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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「電子写真現像剤用磁性キャリア及びその製造方法,二成分系現像剤」とする発明につき,平成20年2月29日,特許出願をした原告が(特願2008-49226号,請求項の数7),平成24年8月20日付けで手続補正をしたが(請求項の数6),同年11月30日付けで拒絶査定を受けたので,平成25年3月5日,これに対する不服審判を請求をするとともに(不服2013-4314号),同日,特許請求の範囲の変更を含む手続補正(本件補正)をした(請求項の数6)ものの,特許庁は,平成25年9月10日,本件補正を却下した上で,拒絶審決(進歩性なし)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体です。)は,審決を取消しました。要するに,進歩性がないとは言えない,ということです。

 よくあるパターンなのですが,事実認定の誤りは結構多いねえ~ということで取り上げました。
 
 クレームです。
「  カラー用現像剤に用いられる電子写真現像剤用磁性キャリアであり,電子写真現像剤用磁性キャリア磁性芯材粒子の粒子表面に主に,シリコーン樹脂,スチレン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂から選ばれる一種又は二種類以上の樹脂からなる表面被覆層を形成した電子写真現像剤用磁性キャリアであって,前記磁性キャリアの平均粒子径が10~100μmであり,該磁性キャリアの帯電量の測定において,測定条件を下記のとおりとし,測定10秒後の測定値と120秒後の測定値との比(10秒後の帯電量)/(120秒後の帯電量)が60%以上であることを特徴とする電子写真現像剤用磁性キャリア。
    (帯電量の評価)
    帯電量は,磁性キャリア95重量部と下記の方法により製造したトナー5重量部を十分に混合し,24℃,60%RH環境に24時間以上放置し調湿した試料を準備して,ブローオフ帯電量測定装置を用いて測定した値である。
    トナーの製造例
      ポリエステル樹脂  100重量部
      銅フタロシアニン系着色剤  5重量部
      帯電制御剤(ジ-tert-ブチルサリチル酸亜鉛化合物)  3重量部
      ワックス  9重量部
      上記材料を溶融・混練し,粉砕,分級して得た重量平均粒径7.4μmの負帯電性青色粉体100質量部と疎水性シリカ1重量部を混合して負帯電性シアントナーとして用いる。  」 

 まあ,大体わかりますよね。所謂コピー機のトナーとかそういうものの発明です。ゼログラフィ方式って静電気で像を作るのですが,そうすると,そのトナーが帯電しないといけません。そのトナーの帯電を増やすために,キャリアというトナーとは別の粉を使うのが,この発明のような二成分系現像って言うやつです。
 で,今回の発明は,そのキャリアの方で,クレームのとおりに,製造して,帯電量も測定するようなやつというわけです。

 一致点・相違点です。
  イ  一致点
「  電子写真現像剤用磁性キャリア磁性芯材粒子の粒子表面に主にシリコーン樹脂からなる表面被覆層を形成した電子写真現像剤用磁性キャリアであって,前記磁性キャリアの平均粒子径が10~100μmである,電子写真現像剤用磁性キャリア。  」

      ウ  相違点
        (ア)  相違点1
「  前記『電子写真現像剤用磁性キャリア』が,本願発明では,カラー用現像剤に用いられるものであるのに対して,引用発明では,カラー用現像剤にも用いられるかどうか明らかでない点。  」
        (イ)  相違点2
「  測定条件を,
    『(帯電量の評価)帯電量は,磁性キャリア95重量部と下記の方法により製造したトナー5重量部を十分に混合し,24℃,60%RH環境に24時間以上放置し調湿した試料を準備して,ブローオフ帯電量測定装置を用いて測定した値である。
        トナーの製造例
          ポリエステル樹脂    100重量部
          銅フタロシアニン系着色剤    5重量部
          帯電制御剤(ジ-tert-ブチルサリチル酸亜鉛化合物)    3重量部
          ワックス  9重量部
          上記材料を溶融・混練し,粉砕,分級して得た重量平均粒径7.4μmの負帯電性青色粉体100質量部と疎水性シリカ1重量部を混合して負帯電性シアントナーとして用いる。』 として,前記磁性キャリアの帯電量を測定したときの,測定10秒後の測定値と120秒後の測定値との比(10秒後の帯電量)/(120秒後の帯電量)が, 本願補正発明では,60%以上であるのに対して,引用発明では60%以上であるかどうか明確ではない点。」

2 問題点
 で,問題点は進歩性の有無ですが,ココ最近の判決のフォローや私が夏にやった講義を聞いた人は当然知っていることでしょう。

 事実認定も法的判断も,結局遠い引例をこじつけたために生じているってことを。そう書いていないのに,そう書いていると判断すると,こりゃ事実認定の誤りってことになります。他方,そう書いているものをそう書いていると判断すると,事実認定は誤ってないのですが,あまりに遠くて,動機付け不可能ってなるわけです。

 で,今回は事実認定の方に誤りがあると主張されております。原告の主張は,以下のとおりです,

「  ①  審決は,[1]ブロー時間が10秒ないしは20秒以下では,ブロー時間が長くなるのに従って測定される帯電量が著しく上昇し,[2]ブロー時間が1.5分又は2分の飽和帯電時間を越えると,増加量がほとんどないと認定している。
  しかしながら,ブロー時間が20秒以降の場合であっても,帯電量が増加するとは限らず,帯電量が変化して,安定しない場合があり(甲3【0049】),あるいは,ブロー時間が長い場合に帯電量が変化し続ける場合もある(甲9の467頁の補10))。
  したがって,審決が本件周知技術を認定したことには,誤りがある。
  ②(被告の主張に対して)本件補正発明でのブローオフ法の利用は,測定時間による帯電量の変化を指標としてキャリア被覆層の強度(耐久性)を示すものであり,その目的のための適正な測定条件が本願明細書に記載されている。これは,帯電量の立ち上がり特性の確認という引用発明における帯電量の測定条件とは異なる。ブローオフ測定における条件設定は,目的に応じて設定されるため,帯電量が常に審決の認定するとおりとはいえない。
  ③  以上のとおり,審決の相違点2に係る帯電量の認定には,誤りがある。 」

 他方審決の認定は,こうでした。
「 ②  ブローオフ法でブロー時間を変えて帯電量を測定すると,一般に,ブロー時間が10秒ないし20秒以下ではブロー時間が長くなるのに従って測定される帯電量は激しく上昇するが,それ以降はブロー時間が長くなっても測定される帯電量は少ししか増加しなくなり,ブロー時間が1.5分又は2分の飽和帯電時間を超えると増加量は0.33%/秒以下になり,ほとんど増加しないこと(本件周知事項)が,本願出願前に周知である。 」

 要するに,本願発明のブローオフ法では,10秒の帯電量と120秒後の帯電量はもはやそんなに変わらない(比が60%以上ですので。),でもそんな所は周知技術だ!と審決が認定したわけで,原告としてはそんなわけねーだろって怒っているわけですね。

 で,事実の問題として,どっちが正しかったのでしょう?おー,結構技術的な話ですね。

3 判旨
「 引用例には,「…キャリアと,結着樹脂中に,少なくとも…第1のカーボンブラックと…第2のカーボンブラックが分散したトナーとを含んでなる現像剤。」(【請求項1】),「…本発明の現像剤においては,キャリアの被覆樹脂中とトナー中に含有させた…第1のカーボンブラックが…分散している…」(【0029】),「また,キャリアの被覆樹脂中とトナー中にカーボンブラックを含有させている…」(【0030】),「また,キャリアの被覆樹脂中及びトナー中に含有させた第1のカーボンブラックと,トナー中に含有させた…第2のカーボンブラックとの相互作用により…」(【0031】),「以上説明したように,本発明にかかる現像剤によれば…キャリアと,結着樹脂中に,少なくとも…第1のカーボンブラックと…第2のカーボンブラックが分散したトナーとを含んでなるものとしたことにより…することができる。…」(【0131】)との記載がある。また,実施例(【0054】以下)の【表1】~【表3】
にも,トナーに2種類のカーボンブラックA及びカーボンブラックBを含有させることが記載されている。
  そうすると,引用発明では,結着樹脂中に少なくとも第1のカーボンブラックと第2のカーボンブラックが分散したトナーを用いて帯電量の測定が行われたものということができ,このようなトナーを用いることを前提に,「キャリアとトナーをトナー濃度3%で混合した現像剤サンプル100gを,100mlのポリエチレンボトルに入れ,回転数100rpmで60min間撹拌した後,現像剤サンプルを0.2g秤量し,エア圧0.2kgf/cm2でブローして測定した値である帯電量」について,「帯電量測定時のブロー時間10secの値をブロー時間90secの値で割ることにより求めた帯電立ち上がり指数が90以上である」としたものと解することができる。
  そして,引用例には,上記トナー以外のトナーを用いた場合においても,上記の測定条件に基づいて算出した帯電立ち上がり指数が90以上となる旨の記載はなく,また,この点を裏付ける技術常識があるとも認められない。 」
「    (3)  帯電量の測定の対比について
  審決は,引用発明に含まれる磁性キャリアと,ポリエステル樹脂,銅フタロシアニン系着色剤,ジ-tert-ブチルサリチル酸亜鉛化合物などの材料から製造したシアントナーとからなるカラー用現像剤が,本願出願前に周知であるという本件周知技術を前提にして,引用発明の磁性キャリアを上記シアントナーと混合してカラー用現像剤とするとともに,引用発明の測定条件に基づいて算出した帯電立ち上がり指数を90以上のものにすることは,当業者にとって容易に想到できるとする(前記第2の3(1)エ③の審決の判断)。
  しかしながら,引用発明の磁性キャリアを上記シアントナーと混合してカラー用現像剤とすることが,本願出願前の周知技術であったとしても,上記シアントナーの確定的な成分及びその割合や製造方法などは不明なのであるから,上記(2)からすると,引用発明の磁性キャリアと上記シアントナーとを用いて,引用発明の測定条件に基づいて算出した帯電立ち上がり指数が,90以上となる合理的な根拠はないというべきである。したがって,引用発明の測定条件に基づいて算出した帯電立ち上がり指数が90以上であるか否かは,技術的に不明であり,そのようにすることが容易ともいえないのであるから,審決の上記判断③は,誤りである。
  また,審決は,ブローオフ法による帯電量は,ブロー時間が長くなってもブロー時間が90秒の帯電量からほとんど増加しないという本件周知事項を前提にして,カラー用現像剤として上記シアントナーと混合された引用発明の磁性キャリアについて,測定条件を本願補正発明としてその帯電量を求めると,10秒後の測定値の120病後の測定値に対する割合が60%以上であるとする(前記第2の3(1)エ④の審決の判断)。
  しかしながら,上記シアントナーは,本願補正発明の規定する方法により製造されたものか否か不明であるから,上記(1)からすると,本件周知事項の当否に関わりなく,上記の引用発明の磁性キャリアについて,本願補正発明の測定条件に基づいて帯電量を測定しても,10秒後の測定値の120秒後の測定値に対する割合が60%以上であると認定することはできない。したがって,審決の上記判断④も,誤りである。 」

4 検討
 何か色々そうは言えない,そうじゃないみたいな感じで,審決はボロボロですね~。ちょっと言わずもがなのものというか想像の翼を広げ過ぎたのでしょうね。

 これは,技術的に詳しい人ほどこのようになるような気がします。
 私も気をつけているのですが,詳しすぎると頭の中で先回りしすぎて,記載のないことまで頭の中に浮かんできてしまうのですね。勿論,その先回りしたことがどこか別の場所にでも書かれていればいいのですが,そうじゃないと独り相撲ってことになってしまいます。

 ですので,今回の審決も,いやあそれは先回りし過ぎでやり過ぎでしょうって所ですね。事実認定をしくじるよくあるパターンです。

 これはちょっと私も反省しないといけない点ですよね。

5 追伸
 先週の土曜行われた箱根駅伝の予選の件ですが,見事な走りを見せた東工大のエースが学連選抜に選ばれたという連絡がありました。良かったですね~。

 あ,並みの報道よりもこっちの方が早いですよ。何つっても,今の東工大の監督は一個上の先輩ですからね。

 これは本当に正月が楽しみになりました。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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