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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 発明の名称を「経路広告枠設定装置,経路広告枠設定方法及び経路広告枠設定プログラム」とする発明について,平成20年1月11日,特許出願した原告(ヤフー)が,平成23年9月21日付けで拒絶査定を受け,同年12月21日,拒絶査定不服審判(不服2011-27507号事件)を請求し,平成25年1月11日,特許請求の範囲を変更する旨の手続補正(本件補正)を行ったものの,特許庁から拒絶審決(進歩性なし)を受けたため,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して知財高裁1部(飯村さんの合議体です。)は,原告の請求を認め,審決を取り消しました。要するに,進歩性あり,のようです。

 クレームは以下のとおりです。
 「【請求項1】通信ネットワークを介して接続された広告主の端末から,地図上の経路に関する線描写によって前記端末で設定された経路情報を受信する経路情報受信手段と,
 前記経路情報受信手段により受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部に有する経路データベースに記憶する広告枠設定手段と,
 前記経路情報に広告枠が設定された後に,ユーザの端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と,
 前記位置情報取得手段により取得された前記位置情報を含む前記経路を,前記経路データベースから特定する経路特定手段と,
  前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースから,前記経路特定手段により特定された前記経路に関連する広告枠の広告情報を抽出して前記ユーザの端末に送信する広告情報送信手段と, を備える経路広告枠設定装置。

 ま,要するにカーナビの目的地案内の径路に沿って,その径路にちなんだ広告が出てくるというプログラム系の発明です。
 と言っても,市販のカーナビだと広告なんて出る余地もありませんから,スマホなどをカーナビ代わりにして,アプリで対応するような場合を想定しているのでしょうね。

 引用例1との相違点は以下のとおりです。
本願発明が,広告枠を経路情報に設定し,経路データベースに記憶し,経路データベースによって経路を特定する経路特定手段を有していて,経路特定手段によって特定された経路に関連する広告枠を抽出していて,その経路は線描写で設定されるのに対して,引用例1発明では,広告枠を地図上のエリアに設定して,データベース31cに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報を読み出していて,エリアについてはどの様に設定しているかは明示されていない点。

 つまり,引用例1は,径路という線じゃなく,広がりを持った面にちなんだ広告が出る発明のようです。うーん何か違うぞ~♫

2 問題点
 問題点は進歩性です。そして,特許庁の引用発明の認定が問題になっております。

 まず,進歩性という拒絶理由とか無効理由とかが来た場合,兎も角も,分析的に考えることが必要です。だって,特許法29条2項は,「前項各号に掲げる発明に基いて」とあるのですから,どの部分がどの引例に,こっちの部分はこっちの引例に載っていると,少なくとも認定できる必要があるのです。

 他方,相違点があって,その相違点がどこの引例にも載っていない場合,原則として進歩性はあるのでしょうね。何故か?上記のとおり,条文とおりです。

 ただ,相違点があまりにも微差,取るに足らない部分だったりしたら,それは言わずもがなだから,引例に載ってる載っていないの世界じゃないよね,ってなるわけです。

 本件では,上記のとおり,引用例1は,一定の径路とは関係するのだけど,広がりを持ったエリアの情報です。ですので,仮に道を変えても同じエリアなら同じ情報が出るわけです。

 そうすると,この部分の違いは大きいので,他の引用例で補わんといけないわけです。それが引用例2だったのですが,この引用例2,道路沿いの仮装のビルボードに,そこを車が通過したら径路と縁もゆかりも無い広告がじゃじゃーんと出るだけのものだったのですね。

 つまり,引用例1と引用例2を併せても本願発明を網羅することができない!となると結論は?って所でしょうね。

3 判旨
「 本願発明は,車等の移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して,移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を提供する移動体広告システムにおける経路広告枠設定装置に関する発明である。従来の移動体広告システムは,移動体の位置や,予めユーザが目的地を登録することにより決定された経路に応じて広告情報を配信するものであったが,配信する広告情報が地図上の各エリアに対応付けられていたため,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうという解決課題があった。本願発明は,エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能な経路広告枠設定装置を提供することを目的とするものである。
  本願発明における経路広告枠設定装置は,通信ネットワークを介して広告主の端末と接続しており,この広告主の端末から,地図上の経路に関する,線描写によって設定された経路情報を受信し,受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部に有する経路データベースに記憶するとの構成を有するものであり,広告主は,地図上の様々な経路に広告枠を設定することができるとするものである。そして,ユーザの端末からユーザの位置情報を取得し,当該位置情報を含む経路を特定して,当該経路に関連する広告枠の広告情報をユーザの端末に送信する。 」

「引用例1発明は,広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという,移動体広告システムの発明であり,本願明細書が言及するとおり,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうとの未解決の課題を残した発明である。
  他方,引用例2は,車載ナビゲーション・システム等を使用した,位置に基づく広告の提供方法に関する発明を記載したものである。引用例2には,広告メッセージを伝えることができる位置として,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,ナビゲーション・サービス・プロバイダは広告主との契約に基づき,設けられた「仮想広告掲示板」の位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの技術事項が記載開示されている。引用例2に記載された上記技術は,通行可能な道路沿いの特定位置を通過するユーザに対して,広告メッセージを伝えるものであり,広告メッセージが送信されるのは,ユーザが特定の位置を通過した時点である。
  広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという発明である引用例1発明と,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの引用例2に記載された技術事項を組み合わせたとしても,本願発明における地図上の経路に広告枠を設定するとの構成に至ることはない。また,引用例1発明に引用例2の記載事項を組み合わせても本願発明における上記構成に至らない以上,経路を線描写によって設定することが周知事項であったとしても,引用例1発明に引用例2の記載事項及び上記周知事項を組み合わせることにより本願発明の上記構成に至ることはない。 」

4 検討
 ま,上記の問題点のとおりですわ。ちょっと,引用例2が遠すぎましたね。広告に限らず,広く径路沿線の情報が出てくるような引用例の方が良かったのではないでしょうかね。
 ということで,今回の引用例では進歩性はあるようですが,広告に限らない情報のやつで径路にちなんだやつを探すことが出来れば,進歩性は潰せるんじゃないかなあと思います。

 結構探せるような気がしますが,どうでしょうか?
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