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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。

1 概要

 本件は,発明の名称を「照明装置」とする特許(特許第4457100,平成181114日出願(優先権主張,平成18130),平成22212日設定登録。)の特許権者である原告に対し,被告は,平成24619,本件特許のうち請求項1ないし7,9及び10に係る発明についての無効審判の請求(無効2012-800105号事件)をしたことから,原告は,訂正請求をした(本件訂正)ものの,特許庁は,平成25723,「請求のとおり訂正を認める。特許第4457 100号の請求項1及び2,4ないし7,9及び10に係る発明についての特許を無効とする。」との無効審決(進歩性なし)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(設楽さんの合議体です。)は,審決を取消しました。要するに,進歩性がないとは言えないということですね。

 またまた進歩性です。今回は,事実認定ではなく,法的判断の所ですが,まあ事例判断として役に立つこともあろうということで,取り上げました。

 クレームです。

【請求項1】

 所定方向に並設された複数のLEDと、各LEDの並設方向に延びるように設けられた集光レンズとを備え、各LEDの光が集光レンズを通過して集光レンズから所定の距離だけ離れた位置に線状に集光するようにした照明装置において、

 前記各LEDから集光位置までの光の経路中に光を主に各LEDの並設方向に拡散させる拡散レンズを設けるとともに、集光レンズの各LED側の面によって受光レンズ部を形成し、

 受光レンズ部を、各LED側に凸面状に形成するとともに各LEDの並設方向に延びるように形成し、各LEDにおいて他の照射角度範囲よりも光の照射量を多くした所定の照射角度範囲から照射される光を受光可能に配置し、

 前記拡散レンズを複数のレンズ部から形成し、各レンズ部を、各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成するとともに、光の経路と交差する所定の面上に並ぶように配置し、

 前記各レンズ部を、互いに近傍に配置されたレンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なるように形成した

ことを特徴とする照明装置。

 ほんで,一致点相違点認定です(ここに不服はないわけですね。)

一致点

所定方向に並設された複数のLED,LEDの並設方向に延びるように設け られた集光レンズとを備え,LEDの光が集光レンズを通過して集光レンズから 所定の距離だけ離れた位置であって前記LEDの並設方向に撮像範囲の長手を有するように配置されたラインセンサカメラの撮像位置に線状に集光し,これにより前 記撮像位置を照明しこれをラインセンサカメラで撮像するように構成されたライン センサカメラ撮像位置照明用の照明装置において,

 この照明装置は,前記各LEDから前記集光位置までの光の経路中に光を拡散さ せる拡散手段を備えると共に,前記集光レンズの各LED側の面によって受光レンズ部が形成され,

 受光レンズ部を,LED側に凸面状に形成するとともに各LEDの並設方向に延びるように形成するラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置。

ア 相違点1

拡散手段」について,本件発明1では「光を主に各LEDの並設方向に拡散させる拡散レンズ」であって「光の経路と交差する所定の面上に延びるように設けら れた透明な基板と,該透明な基板の厚さ方向一方の面上に並ぶように設けられた複 数の凸レンズ部から形成し,各凸レンズ部を,LEDの並設方向への曲率半径が 各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成し,前 記各凸レンズ部を,互いに近傍に配置された凸レンズ部同士で各LEDの並設方向 への曲率半径が異なるように形成し,これにより,光を前記複数の凸レンズ部のそ れぞれの曲率に応じてLEDの並設方向に屈折させて前記拡散を行う」のに対し, 16発明では「記各LED12から照射面3までの光の経路中に光を拡散させる 散乱シート2」であり,「ポリエステルフィルム上に微粉末からなる光拡散層を積層することにより形成する」点。

イ 相違点2

 省略

 で,原告としては,この相違点1に関する法的判断が気に入らなかったのですね。

2 問題点

 問題点は,やはり進歩性です。そのうち,法的判断の誤りがメインの争点ということになります。

 で,昨日も書きましたが,法的判断の誤りというと?動機付けの不足〜♪ということですね。つまり,分野が違う,課題が違うのに,同じだ!一緒だ!とすると,それはおかしいだろ?えっ!と言われてしまうパターンですね。

 基本,特許庁での判断に対して逆転で,進歩性が認められるのは割合としては多くないと思います。まあ,どこかの論文でも見れば統計結果はわかると思います。

 で,そういう意味からするとある意味例外の,逆転での進歩性が認められる場合,そして,法的判断の誤りがあるとして認められるパターンは上記のとおり,もうワンパターンです。

 何でしょう〜やっぱ焦りですかねえ。ということで,判旨の方に行ってみましょうかね。

3 判旨

「・・・したがって,本件発明1,照射面における各LEDの並設方向のみの光のむら を問題とし,これを解消しつつ,光量の無用の減衰をさせないという課題を解決す るため,光の散乱角度を制御し,光を各LEDの並設方向と直交する方向にはほとんど拡散させず,主に各LEDの並設方向という一定の方向にのみ拡散させることができる構成を採用したものである。

イ また,上記1(3)によれば,17公報には,従来の光拡散体には,①乱反射により光を拡散するものと,②光の屈折により拡散を行うものがあるが,①光の乱反射を利用する光拡散体には,均一面照明を行うために前方散乱を増やそうとする と後方散乱も増え画面が暗くなったり(低い輝度レベル),照明ムラを均一化するた めに光拡散を強くしようとすると,後方散乱も大きくなり光の透過率が著しく低下し,画面が暗くなるという欠点があり(0002),②光の屈折を利用する光拡散体には,拡散角度の異方性を制御することは困難であり,また,製造可能な表形状の自由度の点において改善の余地があるという問題点があったため(0003), これらを解決し,「煩瑣な製造プロセスを用いることなく,かつ,拡散角度の異方性 の制御など光拡散体の設計変形も容易に行うことができる,高解像度・高透過率を 有する光拡散体」の製造方法を提供することを課題とすること(0006)が記載されている。

 そして,17公報に記載された製造方法は,上記課題の解決方法として,微小 凹凸形状が転写されたモールドを,1方向にあるいは2つの方向に」引き伸ばしてから,同モールドに硬化性樹脂を流し込み,これを硬化後,離型して,光拡散体を 製造するというものであるが(0007),このうち,モールドを,一方向に延伸して光拡散体を製造作成した場合には,光拡散体の凸部は扁平(切断面の形状の曲 率半径が大きい)の細長い形状のものに変わって,光拡散体の凸部の,延伸方向と 同じ方向の切断面における方が,延伸方向に直角の切断面の方より曲率半径が大きくなり,曲率半径の大きい断面を通過する光は,曲率半径の小さい断面を通過する 光よりその屈折は小さくなり,光の拡散角度はより狭くなるため,光を特定の方向 に集中的に拡散させることができるという機能を有すること(0009)が開示されている。

 したがって,17公報には,光の拡散方向を制御して,特定の一方向に集中的 に拡散させることができる光拡散体として,「表面が不規則な微小凹凸形状を有する原型にモールド樹脂材料を注型して微小凹凸形状が転写されたモールドを一方的に 延伸し,使用する原型の凸部形状である半球が一方向に延伸された結果,光拡散体 の凸部が前記半球より扁平(切断面の形状の曲率半径が大きい)の細長い形状のものに変わっているシート(フィルム)状の光拡散体であって,前記凸部の,延伸方向と同じ方向の切断面における方が,延伸方向に直角の切断面の方より曲率半径が大きくなっており,曲率半径の大きい断面を通過する光は,曲率半径の小さい断面を通過する光よりその屈折は小さくなり,光の拡散角度はより狭くなる拡散角度の異方性を制御可能な高透過性の光拡散体」(17発明)が記載されていると認められる(0009】。当事者間に争いがない。)

ウ 一方,16発明は,上記(1)ウのとおり,従来の技術では,照射面のうち, LEDアレイの並設方向(横方向)の照度にも,これと直交する方向(縦方向)の 照度にも偏りが生じ,縦方向の有効照射巾が狭く,かつ均一な照度を得られないと いう課題を解決するため,光を無指向に散乱させる散乱シート2(ポリエステルフィルム上に微粉末からなる光拡散層)を設けることにより,光をLEDアレイの並 設方向にも,これと直交する方向(縦方向)にも散乱させ,照射面については均一 な照度となるようにし,その縦方向については有効照射巾を拡大できるようにしたものである。

 そうすると,16発明は,主としてLEDアレイの並設方向に光を集中的に拡 散させることを課題とするものではなく,かえって,これと直交する方向にも光を 拡散させることを課題とするものであるから,光を特定の1つの方向にのみ集中的 に拡散させるという機能を有する光拡散体である甲17発明を,16発明に組み 合わせることは,その動機付けを欠くものであり,当業者が容易に想到することができるものとは認められないというべきである(なお,17公報には,微小凹凸形状が転写されたモールドを,2つの方向に引き伸ばしてから,同モールドに硬化性樹脂を流し込んで製造する光拡散体も開示されていると認められるから,微小凹 凸形状を2つの直交する方向に引き伸ばしたモールドから製造した光拡散体であれ ば,当業者が,16発明の課題を解決するために,16発明の散乱シート2に代えて組み合わせることは容易であると考える余地があるが,かかる光拡散体は, そもそも,「各凸レンズ部を,LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方 向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成し」た構成を備えている とは認められないから,16発明と組み合わせても本件発明1の構成にはなり得ない。)

 また,16発明と本件発明1との関係をみても,16発明と本件発明1とは, 照射面における光のむらを解消することを課題の一部とする点では共通するが, 16発明は,照度のユラギを改善して照射面全体における照度を均一とすることを 目的とし,これに加えて,有効照射巾の拡大のため,縦方向にも光を散乱させるこ とを課題とするものであり,かつ,その結果として,照射面における一定程度の照 度の低下はやむを得ないことを前提とし(【実施例】),これを防止することは解決課 題とはしていないのに対し,本件発明1,LEDの並設方向と直交する方向へ の光の拡散は課題としておらず,かえって,同方向へはほとんど拡散させずに,光を無用に減衰させることなく主に各LEDの並設方向に集光させ,かつ,照度の低下を防止することを必須の課題とするものであるから,両発明の解決課題は全体として異なるものである。それだけではなく,本件発明1,LEDの並設方向と 直交する方向への光の拡散はほとんどさせないことにより,光を無用に減衰させる ことなく集光することを解決手段の1つとするものであるから,これとは逆に,同方向への光の拡散を課題の一部とする甲16発明には,本件発明1を想到することについての阻害要因が存するというべきである。」

4 検討

 本件発明って,紙とかの長尺物を検査するときに使う照明なのですね。なので,その長尺方向に均一な光をもたらすことを課題としているわけです。つまり,幅方向の光には頓着しておりません。一直線のイメージですね。

 他方,甲16(主引例)も同じような用途に使えるのかもしれませんが,甲16の課題は,面での光の均一性です。つまり,幅方向の光にも頓着するものです。イメージとしては,テープ状のものですね。

 そして,甲17というのは,光の拡散の異方性をもたらすものです。

 ですので,本件発明と甲16って全然課題が違うものです。正反対のものって言ってもよいと思います。ですので,甲17がいくら光拡散の異方性をもたらすからと言って,組み合わせる動機付けに欠けますよね。

 ま,要するに,甲16って似ているけど,実は技術的思想を異にする発明だったわけです。これは中身をきちんと見ないとわかりません。いや,仮想的当業者の特許庁の審判官がわからないわけがありません。被告(審判請求人)がある程度のものを探してきたので,まあこれでいいんじゃねえの〜♡って判断するとこうなるのかもしれませんね。

 何か似ていますよね。検察官が,ある程度の立証をすると,まあこれでいいんじゃねえの〜♡って判断するどこかの国の裁判官に。いやあどちらも楽な仕事で羨ましい限りですわ。ムフフフ。

5 追伸
 ということで,3日連続の判決の紹介です。
 どんどん落ちる閲覧数〜って感じですが,仕方ありません。つーか,このブログのメインてこれなんですけど・・・。

 あと,大分の高校野球,遂に決着です。大分高校でしたね。おめでとうございます~。まあ一応応援しますよ,あんまり関係ないんですけどねえ。


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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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