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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 平成22年12月6日,名称を「デマンドカレンダー」とする発明について,特許出願(特願2010-271825)した原告が,特許庁より平成23年8月24日付けで拒絶査定がされ,これを不服として,同年11月25日,拒絶査定不服審判請求(不服2011-25478)をしたものの, 拒絶審決(進歩性なし)を下されたため,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(飯村さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,審決の認定は間違っている,ということですね(進歩性があるかないかはまだわからない。)。

 まあ,進歩性の話ですし,技術も理解しやすいものだったので,これを取り上げました。
 
2 問題点
 ということで,問題点は,進歩性なのですが,今回の事件は,事実認定の所が問題となったものです。つまりは,審決の判断が覆りやすい,ここで事件が受任できると極めて美味しい~♫所ですね。

 他方,そういう所ですので,こういう判決の評釈では,評釈のしようもない,という場合も多いです。本来,こう認定すべきなのに,この点は看過されている~,要するに,本来相違点として取り出すべき所をここは引例に書かれていると認定しちゃったのが,典型例です。

 で,今回もその典型例と言えば,ド典型です。

 クレームから見ましょう。
 「一の電気料金請求期間を一枚に収め,かつ同期間の最初の日から最後の日まで日単位で一定区画を占有させ,同じ週の各日の区画は左から右へ横方向に並べ,同じ曜日の各日の区画は上から下へ縦方向に並べて配置されたカレンダーであって,
  各日の区画の横軸として,縦方向に眺めた場合に各日の区画にて同じ曜日の同じ時刻の目盛となるように左から右へ向かう時間経過で配置される時刻軸と,
  各日の区画の縦軸として,横方向に眺めた場合に同じ週の各日の区画にて同じデマンド値の目盛となるように配置されるデマンド値軸と,
  各日の区画にて前記各軸の目盛に従って各デマンド時限のデマンド値を指示するデマンド値指示と,を有し,
  各日の区画は,各日の日出時刻と日没時刻を前記時刻軸の目盛に従って指示する日出没時刻指示を有するデマンドカレンダー。

 若干わかりにくいですが,判決の一番下に,図1が載っていますので,それを見るとよいと思います。平たく言うと,月単位のカレンダーの日にちの部分に,日毎の棒グラフがセットされたようなカレンダー,です。

 で,問題となったのは,その棒グラフの,横軸の区分でもあるデマンド時限と,縦軸のデマンド値が,引例に本当に開示されていたのか?という点です。

 審決の一致点です。

一の期間を一枚に収め,かつ同期間の最初の日から最後の日まで日単位で一定区画を占有させ,同じ週の各日の区画は左から右へ横方向に並べ,同じ曜日の各日の区画は上から下へ縦方向に並べて配置されたカレンダーであって,
  各日の区画の横軸として,縦方向に眺めた場合に各日の区画にて同じ曜日の同じ時刻の目盛となるように左から右へと向かう時間経過で配置される時刻軸と,
  各日の区画の縦軸として,横方向に眺めた場合に同じ週の各日の区画にて同じデマンド値の目盛となるように配置されるデマンド値軸と,
  各日の区画にて前記各軸の目盛に従って各デマンド時限のデマンド値を指示するデマンド値指示と,を有する
  デマンドカレンダー。

 ということで,審決は,横軸のデマンド時限と,縦軸のデマンド値とも,基本引例に載っているよ~と認定したのです。
 
 ま,それで,上記のとおりの判決ですので,判決が引例には載っていない,と判断したのは,そのとおりで,それだけの話なら,別にこの偏屈のへそ曲がりが取り上げる必要は全くありません。

 着目すべきは,その後です。実は,旗色が悪いことがわかった特許庁は,例によって例のごとく,周知慣用として,色々追加しているのですね。ですので,本件を取り上げた意義は,最近の私の問題意識,特許庁の周知例と慣用技術の使い方ってどうなのよ?っていう所にあります。

3 判旨
 「 本願発明は,従来技術においては,各日の各デマンド時限のデマンド値を把握しつつ,他の複数の日のデマンド値と比較することが困難であったとの課題を解決するための発明である。本願明細書には,「デマンド時限」とは電力会社などが設定した時間の区切りであって,例えば「0~30分,30~60分」の30分間の単位が考えられるとされ,「デマンド値」とはデマンド時限における平均使用電力を指し,「デマンド値」が,電気料金の基本料金の計算に使用されたり,契約電力の基準とされたりするため,過去所定期間(例えば,過去12カ月)の最大値を更新しないように対策を立てる必要がある旨が記載されている。
  他方,引用例1には,「所定の時間」について,電力会社などが設定した時間の区切りであることや,「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」が,電気料金の基本料金の計算に使用されることや契約電力の基準となることについての記載及び示唆はない。のみならず,引用例1では「一例として,以下では1時間毎のエネルギ消費量を計測可能であるとする」としており,電力会社で通常採用される30分単位のデマンド時限(甲9)と異なる単位時間を例示していることからすれば,引用発明においては,当該「所定の時間」としてデマンド時限を採用することは示されていないと解するのが相当である。
 そうすると,引用発明に,「各日の区画にて各軸の目盛に従って各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示するエネルギ消費量の実績値の棒グラフによる表示と,を有する」との構成中の「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示する」との技術事項が記載,開示されているとした審決の認定には,誤りがある。
  以上に対して,被告は,乙1ないし乙4を提出し,「電力量計で計測する単位時間をデマンド時限として設定すること」及び「デマンド時限として1時間を単位とすること」は周知慣用であるから,引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限を単位時間として行うことも認識すると主張する。
  しかし,これらの事項が周知慣用であったとしても,引用例1において,「所定の時間」及び「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」との記載が,デマンド時限及びデマンド値として認識され,開示されるものではない。このように,デマンド時限及びデマンド値を開示しない引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限を単位時間として行うことを認識するともいえないから,被告の主張は採用の限りではない。

4 検討
 若干わかりづらいですが,引用発明では,30分単位のデマンド時限の記載はなく,周知慣用にも,30分単位のデマンド時限の記載はないのですね(勿論,デマンド値の方も)。

 そうすると,引用発明との一致点として,周知慣用を加味して,その範囲が若干広がったとしても,差異が残ってしまうということなのでしょうね。
 ま,この後,ここは差異としても,差し戻しの審決としては容易に発明できたということもあり得ますので,個別の話はここまでにしておきましょう。

 ただ,やはり,差異を完全に無くすような引例,周知慣用を探すというのは,骨が折れます。
 昔は,特許庁でかなり荒っぽい認定をして,それを裁判所(高裁)も追認していたような時代が長かったので(いやあ全く刑事事件と同じ構造です。検察庁の単なる追認機関,それが裁判所~♫特許庁の単なる追認機関,それが東京高裁~♫),引例探しの下手さが表に出なかったのでしょうね。

 でも,今や遅れてきたプロパテントということで,知財高裁は,かなり分析的に判断しております。上でも書きましたが,今回は,審決を取り消すほどのもんかということがイマイチ明快ではありません。それでも取り消すということは,知財高裁の進歩性に対する態度が逆に如実に出ていると思うのですね。

 そう,だから,権利行使をするのはいつ?今でしょ!ってわけなのですかねえ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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