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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成17年12月29日に出願され,平成23年8月12日に特許権の設定登録がなされた特許(本件特許。特許第4801443号。発明の名称「固体麹の製造方法」)の特許権者である原告に対し,被告が,平成24年11月27日,本件特許の請求項1ないし7について無効審判請求をしたところ(無効2012-800196号),原告は,平成25年10月29日,訂正請求をしたものの,特許庁は,平成26年3月14日,訂正を認めた上で,請求項1,2,4~7までは不成立審決,請求項3については無効審決(進歩性なし)を下したことから,これに不服の特許権者である原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,審決を取消しました。要するに,請求項3って進歩性がないとは言えないということです。

 ま,新年一発目の進歩性判決の紹介ですね。腹の具合は本調子ではないですが,ちゃんと事務所に来て仕事もやっていますよ~。

 まずは,クレームです。
【請求項3】
 少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,
 前記回転ドラムは,駆動装置により回転される回転ドラム本体と,この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを,少なくとも備え,
 種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,
 前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を,共に製麹開始温度となるように調節し,
 製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し,
 前記製麹原料の攪拌が,前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ,
 前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/30~90秒に設定されていると共に,
 前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い,
 温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ,
 前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,
 製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。

 一番下を見ればわかりますが,固体の麹の製造方法ですね。麹です,こうじのことです。
 麹って,日本酒とか好きな方には,化学を専門としていなくても結構詳しかったりするかもしれません。

 明細書にも,破精込みとか,盛りとか,それ相応の用語が飛び出しております。そうそう,特許って,燃料電池車や,通信技術とか,そういう類のものだけじゃないのですね。結構身近なものが特許で守られていたり,紛争が起こったりしているわけです。

 で,主引例(甲3発明)との一致点・相違点です。

(一致点)
「少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,前記回転ドラムは,駆動装置により回転される回転ドラム本体を少なくとも備え,種麹の接種後,製麹原料を常に攪拌し,製麹原料の攪拌が,回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ,前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/60~90秒に設定されていると共に,回転ドラム本体内で前記製麹原料が傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ,製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。」

(相違点1)本件発明3において,回転ドラム本体の内部に品温センサが装着されているのに対して,甲3発明では明らかでない点。
(相違点2)本件発明3において,回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度になるように調節しているのに対して,甲3発明では明らかでない点。
(相違点3)本件発明3において,「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に」「製麹原料の品温上昇後に」製麹原料の攪拌を開始するのに対して,甲3発明では「発芽準備のために停止」させた後に製麹原料の攪拌を開始する点。
(相違点4)本件発明3において,「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い,」製麹原料が傾斜面から順次落下する時に,回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われるのに対して,甲3発明では,「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行う」ことが明らかでない点。
(相違点5)本件発明3が「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」ているのに対して,甲3発明では明らかでない点。

 何ちゅうか,これだけ細部の工程を構成要件化していると,主引例との差はたくさん出るような気がしますね。あとは,副引例の問題とも言えますが・・・。

2 問題点
 上記のとおり,問題点は,進歩性であり,本件での取消事由からすると,事実認定の誤りと法的判断の誤りの両方を主張しているようです。

 で,この事実認定の誤りと法的判断の誤りって,結構リンクしているというのは,ここで散々書いたとおりです。つまり,遠い主引例しか探せないとそうなるってわけです。

 イメージとしては体(本願発明)に合っていない一回り以上小さいシャツ(引例)を着るような感じですかね。

 右腕や首を押し込むことができても,小さいため左腕を通すことができない~これが法的判断の誤りでしょうか。
 他方,強引に左腕まで通して,何とかシャツを着た結果,シャツがあちこちで破れてしまった~これが事実認定の誤りでしょうか。

 つまり,シャツの破れは事実認定の誤りですね。何とか体裁を整え,本願発明の要素に強引に寄せていくと,そもそもそれはそういうものじゃないだろうという誤りを犯すことになります。
 他方,シャツが破れないよう,着実に袖を通しても,結局着ることができません。つまり,本願発明との大きな差が残ってしまい,動機付け不可!とされるわけです。

 ですので,本願発明にかなり近い引用発明を探せなかった時点で勝負はついているわけです。遠い引用発明(小さいシャツ)を着るには,破くしかありませんし,破れるのが嫌なら着ていないのに,着ていると強弁するしかないわけです。

 本件では,何だか破った上に,着れてもいないという最悪のパターンのような気がしますね。

3 判旨
事実認定のところ
「審決は,甲3発明においては,回転ドラム本体内の湿度調整が行われているか明らかではないにもかかわらず,湿度調整をしているかどうかという相違点を看過したものといえる。
 原告は,相違点6として,「本件発明3は,「前記製麹原料の攪拌が,前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ」,「温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ」るのに対し,甲3発明は,ドラムの回転中に温度及び湿度の調整が行われているかは不明であり,また,原料層の傾斜面からの落下による攪拌,及び製麹原料が傾斜面から順次落下する時に熱交換が行われているかも不明である点。」があると主張する。原告の主張する相違点6の中の温度管理の点のうち,最初の室温及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度とする点は相違点2,それ以降の回転時における上昇した温度の調整の点は相違点4の中に含まれていると評価することができるが,湿度調整の有無という相違点について,審決はどの相違点においても実質的に挙げているとはいえないから,この限度で原告の指摘は正当なものである。そして,上記相違点の看過が,本件発明3の進歩性判断に影響を与える可能性があるから,取消事由1は,その限度で理由がある。」

法的判断のところ
・相違点3「以上のとおり,甲3の記載から,「発芽準備」のためにドラムの回転を停止させている間に,製麹原料の一部が発芽しているとしても,品温が上昇していないか,十分上昇しているとは認められない。したがって,甲3発明において品温が上昇していることを前提とした審決の相違点3に関する判断には,前提において誤りがあるといわざるを得ない」
・相違点4
「菌糸の伸長の種類や程度は,製麹原料や麹菌の種類,それまでの製麹工程における諸条件,すなわち,製麹開始温度をどの程度に設定するか(相違点2),攪拌をいつ開始するか(品温が既に上昇した状態で撹拌するか。相違点3),どの程度の早さで攪拌するか,どの程度の品温上昇があれば送風を開始するのか,具体的な送風をどのように行うか(湿度をどの程度に設定するか。相違点6)などによって異なるものであり,何を課題にするかによって適正な条件の組合せは異なり,当該課題に適した組合せは,当業者が相当程度の試行錯誤なくして見出すことは困難である。上記で説示したとおり,甲3には,本件発明3に示されるような,破精込みを単に良くするのではなく,突き破精を目的とし,そのために品温を上昇させてからドラムを回転させるということについての動機付けを見出すことはできないから,それまでの製麹工程における諸条件を変更して本件発明3と同様の熱交換となすことは,当業者といえども甲3発明及び技術常識から当然に導き出せることではない。
ウ 以上のとおり,審決の相違点4に関する判断には誤りがある。」
・相違点5
「本件特許請求の範囲において「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」するための各種条件等が十分特定されているかはともかく,甲3発明において,原料表面や原料外空中での菌糸の生育が抑制され,原料への菌糸の破精込みを活発にすることの動機付けはなく,上述したとおり,甲16にも撹拌中においてなお突き破精を促進するという技術的思想まで開示されているとはいえないから,相違点3及び4が容易想到とはいえない以上,相違点5に係る構成もまた,当業者が,甲3ないし周知技術から導き出すことはできないというべきである。」

4 検討
 上記のとおり,本件の構成要件は,かなり微に入り細に入った工程のものです。しかも,原告の方は,主張の上で米麹だという限定もしているようです。
 ですので,別段,この特許が有効になっても,清酒メーカーとか焼酎メーカーとかあんまり困らないのではないかなあという気がします。

 ということで,被告の業種を見たところ,これは生産機械の会社ですね(原告の方もそうでした。)。つまり,麹を作る会社ではなく,麹を作る会社にその麹製造装置を売る会社なわけです。そうすると,多くのパラメータをフリーハンドでできるようにしたいですね~。
 でないと,あ,うちの装置は特許権侵害していないのですよ~,でもあっちの目盛りをこうして,こっちの目盛りああして使うと,特許権侵害になるかもしれませんねえ~なんて注意書きを添付して売らないといけないとしたら,そりゃ売りにくいですよ。

 ということで,被告の方はこの特許を潰したかったのですね。まあただ,訂正によって,随分狭くなりましたので,これはこれでいいのかもしれません。

 なかなか特許だけではなく,事業のやり方が分かって面白い事案かもしれませんね(どの特許もそうだと言えますけど。)。

5 追伸
 ところで,色んな報道で,昨年のアメリカでの登録特許ランキングが発表されております。

 上位の会社については色んなコメントがあると思いますので,それはいいとして,気になったのは古巣のソニーですね。

 ソニーの昨年の登録数は,3224件だったらしいです。何と,4位です。他方,一昨年の登録数は,3098件でした。出願数はよくわかりませんが,登録数は増えていることは確かです。つまり,母数である出願数も増えている可能性は高いわけです。
 
 他方,ソニーの日本での出願数は,どうでしょうか?実は,昨年末,そんな話を記事にしました。ソニーは2000件弱,1500件ちょいくらいかも,と思われるってやつです(日本国内で23位)。

 私は,先週の日経の法務面に知財戦略の記事が載っていたについて,「よくある典型的でトラディショナル」と述べました。やっぱ,ソニーのこの出願数を見るにつけ,改めてその思いを強くしましたね。
 つーか,ソニーの知財戦略は,私のような日本国内の資格しか持っていない者にとって極めて残念ではあるのですが,その反面,実に良く考えられ,追随可能であり,今後主流となる知財戦略だと思います。

 だって,単純に,日本国内の2倍以上出願しているということです。
 これはパナソニックと比べると明らかです。上記と同様の資料によると,パナソニックは,日本国内で6932件の出願数で,アメリカでの登録数は,2095件です。

 つまり,パナソニックは,日本国内を中心に,いまだに数に頼った,一昔前の特許戦略を取っているということです。

 他方,ソニーは,既に,日本国内でのバカみたいな多出願をやめて,むしろ力点をアメリカに移しているっていうことです。ねえ,凄い話でしょ。これぞ最先端の知財戦略ですわ。

 こんなキッツい情報,なかなか他のメディアではお目にかかれませんので,ネトウヨの弁護士のブログにも関わらず,閲覧したくなるでしょ~♡

 あ,そうそう,私の書いた「知財実務のセオリー」,おかげ様で,早くも二刷が決定しました。パチパチパチパチ~♪♪
 在庫が無くなると,二刷が書店に並ぶまで多少時間がかかりますので,待てない人は今書店にある分を買っておいた方がいいかもしれません。二刷は誤植等の修正だけですので。

 なので,いやあ私に仕事を頼む気にはなれんが,私の発する情報には興味があるっていうむっつりスケベがたくさん居ることはよーくわかりました~♪ま,そんなけったいな人に向けて,これからも変わらずけったいな話を書いていこうと思います。

 で,本題に戻ると,各社がこのソニーのような戦略を取ると,はっきり言って日本の特許業界はもう丸潰れですね~。本当,職務発明の規定なんか,正直どうでもいいような話であーでもないこーでもないって言ってないで,抜本的ことをやらねえと,業界の皆さん,裁判官も含めて,みんなお陀仏になっちまいますがね。
 いやあこれ本当困るよ。
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