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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 特許庁と裁判所で,キャッチボールをしているので,以下のとおりです。
本件は,平成14年3月29日,発明の名称を「ラック搬送装置」とする特許出願(特願2002-94306号)をし,平成16年10月8日,特許権の設定登録を受けた原告(日立アロカメディカル)に対し,被告(島津製作所)は,平成23年9月2日,特許庁に対し,本件特許の請求項2,4,5,7及び8に記載された発明についての特許を無効にすることを求めて審判の請求をし,特許庁は,上記請求を無効2011-800157号として審理した。原告は,この審理の過程で,訂正請求をした。特許庁は,審理の結果,平成24年3月27日,同訂正請求を認めた上,本件特許を有効とする旨の審決をした。知的財産高等裁判所は,被告の同審決の取消しを求める訴えについて,平成25年3月14日,同訂正請求は不適法であるとして同審決を取り消す旨の判決をし,同年7月11日,同判決は確定した。
 原告は,平成25年9月18日,特許庁における再度の審理において訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成26年3月4日,本件訂正は認められないとした上で,「本件特許の請求項2,4,5に係る発明についての特許を無効とする。本件特許の請求項7,8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同月13日,原告に送達した。
 原告は,平成26年4月9日,審決の本件特許の請求項2,4,5に係る発明についての特許を無効とするとの部分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。」

 まあ,重要な所だけを言うと,再度の特許庁での審理で訂正請求をしたものの,それが認められず(新規事項追加),無効にもなったので,審決取消訴訟を提起したってことです。

 これに対して,知財高裁1部(設樂さんの合議体ですね。)は,審決を取消しました。つまりは,新規事項追加ではないってことです。

 クレームで行きましょう。
「訂正後【請求項2】
 検体を収納する複数の容器を保持する容器ラックを搬送するラック搬送装置であって,
 前記容器ラックを搬送経路に沿って搬送する搬送機構と,
 前記容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニットと,
 前記搬送経路上の前記容器ラックの長手方向に沿って,前記各容器ごとに前記測定を順次行わせつつ前記測定ユニットを移動させる移動機構と,
 を備え,
 前記移動機構は,
 前記搬送経路の一方側近傍に,前記搬送経路に沿って設けられたガイドレールと,
 前記搬送経路の一方側から他方側へ前記搬送経路をまたいで伸長し,前記ガイドレールに沿って移動するアームであって,前記他方側において前記測定ユニットを保持する可動アームと,
を含み,
 前記容器ラックは,前記搬送経路の所定の測定位置に位置決めされ,
 前記測定ユニットは,前記各容器が前記容器ラックに保持される保持ピッチと同じピッチで設けられた各停止位置でそれぞれ一旦停止し,各停止位置の間の移動のときに前記各容器の測定を行うことを特徴とするラック搬送装置。」

「訂正前【請求項2】
 検体を収納する複数の容器を保持する容器ラックを搬送するラック搬送装置であって,
 前記容器ラックを搬送経路に沿って搬送する搬送機構と,
 前記容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニットと,
 前記搬送経路上の前記容器ラックの長手方向に沿って,前記各容器ごとに前記測定を順次行わせつつ前記測定ユニットを移動させる移動機構と,
 を備え,
 前記容器ラックは,前記搬送経路の所定の測定位置に位置決めされ,
 前記測定ユニットは,前記各容器が前記容器ラックに保持される保持ピッチと同じピッチで設けられた各停止位置でそれぞれ一旦停止し,各停止位置の間の移動のときに前記各容器の測定を行うことを特徴とするラック搬送装置。」

 ま,要するに,移動機構に関する限定を行ったのが,訂正の趣旨なのですね。ですので,限定的減縮に当たることは確かです。
 他方,その中での,可動アームと測定器ユニットとの関係が問題になったわけですね。

2 問題点
 問題点は,今回の訂正が新規事項追加となるかどうかです。

 まずは条文です。当時は,123条3項が準用なのですが,現在は123条5項を準用していますので,それを示します。
 「  第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(同項ただし書第二号に掲げる事項を目的とする訂正の 場合にあつては、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあつては、外国語書面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない。 」

 重要なところを抜き出すと,「明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」となります。これを超えると新規事項追加ってなります。

 で,今の基準は,例の除くクレーム事件の大合議判決です。
 「「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。」

 この新たな技術的事項を導入しないものであるときの解釈が重要となってきます。この大合議判決では,その例として,「付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合」及び「その記載から自明である事項である場合」の2つを挙げました。

 まあ,明示的に記載されているのがOKなのは当たり前ですよね~,とすると,問題は,この自明である事項がどこまでか?ってやつです。

 「自明」ってわかりますかね。要するに言わずもがなってことです。今日は雪だね~と言えば,洗濯物外に干せないなあってことは自明です。今日は2/5だねえと言えば,明日は2/6だってことは自明です。
 ですので,明細書等の記載から(あと技術常識とも加味して)どの程度が言わずもがなの範囲か?これを探るってことなのです。
 
 でも,ということは,明細書の記載もそうだし,技術常識を加味するってことになれば,個々の技術でかなり違うってことにもなります。つまり,実に個別的な判断ってことになり,一般的になかなか規範などができない話でありますね。

 で,今回,具体的には,可動アームと測定器ユニットの関係について,明細書には,「可動アーム246は、メイン搬送経路214の他方側において測定ユニット222を懸下して保持する」【0027】という記載はありました。
 そして,実施例には,「懸下」の例はありました。でも例はこれだけです。他の,「保持」に関するようなものの例はありません。

 このような状況で,上記のような訂正「前記測定ユニットを保持する可動アーム」は自明の範囲かどうかが問題となったわけです。
 
 つまり,「懸下」の具体例という明示の記載はある,でもそれを上位概念の「保持」にまで訂正していいか?ってことです。
 結構なハードルですよ。上位概念への訂正ですからね。昔の直接的かつ一義的の規範なら,絶対だめだったものでしょうね。
 その昔の要旨変更時代なら,もしかすると許されたものかもしれません。

3 判旨
「まず,本件発明7は,本件発明2の構成に「前記移動機構は,前記搬送経路の一方側近傍に,前記搬送経路に沿って設けられたガイドレールと,前記搬送経路の一方側から他方側へ前記搬送経路をまたいで伸長し,前記ガイドレールに沿って移動する可動アームと,を含み,前記可動アームは,前記他方側において前記測定ユニットを懸下する」という構成を追加するものであり,本件発明7が本件明細書に記載された事項の範囲内のものであることは明らかである。本件訂正発明2と本件発明7とを比較すると,両者の相違点は,「可動アーム」への「測定ユニット」の取付態様として,本件訂正発明2では「保持」とされているのに対して,本件発明7では「懸下」とされている点のみである。そして,ここでいう「保持」は,「懸下」や「埋設」等を含むものであるから,「懸下」の上位概念であると認められる(この点の審決の判断に誤りはない。)。
 上記1によれば,本件発明7において,移動機構(ガイドレール)及び測定ユニットを取り付けた可動アームを用いる構成とした趣旨は,従来のラック搬送装置の課題の一つとして,装置の設計上の制約等がある場合には,搬送経路の手前側近傍に測定ユニットを移動させる移動機構を固定して設けることができないという課題があったため,移動機構(ガイドレール)を,設置が不可能な搬送経路の手前側近傍ではなく,向こう側近傍に設置し,測定ユニットを手前側に配置し,両者を可動アームでつなぐことによって解決したものであって,この点に技術的意義があるものと認められる。したがって,本件発明7については,測定ユニットを可動アームに取り付ける態様について意味があるものではないと認められる。本件明細書においても「可動アーム246は,メイン搬送経路214の第2ガイドレール248が設けられた側から他方側へ,メイン搬送経路214をまたいで伸長して設けられる。可動アーム246は,メイン搬送経路214の他方側において測定ユニット222を懸下して保持する。」(【0027】)として,「保持」の態様として「懸下」が記載されている一方で,「懸下」の態様や効果については全く記載されていない。
 また,本件特許の出願前に刊行された特開2001-176768号公報(甲21),特開平7-234914号公報(甲22),特開平6-274675号公報(甲42。以下「甲42文献」という。),特開2000-168918号公報(甲43。以下「甲43文献」という。),特開平6-295355号公報(甲44。以下「甲44文献」という。),平本純也「知っておきたいバーコード・二次元コードの知識」(第5版。日本工業出版株式会社。甲45。以下「甲45文献」という。),特開平7-89059号公報(甲48),特開2001-116525号公報(甲49),特開平8-210975号公報(甲50)によれば,本件特許の出願当時,①測定ユニットをアームに「保持」する態様は様々であって,「懸下」に限られないこと(甲21,22,44,48ないし50),②バーコードラベルを斜め方向から読み取ったり,撮像素子で読み取ったりすること(甲42ないし45)は技術常識であったと認められる。
 以上のような本件明細書の記載,特に本件発明7に関する記載とその技術的意義からすれば,本件明細書の記載を見た当業者であれば,可動アームに測定ユニットをどのように取り付けるかは本件発明における本質的な事項ではなく,測定ユニットは,その機能を発揮できるような態様で可動アームに保持されていれば十分であると理解するものであり,そして,本件特許の出願時における上記技術常識を考慮すれば,可動アームに測定ユニットを取り付ける態様を,「懸下」以外の「埋設」等の態様とすることについても,本件明細書から自明のものであったと認められる。
 したがって,本件明細書の記載を総合すれば,測定ユニットを「保持」する可動アームを含む本件訂正は新たな技術的事項を導入するものではなく,本件明細書に記載された事項から自明のものであると認められる。」

4 検討
 まあ,本件は事例判決,実に限定された事例判決だと思いますよ。
 
 でも,H20年に上記の大合議の判決が出て,もう7年近くなりますが,ここまで上位概念OK!ってあからさまに言った判決ってそんなにないのではないでしょうか。なので,結構重要だと思いますよ。

 というのは,一遍特許を出願すると,その後のメインの仕事はいかにうまい補正をするかってことですからね。勿論,それは大体進歩性欠如の拒絶理由通知への対策なのですが,とにかく,知財部~特許事務所の大きな仕事であることは昔からです。

 で,そのとき,チャレンジングな補正をしたいのは山々なのですね~。補正をせんと進歩性をクリアできないのですが,だからと言って補正し過ぎでは何の意味もないっていうジレンマにしょっちゅうとらわれます。
 そのとき,杓子定規に,これだけです,これ以上は無理です,なーんて特許庁を退官して,特許事務所に天下りしたバカ代理人が壊れたテープレコーダーみたいに繰り返すと,本当腹が立ってきますよね。ちったあ,冒険してみるってことがねえのかよってね。

 でも,今回の判決があれば,そんなバカ代理人や,石頭の特許庁の審査官を少しは説得できる材料になるのではないでしょうか。何つっても,明白に上位概念化の訂正を認めたわけですからね。
 いや,勿論,いつでもどんな技術でもどんな明細書でもOKていうわけではないですよ。ただ,その意義は実に大きい~ってことです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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