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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「共焦点分光分析」とする発明についての本件特許(特許第3377209号)の①特許権の譲渡人である控訴人レニショウ  トランデューサ  システムズ  リミテッド(控訴人RTS)及び②特許権の譲受人である控訴人レニショウ  パブリック  リミテッド  カンパニー(控訴人レニショウ)が,被控訴人(ナノフォトン)に対し,被控訴人が製造,販売している原判決別紙物件目録記載の各分光分析装置(被控訴人製品)が本件発明の技術的範囲に属すると主張して,①控訴人RTSにおいては,その特許権保有中における本件特許権侵害の不法行為に基づいて,損害賠償金8000万円(特許法102条3項)及びこれに対する不法行為後の日で本件訴状送達日の翌日である平成22年12月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合により遅延損害金を,②控訴人レニショウにおいては,一般不法行為(控訴人RTSが有していた本件特許を被控訴人が侵害したことが前提となる。)に基づいて,損害賠償金3億3600万円及び①と同旨の遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案です。

 原審である東京地裁民事29部(大須賀さんの合議体ですね。)平成22年(ワ)4263号(平成25年8月30日判決,)は,「本件発明は,いずれも,「高感度ラマン分光法の最近の動向と半導体超薄膜への応用」に記載された発明(乙16発明)に基づいて容易に想到することができるから,本件発明に係る特許はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものである」として,控訴人らの請求を全部棄却する判決を言い渡しました。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,原審とほぼ同じ理由で,控訴を棄却しました(請求棄却ってこと。)。

 まあ,技術についてはかなり複雑なので,私も完全に理解しておりません。ですが,これを取り上げたのには,理由があります。数少ない,特許法での論点が問題になっているからです。

2 問題点
 問題点を端的に言えば,訂正の再抗弁について,訂正審判ないし訂正請求をする必要があるのか?仮に,あるとしても,常に絶対そうしないといけないのか?という点です。

 まあ,特許って難しいなあと,特許訴訟ってとても手に負えないなあと考えている法曹の方は多いと思います。でもね~所謂法的な論点って少ないですよ。
 勿論,渉外管轄に類するあまり議論されていない論点はありますよ。でも,そんなの,上告理由になると嫌だなあって考える裁判官だけが興味を有するもので(裁判官にお付き合いする提灯持ち系の弁護士にも興味があるのかもしれませんね,この前,クソみたいなアミカスブリーフもどきに応じたような。),通常の実務家は別にどうでもいいよ,んなの,ッて感じです。

 ですが,上記の訂正関係は,実務家が興味を持ちそうな,数少ないまともな法的論点だと思います。

 あ,いちいち,訂正の再抗弁の解説はいいですよね。再抗弁とは,抗弁と両立するけど,抗弁の効果を排斥できるやつですね。ですので,無効の抗弁と両立するかもしれないけど,無効にはならないようにするわけです。ただ,このように書くと,訂正の効果は,少なくとも登録時に遡りますので(特許法128条),そうすると,請求の原因自体が変わるという気もするのですね~。ほんなら,再抗弁ではなく,予備的な請求原因か?とかいう説もありえるわけですが,まあ私は要件事実オタクじゃないので,これはこの辺で。

 この訂正の再抗弁で問題なのは,無効の抗弁は,実際に無効審判を請求しなくてもいいのに,訂正の再抗弁では,訂正審判とか訂正請求とかを本当にしなければならないとされている点です。

 その理由としては,私が訴訟時に一番見る高部さんの「特許関係訴訟」によると,「訂正の内容が新しいクレームとして間違いないものであるというためにも,また再抗弁を認めたにもかかわらず実際には訂正をせず対世的に減縮前の広いクレームのままであることを防止するため」と書かれております。

 ま,この理由はそれなりに合理的なのですが,ただ,平成23年改正法などで,訂正審判,訂正請求できる場合って限られているのです。
 そう,無効審判はいつでも起こせます。別に時期的な制限はありません。
 他方,訂正審判は,まず,無効審判の係属中は請求できません(特許法126条2項)。そうすると,その代わりに訂正請求ということになるのですが,これまた時期が限られてます(特許法134条の2第1項柱書)。

 そうすると,無効という攻撃をされた場合,訂正という防御が上手くできない場合があるわけです。そう,たたいてかぶってジャンケンポン!のときに,ヘルメットなしでやってくれみたいなもんです。じゃんけんに負けなきゃいいじゃんみたいな状況になるわけです。

 ですので,原告である控訴人は,「訴訟の当事者(特許権者)が訂正審判請求又は訂正請求を行いたくても行えないような場合に訂正の再抗弁を認めないとすれば,当該当事者の権利を不当に害することになる。 」と主張したわけです。そりゃそうですよね。

 とは言うものの,いつでも訂正ができないのは,ある意味わかりきったことで(条文もそうなってますので。),そりゃ確かに不公平だなあ~わかりきったことであったとしても酷だなあ~と思えるものしか認められなそうだなあと思えるのも,また自然ですニャー。

3 判旨
「  イ  訂正請求等の必要性について
 特許権侵害訴訟において,被告による抗弁として特許法104条の3に基づく権利行使の制限が主張され,その無効理由が認められるような場合であっても,訂正請求等により当該無効理由が回避できることが確実に予想されるようなときには,「特許無効審判により無効とされるべきものと認められる」とはいえないから,当該無効の抗弁の成立は否定されるべきものである。そして,無効理由の回避が確実に予測されるためには,その前提として,当事者間において訴訟上の攻撃防御の対象となる訂正後の特許請求の範囲の記載が一義的に明確になることが重要であるから,訂正の再抗弁の主張に際しても,原則として,実際に適法な訂正請求等を行っていることが必要と解される。
 仮に,訂正の抗弁を提出するに当たって訂正審判等を行うことを不要とすれば,以下のような弊害が生じることが予想される。すなわち,①当該訂正が当該訴訟限りの相対的・個別的なものとなり,訴訟の被告ごとに又は被疑侵害品等ごとに訂正内容を変えることも可能となりかねず,法的関係を複雑化させ,当事者の予測可能性も害する。②訂正審判等が行われずに無効の抗弁に対する再抗弁の成立を認めた場合には,訴訟上主張された訂正内容が将来的に実際になされる制度的保障がないことから,対世的には従前の訂正前の特許請求の範囲の記載のままの特許権が存在することになり,特許権者は,一方では無効事由を有する部分を除外したことによる訴訟上の利益を得ながら,他方では当該無効事由を有する部分を特許請求の範囲内のものとして権利行使が可能な状態が存続する。
 したがって,訂正の再抗弁の主張に際しては,実際に適法な訂正請求等を行っていることが訴訟上必要であり,訂正請求等が可能であるにもかかわらず,これを実施しない当事者による訂正の再抗弁の主張は,許されないものといわなければならない。なお,無効の抗弁が,実際に無効審判請求をしなくても主張できると解される一方で,訂正の再抗弁は,実際に訂正審判等をする必要が求められるわけであるが,これは,無効の抗弁が,客観的根拠を有する証拠等に基づいて主張する必要があるのに対し,訂正の再抗弁は,所定の要件さえ満たせば特許権者において随意の範囲にて主張することが可能であることに由来する相違であって,両者の扱いに不合理な差別があるわけではない。
 ただし,特許権者が訂正請求等を行おうとしても,それが法律上困難である場合には,公平の観点から,その事情を個別に考察して,訂正請求等の要否を決すべきである。その理由は以下のとおりである。
  ウ  例外となる背景事情
 平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)においては,特許無効審判が特許庁に係属している場合,当該無効審判に係る審決取消訴訟を提起した日から起算して90日の期間内に限り,訂正審判請求ができるとし(旧特許法126条2項),裁判所は,当該訂正に係る特許を無効審判において審理させることが相当であると認めるときには,事件を審判官に差し戻すことができると定めていた(旧特許法181条2項)。これらの規定は,裁判所から特許庁への柔軟な差戻しを認めるとともに,特許権者において,当該審決に示された判断を踏まえて合理的な期間内に無効理由を回避する訂正をし,特許庁において,改めて訂正後の特許の有効性を判断することにより,特許発明の保護を図るという利点をもたらす一方で,特許権者が訂正審判請求を繰り返すことにより,審理又は審決の確定が遅延するという問題点を有していた。そこで,平成23年法律第63号による改正後の特許法(以下「新特許法」という。)は,審決取消訴訟提起後の訂正審判請求を禁止し(旧特許法181条2項の削除,新特許法126条2項),併せて,無効審判手続における審決予告制度(新特許法164条の2第2項)を導入し,特許権者において,無効審判請求に理由があるとする予告審決を踏まえて訂正請求をすることを可能とした(新特許法134条の2第1項,164条の2第2項)。
 したがって,新特許法下においては,裁判所に審決取消訴訟に提訴され,これが係属している間,審理の迅速かつ効率的な運営のために,特許権者が訂正請求等を行うことは困難となったものである。
 また,旧特許法下においても,例えば,特許権侵害訴訟において被告が無効の抗弁を主張するとともに,同内容の無効審判請求を行った後に,被告が,新たな無効理由に基づく無効の抗弁を当該侵害訴訟で主張することが許され,その無効理由については無効審判請求を提起しないような例外的な場合は,既存の無効審判請求について訂正請求が許されない期間内であれば,特許権者において,新たな無効理由に対応した訂正請求等を行う余地はないことになる(新特許法下においても同様である。)。
 以上のような法改正経緯及び例外的事情を考慮すると,特許権者による訂正請求等が法律上困難である場合には,公平の観点から,その事情を個別に考察し,適法な訂正請求等を行っているとの要件を不要とすべき特段の事情が認められるときには,当該要件を欠く訂正の再抗弁の主張も許されるものと解すべきである。
 そこで,上記特段の事情について具体的に検討する。
  エ  本件における具体的事情
a  控訴人らは,平成22年11月16日,本訴を提起したところ,被控訴人は,平成23年12月22日原審第6回弁論準備手続期日において,乙16発明に基づく進歩性欠如を含む無効の抗弁を主張し,同日付けで控訴人らはこれに反論した。その後,控訴人レニショウは,平成24年7月3日,本件訂正審判請求をし,同年9月11日,本件訂正を認める審決が行われ,控訴人らは,平成24年9月18日,原審において本件訂正に基づく訂正の再抗弁を主張した。
 さらに,被控訴人は,平成24年11月5日,特許無効審判請求(無効2012-800183号)をし,平成25年7月2日,無効不成立の審決が行われたことから,これに対する審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10227号)を提起した。その後,平成25年8月30日,乙16発明に基づく進歩性欠如を理由とする無効の抗弁を認めた原判決が行われ,控訴人らの請求が棄却された。
 これに対し,控訴人らは,控訴を提起するとともに,当審における主張として新たな訂正の再抗弁を主張した。
b  以上の経緯によれば,現時点において,知的財産高等裁判所に上記審決取消訴訟が係属中である以上,特許権者である控訴人レニショウは,訂正審判請求及び訂正請求をすることはできない(特許法126条2項。同法134条の2第1項参照。)。
 しかしながら,控訴人らが,当審において新たな訂正の再抗弁を行って無効理由を解消しようとする,乙16発明に基づく進歩性欠如を理由とする無効理由は,既に原審係属中の平成23年12月22日に行われたものであり,その後,控訴人レニショウは,平成24年7月3日に本件訂正審判請求を行ってその認容審決を受けている。また,被控訴人が平成24年11月5日に乙16発明に基づく進歩性欠如を無効理由とする無効審判請求を行っていることから,控訴人レニショウは,その審判手続内で訂正請求を行うことが可能であった。さらに,新たな訂正の再抗弁の訂正内容を検討すると,本件発明である共焦点分光分析装置として通常有する機能の一部を更に具体的に記載したものであって,控訴審に至るまで当該訂正をすることが困難であったような事情はうかがわれない。
 すなわち,控訴人レニショウは,乙16発明に基づく無効理由に対抗する訂正の再抗弁を主張するに際し,これに対応した訂正請求又は訂正審判請求を行うことが可能であったにもかかわらず,この機会を自ら利用せず,控訴審において新たな訂正の再抗弁を主張するに至ったものと認められる。
 そうすると,控訴人レニショウが現時点において訂正審判請求及び訂正請求をすることができないとしても,これは自らの責任に基づくものといわざるを得ず,訂正の再抗弁を主張するに際し,適法な訂正請求等を行っているという要件を不要とすべき特段の事情は認められない。  
  したがって,控訴人らの新たな訂正の再抗弁の主張は,その余の点について検討するまでもなく,失当というべきである。 」

4 検討
 ちょっと長いですが,規範とあてはめ,両方抜き出しました。要するに,上記に高部さんの本に載っていた理由で,訂正の再抗弁については,現実に訂正審判ないし訂正請求をしないといけない,ただし,例外的にやらなくてもよいときもあるが,それは極めて限局された特別の事情のあるときだけだ!ってことです。

 ところで,無効審判ー審決取消訴訟ルート(平成25(行ケ)10227号,知財高裁平成26年9月17日判決,これも清水さんの合議体です。)は,無効審判では有効だったのですが,審決取消訴訟で逆転で進歩性なし(甲13発明が引例で,侵害訴訟でいう乙16発明と同じものです。)となっております。

 そういう事情からすると,判決は上記のとおり,「被控訴人が平成24年11月5日に乙16発明に基づく進歩性欠如を無効理由とする無効審判請求を行っていることから,控訴人レニショウは,その審判手続内で訂正請求を行うことが可能であった。」とありますが,勝ち筋の無効審判で何故訂正請求しますかね~バッカじゃなかろか~何これ,ヒラメ?,事なかれ主義?いやあ,ちょっと前は特許庁が変な審決を出して頭わりーなあこいつら,と思う判決が結構多かったのですが,何か最近,裁判官が変な判決を出して頭わりーなあこいつら,と思う場合が多いような気がしますね。あ,最近じゃなく前からでしたか。

 いやあ,これは是非上告ないし上告受理の申立てをやって欲しいですね~。

 あと,今週裁判所HPにアップされた判決は,結構面白いというか重要なものが多い気がします。順次紹介していこうと思いますが,興味のない人はどっか他の所行った方がよいかもしれません。

5 追伸
 今日はかなり暑い東京です。30度にはギリギリ足りなかったようですが,夏が戻ってきたような感じです。朝,通勤のときにツクツクボウシが鳴いておりました。恐らく,セミの声も今日が最後でしょう。

 ほんで,その暑い中,霞ヶ関の農水省まで,地理的表示法の研修を聞きに行ってきました。私の弁護士の同期の人で実にこの件に詳しい人も居て,立法に関する論文のリプリントをもらったりしたのですが,何せぐうたらなもんで,聞きに行った方が早いや~♪という所だったのですね。

 で,私史上農水省に入ったのは初めてです。実は農水省は,裁判所と弁護士会の道路を挟んだ対面にあるので,いつも近くまでは行ってたわけです。でも入構する用なんてありませんので,今回お初ということです。

 まあ内容はいいですかな。
 あと説明してくれた中嶋邦人法令専門官ですが,大手事務所からのインハウスと思ったのですが,裁判所からの出向組のようですね。期は新62期で,例の尾島明裁判官と同じパターンですね。将来の司法行政エリートコースってやつでしょう。

 ほんで,質問コーナーがあったのですが,弁理士や弁護士がかなり出席していたのがわかりました。農水省の方としては,地方公共団体の人にたくさん質問してもらいたく,その旨のアナウンスもあったのですが,豈図らんや質問する大勢は,代理人組。まあ,私に限らず,弁理士も弁護士も仕事に窮して,新しい仕事を探しているんでしょうねえ。

 そんな感じで,代理人組が質問を連発し,特に,弁理士が殆どでした~。しかも,結構しょうもない質問をアレヤコレヤするので,法令専門官もかなりキレ気味でしたな~。いやあ,頭のいい人がキレる一番ありがちなパターン,アホな質問を繰り返すことに対して,まだまだ新62期,ケツが青いって感じでした。

 でも,非常に良い勉強になりました。地域団体商標よりもうまくやれば使えると思います。私もうちの田舎の団体の人達をうまくだまくらかして,一儲けといきたいところですが,この法律が施行されるのは,来年の6月~♡。慌てる乞食はもらいが少くなると嫌なので,スカして待ってましょうかね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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