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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 発明の名称を「菜種ミールの製造方法」とする特許第3970917号(請求項の数は5である。以下「本件特許」という。)の特許権者である原告(J-オイルミルズ)に対し, 被告(日清オイリオ)が,平成23年4月28日,請求項1ないし5のすべてについて本件特許を無効にするとの無効審判を請求した(無効2011-800073号)ところ,原告は,同年7月21日,訂正請求をしたため,特許庁は,平成24年3月28日,「訂正を認める。特許第3970917号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をしました。
 原告は,上記審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に訴えを提起するとともに,訂正審判を請求した(訂正2012-390085号)ところ,知的財産高等裁判所は,平成24年9月20日,事件を審判官に差し戻すため,上記審決を取り消す旨の決定をしたため,原告は,平成24年10月12日,訂正請求をし(以下「本件訂正」という。),これに対して,特許庁は,平成25年5月29日,「平成24年10月12日付け訂正請求において,明細書(訂正事項10,11,18,19),特許請求の範囲(請求項3に係る訂正事項3)を認める。特許第3970917号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(訂正要件違反,進歩性なし)をしたことから,これに不服の原告が,再度,審決取消訴訟を提起したものです。

 いやあ,特許庁と裁判所の間でのキャッチボールが長過ぎますね。

 これに対して,知財高裁3部(設樂さんの合議体ですね。)は審決を取消しました。つまりは訂正要件OKだし,進歩性も無いとは言えない,ということです。

 ということで,ちょっとはまともな更新もしましょう。訂正要件も面白いのですが,今回は,進歩性の話だけにしておきましょう。で,これは珍しい~という点が争いになったので挙げました。

2 問題点
 端的な問題点は,進歩性の,構成の組み合わせ等の容易性,つまりは動機付けの話です。となると,よくあるパターンなのですが,実は今回,本願発明の認定が若干争いになっております。

 普通,この本願発明の認定が争いになって,そこがぐらつくと,それ以降の一致点・相違点認定も,その後の構成の組み合わせの容易性も,すべてがぐらつきます。そりゃそうですね。

 で,この本願発明の認定というのは,リパーゼ判決で問題になった発明の要旨認定のことです。

 なので,この本願発明の認定というのは,大問題ではあるのですが,大問題だけに,滅多にありません。当たり前ですよね。大地震と同じで,とんでもないからこそ,たまにしか起きないわけです。

 ただ,この事件の場合,この本願発明の認定に争いがあっても,直接取消事由にはしていないのですね。つまり,取り消すほどの瑕疵にはなっておりません。

 クレームはこうです。
【請求項3】菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる菜種粕であって,32 メッシュ篩下の含量が 38.8~55.6%である前記菜種粕の 35~48 メッシュ以下の画分を含まない,35~48メッシュ以下の画分を含む菜種ミールよりも苦みの改善された菜種ミール。

 で,主引例との一致点,相違点認定は,こうです。
a 相違点1
 
篩分前の菜種ミールが, 訂正発明3では,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる」「32 メッシュ篩下の含量が 38.8~55.6%である」「菜種粕」を篩分けの原料として用いるのに対し,甲1発明では,サンプル(0),サンプル(1),サンプル(2),サンプル(3),サンプル(4)又はサンプル(5)であり,これら篩分前の菜種ミールを粉砕する前の原料である粉砕無しの工業用ミールの製造方法は明らかでない点。
b  相違点2
 
篩分前の菜種ミールを篩にかけて分画することが, 訂正発明3では,いずれか一つの篩の上下二分割し,篩上の粗粒度菜種ミールに分画するのに対し, 甲1発明では,粒径 63μm 未満,63~80μm,80~100μm,100~120μm,120~160μm,160~200μm,200~250μm,250~315μm,315 ~ 400μm , 400 ~ 500μm , 500 ~ 630μm , 630 ~ 800μm , 800 ~1000μm,1000~2000μm,2000μm 以上が分画できる網目の篩,すなわち,14種類の篩を使用し分画して15種類の菜種ミール画分に分級している点。
c  相違点3
用いる篩の種類及び取得する画分,並びに,分画された画分の味が,  訂正発明3では,篩の種類が,35~48 メッシュのいずれかで,その篩上の画分である粗粒度菜種ミールを取得するものであり,画分の味が,篩分前の菜種ミールに比べて苦みが改善されたものであるのに対し, 甲1発明では,目開きが,63,80,100,120,160,200,250,315,400,500,630,800,1000,2000μm である篩の全てであり,その篩上の画分である粗粒度菜種ミールを取得するものではなく,画分の味が,菜種ミールに比べて苦みが改善されたものかも明らかでない点。

 ここで,相違点1の容易性を検討するに当たり,篩分けの原料がどのようなものか,それが争いになったため,本願発明の認定を詳細にしないといけなくなったのですね。

 つまり,上記相違点1のとおり,主引例の甲1での篩分けの原料はどのような製造方法か明らかになっておりません。しかし,甲1文献には,「サンプル(3)又はサンプル(4)のように高度に機械粉砕された菜種粕が篩分けに好ましい」とあったことから,本願発明も,篩分けの原料が機械粉砕をしているものであれば,内容中の示唆があることになって,容易性が認められるというわけです。
 他方,本願発明が,篩分けの原料を機械粉砕しているものでないならば,内容中の示唆はなく,しかも原告の主張によれば,苦味が改善されないということなので,組み合わせないし置換の容易性はないでしょう。

 それ故,本願発明の認定が問題になるわけです。しかし,審決の事実認定は,上記のとおり,玉虫色ですので,取り消すほどの瑕疵という観点からは,容易性の所になってしまうというわけです。

3 判旨
「前記アのとおり,2段階搾油工程の後整粒工程を経て最終的に得られる菜種粕は,機械粉砕された粒子と機械粉砕されていない粒子との混合物となるから,搾油工程で造粒された粒子の一部は,機械粉砕によって破壊されるが,その余の造粒された粒子は,機械粉砕によって破壊されることがない。そのため,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまる菜種粕であって,訂正事項1所定の粒度分布を有する菜種粕を篩にかけて得られる菜種ミールは,タンニンのような苦味物質の含有量がやや低くなることに加えて,苦み物質に対してマスキング効果を発揮する造粒粒子が含まれることにより,苦み物質が含まれていても,その含有量から予想されるほど苦くはなくなり,苦味が改善されたものになると認められる(訂正明細書【0018】,【0021】,【0027】)。
 これに対し,訂正明細書においては,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施したものについての記載はない。また,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施して得られる菜種粕においては,搾油工程で造粒された粒子はすべて破壊されてしまっている。そのため,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種粕であって,訂正事項1所定の粒度分布を有する菜種粕を篩にかけて得られる菜種ミールは,訂正発明3の菜種ミールのように,苦みが改善されたものになるとは認められない。
 したがって,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種粕は,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまる菜種粕とは,物として異なるものであり,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」には含まれないというべきである。 」

「 (ア) 甲1文献の上記記載によれば,サンプル(0)は,動物飼料用に供給されているものと同じ工業製品であるとされているが,具体的にどのような製造方法により得られたものであるのかについては,甲1文献には記載がなく,不明であるところ,甲1文献の図1に示される粒度分布によれば,サンプル(0)のピークは,3000~4000μm(3~4mm)付近に存在し,最大粒径は 8000μm(8mm)を大きく超えるものであることからすると,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕とは,物として異なるものであることが認められる。
 したがって,サンプル(0)に代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕を用いる動機付けがあるとはいえない。
(イ)また,サンプル(1)ないしサンプル(5)は,サンプル(0)全体を機械粉砕して得られたものであるから,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕とは,物として異なるものである。
 すなわち,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕には,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまるものは含まれるが,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施したものは含まれない。そのため,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕は,整粒工程を経たものであっても,機械粉砕された粒子と機械粉砕されていない粒子との混合物となり,造粒粒子(苦み物質が搾油時に種皮と混ざって粒状となり,造粒されてマスキングされたもの)を含むものである。これに対し,甲1発明の篩分けの対象である上記5種の粉砕ミールは,サンプル(0)全体を機械粉砕して得られるものであるから,全量が機械粉砕された粒子であり,造粒粒子を含まないものである。
 そして,甲1文献は,「スクリーニングの前に種々の異なる型の粉砕機を用いた研究」に関するものであり,上記の5種の粉砕ミールは,このような研究のために準備されたサンプルであるから,その全体を機械粉砕せずに,粒度が大きな粒子についてのみ適度な粒度に機械粉砕する整粒を行った上で篩にかけることは予定されていない。
 したがって,上記の5種の粉砕ミールに代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕を用いる動機付けがあるとはいえない。
(ウ)  よって,甲1発明の篩分けの対象であるミールに代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕を用いる動機付けはない。 」

4 検討
 判決は,発明の要旨認定については,篩分けの原料を機械粉砕しているものでないとしました。クレームにはその記載はなく,明細書からもそのような工程を経ていないということがわかるということのようです。
 そうしますと,容易性のところも,動機付けなしとされるのが自然の成り行きで,審決が取り消されたのも止むを得ませんね。

 ま,これはこれでいいでしょう。
 ただ,気をつけて頂きたいのは,このくらい争ったのですから,あとで,篩分けの原料を機械粉砕しているのも権利範囲に含まれるなんてのは言いっこなしですよ,原告さん。ま,無効審判でこれだけ争っていることは,権利行使が裏にあるんでしょうけど,この解釈は,被告の思う通りのものか,それともイ号とは関係ない話なのか,それはわかりませんけどね。



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