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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「渋味のマスキング方法」とする特許第3938968号(本件特許。出願日:平成9年3月17日,登録日:平成19年4月6日)の特許権者である被告に対し,  原告は,平成24年5月10日,本件特許について無効審判を請求した(無効2012-800076号)ところ,被告は,平成24年7月31日,訂正請求をし(本件訂正),そのため  特許庁は,平成25年5月16日,本件訂正を認めた上で,不成立審決をしたことから,これに不服の原告(審判請求人)が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対し,知財高裁2部(清水さんの合議体です。)は,原告の請求を認め,審決を取り消しました。
 何と,明確性要件違反の記載不備があるということです!出た!久々の明確性!
 
 明確性要件違反ですので,クレームに行きましょう(明確性要件はクレームの要件です。)
 「【請求項1】  茶,紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に,スクラロースを,該飲料の0.0012~0.003重量%の範囲であって,甘味を呈さない量用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。

 傍線を引いたのはポイントとなった文言です。

2 問題点
 問題点は,そりゃ明確性要件違反の有無ですね。まずは条文です。特許法36条6項2号です。
6  第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 二  特許を受けようとする発明が明確であること。

 では明確って何でしょうか?この条文自体イマイチ明確じゃないですけどね。
 とメタ的なことを言いつつ広辞苑を見ると,「明らかで確実なこと。はっきりしていること。」とあります。

 審決は,「 「甘味閾値」は極限法により求められるものであり,濃度の薄い方から濃い方に試験し(上昇系列),次に濃度の濃い方から薄い方に試験し(下降系列),平均値を用いて測定するのが一般的であると認められることから,訂正明細書に具体的測定方法が定義されていなくとも,本件特許の出願時の技術常識を勘案すると不明確であるとまで断言することはできないと判断した。 」ようです。

 ですので,ここでいう明確性というのは(審査基準にも載っていますが,明確性って色んなパターンがあるのです。),定義の有無とかその定義がなくても当業者なら分かる程度のものかどうかっていう問題になると思います。

 ま,裁判で揉めたのも,いつもこのパターンがのやつですね。ほら,あったでしょ,「平均粒子径」で揉めて明確性要件なしになったパターンです。あのときも,平均と言っても色んな定義があるし,真円じゃない限り粒子径もどこを測るか色々あるし,しかも何で測るかも色々ある~なのに何故おまえの明細書は,どれも定義がねえんだ?って所だったわけです。

 でもこんなマヌケというか,お恥ずかしいものはそれ以来殆どなく(だって,技術の専門家が発明を行って,これまた特許の専門家の弁理士が出願してるんでっせ~それなのに用語自体がわけわからんなんてこんなアホな無効理由がありますかいな。),まあ明確性要件~技術的範囲を狭く解釈させようとする被告側の陽動作戦だろ~そんなの本気にしたってしょうがねえ,適当にあしらっとけ,というのはここしばらくのデフォーな状況でした。

 でもねえ,油断大敵。時には明確性でも無効になるんだねえ,これが。

3 判旨
「・・・ そうしてみると,甘味閾値は,他の方法ではなく極限法により測定するものであることが自明であるという技術常識が存在していたとまではいえず,訂正明細書における甘味閾値の測定方法が極限法であると当業者が確定的に認識するとはいえない。
  一方,甘味閾値の測定法は,人間の感覚によって甘味を判定する方法であって,判定のばらつきを統計処理し感覚を数量化して客観的に表現する官能検査の一種であり,適切な多数の被験者を用いることにより,主観的な判断や個人による差を極力抑えるものではあるが,一般に,官能検査とは,被験者の習熟度,測定法,データの解析法等により数値が異なるものであり,相互の数値の比較は困難であることが多いものと解される。・・・
・・・ そうすると,当業者は,同一の測定方法を用いた極限法によるスクラロース水溶液の甘味閾値であっても,2つの文献で約1.6倍異なる数値が記載されている上,訂正発明における各種飲料における甘味閾値の測定は,スクラロース水溶液に比べてより困難であるから,測定方法が異なれば,甘味閾値はより大きく変動する蓋然性が高いとの認識のもとに訂正明細書の記載を読むと解するのが相当である。
  したがって,甘味閾値の測定方法が訂正明細書に記載されていなくとも,極限法で測定したと当業者が認識するほど,極限法が甘味の閾値の測定方法として一般的であるとまではいえず,また,極限法は人の感覚による官能検査であるから,測定方法等により閾値が異なる蓋然性が高いことを考慮するならば,特許請求の範囲に記載されたスクラロース量の範囲である0.0012~0.003重量%は,上下限値が2.5倍であって,甘味閾値の変動範囲(ばらつき)は無視できないほど大きく,「甘味の閾値以下の量」すなわち「甘味を呈さない量」とは,0.0012~0.003重量%との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確であると認められるから,結局,「甘味を呈さない量」とは,特許法36条6項2号の明確性の要件を満たさないものといえる。」

4 検討
 まず,甘味閾値の測定法には種々のものがあり,当業者もどれだかわからん。
 つぎに,甘味閾値って官能検査なので,もうバラツキがたくさんある。しかも,今回数値限定発明なのに,そういうバラツキのあるインデックスのところを数値限定してるんだから,もうわけわからん,ということです。

 いやあこれは仕方がないかなあ。

 理系の人だと数値自体のバラツキって基本気にしますよね。どういうことか?例えば,昨日消費税が8%になりました。この数値8の意味のことです。

 は?0.08のことでしょ?それ以上何か?って思ったあなたは文系に決定,ま,大学入試にすら数学が無かったんでしょうね。
 これは,恐らく8.000000000000000×10の-2乗なのでしょう。桁には意味があります。千兆単位の有効数字に対応したものです。

 そそ,この有効数字ってやつが大事です。
 例えば,8×10の-2乗とすると,有効数字は1桁です。つまり,8には7.5~8.4までのバラツキがある!ってわけです。とすると,10円のものを買うと消費税は,7.5~8.4のバラツキでも1円となるため,問題ありません。
 でも100円のものを買うと7.5円~8.4円でバラツキが生じますね。さらに10000円のものを買うと750円から840円でバラツキます。つーか,10000円も有効数字が1桁なら,9500円から14000円の間ってことになります(有効数字1桁のものに有効数字4桁のものをかけた結果は,有効数字1桁ですからね。)。いやあ凄い話です。

 何かを数値で表せば,その数値自体どのような意味があるのだろう?これを考えないといけないってわけです。上記のお金の場合,測定が一円単位でできますので,1000兆円単位となっても一円まで数えるということですから,有効数字が15桁以上というわけです(実際のお金の上限はこんなもんでしょ。)。他方,道路の制限速度ってありますが,あの,例えば60km/hってどういう意味なんでしょうね?

 数値自体もそうだし,どうやってそれを測定するかって実は非常に奥の深い難しい話です。何か簡単に考えるふしがありますが,こう考えていくと今回の結論も納得いくもんでしょ。ね。

 ということで,溜まっていた判決の紹介はこれにて終了。今月の後半で恐らくやる,2013年度の判決のまとめは,今日までの紹介判決とします。

5 追伸
 ということで,毎度おなじみの目黒川の桜です。今日はまた目黒方面へ歩いてみました。
かなり散り始めておりますが,まだまだ綺麗です。しかも人が多い。今日は曇で肌寒いという予想だったのですが,暑いくらいでした。ま,これから曇ってくるのかな。
で,いつもの枝です。満開~。
これ は目黒の雅叙園前の通りの橋(太鼓橋)からです。
で,いつものとおり,五反田に戻ります。標準のイマジカ前(山本橋)からです。

 今日も雅叙園の近くの歩道には花見客がたくさんいました。昼ごはんを弁当で済ませている方も多いですね。OLの方は,座るときにパンチラに注意って所でしょう。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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