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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 平成16年4月8日,発明の名称を「コンタクト情報の要求を非公開加入者に通知するシステムと方法」とする国際特許出願をした(特願2006-509789,パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理,2003年4月8日,米国。)原告が,特許庁から,平成22年7月30日,拒絶査定を受け,同年12月8日,審判請求をしたものの,結局,平成24年11月12日,特許庁が拒絶審決(進歩性なし)をしたことから,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。つまりは,審決とおり,やはり進歩性なし,ということですね。

 ここで進歩性の記事は珍しくはないとは思いますが,進歩性なしのときに紹介するのは珍しいと思います。その理由は,私の中での最近の流行り,周知技術等の取り扱いについて,興味深い判示があったからですね。

 まずは,クレームから見てみましょう。

遠隔通信加入者の通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を明かすことなく,遠隔通信加入者の通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を有する遠隔通信加入者に通知メッセージを送るための方法に於いて, 遠隔通信加入者の非公開コンタクト情報の要求者に,該要求者によりウエブイネーブルドデバイスに送られ又は中央ネットワークステーションに接続されたディレクトリー支援サービスプロバイダーに要求者の音声によって搬送され,続いて,メッセージのタイプに関する情報を含み,電子的形態である通知メッセージを提供するよう電子的形態に転換される電子的形態の通知メッセージを,前記遠隔加入者の通信装置の前記コンタクト情報を取得可能である前記中央ネットワークステーションがルーテイングして,加入者の通信装置のコンタクト情報の知識無く,前記遠隔通信加入者の前記通信装置に間接的に送る機会を提供する過程と,加入者が通知メッセージを無視したり,又は前記要求者が前記遠隔加入者に間接的にコンタクトできるように,前記要求者による通知メッセージを受ける前記通信装置からこの通知メッセージ中に与えられる回答用電話番号に直接に電話するかテキストメッセージを送信するかして,通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を公表すること無く接続が起こることができるように,テキストメッセージによって前記通知メッセージを,前記メッセージのタイプの表示とともに,前記遠隔通信加入者の前記通信装置に送る過程と,そして前記通知メッセージを送るための料金を前記要求者に課金する過程と,を具備することを特徴とする方法。

 長い上に,下手くそな日本語でわかりにくいったりゃありゃしません。これだから,理系の書く言葉はダメなんだよなあって感じです。
 え,翻訳会社のそのままで大してチェックしてないだけだろって?,そんな裏話しちゃあダメですよ,だって,いやしくも弁理士が出願代理しているわけですからね。

 このクレーム読んでパッと何のことだかわかる人はいますかね~。
 私の修習時代の刑裁教官曰く,岩永さん(おっさん修習生だったので,さん付です。),明細書ってわかりにくいね~,いやあ何であんなに,わかりにくいんだろう,ってことですから。

 技術がわかりにくい,こりゃまだわかりますよ。ある程度の専門教育を受けないと専門用語ってわかりにくいですからね。
 でも,今回のクレームを見てください。そんな問題じゃないことがわかりますよ。ちなみに,明細書はもっと酷いです。

 ま,きちんとした日本語教育を受けないとこうなるって感じですニャ~。

 おっとまた論点がずれそうだったので,戻りましょう。判旨にきちんとまとめがあるので,これを読んだ方が早いです。

本願発明は,遠隔通信サービスのシステム及び方法に関するもので(段落【0001】),従来,遠隔通信サービスでは,コンタクトされるべき場所のコンタクト情報(電話番号,イーメイルアドレス(e-mail  address)等)を知ることが必要であるため,場所用のコンタクト情報のデータベース又はディレクトリーが開発され,ローカルの及び国のディレクトリー支援プロバイダーは,電話での要求時コンタクト情報を発生し供給していたところ,遠隔通信サービスの多くの加入者は,コンタクト情報を広めないことを望み,非公開情報のディレクトリー支援要求者は,コンタクト情報へのアクセスを否定される(段落【0003】,【0005】)ことに鑑み,非公開加入者(コンタクト情報が公開されてない加入者)が非公開コンタクト情報を明かすことなしにコンタクトされ得るシステムと方法を持つことを目的としたものである(段落【0006】)。

 これだと多少何だかわかりますよね,少なくともわかったような気にはなります(元が酷いので,噛み砕きようにも限界があるって感じはしますがね。)。

 兎も角も,こんな機械翻訳に毛が生えた程度のものは,日本語じゃあないですわな。
 福沢諭吉じゃないですが,わかりにくい文章を書く人は,そもそも分かっていないか,権威付けしたいかのどちらかだと思います。

 で,引用発明と比べた相違点2がこれです。
(相違点2)
  本願発明では,「前記通知メッセージを送るための料金を前記要求者に課金する過程」を具備しているのに対し,引用発明では,「プッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」る「メッセージ」を「ショートメール」で,送信する場合に,照会者(本願発明の「要求者」に相当する。以下同様。)に課金する過程を具備しているか明らかでない点。

 これが基本的に大きく争われた点なのですが,この手の出願等をよく扱っている人はわかりますよね。この手の通信系の発明で,課金する過程とか,課金ステップとか,課金サーバーとか加えても新規性はクリアできても進歩性はクリアできませんよね。
 ですので,この争点が大きく争われたという事実だけで,ああ負け筋~と感じたと思います。

2 問題点
 長々と前置きしましたが,毎度のことですので,お許しを。
 さて,争点は進歩性で,直接の大きな争点は,この相違点2の判断の誤りということでした。
 といいますのは,審決は,この相違点2を微差だと判断しているからです。
 「(相違点2)
  電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金をすることは,例えば,米国特許第5613006号明細書(周知例1)第1欄「BACKGROUND OF THE INVENTION」(発明の背景)の第2段落に「ナイネックス(地域的なベル事業会社)は,電話番号を電話帳に載せないままでいることを好む人々に対して,発呼者が,録音されたメッセージを残すことを初めて可能にするサービスのテストを行っています。電話番号案内を呼んだものの,その電話番号がリストには掲載されていないと伝えられた人々は,メッセージを残すオプションが与えられているとの録音音声を聞くでしょう。リストに無掲載の電話番号を有する顧客は,受信メッセージをすべて拒絶する選択権を持つでしょう。ナイネックスは,メッセージを残すために発呼者に代金を請求することを計画しています。」と記載されているように,周知の技術(周知技術1)である。
  よって,引用発明に上記周知技術を適用し,引用発明において「プッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」る「メッセージ」を「ショートメール」で,送信する場合に,該「メッセージ」を「ショートメール」で送るための料金を照会者(要求者)に課金することは,当業者が容易になし得たことである。
 ですので,この判断を何とか覆さないといけない,のですが,ポイントは,ここで,周知例1が使われていることです。

 そう,周知例の使い方です!ここで何度か説明したように,そして判例時報で私が評釈を書いたように,周知例から過度の抽象化一般化はしちゃあいけない,のです。そんなことをやると条文を越えてしまうことになるからです。

 ですが,別に,過度の抽象化一般化をしちゃいけないだけで,ある程度の抽象化一般化なら許されるわけです。だって,同じ波が二度とないように,同じ事件も二度とないわけです。多少抽象化一般化しないと,全く同じ事件が再審でやってこない限り,何ら手も足も出ないってわけになっちまいますからね。

 で,原告は,「  周知例1(甲2)は,「メッセージを残す」サービスを利用する者に課金することを示しているが,審決は,周知例1の記載「メッセージを残すサービスを利用する者に課金する」から離れて,「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金すること」が周知技術であると認定している。これは,周知例1の具体的な記載を一般化又は上位概念化したものといえるが,当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に当たって,特定の引用文献の具体的な記載を離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化することが当然に許容されるわけではない。
 また,特許・実用新案審査基準の周知技術の認定に関する記載によると,ある技術が周知技術であると認定するためには,「相当多数の公知文献が存在し,又は業界に知れわたり,あるいは,例示する必要がない程によく知られている」ことを立証する必要があるから,周知例1ただ1つのみをもって,「電話番号案内サービス・・・課金すること」を「周知」な技術とした審決の認定は誤りである。 」と主張したわけです。

 何か,こう言うしかなかったのかなあと若干同情もしたくなりますなあ。ささ,判旨に行ってみますか。

3 判旨
「この点,原告は,審決における周知技術1の認定は,「特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化」をしたものであり,審決における周知技術1の認定には誤りがある,周知例1ただ1つのみをもって周知技術1を認定した審決の認定は誤りであると主張する。
 しかし,そもそも周知技術1は,証拠がなければ認定が困難な特殊な技術ではなく,電話会社の営業活動としてありふれた一般的サービスといえるから,周知例1の具体的記載との関係を問題とするまでもなく認定できるものである。しかも,複数のサービスが存在する場合に主眼となるものと従たるものが併存するときには,その関係は基本的サービスとそれに関連した付加的なサービスに当然に分類されるのであって,これを抽象化や上位概念化と認識すべき理由はない。周知例1では「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)」がサービスの主眼となるから基本的サービスに分類されるのに対し,利用者への課金は「メッセージを残す」サービスに対するもので,基本的サービスそのものに対する課金ではない以上,「基本的サービスに関連した付加的なサービス」への課金に当たることになるだけであって,審決の認定が,「特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化」をしたとはいえない。
 また,上記のとおり,周知技術1を認定するに当たって証拠を掲げる必要性は必ずしも高くない上に,周知例1の記載からすれば,付加的なサービスの有料化という周知技術1の存在がうかがわれるのであって,周知例1ただ1つの周知例に基づいて周知技術の認定をしたものとはいえない。現に,携帯電話通話サービスという基本サービスに対して,関連したオプション的なサービス(留守番電話やキャッチホンサービス等)を有料とすることは周知技術であることが,他の周知文献からも裏付けられている(乙1)。
 よって,原告の主張はいずれも採用できない。 」

4 検討
 何か,私の判例時報の評釈読んでんのかなあと思わせる主張だったので,非常に申し訳ない所ですが,こりゃあしょうがないですよ。
 「課金」は上記のとおり負け筋なので,それに拘っちゃあ,どんな理屈付けも単なる屁理屈ですね。

 でも,負け筋に拘ったのは,そこしか戦える所が無かったからでしょうね。つまりは,ほぼドンピシャの引用発明を特許庁に見つけられてしまったからです。

 こういう場合は諦めるしかありません。ということは~つまりは~クライアントをいかにうまく説得するか,ここが代理人の腕の見せどころっという具合ですわな。

 ま,ただ,そこでうまく説得できた場合,事件化できないわけですので,御ゼニゼニをもらう機会を逸することにもなるわけで,私のような悪徳金権弁護士からすると,痛し痒しって所ですね~おっホホホ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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