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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「臭気中和化および液体吸収性廃棄物袋」とする発明について,1999年11月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 1998年11月16日,米国)を国際出願日とする出願(特願2000-582314号)をしたものの,拒絶査定がされた原告(P&G)が,平成21年6月1日,拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2009-10504号)をしたのですが,特許庁に,進歩性なしとして,不成立審決(第1審決)をされたことから,これに不服の原告は,第1審決について,審決取消請求訴訟(平成22年(行ケ)第10351号)を提起したところ,平成23年9月28日,第1審決を取り消すとの判決(進歩性あり)がされ(前訴判決),ところが,審判に戻ったところ,特許庁は,本願について更に審理し,平成24年5月8日,再び,不成立審決(本件審決,進歩性なし)を下したことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対し,知財高裁3部(芝田さんの合議体ですね。)は,審決を再度取り消しました。要するに,進歩性あり,ということです。

 私の特許における,否人生における最大のテーマと言ってよい特許の進歩性の話故にとりあげました。
 
 クレームを示しておきます。
 「飲食物廃棄物の処分のための容器であって,飲食物廃棄物を受け入れるための開口を規定し,かつ内表面および外表面を有する液体不透過性壁と,前記液体不透過性壁の前記内表面に隣接して配置された吸収材と,前記吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え,前記容器は前記吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つ,飲食物廃棄物の処分のための容器。

2 問題点
 進歩性はここで何度でもとりあげているので,詳しい説明は今は省きます(あとで,これでもかというくらいに論じますので。)。条文だけ。

 特許法29条第2項「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」

 さて,本件では,上記のとおり,原告の出願人は,一回審決取消訴訟で勝っているのです。
 そのときの審決は,「主引用例を実願昭62-152931号(実開平1-58507号)のマイクロフィルム(本件審決の引用例4)とし,①本願発明と引用発明との相違点1(吸収材に隣接して液体透過性ライナーを配置すること)については,周知例1(実願昭56-194196号(実開昭58-101737号)のマイクロフィルム),同2(特開平9-315507号公報。本件審決の主引用例),同3(実願昭63-153557号(実開平2-74398号)のマイクロフィルム),同4(特開平9-295680号公報),同5(特開平2-57583号公報)に記載されるように周知の事項である,②相違点2(吸収材にゼオライト等の臭気中和組成物を保持させるのに,その組成物を吸収材上に被着させて行うこと)については,周知例6(特開平9-239903号公報。本件審決の引用例2),同7(欧州特許出願公開第0811390号明細書)に記載されるように周知の事項であるとして,本願発明は容易想到であるとした」のでした。

 これに対する判決は,「前訴判決は,上記主引用例に記載された発明において,①相違点1に係る構成を採用する動機付けがなく,同構成に至ることが容易であるとの結論に至る合理的な理由が示されていない,②相違点2に係る構成を採用することは,特段の事情のない限り回避されるべき手段であり,同構成に至ることが容易であったとはいえないとして,第1審決を取り消した」のです。これが,平成23年9月28日のことです。

 他方,今回の審決では,「本願発明は,特開平9-315507号公報(以下,「引用例1」といい,引用例1に記載された発明を「引用発明」という。)に記載された発明及び特開平9-239903号公報(以下,「引用例2」という。)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項により特許を受けることができない」と判断しました。最初の審決での周知例2を主引例に変え,相違点を最初の審決での周知例6で補ったわけですね。

 で,その審決での相違点は,こうでした。
 「本願発明では,容器は吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つのに対し,引用発明では,容器(ごみ袋)は臭気中和組成物を有していない点。

 まあ何だか結論の見えた話ですね。

3 判旨
 「本願発明は,上記特許請求の範囲及び本願明細書の記載によれば,飲食物廃棄物の処分のための容器であって,液体不透過性壁と,液体不透過性壁の内表面に隣接して配置された吸収材と,吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え,吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つものである。本願発明は,上記構成により,一般家庭において,ゴミ収集機関により収集されるまで,飲食物廃棄物からの液体の流出を防止し,腐敗に伴う不快な臭気を中和する,経済的なプラスチック袋を提供することができるものである。
 これに対し,引用発明は,上記引用例1(甲8)の記載によれば,厨芥など水分の多いごみを真空輸送する場合などに適用されるごみ袋に関するものであるところ,これらのごみをごみ袋に詰めて真空輸送すると,輸送途中で破袋により,ごみが管壁に付着したり,水分が飛散して他の乾燥したごみを濡らして重くするなどのトラブルの原因となっていたという課題を解決するために,水分を透過する内面材と,水分を透過させない表面材と,上記内面材と上記表面材とに挟まれ水分を吸収して凝固させる水分吸収体との多重構造のシート材でごみ袋を構成することにより,厨芥などのごみの水分を吸収して凝固させ袋内に閉じ込めるようにしたものである。
 ところで,上記引用例1(甲8)の記載等に照らすと,真空輸送とは,住宅等に設置されたごみ投入口とごみ収集所等とを輸送管で結び,ごみ投入口に投入されたごみを収集所側から吸引することにより,ごみを空気の流れに乗せて輸送,収集するシステムであって,通常,ごみ投入口は随時利用でき,ごみを家庭等に貯めておく必要がないものと解される。そうすると,引用発明に係るごみ袋は,真空輸送での使用における課題と解決手段が考慮されているものであって,住宅等で厨芥等を収容した後,ごみ収集時まで長期間にわたって放置されることにより,腐敗し,悪臭が生じるような状態で使用することは,想定されていないというべきである。
 これに対し,被告は,引用発明は,厨芥,すなわち,腐敗しやすく悪臭を発生することが想定されるごみを収容するごみ袋であり,腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべき技術課題を内在すると主張する。
 しかし,上記のとおり,引用発明は,厨芥等を真空輸送に適した状態で収容するためのごみ袋であり,厨芥等を長期間放置しておくと腐敗して悪臭を生じるという問題点は,上記真空輸送により解決されるものと理解することができ,引用例1の「厨房内などに水切り設備を設置して事前に水切りを行えるなどの場合は,本ごみ袋の下部に水切り用孔6を穿設してもよく,この場合はより一層効果的にごみの水分を取り除くことができる」(甲8・段落【0008】)との記載からしても,引用発明が厨芥等から発生する腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべき技術課題を内在していると解することはできない。
 以上のとおり,引用発明には,腐敗に伴う不快な臭気を中和するという課題がなく,引用発明に臭気中和組成物を組み合わせる動機付けもないので,本願発明と引用発明との相違点について,引用発明において,効果的な量の臭気中和組成物を吸収材上に被着して相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは,引用例2記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとした本件審決の判断には誤りがある。」

4 検討
 残念~特許庁♪課題が全く違いましたね。
 今回の主引例は,レストランとかのお店でディスポーザーみたいなやつがあるとき前提の発明のようですね。他方,本願発明は,普通の家でゴミ出しするときのやつなので,ゴミ出しの日までの自宅での保管に伴う臭さなどを解決するようなものです。
 ということで,課題が全く違いますね~。

 しかし,これは結構酷いですよね。本願発明とは全く違うような引例で,再度拒絶しているのですから。論点は,実は進歩性以外にもう一つあり,拘束力違反じゃないかというやつです。それは,主引例が違うので,拘束力の範囲外ということで済ませてはいるのですが(この判断は致し方無し),それにしてもって気がします。

 というのは,第一回目の審決取消訴訟の判決から,今回の訴訟の判決まで,1年半かかってます。これは,拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟なので,特許権がそれだけ,短くなってしまっています。この出願は,90年代の後半の出願ですので,そろそろエクスパイヤーの時期も見えてきているっていうのに,全くバカ審判官としか言いようがないですね。嫌がらせですかね~。
 こういうのって,国賠訴訟できないか,本当吟味する必要があると思いますよ。

 てなこと書くと,また検討会でやいのやいの言われるかもしれません。
 というのは,特許庁は,審決取消訴訟の判決について,必ず検討会を開くとのことで,そこでは,訴訟で負けた案件について,指定代理人以下吊し上げにあうらしいのですね。

 ところで,これを聞いたとき,私は検察庁のことを思い出しました。検察庁も,有罪が取れなかったときには,検討会を開くらしいのですね。ま,控訴するかどうか決めないといけないのでしょうがないのですが,やはりその公判の担当だった検事は吊し上げになるそうです。いやあ,行政庁ってどこもやることは一緒ですね。せいぜい頑張っておくんなまし。

5 更なる検討
 現在種々の理由から,進歩性について,再考中です。ま,釣りが鮒に始まり鮒に終わるというように,特許は進歩性に始まり進歩性に終わりますので,当然と言えば当然です。で,何を再考しているかというと,進歩性の趣旨です。

 メインの基本書の記載を見てみましょう。

 中山先生「進歩性のない発明は,独占権の付与というインセンティブを与えなくてもなされることが十分期待できるし,またそのような進歩性のない発明に独占権を与えると,第三者の自由な営業活動を妨げることになりかねない。

 高林先生「出願時に同一の技術は存在しないとしても,すなわちその発明に新規性があるとしても,これが出願時において当業者が容易に考えつくことができる発明であった場合には,その発明は社会になにものをも加えるものではなく,権利として成立させて発明者に独占させるのは不当であるとの政策判断に基づく要件である。

 吉藤先生「本来,特許法の目的は,技術的思想のうち高度のものを奨励すること,いいかえれば技術の飛躍的進歩を刺激することにより産業の発達を図るものということができる。さらに別言すれば,新規性があるだけであって通常の専門家によって容易に考えることのできる程度の発明,すなわち進歩性のない発明は,特許法の目的に反し,保護の対象とすることはできない。

 どうですか~,結構3者3様ですね。
 特許庁の審査基準はどうかといいますと,「第29条第2項の規定の趣旨は、通常の技術者が容易に発明をすることができたものについて特許権を付与することは、技術進歩に役立たないばかりでなく、かえってその妨げになるので、そのような発明を特許付与の対象から排除しようというものである。」です。

 このようにまとめると,2つの大きな考え方があるということがわかります。
 まず,A説,インセンティブ説とでも言いましょうか。私も進歩性を説明するときによく使う説です。
 つまり,人間って,欲深だし,理系はオタク系が多いので,ほっといても技術は進歩するもの~,そんなものに特許をするのは無駄なこと(馬の面に人参,になっていない。)。だから,自然的な進歩以上の飛躍的な進歩を見せた発明にこそ特許を付与すべき,というものです。
 吉藤先生は,ほぼこれだけ。中山先生と高林先生は,説の前半がこれですね(でも,高林先生は,著書の書きぶりからすると,「一歩抜きん出」る必要があるように考えているようです。)。

 次にB説,政策説とでも言いましょうかね。新規性はあるけど,公知な発明とちょっとしか違わない発明に特許されると,ライセンスをもらうときなどに面倒くさくてかなわないし,公知な発明がエクスパイヤーしても,その周辺のちょっとだけ違う特許が生き残っていると自由実施もできやしない,とにかくややこしいから,そういうのはやめてくれ,というものです。
 吉藤先生以外は,説の後半で,このようなことを言っていると思います。

 で,何でいきなりこういう分析をしているかというと,当然,ためする議論がしたいからではありません。A説だとこうなりがち,B説だとこうなりがち,というものがあるからです。
 それは何かというと,「進歩」です。

 いやいや進歩性でしょ,と言われるかもしれませんが,一般的に進歩性とは言われていますが,条文上は上記のとおり,「容易に発明をすることができた」かどうか問うているだけです。
 つまり,条文上,一歩抜きん出てたり,飛躍的進歩があったり,技術が向上しているようなことは要請されていないのです。でも,この「進歩」を重視するかどうかで,「進歩性」のハードルは変わることになります。

 例えば,A説だと「進歩」を重視,つまり,作用効果や商業的成功を重要視することになりますので,進歩性の判断基準のかなりのウェイトを作用効果や商業的成功が占めても当然だということになりがちです。逆に言えば,作用効果のない発明,商業的成功のない発明は進歩性が認められず,特許できないということになってしまいます。

 他方,B説だと,「進歩」の有無は,進歩性には関わりません。
 つまり,引例と差があり,その差について,証拠に示されているものの,動機付けできない場合や,その差が証拠に示されておらず,設計事項等の微差でない場合は,即刻進歩性あり,とされるわけです。作用効果や商業的成功は,あくまでサブの考慮事項であって,本質的なものではない,というわけです。

 で,どちらが妥当なのでしょうか。
 進歩性を説明するときには,A説は本当説明しやすいです。でも,条文上からすると,B説じゃないですかね。それに,飛躍的進歩だとか,一歩抜きん出てる進歩だとか,それって本当にわかりますかね??

 著作権法の話で申し訳ないのですが,著作権法2条1項1号の「創作的」って,別に芸術性や学術性が高いことを要件としませんよね~。
 プロのSEが汗水垂らしてコーディングしたプログラムが創作性なしとされることは日常茶飯事ですし,他方逆の例として,幼稚園児の描いた絵に創作性あるのですよ,という説明もよく聞きます。

 特許の進歩性も,この著作権法の創作性と基本同じでいいのではないかと私は最近非常に思ってきております。
 理由は1つ,上に書いたとおり,技術の進歩なんて,結局評価的な話に過ぎず,生まれ育ちやイデオロギーによって,高評価の方向性自体ビシバシ変わるものですからね。バカサヨクの進歩史観を見れば一目瞭然ですわ。

 そう,人間が細菌のようなものから,今のような形態に「進化」したのは,高等化でも進歩したのでもなく,単に,一定の割合で生み出される突然変異が適者生存を繰り返した結果に過ぎないというのと同じです。
「高等」生物だとか,「霊長」類だとかは後知恵バイアス,お,まさに進歩性,これと同じ,というわけです。

 ということで,私は進歩性の趣旨は,上記B説でいいんではないかと思います。実際の実務(審査,審判,訴訟)もそうなのですしね。



 

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