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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,原告が,名称を「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」とする発明に係る特許第2999177号の特許権者であるが,被告は,平成23年9月30日,サポート要件違反(特許法36条6項1号),補正要件違反(同法17条の2第3項),実施可能要件違反(改正前の同法36条4項),明確性要件違反(同条6項2号)を理由として,請求項14ないし27の発明に係る特許につき特許無効審判を請求し(無効2011-800187号),これに対して,原告が,請求項14ないし16,18,22ないし25を削り,請求項17,19,21,26,27を順次繰り上げ,繰り上げ後の請求項14ないし16の特許請求の範囲の記載の一部を改めるなどの訂正請求をしたが(本件訂正),特許庁は,平成24年8月3日,被告主張に係る実施可能要件違反,明確性要件違反,サポート要件違反があるとして,訂正は認めたものの,無効審決を下したことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(塩月さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。つまりは,実施可能要件違反,明確性要件違反,サポート要件違反の各違反はないとしたのです。

 昨日は,進歩性の判決でした。とくれば,記載要件ですね~。

2 問題点
 明細書の記載要件も,よくここで取り上げますので,詳細は省きます。

 さて,ちょっと前に,記載要件が問題となった判決を紹介しました。それは,侵害訴訟でしたが,無効の抗弁の攻防で,クレーム中の「粒径」が若干問題となったものです。

 そして,今回のクレームは,【請求項14(訂正発明14)】だけ提示しますが,
アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなる合わせガラス用中間膜であって,中間膜中のナトリウム濃度が50ppm以下であり,飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いた二次イオン像のイメージングにより測定した中間膜中のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の粒子径が3μm以下である合わせガラス用中間膜。
 です。

 またかよ~と思いませんかね。本件は審決取消訴訟ですが,また!また!粒径クレームが問題となったのです。

 ですので,問題点は非常に個別具体的で,粒径クレームの記載要件ですね。しかし,何でこんなに多発するんだろうなあ。

 私の考えでは,おそらく,この遠赤外線放射体事件が諸悪の根源じゃないかと見ております。
 無効の抗弁の記載要件で,権利不能になった例は元々少ないのです。最近は殆どありません。恐らくこのレベルセンサ事件の一審の大阪地裁の判決が最後じゃないかと思います。これが平成21年の年末ですから,もう3年もないわけです。

 にも関わらず,上記遠赤外線放射体事件では,記載要件のうちの大穴とも言える明確性要件でNGとしたのですから,そりゃぶっ飛びます。しかも高裁で。
 ですので,権利行使をされた側は,当該特許に「粒径」とか「粒子径」とかの記載があれば,バカの一つ覚えと言っていい程,明確性がないと言ってきます。勿論,折角なので,実施可能要件もないとかサポート要件もないとかも言ってきますね。偶には,記載が簡潔じゃないとか言えば良いのにとか思いますが。

 ま,使えるものは何でも使うということで,しょうがない部分があります。

 で,空中戦というか,法律家でもわかる議論はここまでにしましょうかね。
 さて,具体的に何が問題になったかというと,クレーム中の「アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の粒子径が3μm以下」の記載について,測定方法がようわからんので実施可能要件違反,TOF-SIMS以外の測定方法がないので,サポート要件違反,勿論「粒子径」の意味もようわからんので,明確性要件違反だということです。

 で,審決が何故,上記のとおり認定したかというと,TOF-SIMSで測定すると,それぞれの金属塩だけでなく,それぞれの金属イオンに由来する二次イオンまで測定してんじゃねえーのってなったため,それじゃ何を測っているわからないので,実施可能要件違反となって,付随的にサポート要件違反とも明確性要件違反ともなる,ってしたわけです。
 SIMSがsecondary ion mass spectrometryの略ですので,何の二次イオンがわからないようでは,致し方なし,という気もします。

 ということですので,審決取消訴訟では,研究者の意見書の出し合い合戦になったようなところがあります。

3 判旨
 「しかしながら,A大学理工学部物質生命理工学科教授B作成の意見書(甲1)によれば,TOF-SIMSは,超真空下に試料を置き,この試料に対してガリウムイオン等の一次イオンのパルス化されたビームを照射し,一次イオンが試料表面の原子等と衝突した結果,試料表面から空間に向けて発生,放出される二次イオン(試料表面の原子によるイオン)を質量分析計にかけ,二次イオンが検出器に到達するまでの飛行時間に応じて,二次イオンの質量を測定した上で,一次イオンビームの被照射位置の情報に照らして二次イオンの質量分布(質量スペクトル)を画像処理し,地図状の画像データを得る装置であると認められるところ,0.1μm(原告主張によると,本件優先日当時でも0.2μm)の面的解像度を有しているものであって,本件発明の「粒子径」の上限3μmに比して十分に細かな分析ができるものである。・・・・」

 「審決は,TOF-SIMSでアルカリ(土類)金属塩ばかりでなくアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを実施可能要件違反の根拠の1つとするが,まず,前記のとおり,訂正明細書の段落【0093】では,例えばアルカリ土類金属塩の1種であるマグネシウム塩が中間膜中で電離せず塩の形で存在することが示されているから,本件発明において,アルカリ(土類)金属塩が相当程度(相当割合)電離してイオンを生成することが予定されているものではない。・・・」

 「原告のグローバルテクニカルセンターのC作成の実験成績証明書(甲64)によれば,・・・本件発明の中間膜,とりわけその表面では,ポリビニルアセタール樹脂を製造するときに中和工程に用いる薬剤あるいは接着力調整剤に起因する残留アルカリ(土類)金属塩の大部分が電離せず塩の形で残っており,電離してアルカリ(土類)金属イオンとなる割合はごく小さい。そうすると,TOF-SIMSの二次イオン像のイメージングの分析において,アルカリ(土類)金属イオンの存在を考慮外としても差し支えないというべきである。・・・」

「・・・結局,TOF-SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを根拠に,本件発明に実施可能要件違反があるとした審決の判断は誤りである。」

4 検討
 結局,TOF-SIMSの解像度は十分であり,金属イオンが生成され,それが検出される可能性もあるが,金属塩の方の粒子径の測定結果を左右するほどの大した割合ではなく,審決の判断は間違っており,実施可能要件の違反なし!としたことがすべてですね。それ故,TOF-SIMSだけしか測定法の記載がなくてもサポート要件を満たすし,何を測っているかもわかるので,明確性要件も満たすとしたわけです。

 ま,しかし,この内容,1年から半年自分の事件としてやれば,文系の人でも理解できると思いますが,私がこのブログでこれっぽっちで書いた程度で理解できる文系の人はいますかね~?いやあこれは無理でしょうね。

 進歩性も学者の人には厳しい話ですが,記載不備も厳しいでしょうねえ。

 でも,この判決,実は,原告被告とも誰もが知っている大企業,ですので,その代理人も,大阪と東京の超有名事務所の弁護士同士の戦いです。でも,上記のとおりの内容ですので,実際は弁理士の勝負,いや技術をどれだけ理解しているかの勝負で,そうすると,最終的に特許権者が勝ったというのも,収まりがいい話かもしれません。次は,権利行使ですね,ムヒヒヒ。

5 追伸
 ところで,今週の閲覧数は,いつもと違う感じです。
 いつもは,月曜の閲覧数が一番高くて,金曜に行くに従って下がる傾向があります。

 そりゃそうですね,このブログの閲覧者は企業勤めの人が多いようですので,月曜は,つまんねーから劇薬ブログでも見て,少しはストレス発散でもしようかとなり,金曜は,もう週末ですから,そんな劇薬に頼る必要はないのですね。

 ところが,今週の閲覧数は,月曜が一番低くて,週末に行くに従ってどんどん高くなっています。おかしいな~。あと,判決の紹介をするとガクッと下がることが多いのですが,今週は構わず,伸びています。

 と言っても,今日はこんな実にマニアックな内容ですので,きっと下がりますね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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