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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,被控訴人(第1審原告,アップル)が,被控訴人による別紙物件目録記載の各製品の生産,譲渡,輸入等の行為は,控訴人(第1審被告,サムソン)が有する発明の名称を「移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」とする特許第4642898号の特許権(本件特許権)の侵害行為に当たらないなどと主張し,控訴人が被控訴人の上記行為に係る本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた事案です。

 一審の東京地裁民事46部(大鷹さんの合議体ですね。)は,本件製品1及び3は本件特許に係る発明の技術的範囲に属しないとする一方,本件製品2及び4については,本件特許に係る発明の技術的範囲に属するとしつつも,控訴人による本件特許権に基づく損害賠償請求権の行使は権利濫用に当たると判断して,被控訴人の請求を全部認容しました(平成23(ワ)38969 号,東京地裁平成25年02月28日判決)。控訴人は,これを不服として本件控訴を提起したわけです。

 これに対して,知財高裁特別部(裁判長は,飯村さん。それ以外は各部の3名の部長+小田さんですね。)は,本件製品2及び4の生産,譲渡,貸渡し,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出につき,本件特許の侵害に基づき控訴人が被控訴人に対して有する損害賠償請求権が,金995万5854円及びこれに対する平成25年9月28日から支払済まで民法所定の年5分の割合による金額を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由があると,一審判決を変更しました。つまりは,本件製品2と4について,サムソンの金995万5854円の損害賠償を認めたわけです。

 例のFRAND特許に関するアップルとサムソンの諍いについて,漸く控訴審判決がアップされました。

2 問題点
 問題点は,そのFRAND特許による権利行使の可否ということで,具体的には一審の信義則というか権利濫用で,一銭もダメ!っていう判示の当否だと思います。

 これについては,知財高裁が,アメポチ内閣を真似て,司法もアメポチで行きまっせというわけで,変な意見募集をしたことは記憶に新しいところです。

 私のような金第一主義の人間からすると,金にもならねえのに,よくまあ意見書なんて出すもんだなあと不思議でならないのですが,裁判所への覚えめでたくしたいのか,それとも単に自己顕示欲が旺盛なのか,それともタダのバカなのか,弁護士も弁理士もその他も,何だか浮足立ってみっともないったらありゃしないと思った次第です。

 ま,そう思ってたまともな弁護士や弁理士も,実は,数多かったらしく,私が最初にこのブログで,この意見書の話にくそぶっかけたときは,意外にも好意的意見が多かったのです。

 でもまあ,最悪だったのが,日弁連からの意見書だったですね。「知的財産高等裁判所の今回の意見募集の取組を高く評価する。」だって,バカじゃねーの,って感じです。ま,作ったやつらの知能が知れますね。いやあ,そんな奴らは弁護士なんかならずに,裁判官のケツ拭き係でもやってりゃあいいんです。

 おっと,ムカムカして議題から逸れそうになったので,戻します。で,権利濫用で何も請求できないとすると,本来FRAND条件で取れる筈のライセンス料はどうなの?って所が一番の問題点です。あとは,法律家が喜びそうな細かい話は,そういうのが好きな学者とかにお任せします。

 個人的には,ライセンス料相当分っていう要旨が先に公になったので,算定方法が気になったのですが,今日の日経の法務面に特集がありました。ロイヤリティの5%の説明がイマイチ舌足らずではありますが,この説明で十分尽きておりますので,このブログではもういいかなあという感じです。
 それに,特許を長くやっている人からすると,特段普通の算出で,別におっとこりゃスゲーやみたいな部分はありません。

 というところで,私が今回の判決で着目したのは別の話です。何かと言えば消尽です。消尽というのは,平たく言うと,特許権者の二重取りはダメよ~ってやつです。つまり特許権者が適式に特許品をAさんに売って,Aさんがそれを例えば中古屋さんのBさんに売ったとしても,Bさんの業としての中古の特許品の販売は特許権で捕捉できないとするやつです。

 だって,一遍Aさんに売った時点で,特許権者は,特許料というか特許による利益は回収できたはずなわけで,それ以上に取らせる必要がありませんよね。何年か前中古のゲームソフトでも同じようなことが問題になりましたが(あれは著作権),特許でも同じです。

 ただ,商標の場合は,微妙です。そもそも,商標法は創作法じゃないし,しかも商標は半永久権です。ですので,消尽的な場面でも,消尽ではなく,別の理論で権利行使が可能だったり不能だったりするだけだと思いますね。そう,商標は消尽しない,のです。

 また議題がずれそうですが,今回の事件では,アップルは特許の中核部分を担うベースバンドチップ(つまり間接侵害にあたる品)をインテルから購入して,自社製品に組み込み,そのインテルはサムソンとライセンス契約を結んでたかも,という所で,正規品の購入であり,間接侵害品とはいえ,特許は消尽したのではないかが問題となったわけです。
 間接侵害品の消尽という,実に重要な論点なのですが,一審ではここの判断はありませんでした(オーマイガッ)。この知財高裁では判断しており,この点は評価できます。ですので,ここでは,この点のみ,検討しましょう。

3 判旨
「 念のため,仮に,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が存続しており,かつ,本件ベースバンドチップがその対象となると仮定した場合においても,当裁判所は,次のとおり本件特許権の行使が制限されるものではないと判断するものである。以下にその理由を示す。
  (ア)  特許権者又は専用実施権者(この項では,以下,単に「特許権者」という。)が,我が国において,特許製品の生産にのみ用いる物(第三者が生産し,譲渡する等すれば特許法101条1号に該当することとなるもの。以下「1号製品」という。)を譲渡した場合には,当該1号製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該1号製品の使用,譲渡等(特許法2条3項1号にいう使用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及ばず,特許権者は,当該1号製品がそのままの形態を維持する限りにおいては,当該1号製品について特許権を行使することは許されないと解される。しかし,その後,第三者が当該1号製品を用いて特許製品を生産した場合においては,特許発明の技術的範囲に属しない物を用いて新たに特許発明の技術的範囲に属する物が作出されていることから,当該生産行為や,特許製品の使用,譲渡等の行為について,特許権の行使が制限されるものではないとするのが相当である(BBS最高裁判決(最判平成9年7月1日・民集51巻6号2299頁),最判平成19年11月8日・民集61巻8号2989頁参照)。
  なお,このような場合であっても,特許権者において,当該1号製品を用いて特許製品の生産が行われることを黙示的に承諾していると認められる場合には,特許権の効力は,当該1号製品を用いた特許製品の生産や,生産された特許製品の使用,譲渡等には及ばないとするのが相当である。
  そして,この理は,我が国の特許権者(関連会社などこれと同視するべき者を含む。)が国外において1号製品を譲渡した場合についても,同様に当てはまると解される(BBS最高裁判決(最判平成9年7月1日・民集51巻6号2299頁参照))。
  (イ)  次に,1号製品を譲渡した者が,特許権者からその許諾を受けた通常実施権者(1号製品のみの譲渡を許諾された者を含む。)である場合について検討する。
  1号製品を譲渡した者が通常実施権者である場合にも,前記(ア)と同様に,特許権の効力は,当該1号製品の使用,譲渡等には及ばないが,他方,当該1号製品を用いて特許製品の生産が行われた場合には,生産行為や,生産された特許製品の使用,譲渡等についての特許権の行使が制限されるものではないと解される。さらには,1号製品を譲渡した者が通常実施権者である場合であっても,特許権者において,当該1号製品を用いて特許製品の生産が行われることを黙示的に承諾していると認められる場合には,前記(ア)と同様に,特許権の効力は,当該1号製品を用いた特許製品の生産や,生産された特許製品の使用,譲渡等には及ばない。
  このように黙示に承諾をしたと認められるか否かの判断は,特許権者について検討されるべきものではあるが,1号製品を譲渡した通常実施権者が,特許権者から,その後の第三者による1号製品を用いた特許製品の生産を承諾する権限まで付与されていたような場合には,黙示に承諾をしたと認められるか否かの判断は,別途,通常実施権者についても検討することが必要となる。
  なお,この理は,我が国の特許権者(関連会社などこれと同視するべき者を含む。)からその許諾を受けた通常実施権者が国外において1号製品を譲渡した場合についても,同様に当てはまると解される。
  (ウ)  これを本件についてみる。
 a  インテル社は,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約によって,本件ベースバンドチップの製造,販売等を許諾されていると仮定されるから,前記(イ)にいう特許権者からその許諾を受けた通常実施権者に該当する。また,「データを送信する装置」(構成要件A)及び「データ送信装置」(構成要件H)に該当するのは本件ベースバンドチップを組み込んだ本件製品2及び4であると解される一方,本件ベースバンドチップには,本件発明1の技術的範囲に属する物を生産する以外には,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途はないと認められるから,本件ベースバンドチップは,特許法101条1号に該当する製品(1号製品)である。アップル社は,インテル社が製造した本件ベースバンドチップにその他の必要とされる各種の部品を組み合わせることで,新たに本件発明1の技術的範囲に属する本件製品2及び4を生産し,被控訴人がこれを輸入・販売しているのであるから,前記(ア),(イ)のとおり,控訴人による本件特許権の行使は当然には制限されるものではない。
  b  そこで,まず,控訴人においてこのような特許製品の生産を黙示的に承諾していると認められるかを検討する。
  この点,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が存続しており,かつ,本件ベースバンドチップがその対象となると仮定した場合における,仮定される控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約は,控訴人が有する現在及び将来の多数の特許権を含む包括的なクロスライセンス契約であり,本件特許を含めて,個別の特許権の属性や価値に逐一注目して締結された契約であるとは考えられない。また,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約の対象は,「インテル・ライセンス対象商品」すなわち「(a)半導体材料,(b)半導体素子,又は(c)集積回路を構成する全て
の製品」であって,「インテル・ライセンス対象商品」に該当する物には,控訴人の有する特許権との対比における技術的価値や経済的価値の異なる様々なものが含まれ得る。そうすると,かかる包括的なクロスライセンスの対象となった「インテル・ライセンス対象商品」を用いて生産される可能性のある多種多様な製品の全てについて,控訴人において黙示的に承諾していたと解することは困難である。そして,インテル社が譲渡した本件ベースバンドチップを用いて「データを送信する装置」や「データ送信装置」を製造するには,さらに,RFチップ,パワーマネジメントチップ,アンテナ,バッテリー等の部品が必要で,これらは技術的にも経済的にも重要な価値を有すると認められること,本件ベースバンドチップの価格と本件製品2及び4との間には数十倍の価格差が存在すること(乙31,32),いわゆるスマートフォンやタブレットデバイスである本件製品2及び4は「インテル・ライセンス対象商品」には含まれていないことを総合考慮するならば,控訴人が,本件製品2及び4の生産を黙示的に承諾していたと認めることはできない。
  なお,このように解したとしても,本件ベースバンドチップをそのままの状態で流通させる限りにおいては,本件特許権の行使は許されないのであるから,本件ベースバンドチップを用いて本件製品2及び4を生産するに当たり,関連する特許権者からの許諾を受けることが必要であると解したとしても,本件ベースバンドチップ自体の流通が阻害されるとは直ちには考えられないし,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が,契約の対象となった個別の特許権の価値に注目して対価を定めたものでないことからすると,控訴人に二重の利得を得ることを許すものともいえない。
  c  次に,インテル社が特許製品の生産を黙示的に承諾する権限を有していたかについて検討する。この点,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が存続しており,かつ,本件ベースバンドチップがその対象となると仮定した場合における,仮定される控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約は,1号製品を含めて「インテル・ライセンス対象商品」についてインテル社に特許権の実施行為を許したものにすぎず,同契約には,これを超えて,インテル社に,1号製品を用いた特許製品の生産を承諾する権限まで与えたことを裏付ける条項は存在しない。その他,控訴人とインテル社間のライセンス契約やこれに対する第2変更契約に至る経緯等をみても,インテル社が特許製品の生産を黙示的に承諾し,控訴人による本件特許権の行使が制限されること等の結論を導く事情があると認めることはできない。
  (エ)  以上よりすると,本件では,控訴人が特許製品の生産を黙示的に承諾しているとは認めるに足りず,また,インテル社にその権限があったとも認めるに足らないから,本件ベースバンドチップを用いて生産された特許製品(本件製品2及び4)を輸入・販売する行為について本件特許権の行使が制限されるものではないと解される。 」

4 検討
 うーん,何か結論ありき(侵害になる)の話ですね。

 まず,気になったのが,最高裁の引用です。
 BBS事件は,消尽の趣旨程度のことを言っただけで,事案は本件と全く違います。
 次の,最判平成19年11月8日は,例のキャノンのインクタンク事件(知財高裁大合議まで行ったものの,最高裁で知財高裁の規範を覆したやつ)で,これも,特許品の改造(穴を開けてインクを補充した)は消尽しないのじゃないかが争われたものです。最高裁の判旨は,「我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,我が国において特許権を行使することが許される」としただけです。

 今回の判決は,正規の間接侵害品でも,それに新たな部品を加えてそれとは同一性を欠く,直接侵害品が新たに製造されたのだから,このインクタンク事件の判決の射程の範囲に入ると考えたようです。

 でも,本当か?インクタンク事件というのは,当該特許品自体に細工をして,こりゃ消尽もリセットされるわいな,的な話だったのです。他方,今回のやつは,当該正規品自体を加工したりしたものじゃありません。正規品の正当な使い方をやっているだけです(チップの改造なんてできませんが。)。

 ただし,じゃあこの判決が不当だとまでは言い切れません。というのは,この判旨にもあるように(インテル社が譲渡した本件ベースバンドチップを用いて「データを送信する装置」や「データ送信装置」を製造するには,さらに,RFチップ,パワーマネジメ ントチップ,アンテナ,バッテリー等の部品が必要で,これらは技術的にも経済的にも重要な価値を有すると認められること,),たかだかちょっとした間接侵害品についてそれが正規品だからと言って,それを使えば直接侵害すらもクリアできるってなると,これは大事です。仮にそれでも消尽だ!ってなると,あまりに特許権者に酷で不当とも思えます。

 今回の判決は,FRAND論点に気を取られて,こういう大事な部分が若干なおざりになっているような気がします。インクタンク事件で行くならそれはそれでいいとは思いますが,事案は違うと思います。ですので,その辺の説明をもっと精緻にやらないとダメじゃないかなあという気がするのですね。

 あと,意見募集には,「意見の中には,諸外国での状況を整理したもの,詳細な経済学的分析により望ましい解決を論証するもの,結論を導くに当たり重視すべき法的論点を整理するもの,従前ほとんど議論されていなかった新たな視点を提供するものがあった。
  これらの意見は,裁判所が広い視野に立って適正な判断を示すための貴重かつ有益な資料であり,意見を提出するために多大な労を執った各位に対し,深甚なる敬意を表する次第である。 」があったようです。
 いやあ皆さん暇ですね~。もっと重要なことに時間を割いた方がいいと思いますよ,ムフフ。
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