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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 平成20年4月11日,名称を「排気ガス浄化システム」とする発明につき,特許出願(特願2008-103684号,国内優先権主張日:平成19年8月1日)をした原告(日産自動車)が,平成24年7月17日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月17日,これに対する不服の審判を請求するとともに,同日付け手続補正書により特許請求の範囲の変更を含む手続補正(本件補正)をしたものの, 特許庁から拒絶審決(独立特許要件なし,補正前の發明も新規性・進歩性なし)を下されたことから,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対し,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,原告の請求を認め,審決を取消しました。つまり,新規性・進歩性あり,というわけです。

 ちょっとアップから時間が空いたのですが,他によい判決もないことから,これにしました。

 クレームですが,こんな感じです。
【請求項1】
  排気ガスの空気過剰率(λ)が1を超えるときに窒素酸化物を吸収し,λが1以下のときに窒素酸化物を脱離するNOxトラップ材と,浄化触媒と,排気ガス中の酸素濃度を制御するO2 制御手段と,を備える内燃機関の排気ガス浄化システムであって,   
  排気ガスのλが1を超えるとき,NOxを上記NOxトラップ材に吸収させ,    
  排気ガスのλが1以下のとき,上記NOxトラップ材からNOxを脱離させ,上記O2 制御手段で浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を0.8~1.5vol%に制御することによりHCの部分酸化反応を誘発し,この部分酸化を利用してNOxを還元させる,ことを特徴とする排気ガス浄化システム。」(下線部は補正箇所。)

 そんなわかりづらい発明じゃないと思います。主引例は,引用例1(特開2003-311152号公報,甲1)で,こんな感じです。
「排気ガスの酸素濃度が高い酸素過剰雰囲気ではNOxを吸収し,理論空燃比近傍または空気過剰率λ≦1でのリッチ燃焼運転時にはNOxを放出するNOx吸収材と,Pt,Rh等の貴金属と,排気ガスの酸素濃度を変化させる排気制御手段8と,を備える車両用のリーンバーンエンジンや直噴ガソリンエンジンのようなエンジン4の排気ガス浄化装置であって,    
  排気ガスの酸素濃度が高い酸素過剰雰囲気ではNOxを上記NOx吸収材に吸収させ,理論空燃比近傍または空気過剰率λ≦1でのリッチ燃焼運転時にはNOx吸収材からNOxを放出させ,排気制御手段8でNOx吸収材と貴金属を含む排気ガス浄化用触媒1の入口側の排気ガスの酸素濃度は2.0%以下に制御され,HCが部分酸化されて活性化されNOxの還元反応が進み易くなり,結果的にHC及びNOx浄化率が高まる,排気ガス浄化装置。」 

 で,一致点・相違点認定は,こうでした。
【一致点】
  「排気ガスの空気過剰率(λ)が1を超えるときに窒素酸化物を吸収し,λが1以下のときに窒素酸化物を脱離するNOxトラップ材と,浄化触媒と,排気ガス中の酸素濃度を制御するO2 制御手段と,を備える内燃機関の排気ガス浄化システムであって,    
  排気ガスのλが1を超えるとき,NOxを上記NOxトラップ材に吸収させ,    
  排気ガスのλが1以下のとき,上記NOxトラップ材からNOxを脱離させ,上記O2 制御手段で浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を0.8~1.5%を含む濃度に制御することによりHCの部分酸化反応を誘発し,この部分酸化を利用してNOxを還元させる,排気ガス浄化システム。」
【相違点】
  O2 制御手段で浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を0.8~1.5%を含む濃度に制御するのに関して,排気ガス中の酸素濃度が,補正発明では,「0.8~1.5vol%」であるのに対して,引用発明では,2%以下であり,vol%であるか否かは明記されていない点。  

 審決は,相違点は実質的な差ではない(新規性なし),又は,差だとしても,周知技術もあり,数値範囲の最適化又は好適化したもので(つまり設計事項等),進歩性なしだと判断しました。

2 問題点
 進歩性の必勝パターンは2つあります。それは,進歩性の認定が2段階を踏んでいるからです。まず,事実認定のところ,ここは正確に技術を認定する必要があるため,つけ込みやすい所です。やっぱ,仮想当業者と言えども,審査官・審判官は現役のエンジニアではありませんので,間違いは生じやすいわけです。

 次に,法的判断の所です。最近は,調査の能力が落ちたせいか明後日の引用発明しか見つからず,強引に対比させたために,技術分野の関連性も課題の共通性も見つからず,動機付けできない!とされる判決も多くなっていると思います。

 もちろん,個別具体的な事案が上記のどちらかは,一概に言えることではないのですが,怪しい所があれば,事実認定でも法的判断でも言ってみる必要があると思います。

 ほんで,本件はというと,事実認定のところに問題があったようです。

3 判旨
「 ア  審決は,引用例1に記載された引用発明として,「排気ガスの酸素濃度が高い酸素過剰雰囲気ではNOxを吸収し,理論空燃比近傍又は空気過剰率λ≦1でのリッチ燃焼運転時にはNOxを放出するNOx吸収材と,Pt,Rh等の貴金属と,排気ガスの酸素濃度を変化させる排気制御手段8と,を備える車両用のリーンバーンエンジンや直噴ガソリンエンジンのようなエンジン4の排気ガス浄化装置であって,排気ガスの酸素濃度が高い酸素過剰雰囲気ではNOxを上記NOx吸収材に吸収させ,理論空燃比近傍又は空気過剰率λ≦1でのリッチ燃焼運転時にはNO
x吸収材からNOxを放出させ,排気制御手段8でNOx吸収材と貴金属を含む排気ガス浄化用触媒1の入口側の排気ガスの酸素濃度は2.0%以下に制御され,HCが部分酸化されて活性化されNOxの還元反応が進みやすくなり,結果的にHC及びNOx浄化率が高まる,排気ガス浄化装置。」と認定している。この中で,審決は,HC及びNOx浄化率が高まるとの作用効果を奏する機序として,「HCが部分酸化されて活性化」されることを認定している。
      イ  しかし,甲1発明は,前記(1)イに認定したとおりであるから,甲1発明における,排気ガスの酸素濃度が低下したとき(リッチ燃焼運転時)に,「HCが部分酸化されて活性化され,NOxの還元反応が進みやすくなり,結果的に,HC及びNOx浄化率が高まる」という作用効果は,NOx吸収材と貴金属とを含む排気ガス浄化用触媒に追加した「Ce-Zr-Pr複酸化物」によって奏したものであって,排気ガスの酸素濃度を前記段落【0058】のように「2.0%以下,あるいは0.5%以下」となるように制御することによって奏したものではない。すなわち,「Ce-Zr-Pr複酸化物」は,前記作用効果を奏するための必須の構成要件であるというべきであり,排気ガスの酸素濃度を「2.0%以下,あるいは0.5%以下」となるように制御した点は,単に,実施例の一つとして,リーン燃焼運転時に「例えば4~5%から20%」,リッチ燃焼運転時に「2.0%以下,あるいは0.5%以下」との数値範囲に制御したにとどまり,前記作用効果を奏するために施した手段とは認められない。
  したがって,引用発明において,「HCが部分酸化されて活性化」されるのは,NOx吸収材と貴金属とを含む排気ガス浄化用触媒において,「Ce-Zr-Pr複酸化物」を含むように構成したことによるものであるから,引用例1に,「排気ガス浄化用触媒1の入口側の排気ガスの酸素濃度は2.0%以下に制御」(段落【0058】)することにより,HCの部分酸化をもたらすことを内容とする発明が,開示されていると認めることはできない。
  そうすると,審決は,引用発明の認定において,「酸素濃度は2.0%以下に制御され,HCが部分酸化されて活性化されNOxの還元反応が進みやすくなり,結果的にHC及びNOx浄化率が高まる,排気ガス浄化装置」と認定しながら,そのような作用効果を奏する必須の構成である「Ce-Zr-Pr複酸化物」を排気ガス浄化用触媒に含ませることなく,欠落させた点において,その認定は誤りであるといわざるを得ない。 」

「前記のとおり,審決の引用発明の認定は誤っており,これを前提とする一致点及び相違点の認定には誤りが含まれている。
  引用発明は,前記(2)ウのとおり認定するべきであるから,一致点及び相違点は,
以下のとおりとなる。
【一致点】
  排気ガスの空気過剰率(λ)が1を超えるときに窒素酸化物を吸収し,λが1以下のときに窒素酸化物を脱離するNOxトラップ材と,浄化触媒と,排気ガス中の酸素濃度を制御するO2制御手段と,を備える内燃機関の排気ガス浄化システムであって,排気ガスのλが1を超えるとき,NOxを上記NOxトラップ材に吸収させ,排気ガスのλが1以下のとき,上記NOxトラップ材からNOxを脱離させ,上記O2制御手段で浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度が制御され,HCの部分酸化を誘発し,この部分酸化を利用してNOxを還元させる,排気ガス浄化システム。
【相違点1”】
NOxトラップ材と浄化触媒に,補正発明は,Ce-Zr-Pr複酸化物を含んでいないのに対し,引用発明は,Ce-Zr-Pr複酸化物を含む点。
【相違点2”】
  排気ガスのλが1以下のとき,補正発明は,浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を0.8~1.5vol%に制御するのに対して,引用発明は,浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を2.0%以下,又は0.5%以下に制御した点。 」

「 イ  また,補正発明は,排気ガス中のO2 濃度を制御して,不完全燃焼を生じさせる,すなわち,HCの部分酸化により生じるH 2 とCOにより,脱離NOxを有効に還元し,浄化するとの技術思想に基づくものであるところ,空気過剰率(λ)が1以下のときに,排気ガス中のO2濃度が0.8vol%未満では,H2及びCO生成量が不十分となり,HCの有効利用率向上効果が得られず,逆に,O2濃度が1.5vol%を超えると,還元剤の酸化反応が優勢になり,有効な還元剤であるH2及びCOが酸化反応により消費されることになり,さらにまた,浄化触媒がO 2による被毒を受けて部分酸化反応活性が不十分となるとともに,NOxを還元できなくなるため,排気ガスのO2 濃度を0.8~1.5vol%の範囲内で行うとの構成をとったものであり,この数値範囲には技術的意義があるものである。」

4 検討
 審決での引用発明の認定には,Ce-Zr-Pr複酸化物を含む点を看過した誤りがあって,そこが結局尾を引いたようですね。
 本件の補正発明は,Ce-Zr-Pr複酸化物を含まない点で,シンプルな発明であったのですが,そのかわり,浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を0.8~1.5vol%に制御したという点がポイントになるようです。この数値自体に臨界点意義もあるようですから,新規性は勿論OKで,進歩性も大丈夫という結論は妥当な所でしょう。

 判決は,事実認定の誤り自体を取り消すほどのものと明示しておらず,法的判断まで判断して,取消事由に理由があるとしたものです。ですが,ポイントは,上記のとおり,相違点の看過でしょうね。

 そうすると,審決が強引に事実認定しなければならなかったのは,やはり主引例が遠い~ことに理由があったのはないかと思えます。
 現在ちょっとした理由があって,このブログで紹介した進歩性を逆転で認めた事例などをまとめているのですが,出願人の勝ちパターン,つまり特許庁の負けパターンはもう2つですね。一つは,事実認定のミス,ない物をあると見たり,あるものをないと見るというやつです。そして,もう一つが,遠い引例での強引な対比で,動機付けなしってパターンです。

 そうすると,この2つのパターンって結局同じ原因なのですよね。要するに,調査がイマイチ!ってところが原因です。明後日の引例しか探せないから,強引な事実認定をして,そんなこと書いてねーじゃんとか,書いてるのに勝手に省くなよボケとか言われ,また強引な法的判断をして,全然ちがう発明じゃん,分野が全然ちげーよと言われるパターンです。

 このブログは特許庁の人が朝から晩まで入れ替わり立ちかわり張り付いてるようなので,言っておきますが,もうちょっと調査を何とかした方がいいと思いますよ。まあもうすぐ代わる羽藤さんに言ってもしょうがないですが,技監の木原さんにでも言っておいてください。非常に不安です。

5 その他
 私は個人事業主なので,別に何時までに出なきゃいけないということはないのですが,いつもは8時過ぎには事務所に出ています。でも,今日は朝遅くの出勤です。

 そう。日本VSギリシャ戦ですね。結果は0-0のスコアレスドローでした。勝ちの結果は欲しい所でしたが,かなり攻めてましたし,面白かったので,私としては良かったと思います。
 本田選手は,試合後のインタビューで厳しいことを述べてましたが,私は別にサッカーが勝とうが負けようが別に死ぬわけでも何でもないので,ある程度の時間を面白おかしく見させてもらえば,それで構いません。そういう意味からすると,十分合格点ですね。

 前の試合で,コロンビアがコートジボワールに勝ったこともあり,C組ではコロンビアが決勝トーナメント進出決定したそうです。なので,次戦のコロンビア戦も,十分勝機はあると思いますよ。だって,コロンビアのモチベーションはダダ下がりですもんね。私の予想は,0-3か1-4ではあるのですが,また面白おかしい試合をやって欲しいです。
 今日は,難を言えば,バカみたいに点が入らなかったので,そこだけがちょっと不満です。次回はバカみたいに点の入る,アホみたいな試合を期待してまっせ。

 

 

 

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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