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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「階段化されたオブジェクト関連の信用決定」とする発明について,平成16年7月22日を国際出願日として特許出願(パリ条約による優先権主張の優先日・平成16年2月17日,優先権主張国・米国,国際公開・WO2005/081666,国内公表・特表2007-522582)をした原告(マイクロソフト)が,特許庁から拒絶査定を受けたので,平成23年4月1日,不服の審判請求をした(不服2011-6890号)ものの,拒絶審決(進歩性なし)を下されたため,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,進歩性なしとは言えない,ということです。

 何か久々の進歩性の話ですが,ここに来て漸く知財の判決で,面白そうなのがアップされました。候補としては,このマイクロソフトの審決取消訴訟と,例の切り餅特許の第二弾的な判決と,商標の51条の不正使用取消の判決と,3つありました。どれも,知財高裁2部です。

 その中で,まずは,マイクロソフトの審決取消訴訟を選びました。

2 問題点
 と選んだと言っても,進歩性が論点ではあるのですが,大した論点ではありません。

 進歩性の場合,例えば,一致点相違点認定などの,所謂事実認定の部分と,想到容易かどうか判断する評価的な部分とに大きく二分され,前者は,判断が覆りやすいものの,極めて技術的な話のために汎用性がなく,法的な問題点としては,大したことがない!ということは常々ここでも言っております。
 
 そして,今回はその前者,事実認定の所で決着がついていますので,少なくとも文系法曹やら学者には何ら興味の惹くものはないと思います。

 でも,何故これを取り上げたか,それは今後です。クレームを見てみましょう。

【A】ウェブページに関連付けられたオブジェクトを検出することと,
【B】前記オブジェクトがユーザによって開始されたかどうかを判定することと,
【C】前記オブジェクトがユーザによって開始されていないと判定された場合,複数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し,前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制することと,
【D】前記オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するためのモードレスプロンプトを表示することと
【E】を備えることを特徴とする方法。

 おー,ウェブの話か~,難しそうだなあって感じですが,実はそうではありません。まず,オブジェクトですが,明細書には,「このようなオブジェクトの例には,広告ソフトウェア(「アドウェア」)およびウイルスプログラム(「ウイルス」)が含まれる。」とあります。
 つぎに,モードレスプロンプトですが,判決には「モードレスプロンプトは,オブジェクト関連のアクションが抑制されていることをユーザに通知し,抑制されたオブジェクト関連のアクションのアクティブ化を対話式に受諾又は拒否する機会をユーザに提供するものであり(他の操作を受け付ける。)」とあります。

 ま,要するに,初めて訪れるようなウェブページを開くとき,悪さをするプログラムが悪さをしないように,判定し,抑制し,それでも大丈夫なときには,そのプログラムを実行OKできるような方法というわけです。

 ポップアップブロッカーを初めとして,こういうタイプのセキュリティシステムの実装って結構あるんじゃないですかね。だから,取り上げたのです。これ,特許になったら凄く広くてヤバイんじゃねえのかなあって。

 ちなみに,引用発明は,「 上記アによれば,刊行物1発明は,ActiveX コントロールはWebサーバーから小さなソフトウェアをダウンロードしてインターネットエクスプローラ上で実行する仕組みであるところ,セキュリティに問題がある ActiveX コントロールへの対策として,ActiveX コントロールの実行条件を,インターネットエクスプローラの[セキュリティ]タブにおける設定で制限することができ,これにより ActiveX コントロールが無条件に実行されることを防ぐことができるとしている。
  そして,[インターネット][イントラネット][信頼済みサイト][制限付きサイト]のアクセス先の区別ごとに,どのような場合に ActiveX コントロールを実行してよいかを設定することができ,ここで[ダイアログを表示する]を選ぶと,ダウンロードや ActiveX コントロールを実行しようとするたびに確認を求めるダイアログが表示されるようになることを示している。
  さらに,[信頼済みサイト]の中で ActiveX コントロールを実行してもよいサイトを登録し,[ダイアログを表示する]という設定にして運用すれば比較的安全であること,[信頼済みサイト]は「http://www.itfrontier.co.jp/」のようにURLを指定することを紹介している。」というようなものでした(判決より)。

 そして,この引用発明と,本願発明で,審決が認定した一致点は以下のとおりです。
【ア】ウェブページに関連付けられたオブジェクトを検出することと,
【イ】前記オブジェクトがユーザによって操作されたかどうかを判定することと,
【ウ】複数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し,前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制することと,
【エ】前記オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示を表示することと
【オ】を備える方法。

 ただ,引用発明は,上記のとおり,予めユーザーが,「ActiveX コントロールを実行してもよいサイトを登録」するのですね。他方,本願発明は,そういう事前に良いか悪いか分からない場合にも対処するものじゃなかったでしたっけ??うん,そうするってえっと~てなわけです。

3 判旨
 「 審決は,刊行物1の記載(101頁左欄4~23行目)から,「・・・・・設定によりActiveX コントロールを実行してもよいと許可されるためには,その前提としてWebページに関連付けられた ActiveX コントロールの検出を行い[信頼済みサイト]に登録されているか否かの『判定』を当然に行っているといえる。・・・・・『Webページに関連付けられた ActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること』がよみとれる。」と認定し(審決5頁8~20行目),刊行物1発明は,「Webページに関連付けられた ActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること」との構成(【Ⅱ】)を有していると認定した(6頁33行~7頁9行目)。
  しかしながら,刊行物1において,[信頼済みサイト]の設定に際して ActiveX コントロールを実行してもよいサイト(Webページ)を登録し,安全なサイトについてのみ ActiveX コントロールの実行を許可する運用を行うとは,サイトがユーザによって[信頼済みサイト]に登録されているか否かの判定を行うことを意味するのであり,ActiveX コントロールそれ自体がユーザによって登録されることや,ActiveX コントロール自体がユーザによって登録されたかどうかを判定することは刊行物1には記載されていない。そうすると,刊行物1発明が,「Webページに関連付けられた ActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること」との構成(【Ⅱ】)を有しているとはいえない。
  したがって,上記審決の認定は誤りである。
 ・・・刊行物1において,[信頼済みサイト]に登録されるサイト(Webページ)は,URLで特定されるものであるのに対し(101頁左欄4~23行),ActiveX コントロールは,当該サイト(Webページ)からダウンロードされるソフトウェアであるから(98頁右欄17行~99頁左欄3行目)・・・,両者の判定は技術理念としては異なるものであり,・・・ 以上から,審決の刊行物1発明の構成【Ⅱ】の認定には誤りがある。

4 検討
 いやあ,最初でズッコケた~という今どき珍しい事件です。

 普通は,引用発明の認定はOKだけど,これと本願発明を比べて一致点相違点認定の所でNGというのはよくあります。微差と思ったら,実は大きな差だったため,そこは一致点じゃないだろう♫とかいうやつです。

 でも,今回は凄いです。そもそも引用発明の認定が間違っとるやないか~♫お前当業者ぶってるけど素人ちゃうんか~♫もういっぺん勉強してこいや~ワレ♫って言われているのですよ,特許庁の審判官諸氏。

 今回の裁判長の清水さんは,典型的なキャリア裁判官ですので,当然文系です(よね?)。

 他方,特許庁の審判官は審査官上がりで,皆さん理系です。そして,分野ごとに細かく分かれているのです。つまりは,仮想当業者が,審査,そして審判にあたっているのです。ですので,法的な評価で負けるならまだしも,事実認定で負けるなんて,ある意味あってはならないことですね。
 特許庁の内部では,審決取消訴訟の検討会が定期的に開かれているそうですが,これは審決を出した審判官はえらいどやされるでしょうね(一審で敗訴した検察庁の,高検との検討会みたいなもんですわ。キャリアの官僚組織はどこも一緒だなあ~♫あこりゃこりゃ。)。

 ということで,性格の悪い私が取り上げるに相応しい事件でした。

5 追加
 ところで,特許庁の組織の話があった所で,昨日,受けた研修で面白い話を聞きました。実は,今年の7月から特許庁の組織が大きく変わったらしいです。

 要するに,意匠の審査をやっている組織が,商標もやっている所から離れて特許の部署に吸収された,ということです。

 正確に言いますと,従前,意匠は,審査業務部の意匠課で行っておりました(この部の下には,商標課もあります。)。
 ところが,今般,その意匠課が,特許審査第一部に移り,特許の審査部(特許審査第一部から第四部まであります。)も,「特許」がとれて,ただの審査第一部から第四部になったということです。これはあまりニュースにはなりませんでしたが,大きな話じゃないですかね。

 意匠は,産業財産権の鬼っ子のようなもので,国によって特許的だったり,商標的だったりしております。我が国と言えば,あるときは特許的で,あるときは商標的で,ちょっとこんにゃくかなあって所です。ところが,今回,特許と同じ部に行ったということで,特許的なスタンスを目指すということなのでしょうね。

 で,意匠が特許的な国といえば?そう,アメリカです。
 アメリカでは,意匠は特許法(USC35)の中に組み込まれています(171条~)。アップルとサムソンの争いで,デザインパテントがどうのこうのという話を聞くこともあったと思いますが,あれが,日本で言う意匠権のことです。

 何を目指しているのかなあ,ま,皮肉屋で反米保守の私は敢えて言わないけどさ~。

6 追伸
 誰しも思うことかもしれませんが,猪瀬知事は本当大笑いですね~。やることがベタと言いますか,狙い通りと言いますか,借用書のやっつけ加減やら,会見の最後の,これからもご指導ご鞭撻云々~と,まあ愛すべき人間だということはわかりましたね。

 ま,ということですので,知事などという窮屈な仕事はやらずに,もっと広い所で活動してみた方がいいかもしれませんね。もうしばらくは大笑いさせて欲しいですけど。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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