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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,考案の名称を「管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー」とする本件実用新案(実用新案登録第3138583号)の実用新案権者である原告に対し, 被告が,平成24年9月18日,本件実用新案登録の無効審判請求(請求項1~3)をしたところ(無効2012-400003号),原告は,平成24年11月2日,実用新案法14条の2第1項の訂正をしたものの,特許庁は,平成25年3月5日,無効審決(実用新案法3条の2,つまり特許法でいうと29条の2)を下したために,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体です。)は,原告の請求を認め,審決を取消しました。つまり,本件考案は,先願発明と同一でないということです。

 珍しい,実用新案~♫しかも3条の2,ということで取り上げました。

2 問題点,
 問題点は,実用新案法3条の2でいう「同一」の意義ですね。

 ただ,これはついこの間,特許法の29の2でしたけど,このブログでやりましたよね。ですので,一般的な話はそこを見てください。

 そうすると,問題は,あとは実質同一がどう判断されたかですね。
 請求項1からです。

 「【請求項1】
  エルボカバーが,エルボ胴部(11)と該エルボ胴部の開口端に結合したエルボ結合部(12)とからなり,上記エルボ結合部は,結合受け板(121)と結合差込み板(122)とを有し,上記結合受け板は,先端部分を二つ折りに折り返して第1の結合板(121a)を形成し,折り返された該第1の結合板は,上記結合受け板の自由端に向って折り返して第2の結合板(121b)を形成し,該第2の結合板は,折り返し部が上記第1の結合板に向うように折り曲げて係合片(121c)を形成して当該第1の結合板との間に結合差込み口(123)を形成したものであって,上記第2の結合板及び上記係合片は全域に亘って一定の横幅を有してこの横幅は上記第1の結合板よりも狭くなっており,上記結合差込み板の先端近傍に係止爪(124)を設け,上記結合受け板の結合差込み口に上記結合差込み板を挿入して上記エルボ結合部を結合することを特徴とする管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー。

 エルボカバーというのがよくわかりませんが,パイプの90度曲がりのところを保護するような器具のようです。と言っても,このクレームを文だけで把握できたら,そりゃ凄いや。
 私はとてもそんな明晰ではありませんので,図を見ながら照合しました。

 まあでも図があれば,すぐにわかります。つーか,理系というか技術的な話って,本当,図が重要ですね,。うまく図でかければわかりは非常に早いです。
 もしかすると別にこれは理系の分野に限ったことではないのかもしれませんが,複雑なものであればあるほど,図が重要だと私は思っております。

 で,この発明は,要するに,このエルボカバーを留めるのに,メス部とオス部を用い,そのメス部の所に特徴がある(オス部を引掛けて固定する部分が折り返しの形状となっており,その折り返し部分の横幅が一定で,台座部分に比べて狭い幅。)ものです。

 他方,引用発明(別に考案じゃなくてもいいわけですので。)との相違点は,引用発明もほぼ似た留め部を有しているものの,留め部の上記の幅が徐々に狭くなるようなもの,つまり一定の幅ではなかったのです。

 あとは,この差を微差と言えるかどうかですが,特許庁は周知技術として,この幅が一定のものは見つけてきました。でも,台座部分に比べれば狭いもの,ではなかったのです。
 それでも,微差だ!実質同一だ!としたわけですね。周知技術で完全に差異を補ったわけではないにも関わらず・・・。

3 判旨
「甲5刊行物の第1図及び第2図には,実施例として,本件考案の第1の結合板,第2の係合板及び係合片に相当する「繋ぎ側部分24の端部において3回折り返された」部分がすべて同一幅であることが看て取れる。
  上記認定によれば,甲5刊行物に係る考案は,繋ぎ側部分の一方に嵌入溝をあらかじめ形成しておくことによって,配管カバー用エルボによる配管の被覆作業時において,嵌入溝を形成するための折り曲げ作業を不要とすることにあり,繋ぎ側部分の端部がすべて同一の横幅で一定であることを看て取ることはできるものの,繋ぎ側部分の端部の幅を部分ごとに変えて各々を一定の横幅とすることについては何ら開示されておらず,その示唆もない。
  したがって,審決が「エルボカバーのエルボ結合部を一定の横幅とすること」が周知技術であると認定したこと自体は誤りではないが,それは本件考案における第1の結合板,第2の結合板及び係合片の各々が一定の横幅であることに相応するにすぎない。
      イ  周知技術の適用
  以上のとおり,甲5刊行物から認められる周知技術が,繋ぎ側部分の端部がすべて同一の横幅で一定であるという事項にとどまる以上,当該周知事項が,第2の結合板及び係合片だけを第1の結合板とは異なる(狭い)一定の横幅にするといった事項に及ぶものとはいえない。そうすると,審決が認定した周知技術は,本件考案1とは直接の関連性がないものであって,これを先願発明に適用しても本件考案と実質的に同一となるものではない。
  なお,審決が周知技術の例示として挙げたのは甲5刊行物のみであり,本件証拠上も,第2の結合板及び係合片に相当する部分のみを一定の横幅にする周知技術の存在を認めるに足りる証拠はない。 」

4 検討
 判旨については,まあ上記のとおり,周知技術でも足りない部分があるのに,同一ったあどういうこっちゃ!?という至極当然の判断で覆されておりますね。

 でも,似たような判決をわざわざ取り上げたのは,実は上記の判旨のなお書の部分です。というのは,特許庁は勝手に周知技術と決めつけているけど,それは周知技術じゃないよ!というダメ押しの部分です。
 これは進歩性ではなく,拡大先願の話ですので,そもそも周知技術じゃないということになると,そもそも微差でない,当然実質同一ではないということになります。
 仮に進歩性の判断としても,周知技術じゃねえだろ!と言われれば,特許庁としては大ダメージです。ま,周知技術ってたった1つの公知例からしか導けるようなものじゃいけないわけですからね。
 ですので,この判決も,近時私が注目している特許庁の引例の認定姿勢に喝!ってことから取り上げた,というわけです。

 ところで,実用新案をここで取り上げたのは初めてですかね~。で,特許法の発明と実用新案法の考案は何が違うか知っていますか?結論は,殆ど同じです。

 発明の定義「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」
 考案の定義「自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。」

 違いは,高度か,そうでないか,だけです。
 でも,高度か低度かなんて,そんなの誰にも決めることはできませんので,違いはないと言っていいのです。

 ただ,実用新案の方が,分野は限られています。
 実用新案法の1条「この法律は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより、その考案を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。」
 特許法の1条「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。」

 このように,薬や化学の分野,電気系(プログラムも)の分野,方法の発明,については,制限のない特許法で保護するしかありません。

 と言っても,今は実用新案法は無審査主義なので,わざわざこんなの使いませんけどね。
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