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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「基板製品を製造する方法」とする発明について,国際出願日を平成15年(2003年)1月13日とする特許出願(特願2003-588004号。パリ条約による優先権主張 平成14年(2002年)4月23日・米国。)をした原告(Nantero)が,特許庁から平成23年3月11日付けで拒絶査定をされたため,同年7月15日,これに対する不服の審判を請求するとともに明細書等について手続補正をしたものの,特許庁は,これを不服2011-15379号事件として審理し,平成25年3月29日,拒絶審決(進歩性なし)を下したことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これ対して,知財高裁1部(設樂さんの合議体ですね。)は,原告の請求を認容し,審決を取消しました。要するに,進歩性なしとは言えないってことですね。

 これを取り上げた理由は,そう進歩性です。ただ,今回,なお書に色々あるんですよね~。それ故取り上げたという方が正解ですかね。

 クレームです。

【請求項1】
 基板製品を製造する方法であって,
 基板を提供するステップと,
 該基板の表面にカーボンナノチューブの懸濁液を塗布し,前記基板の表面にカーボンナノチューブ層を形成するステップであって,該カーボンナノチューブ層は複数のカーボンナノチューブ相互が絡み合う不織布状態であり,且つ,該カーボンナノチューブ層は実質的に無定形炭素を含まない,ステップと,
 前記カーボンナノチューブの不織布状態から実質的に全ての溶剤を除去するステップと,
 所定のパターンに従って前記カーボンナノチューブ層の一部を選択的に除去し,製品を製造するステップと,を含むことを特徴とする方法。

 これだけじゃあ何のことかさっぱりですね。

 実はこの出願人というのは,ナノテロインクという会社で,新型メモリのベンチャーです。NRAM(nano-tube RAM)というカーボンナノチューブをメモリ素子に使うという,新型メモリなのですね。詳しくは,こちらを。

 で,その素子のことを明細書によると,ナノチューブワイヤクロスバーメモリ(NTWCM)と呼ぶらしいです。ナノチューブが接触する低抵抗の状態と離れる高抵抗の状態の間で,電荷を保持するようですね。

 で,今回の発明は,そのNTWCMをうまく作る方法~なわけです。

 進歩性ですので,一致点・相違点認定です。

「イ 一致点
「基板製品を製造する方法であって,
 基板を提供するステップと,
 該基板の表面にカーボンナノチューブの懸濁液を塗布し,前記基板の表面にカーボンナノチューブ層を形成するステップであって,該カーボンナノチューブ層は複数のカーボンナノチューブ相互が絡み合う不織布状態であるステップと,
 前記カーボンナノチューブの不織布状態から溶剤を除去するステップと,
 カーボンナノチューブ層のパターニングを行い,製品を製造するステップと,を含む方法。」である点。

ウ 相違点
[相違点1]
「カーボンナノチューブ層のパターニングを,本願発明においては,基板上にカーボンナノチューブを形成した後に,「所定のパターンに従って,前記カーボンナノチューブ層の一部を選択的に除去し」て行うのに対し,刊行物1発明においては,「基板上にパターン形成材料からなるパターンを形成する工程」及び「非パターン形成領域上に位置するカーボンナノチューブを除去する工程」によって行う点。」
[相違点2]
「本願発明においては,「カーボンナノチューブ層は実質的に無定型炭素を含まない」という限定及び「実質的に全ての溶剤を除去する」という限定がされているのに対し,引用発明においては,それら限定がされていない点。」」
 
 ほんで,本件で問題となったのは,このうち相違点1の方です。
 この相違点1について,審決は,刊行物3発明における「カーボンナノチューブ層の形成後にカーボンナノチューブ層をリソグラフィ技術でパターニングするという方法」に変更して,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである旨判断したのですね。これが問題となったのです。

2 問題点
 進歩性の場合の問題点は大きく2つです。一つは事実認定の誤り,そしてこれは引用発明の認定が変!な場合が多いことはここでしつこく述べているとおりです。
 もう一つが法的判断の誤り,そしてこれは動機付けの判断が変!な場合が多いこともしつこく述べました。

 で,今回は上記のとおり,法的判断の方ですね。そして,今回は,動機付けではなく,阻害事由(要因)です。つまり,主引例に刊行物3の発明を組み合わせる動機はあるんだけど,普通にやると組み合わせられない!ということが問題になっております。

 阻害事由はいいですかな。上記のとおりです。
 要するに,ラジオにカセットを組み合わせるなんて容易だ!ラジカセなんて簡単だ!てなことは後知恵バイアスで何とでも言えます。でも実際やると難しいってやつです。

 実は,カセットの録音・再生にはデカイ磁石を使いますので,ラジオなんちゅう電界をうまく操る機器を持ってくるとノイズが入ってしゃーない,のです。古い自動車の車載ラジオで,スパークプラグの火花放電の度にノイズが入る~なんて経験のある人もいるんじゃないですかね。電磁遮蔽って結構難しいのですよ。

 ですので,今回の件も,「カーボンナノチューブ層の形成後にカーボンナノチューブ層をリソグラフィ技術でパターニングするという方法」をやろうとするとどんな障害があるのか?これにかかってくるわけですね。

3 判旨
「イ 上記記載によれば,刊行物3発明は,電界放出型冷陰極装置,その製造方法,並びに同冷陰極装置を用いた真空マイクロ装置に関するものであって(【0001】),支持基板上に形成されたカーボンナノチューブ層にレジストを塗布して,カーボンナノチューブ層26を所定のレイアウト(エミッタのレイアウト)に従って,リソグラフィ技術でパターニングする方法(【0053】)が開示されている。
(2) 相違点1について
 審決は,刊行物1発明におけるカーボンナノチューブ層のパターニング方法を刊行物3発明における「カーボンナノチューブ層の形成後にカーボンナノチューブ層をリソグラフィ技術でパターニングするという方法」に変更して,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである旨判断した。
 しかし,刊行物1発明は,「ナノチューブ薄膜は固着性が悪く,接触や空気の流れ(たとえば空気掃除機)により容易に除かれるほどである。」(【0003】)ため,「適切な固着性を有し,より有用で堅固なデバイス構造の形成を可能にするより便利で,融通のきく方法」(【0005】)を開発することを課題とし,これを実現するため,パターン形成材料にカーボン分解材料,カーバイド形成材料,低融点金属などを用いてパターン形成し,これにナノチューブを堆積させた上でアニールすることによって,カーボン分解,カーバイド形成又は溶融を誘発させて,固着性(「ASTMテープ試験D3359-97で,2A又は2Bスケールを十分越える固着強度を指す。」(【0006】【0013】))を確保するものである。
 したがって,固着性の確保は刊行物1発明の必須の課題であって,刊行物1発明におけるパターニングの方法については,刊行物1発明と同程度の固着性を確保できなければ,他のパターニングの方法に置き換えることはできないというべきである。そして,刊行物3発明のパターニング方法におけるカーボンナノチューブの固着性についてみると,刊行物3発明は,「カーボンナノチューブを塗布,圧着,埋込み等の方法で合成樹脂製の支持基板12上に供給する」と記載しているのみであって,固着性について特段の配慮はされておらず,カーボンナノチューブ層が支持基板12に対して,いかなる程度の固着強度を有するかも不明である。
 よって,刊行物1発明に刊行物3発明を適用することには阻害要因があるから,刊行物1発明に刊行物3発明を適用して相違点1に係る本願発明の構成とすることを当業者が容易に想到し得るとした審決の判断には誤りがある。」

4 検討
 今回の判断についてもカーボンナノチューブの性質が実に効いております。カーボンナノチューブってそれ自体の強度はすごく強いです。電気もよく通します。
 何故か?要するにきれいな分子というか原子の結合だからですね。ということは逆に余っている価電子とかないわけですので,たくさん集めてもくっつかず,バラバラになりやすいという特性なわけです。すぐにボロボロになります。

 自己完結できている一匹狼のフリーランサーを集めてベンダーを作ったらさぞかし出来のいい会社になるに違いない~なんて思いませんよね。それと同じです。

 主引例はそんなバラバラ加減を克服するため,固着性に気を配って,主引例記載の発明となったわけです。にも関わらず,他のパターニング方法(リソグラフィ)でその固着性をうまく解決できるとは限らんじゃろ,こんバカタレが~って所ですね。

 まあ,これはそのとおりなんでしょうね。止むを得ません。

 で,上記のなお書です。

「4 なお,今後の特許庁における審理のため,一言付言する。審決は,刊行物1発明を主引用例,刊行物3発明を副引用例として容易想到性を判断したものであり,本判決は,このような判断の枠組みに従って,本願発明を容易想到であるとした審決には誤りがあると判断するものである。もっとも,刊行物3には,カーボンナノチューブを塗布するなどの方法で基板にカーボンナノチューブ層を形成し,リソグラフィ技術でパターニングする技術が開示されており,本願発明と相当程度一致する部分があると認められるところ,本判決は,刊行物3発明を主引用例とした場合に,本願発明の容易想到性を判断することについてまで否定するものではない。したがって,今後の審理においては,単に刊行物1発明を主引用例とした場合の容易想到性のみを判断するのではなく,刊行物3発明を主引用例とした場合の容易想到性についても検討する必要があると思われる。」

 そんな余計なことを言わんでもいいじゃねえのって気がします。何これ?釈明し過ぎの裁判所って感じがしますねえ。弁護士やっていると,本当釈明し過ぎの裁判官に閉口します。
 だって,常々私が書いているように,裁判って民事も刑事も所詮はゲームに過ぎません。貧乏人が優秀な代理人を雇えなくて本人訴訟で負ける,致し方ありません。つーか当然です。

 ここ日本は共産主義国じゃありません。
 ユニクロの柳井社長は儲け過ぎだ,楽天の則本はもっと手を抜いてほしいもんだ,なーんて思ってませんか。

 金持ちが巨大ファームの優秀な弁護士をたくさん雇って圧勝するように,裁判も資本主義・自由主義で成り立っているのです(これを処分権主義,弁論主義といいます。)。それのどこが悪いんでしょう。逆のことを考えるとよくわかるのではないでしょうか。
 金もない筋も悪い貧乏人が,裁判官に下駄を履かせてもらって勝つなんて八百長も良いところです。よっぽど不公平で,不当です。

 弱いものを助けるとか,正義のためだとか~みんなそんな甘い言葉が好きなんですよね。そんな人間ってサヨク病にかかりやすいんですよね。ま,一遍自分がサヨク病にかかってないか疑ってみた方がいいですね。

 ですので,今回の相手は,特許庁の指定代理人,つまりプロ中のプロなので,こんななお書いらねえなあ。特許庁の指定代理人も,なめんじゃねえぞ,このクソ裁判官風情が~くらいの根性を見せてほしいもんですよ。はーあ。

 ということで,今日まで4回続けて判決の紹介です。最近,閲覧数が多くてへそ曲がりの私としてはイマイチ不満なのですね。ですので,興味本位で来た輩を排除するため(私は生粋の差別主義者ですからね。),そういう輩には興味のないであろう判決を続けたわけです。

 案の定,予想通りにどんどん閲覧数が下がっております。ムハハハ。面白い判決があったら来週も続けようかなあ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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