制度を使うわけです。これを使えば,一年内に出願した発明をひとまとめにできます。その代わり,前の出願は揃って取下げ擬制となります(特許法42条1項)。

 ただ,この事件でも問題になったように,「記載された発明」ってどの程度?というのは問題となってきます。勿論,特許庁も石頭のコンコンチキのバカ正直の杓子定規さ加減ではありませんので,3という記載がなくても1+2や5-2があれば,記載されたとされることは当然です。ですので程度問題ではあるのですが。

 で,具体的にはどの点かというと,「活性層が量子井戸構造を有するとの構成」が明細書に記載されているか,記載されていないとしても当業者なら自明かどうかというよくあるパターンのやつです。

 このパターンは,明細書の記載要件(特に,サポート要件),新規性(ただし,引例の方。こう言っている意味わかりますかね。)などで見かけますね。

 ということで,親出願に記載されていたのかな~,そうでなくても自明と言えるのかな~に注目です。

3 判旨
 「ア 前記(1)アによると,甲22文献には,GaN活性層の膜厚が300Åの場合,量子井戸効果が生じていることが開示されているということができる。
 しかしながら,上記記載はGaN活性層に関する記載であり,InGaN活性層に関する記載ではないから,当該記載をもって,InGaN活性層の膜厚が300Åの場合,量子井戸効果が生じることを直ちに導き出せるとはいえない。
イ 前記(1)イないしケによると,前記各文献のうち,甲14,17ないし20が開示する活性層は,いずれも300Åよりも薄い膜厚であるところ,甲14ないし甲21は,いずれもGaAs系活性層に関する文献であって,InGaN活性層に関する技術を開示するものではないから,前記各記載から,InGaN活性層の膜厚が300Åで量子井戸効果を得られることが自明であるということはできない。
ウ したがって,本件優先日当時,当業者は300Åの膜厚のInGaN活性層で量子井戸効果が生じると認識していたということはできない。」

「(1) 本件優先日当時,300Åの膜厚のInGaN活性層が量子井戸効果を生じることを明記した文献は,書証として提出されていない。
 前記3のとおり,本件優先日当時,当業者は300Åの膜厚のInGaN活性層で量子井戸効果が生じると認識していたということはできない。・・・そのほか,甲13によると,本件基礎出願明細書には,本件基礎出願発明のInGaN活性層の膜厚の下限を200Åとすることについて,これを示唆する記載もない。
 したがって,本件基礎出願明細書において,InGaN活性層の膜厚を200Åにすることが記載されているとまでいうことはできない。」

4 検討
 「活性層が量子井戸構造を有するとの構成」を更に敷衍すると,InGaN活性層の膜厚が200Åよりも薄くできるとの構成が記載されているか,自明かということにポイントがあったようです。薄くすると,徐々に量子井戸の効果が発現されるようなのですね。
 でも,結局親出願にはそのような記載はなく,哀れ,本件出願は,親出願の出願日基準で判断されず,実際の出願日基準で判断されたため,その後の公知例で,新規性なしとされたのですね。

 ま,ここでもよく言いますが,分割,訂正,優先権主張(パリも国内も),の出願は,結構な確率で,分割,訂正,優先権の要件違反が潜在しております。

 ですので,こういう出願で権利行使されたら,構成要件該当性を判断する前に,もう無効理由として,それぞれの要件違反を探した方が早いかもしれません。

 いやあ本当このブログは実践的っすね。つーか,特許実務をやっている実務家ならこれくらいイロハのイ程度のもんですけどね~♪
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