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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成19年7月17日,名称を「コークス炉炭化室の診断方法」とする発明について原出願日を平成14年4月26日としてした特許出願(特願2002-126661号。国内優先権主張:平成13年10月9日。原出願。)について分割出願(特願2007-186219号。本件出願。)をした原告が,平成23年1月13日付け手続補正書により特許請求の範囲の請求項について補正をしたものの,平成23年4月14日付けで拒絶査定を受けたことから,同年7月15日,これに対する不服の審判を請求したところ,特許庁から拒絶審決(明確性要件違反)を受けたため,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁4部(富田さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,明確性要件違反はない!というわけです。

 ま,記載要件の中でも珍しい明確性の要件,この違反が問題となっていたので取り上げたわけです。

 クレームは,こうです。
 「【請求項1】
 炉壁間距離測定手段を用いて,コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離をコークス製造毎に測定することによって実測炉壁間距離変位線を求め,
 前記実測炉壁間距離変位線に基づいてカーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均すことにより前記実測炉壁間距離の平準化変位線を求め,
 前記平準化変位線と前記実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和をコークス製造毎に求め,
 前記面積の総和の変化に基づいて,炉壁状態の変遷を診断することを特徴とするコークス炉炭化室の診断方法。

 そして,審決の具体的な指摘は,実測炉壁間距離の平準化変位線を求めるために行う「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」との記載は明確であるとはいえないというものです。

 うーん,均すという字の読み方がわからなかったのかな??

2 問題点
 問題点は以上のとおりの明確性要件です。いつものように条文からです。特許法36条6項2号です。

 「6  第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
  二  特許を受けようとする発明が明確であること。

 ただ,明確性要件自体,抽象的にはそのとおりだ~という趣旨もわかるのでしょうが(刑罰法規の明確性の要件と同じ),じゃあ具体的にこれに違反するものって何のよ??ってなると結構難しいです。

 ということで,審査基準には,明確性要件違反となる何通りかのパターンが載っています。

・請求項に日本語として不適切な表現がある結果、発明が不明確となる場合。
 ・発明を特定するための事項の内容に技術的な欠陥がある場合。
 ・発明を特定するための事項の技術的意味が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである場合。
 ・発明を特定するための事項どうしの関係が整合していない場合。
 ・発明を特定するための事項どうしの技術的な関連がない場合。
 ・特許を受けようとする発明の属するカテゴリー(物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明)が不明確であるため、又は、いずれのカテゴリーともいえないものが記載されているために、発明が不明確となる場合。
 ・発明を特定するための事項が選択肢で表現されており、その選択肢どうしが類似の性質又は機能を有 しないために発明が不明確となる場合。
 ・範囲を曖昧にする表現がある結果、発明の範囲が不明確な場合。

 ただ,知財高裁で争われるような明確性のパターンは決まっておりまして,ここでも何度か取り上げた「粒径の平均」パターンですね。
 要するに,粒径と言っても,真球に近いものじゃない場合,どこを測るかでまず争いがあるし,それが決まっても,平均と言っても相加平均もあれば相乗平均もあるし,中央値や最頻値もあるし,さらにそれが決まっても,どんな測り方をするかでまたまた争いがあるし,全然一義的じゃないだろ!というパターンですね。

 で,本件でもそうです。ここは原告の主張に端的に現れております。「要するに,平準化変位線は一義的に決まるものではなく,多数の可能性があり得るから,本願発明が明確ではない,というものである。」「どのようにして平準化変位線を求めるかはコークス炉炭化室の診断結果に大きく影響を与えるから,平準化変位線は「発明の課題が達成される程度に明確」であるとはいえない」と審決が判断したようですね。やっぱ,均す,の字が読めなかったのかなあって気がします。

3 判旨
「「均す」という言葉自体は「たいらにする。高低やでこぼこのないようにする。」と,「平準」という言葉自体も「物価の均一をはかって,でこぼこのないようにすること。」と一般に理解されており(岩波書店「広辞苑第6版」。甲12),また,いずれの言葉も多数の特許請求の範囲の記載で使用されている技術用語であること(甲13~23)は当事者間に争いがないことを考慮すれば,本願発明1における「平準化変位線」について,当業者は,実測炉壁間距離変位線に基づいて「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位」を「たいらにする。高低やでこぼこのないようにする。」ことによって求めるものであると認識し,かつ,本願発明1が,こうして求めた平準化変位線と実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和をコークス製造毎に求め,上記面積の総和の変化に基づいて,炉壁状態の変遷を診断するものであることを理解することができるから,本願発明1の「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」との記載の技術内容自体は明確である。
 したがって,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができる。」

「被告は,この点について,本願明細書の段落【0003】にあるように,炉壁の様々な劣化状態を詳細に観察することやその状態を特定する手段がなかったというこの分野における従来の状況を踏まえれば,「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」際の均し方の方法や基本的な指標等を何ら特定することなく,単に「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」と記載しただけでは,本件出願当時の技術常識を考慮しても,具体的にどのような方法,指標・指針・考え方に基づいて行われるのかが明らかではなく,技術的に十分に特定されているということはできない旨主張する。
 しかし,本願発明1の「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」との記載の技術内容自体は明確であり,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができることは,前記のとおりである。
 そして,「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」ための具体的な方法,指標・指針・考え方を発明特定事項としていないからといって,本願発明1が不明確となるものではない。発明の解決課題及びその解決手段,その他当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項(特許法施行規則24条の2)は,特許法36条4項の実施可能要件の適合性において考慮されるべきものであって,発明の明確性要件の問題ではないと解される。」

4 検討
 どうやら本当に均す(ならすと読みます。)の字が読めなかった審判官,と認定されてしまったようですが,ま,理系なので仕方がないですよね。

 明細書用語で「略」というのもよく使いますが,これをお客さんの前で,りゃく,リャク!と大声で読んでいた代理人を知っています。
 いやあ恥ずかしいですね。これは,「ほぼ」と読みます。皆さん,特に理系の人,間違えないでね。でも,均すは私も辞書引きましたが。

 さて,重要なのは,判例となりうる所(主文に直接結びつく判示)ではなく,傍論の所(主文には直接結びつかない判示,例えば上記のとおり私が線を引いたところ)じゃないかなあと思います。

 明確性の要件って,基本言葉の意味が,何言ってんだこいつみたいなものだと思うのですね。だから,粒径の平均パターンと言っても,本当に何言ってんだこいつっていうのは少ないと思うのです。だって,粒径の平均って言っても,それ自体はわかるんじゃないですかね。

 他方,みゅう径の平ちんなんて言って誰がわかるでしょう?みゅうの定義がないとようわからんし,平ちんて?普通のちん○のこと?そういえば,昔コンバトラーVの終わりの曲の,身長57mの所を,ちん長57mというのが流行ってましたね~♫全く関係ないですが。

 そういう場合に,明細書中に定義も測り方も無ければ全くわからず,不明確となるでしょうけど,言葉の意味がわかるんだったら,不明確じゃないですよね。言葉の意味がわかったとしても試行錯誤しなきゃいけないんだったら,他の,実施可能要件とかサポート要件で捕捉すりゃあいい!全くそのとおりですね。

 ま,議題が本格的に逸れる前に一旦終了しましょう。

5 東京は比較的温暖な12月の入りだったのですが,昨日の雨以来,非常に冷え込んできております。いやあ,寒いの苦手な私は,もうGWくらいまで冬眠したいのですが,なかなかそうもいきません。あ~早く夏にならないかなあ。


 


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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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