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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「制動力大きいスタッドレスタイヤ及び製造方法」(出願時の名称は「制動力大きいスタッドレスタイヤ」)とする発明について,平成19年5月29日を出願日とする特許出願(特願2007-179033)をした原告が,平成22年3月29日付けで,特許庁から拒絶理由通知を受けたため(拒絶理由通知(1)),同年6月17日付けの手続補正書により,特許請求の範囲等についての補正を行い,特許庁から更に拒絶理由通知を受けたが(拒絶理由通知(2)),意見書のみを提出し,手続補正書は提出しなかったところ,平成24年3月13日付けで拒絶査定を受けたため,同年6月28日付けで,拒絶査定に対する不服の審判(不服2012-12177号事件)を請求したものの,ここでも,平成24年11月8日付けで,特許庁から拒絶理由通知を受けたため(拒絶理由通知(3)),平成25年1月24日付けの手続補正書により,特許請求の範囲等についての補正を行ったのですが,平成25年6月21日付けで,やはり,特許庁から拒絶理由通知を受けたため(拒絶理由通知(4)),同年8月14日付けの手続補正書により,特許請求の範囲等についての補正を行ったものの,結局,特許庁は,平成26年2月18日,拒絶審決(実施可能要件違反,明確性要件違反,単一性要件違反,進歩性なし)を下したため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。
 なお, 原告は,上記の本願に関する手続を,代理人に委任せずに,自ら行ったようです。

 これに対して,知財高裁1部(設樂さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決とおりでよし!というわけです。

 おお,審決の理由に,記載不備と進歩性という私の興味ある2大論点が載っている,だからこれを取り上げた~わけでありません。残念ながら。
 まあ今日はクリスマスイブ,もはや冬休みモードなので,ユルイ話ということで取り上げたのです。

 まずは,クレーム行きましょう。
 「【請求項1】
 繊維によりをかけて糸にして水分の吸収を良いくして布を織った物をスタッドレスタイヤトレッド部の中に入っていてトレッド部の表面から布が出ていてその布が雪氷面の水分を吸収してトレド部のグリップ溝の側から排出する制動力の高いスタッドレスタイヤ

 句読点の全くない感じ~悪い予感がしますね~。
 しかも,記載不備ですからね。

 ま,もうちょっと具体的に言うと,誰しも言いたくても言えないようなことを言っちゃった~いやいやそうじゃなくそんなことすらわからないなら特許出願するなよ~ってところでしょうかね。

2 問題点
 問題点は,本件での取消事由を見てみましょう。
 取消事由1(拒絶理由通知に不明な用語を用いた手続違背)
 取消事由2(補正の仕方の説明義務違反)
 取消事由3(条文内容の説明義務違反)
 取消事由4(特許法37条についての説明義務違反)

 ワオ~♡って感じでしょ。ちなみに,取消事由1で槍玉に上げられている用語は,①「発明のカテゴリー」,②「独立請求項」と「従属項」,③「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」です。

 さて,日本の場合,訴訟でも特許出願でも代理人を前提としておりません。弁護士や弁理士に頼まずとも,自分だけで訴訟はできますし,特許出願もできます。
 で,自分だけで訴訟や特許出願をやる最大の理由は,やはりお金でしょうね。弁護士や弁理士に頼むと結構なお金がかかります。ですので,お金のない方々は,自分でやらざるを得ないというわけです。

 ただ,そうすると,本来弁護士などに依頼していれば・・・って場合も有り得るにも関わらず,最初にお金が無くて弁護士などに頼めない可哀想な方々が出てくる可能性があります。ということで,訴訟の場合,法テラスで民事法律扶助なんぞやっているわけですね。

 あ,法テラスといえば,法テラスが報酬関係を仕切っている国選弁護に関して,ゴ3ネタで有名な刑裁サイ太先生が非常に可哀想な状態になっております。
 私が,サヨクを嫌いなのは,ここをよく読んでいる人には先刻ご承知のことと思います。何で嫌いなのかは色々ありますが,やっぱ鬱陶しいというか教条的なのですよね。一言で言えば,小学校の学級委員長タイプ~♪あんな感じなのですよね。

 世の中ってさあ,そんな単純じゃないし,色んな考えの人がいるわけですよ。
 でも,サヨクの人は,弁護士ってこういうものだ~人権ってこういうものだ~正義ってこういうものだ~,そうなんだ~俺が正しいんだ~俺の考えが正しいんだ~って感じで,違う考えの人も結構多いっていうのをなかなか認めないでしょ。で,俺の正しい考えと違った考えは間違ってる~間違った考えは正してやる,正せないなら封じてやる~てな感じに行きがちです。

 何と言いますか,ここでも書きましたが,いやあ付き合っていられないって所ですね。
 ゴ3ネタ盛んなりしころ,紹介もしてもらいましたので,サイ太先生には頑張って欲しいと思いますね。まあでも品位と言えば,私以上に品位のあるブログを書く弁護士ってなかなかいないと思いますけど~。ムフフフ。

 おっとまた脱線しちまったぜ。
 で,訴訟の場合は,そういう人を救うことはそれなりの意義があることだとは思うのです(あくまでそれなり,ですけどね。)。他方,特許出願は?

 特許って,産業の発達に寄与することが目的です。可哀想な個人を救うことが目的じゃあありません。要するに,事業化したりして大儲けしてちょっ~♡っていう制度なのです。一言で言えば,現在の金持ち及び将来の金持ちのための制度です。別にこれは悪いことじゃありません。
 個人発明家だって優れた発明であれば,投資や融資で金をかき集めることはできますし,その金で弁理士に頼んで特許出願して弁護士に頼んで権利行使すればよいわけですからね。

 それができない人は?俺は世界一の発明して今は金がないけど,この発明が登録できりゃあ,って人を救わなくてもいいの?えーどうなのよ~って所が結局の問題点ですかね。

3 判旨
 取消事由1
「ア 審査官は,拒絶査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならず(特許法50条本文),拒絶理由通知を受けた特許出願人は,指定された期間内において特許請求の範囲等について補正をすることができることとされ(同法17条の2第1項1号,3号),これらの規定は,拒絶査定不服審判について査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用されている(同法159条2項本文)。これらの規定に照らせば,拒絶理由の通知をする趣旨は,審査官の判断の慎重・合理性を担保し,その恣意を抑制するとともに,特許出願人に,最終的な拒絶査定又は審判の前に,審査官の判断に対する意見を述べる機会を確保し,また,補正をするかどうかを考慮するのに便宜を与えることにあるというべきであるから,拒絶理由通知に記載すべき理由としては,このような意見陳述や補正が可能となるよう,いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して出願を拒絶するものであるのかを,特許出願人においてその記載自体から具体的に了知し得るものでなければならないと解される。
 また,特許出願手続は,弁理士や弁護士に委任することなく,特許を受けようとする者自らが行うことが許容されているものであるから,拒絶理由の記載の仕方は,弁護士又は弁理士職にある者だけが理解することができるようなものであることは許されないというべきであるし,一般的には,特許出願人に拒絶の内容が理解しやすいように分かり易く記載すべきではある。しかし,他方で,拒絶理由となり得る事項は多岐にわたり(特許法49条各号),その内容も専門的,技術的な事項を含むことが多いところ,拒絶理由通知は,自ら出願手続を行っている特許出願人に対して行うものであるから,拒絶理由の記載の仕方は,一般の特許出願人が,通常期待される努力によって習得し得る知識をもって理解することができる記載であれば足りるというべきである。・・・
ウ しかし,上記①のうち,「発明のカテゴリー」という語については,発明を,「物の発明」,「方法の発明」又は「物を生産する方法の発明」に分類し(特許法2条3項各号参照),このような発明の分類上の区分を意味する用語として,「発明のカテゴリー」という語を用いることは,特許庁の「特許・実用新案審査基準」(乙21)上のみならず,一般の特許法の解説書やインターネット上の発明に関する説明等においても広く行われており(乙23,24,35),原告自身も出席した一般市民をも対象とする特許庁の「審査基準」の説明会において配布されたテキストにおいても記載されているなど(乙22の52頁,弁論の全趣旨),「発明のカテゴリー」という語は,特許出願手続を行う者一般において広く知られている用語であると認められる。そうすると,上記①の拒絶理由通知の記載は,一般の特許出願人が通常期待される努力によって習得し得る知識をもってすれば,本願請求項1ないし5に係る発明が,「物の発明」,「方法の発明」,「物を生産する方法の発明」のいずれに該当するかが不明である,という趣旨であることを理解することができる記載であるというべきである。
 また,上記②のうち,「独立請求項」,「従属項」の語については,特許庁の「特許・実用新案審査基準」においては,これらを意味する語として「独立形式請求項」,「引用形式請求項」という語が用いられており(乙21の17,18頁),「独立請求項」,「従属項」と同一の語自体は用いられていないものの,特許請求の範囲の請求項の記載形式のうち,「独立請求項」を,「他の請求項の記載を引用しないで記載した請求項」を意味する語として,「従属項」を,「他の請求項の記載を引用して記載した請求項」を意味する語として使用することは,一般の特許法の解説書や,インターネット上の請求項に関する説明等においても広く行われており(乙23,36),「独立請求項」,「従属項」という語も,特許出願手続を行う者一般において広く知られている用語であると認められる。そうすると,上記②の拒絶理由通知の記載は,一般の特許出願人が通常期待される努力によって習得し得る知識をもってすれば,本願請求項4及び5が,他の請求項の記載を引用しないで記載した請求項なのか,他の請求項の記載を引用して記載した請求項なのかが明瞭でない,という趣旨であることを理解することができる記載というべきである。
 なお,上記③の「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の語については,上記イのとおり,拒絶理由通知(1)に拒絶理由自体の内容として記載されていたものではなく,審決の拒絶理由にも含まれていないから,同語が使用されていることはそもそも拒絶理由通知の瑕疵とはならないというべきである。この点を措くとしても,「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」という語が,「物の製造方法によってその物を特定するクレーム(請求項)」を意味する語として用いられることは,特許庁の「特許・実用新案審査基準」(乙39)上のみならず,一般の特許に関する解説書(乙40)においても広く行われており,同語も,その一般的な意味については,特許出願手続を行う者一般において広く知られている用語であると認められる。そうすると,上記③の記載も,一般の特許出願人が通常期待される努力によって習得し得る知識をもってすれば,その意味を理解することができる記載というべきである。」

取消事由2
「審査官が特許出願人に対して特許請求の範囲等の補正の仕方を具体的に説明すべきことを義務付ける法令上の規定はない。特許請求の範囲には,各請求項ごとに「特許出願人が」特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならず(特許法36条5項前段),特許請求の範囲等は,その記載によって,特許権者が対外的に主張し得る権利の範囲を定めるものであるから,拒絶理由の記載内容を踏まえて,具体的にどのような補正をし,どのような発明について特許を受けようとするかは,特許出願人自身の責任において判断すべきことである。したがって,特許査定を受けるために,特許請求の範囲等を具体的にどのように補正すべきかについては,審査官が説明する義務を負うものではないから,原告の上記主張②も,その前提を欠き,理由がない。」

取消事由3
「しかし,審判官が,特許出願人に対し,特許法の条文の一般的な内容を個別に説明すべきことを義務付ける法令上の根拠はなく,審判官が拒絶理由通知において挙げた条文の文言やその一般的な内容自体は,特許出願人自身が調査すべき事項であるから,原告の主張は,その前提を欠き失当である(なお,拒絶理由通知においては,いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して拒絶をするのかという拒絶理由を,特許出願人においてその記載自体から具体的に了知し得るものでなければならないことは前記1(1)ア判示のとおりであるが,拒絶理由通知(4)においては,本願がいかなる事実関係に基づき特許法36条4項及び6項又は同法29条2項の要件を満たしていないかは,具体的に記載されているものと認められるから〔甲4〕,その記載が違法であるとは認められない。)。
 したがって,原告の主張は理由がない。」

取消事由4
「特許法37条は,「二以上の発明については,経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは,一の願書で特許出願をすることができる。」と規定しており,二以上の発明が,発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しないときは,同一の特許出願とすることができないところ,特許法施行規則25条の8第1項は「特許法37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。」,同条2項は,「前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。」と定めている。これらの規定に照らせば,一般の特許出願人が通常期待される努力によって習得し得る知識をもってすれば,上記アの拒絶理由通知(4)の記載は,「トレッド部表面から吸収した水分を溝側面から排出すること」は,発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴,すなわち「特別な技術的特徴」とは認められず,そうすると,本願請求項1ないし5に係る発明と,本願請求項6及び7に係る発明とは,同一の又は対応する特別の技術的特徴を有していないため,発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しないから,特許法37条の要件を満たさない,ということを具体的に適示したものと理解することができる記載であるというべきである(なお,拒絶理由通知で指摘された法律の条文の文言やその一般的な内容自体は,特許出願人自身が調査すべき事項であることは,前記3のとおりである。)。」

4 判旨
 確かに,超絶の専門用語で書き連ね,専門家でもわからんものであれば,こりゃ違法でしょう。しかし,ちょっと勉強すればわかるようなものまで一々説明する必要もないってことです。

 あ,勿論,出願人の全てが努力によって習得し得る知識を持っているわけではありません。そんな知識の有る方がむしろ少ないのではないかと思います。でも普通は弁理士に依頼しているので,そういうことが問題とならないのですね。
 ですので,弁理士に頼む金もないけど,知識も無い方はどうすべきかというと,そりゃあ,この判決が暗に言っているように,諦め給えってことですね。

 逆に言えば,特許出願に関し弁理士に依頼できるほどの金をまず集められるかどうか,これがその発明ないしは技術の価値と言えるわけです。そうじゃない場合は(多くの場合がゴミ老人の暇つぶし),目的とおり暇はつぶせたのですから,恨みっこなしってことでよいのではないでしょうか。

5 追伸
 先ほど,判例タイムズの1406(2015.1)号が届きました。もう目を通した人は多いと思います。
 表紙のデザインと中身も少し変わりました。

 で,これ見やすいですか?いやあ前の方が良かったですよ。見出しが無くなったもんだから,いちいち探さないといけません。何せ,私の興味のあるのは基本知財だけ!ですので,どうでもいい事件をかき分けかき分けしないといけないのは何とも面倒です。
 しかも,何か知財の事件が飛んでいるのですね。ちょっと塊であったと思ったら,別の類型の事件が来たあとに突然また知財事件が載ってたりします。
 表紙を見たら,何と,高裁事件と地裁事件を分けているのです。前は,知財事件という一括りで,高裁事件→地裁事件という並びでした。こっちの前の方が断然見やすいです。

 表紙もどう変わったかというと,写真がなくなり,文字だけです。要するに,全体的に手抜き,早い話がコストダウンしたようなのですね。

 何?判例タイムズって経営がやばいの?いやあ怪しいですよね。
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