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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 今日は 998です。
 さて,本件は,平成8年9月27日,発明の名称を「白色ポリエステルフィルム」とする特許出願(特願平8-255935号)をし,平成16年9月10日,設定の登録(特許第3593817号,本件特許)を受けた原告(東レ)に対し,被告(帝人)は,平成24年10月26日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明について,特許無効審判を請求した(無効2012-800177号)ところ,原告は,平成25年8月6日,訂正請求をしたものの(本件訂正),特許庁は,同年10月3日,訂正を認めた上で無効審決(進歩性なし)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(石井さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,進歩性はないとは言えないということです。

 ということで,このブログの判決紹介で最も多いパターン,逆転で進歩性ありのパターンですね。

 クレームは以下のとおりです。
【請求項1】
 無機粒子を5重量%以上含有するポリエステル組成物であって,該ポリエステル組成物のカルボキシル末端基濃度が35当量/ポリエステル106g以下であり,かつ昇温結晶化温度(Tcc)とガラス転移温度(Tg)との差が下記式を満足してなることを特徴とするポリエステル組成物からなる白色二軸延伸ポリエステルフィルム。
 30≦Tcc-Tg≦60

 まあ,化学系のかなりマニアックな発明ですね。大企業じゃないとこういう発明はとてもできないでしょう~という典型的なものですニャー。
 数値限定がかなりされているところも注目なのですが,今回逆転の原因は実はここではないところです。
 
 で,引用発明と一致点・相違点は以下のとおりです。

「ア 引用発明(特開平7-331038号,甲1公報)
 リン酸,亜リン酸,ホスフィン酸,ホスホン酸およびそれらの炭素数3以下のアルキルエステル化合物よりなる群の中から選ばれた少なくとも一種のリン化合物で表面処理した炭酸カルシウム粉体からなるポリエステル系樹脂用改質剤の含有量が5重量%を越え,80重量%以下であるポリエステル組成物からなる白色ポリエステルフィルムであって,実施例12の段落【0045】で得られたポリエステル組成物(以下,このポリエステル組成物を「ポリエステル組成物A」ともいう。)からなる白色ポリエステルフィルムの態様を包含する,白色ポリエステルフィルム

イ 一致点
 無機粒子を5重量%以上含有するポリエステル組成物からなる白色ポリエステルフィルム

ウ 相違点
相違点1
 ポリエステル組成物について,本件発明1においては,カルボキシル末端基濃度が35当量/ポリエステル106g以下であるのに対し,引用発明においては,カルボキシル末端基濃度について格別特定していない点
相違点2
 ポリエステル組成物について,本件発明1においては,昇温結晶化温度(Tcc)とガラス転移温度(Tg)との差が30≦Tcc-Tg≦60であるのに対し,引用発明においては,昇温結晶化温度(Tcc)とガラス転移温度(Tg)との差について格別特定していない点
相違点3
 白色ポリエステルフィルムについて,本件発明1においては,二軸延伸フィルムであるのに対し,引用発明においては,フィルムの成形手段について格別特定していない点」

 種明かしを最初にしておきますが,これ,引用発明の認定の誤りが最大のポイントです。

2 問題点
 進歩性が問題点なのですが,近時の進歩性の論点って,基本2つのパターンしかないというのは,もうここで散々書いたとおりです。

 一つが事実認定の誤り→遠い引例しか探せなかったため,強引に本願発明に合わせてようとして矛盾が生じる,所謂特許庁不祥事案件でいうところの,強引な男の方がモテるって勘違い~♡であります。

 もう一つが法的判断の誤り→遠い引例しか探せなかったのは同様だけど,強引に合わせるようなことはしないため,どこまで行っても動機付けできないという,所謂特許庁不祥事案件でいうところの,ボケっとシラッとしてりゃあ気づかないかも~♡であります。

 どちらも特許庁不祥事案件で超有名~なわけですね。あ,元ネタわかりますかな。

 そんな悪ふざけはいいとして,まあ,こういうことしたくなる気持ちもわからんでもないということです。
 というのは,最近とみに思うことは,特許庁の調査能力がガタ落ちしているんじゃないかなあということです。私が,現役の知財部員だったころは,もう10年以上も前のことですが,特許庁の審査官に,うーなんて嫌味なやつ,このアホンダラと思ったことはたくさんありますが,こいつ何でこんなにバカなんだろう,と思ったことはありません。

 今は基本出願やっていないので,実際の審判・訴訟事件や判決を読むことしかできないのですが,なんだろう~時々非常にレベルが低いなあということを思います。

 勿論,指定代理人となっている官僚の皆様は,アホな人はそんなにおらず,レベルが低いと思う原因はほかにあると思うのですね。その一つが,任期付審査官じゃないでしょうか。
 審査官って,基本上級職のキャリアですので,東大の法学部を出た人達が受ける国家公務員の試験を受けるわけです。他方,任期付審査官はそこの関門はくぐっておりません。
 
 ちょっと前にテレビで紹介されていたこともありますが,受験するのは,リストラされそうな年寄りエンジニアの皆さんばかりでしたね。まあ,地頭はそんなに悪くはないと思いますが,実戦配備するまでの準備が,やはり,違いすぎますし,何より重要なのは,若さ~です。
 歳をとると私もそうですが,他人の意見って本当聞けなくなるのですね。まあ,バカと年寄りは死ななきゃ治らないってやつです。

 あとは,外注です。審査官がイマイチパッとしなくても,良い引例を見つけりゃそれはそれで終わりなのですが,これが外注会社でとんでもないバラツキがあるのですね。
 イソ弁時代お世話になっていたボス弁からも,ここだけには頼むな,ここはとんでもない,とよく言ってましたからね~。会社毎のバラツキ,つまりはサーチャー毎のバラツキがとんでもないわけですね。

 なので,ポンコツ元エンジニア+アホサーチャーの会社での調査,という鬼に金棒ならぬ,何でしょう,当たり目に祟り目というか泣きっ面に蜂というか,そんな感じだとこういう結果になるのでしょうね。

 でもちょっと頻度が多すぎると思いますが。

3 判旨
「(2)「ポリエステル組成物Aからなる白色ポリエステルフィルム」が甲1公報に記載されているに等しい事項といえるかについて
 原告は,仮に,引用発明として認定する物として,「ポリエステル組成物Aからなる白色ポリエステルフィルム」に着目したとしても,甲1公報に「ポリエステル組成物Aからなる白色ポリエステルフィルム」が記載されているに等しいとする審決の判断は誤りであると主張する(前記第3の1(2))ので,以下,検討する。
ア  特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明は,その発明について特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。
 ここにいう「刊行物に記載された発明」の認定においては,刊行物において発明の構成について具体的な記載が省略されていたとしても,それが当業者にとって自明な技術事項であり,かつ,刊行物に記載された発明がその構成を備えていることを当然の前提としていると当該刊行物自体から理解することができる場合には,その記載がされているに等しいということができる。しかし,そうでない場合には,その記載がされているに等しいと認めることはできないというべきである。
 そうすると,本件において,「ポリエステル組成物Aからなる白色ポリエステルフィルム」が甲1公報に記載されているに等しいというためには,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものが当業者にとって自明な技術事項であり,かつ,同公報に記載された発明が,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものであることを当然の前提としていると同公報自体から理解することができることが必要というべきである。
 しかるに,本件においては,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものが当業者にとって自明な技術事項であることを認めるに足りる証拠はない。したがって,これを自明な技術事項であるということはできない。また,甲1公報の記載を検討しても,実施例12のポリエステル組成物Aは白色二軸延伸フィルムを製造するポリエステル組成物Bを得るための中間段階の組成物にすぎず,同実施例がポリエステル組成物Aについてフィルムを成形するものでないことはいうまでもないし,さらに,同公報のその他の記載をみても,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形することを示す記載や,そのことを当然の前提とするような記載はない。
 以上のとおり,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものが当業者にとって自明な技術事項であるとはいえず,また,甲1公報に記載された発明が,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものであることを当然の前提としていると同公報自体から理解することができるともいえない。そうすると,「ポリエステル組成物Aからなる白色ポリエステルフィルム」は,甲1公報に記載されているに等しい事項であると認めることはできないものというべきである。」
 
4 検討
 規範は,下線部で示したとおりですが,これは勇み足過ぎますね。勿論,審決とは言え,無効審判の請求人がそう主張したため,審決はそれに乗っかっただけ,とも言えますが・・・。

 私は上記のとおり,ポンコツ元エンジニア+アホサーチャーの会社での調査だから,こうなっていると書きましたが,今回は,査定系じゃないのです。つまり,調査し,暫定的にそれを当てはめたのが,無効審判の請求人であるに過ぎず,最終判断したのは,特許庁のお偉いはずの審判官の方々なのですね~。

 つまりは,所謂特許庁不祥事案件~の原因は,末端の審査官や外注先だけにあるのではなく,もはや審判官にも伝染した,非常に質の悪いものだということです。

 どうですか~,審決取消訴訟から受任する弁護士などには美味しい話ではあるのですが,長い目でみると,これまた先行き暗いなあっていう話でしたね。

5 追伸
 昨日は更新出来なかったのですが,久々に散歩で気になったシーンがありましたので,それをアップしておきます。
 
 どこかわかりますよね。八ツ山通り,通称ソニー通りの,旧ソニー本社の前当たりです。何かが無くなったと思いませんか。
 逆方向です。

 この前ちょっと書きましたが,歩道橋がなくなったのですね。変わりに横断歩道が出来ていました。
 うーん時代は移り変わるニャー~と思っていたら,そう言えば,昔,この今積水の建物になってしまった旧本社群と,ソニー通りを挟んで反対側の旧本社群の間に地下道が通ってなかったかなあとぼんやり思っています。

 何せ,私が旧本社圏に通っていたのは,知財部でのほんの数ヶ月の間のことで,記憶が何かとごっちゃになっている可能性もあります。ただ,この積水の建物になってしまった旧本社群の地下というか通路は本当迷路のようになっていて,確かその一角から,反対側に,歩道橋を使わず,雨にも濡れずに行けたような気がしたんだけどなあ。

 三省堂書店が売店にあったのは確実ですが,地下道~どうだったかなあ~ソニーOBの人,どうでしょうかな。

 で,ついでに山本橋からの様子です。
 
 桜の葉っぱも枯れ始め,秋って感じです。建設中のビルはかなり進捗したようです。
 
 何せ今日から年賀状も発売ですもんね。

 で,そうこうしてたら,スーパー宇宙パワーこと,木村浩一郎が亡くなったというニュースがありました。
 いやあ,びっくり。覆面レスラーなのに,若手に対し非常に当たりの厳しかったスーパー宇宙パワー,誰がどう見ても中身は・・・って感じでしたが,プロレス→格闘技に行く時代の徒花ってところでしょうか。そんな選手が・・・,勿論私より若いですからね~。何があったのだろうという感じがしますね。

 ただ,そのころ青息吐息だったプロレスは,近時大盛り上がりです。何つっても,日経の電子版ではあるのですが,棚橋選手のインタビューが載るくらいですからね。いやあ,本当,よく復活したと思いますね。勿論,客が入っているのは新日本だけ,なのかもしれませんが,それでも凄い話です。

 枯れたカテゴリーと思われた掃除機だとか扇風機だとかにもまだまだイノベーションの余地はあるように,こんなの誰が見るんじゃーと思われたプロレスも,やれば出来るところがあったのですねえ。実際テレビで見るだけですが,本当面白いですもんね。私も商売人の端くれですので,見習わないといけないですよ。

 さて,今日は日本シリーズもありますが,ソフトバンクそのまま行くかなあ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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