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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「放射線低減方法及び放射線低減装置」とする発明につき,平成24年4月27日に特許出願をした原告が(特願2012-102332号),特許庁から,平成25年9月5日付けで拒絶理由が通知され,同年11月7日に手続補正をしたものの(本件補正),同年11月21日付けで拒絶査定を受けたので,平成26年2月18日,拒絶査定不服審判請求をした(不服2014-3030号)ところ,特許庁は,平成26年3月31日,拒絶審決(①明確性要件(特許法36条6項2号)違反,②実施可能要件(特許法36条4項1号)違反)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決そのまま,記載不備があるで~。ということです。

 まあ,私の興味は一に進歩性,ニに記載不備ですので,この判決を取り上げた理由も皆さんおわかりでしょう。でも,判決の紹介も新年一発目~あんまり難しいのだと私もウエーって感じですので,非常に簡単な話ですよ,今回。

 で,クレームは,方法の発明と物の発明があるようですが,方法の発明のクレーム1だけでわかると思いますので(何が?),これだけ。

【請求項1】
 磁気水処理装置の内部に磁石による磁力線が通った路を水が流れることで生成される磁力還元水を,放射性物質と合わせることにより,当該放射性物質から放出される放射線量を低減することを特徴とする放射線低減方法。

 まあ,ぱっと見,記載不備が明らかなほど,そんな悪くないかなあという気がしますね。

 ただ,私が下線を引っ張ったところってどうでしょうか?どうやって低減するか色んな方法がありそうだなあってことはピンと来ますよね。

2 問題点
 記載不備はわかりますよね。発明公開の代償としての独占排他権たる特許権の付与,特許制度の趣旨からして,公開と言えないような公開じゃあダメってやつです。

 こういう何でその制度があるのだ~?というのを端的に説明できないとダメですよ~。何のときにダメかというと,年明けでしょ,今は違うのかなあ。
 私が弁理士試験の受験生だったころは,今くらいの年明けから,本格的な論文答練のシーズンだったのですね。なので,進歩性の趣旨は?国内優先権の趣旨は?無効審判の請求書,補正が制限されているのは何故?そして,その制限の程度は?みたいなやつに,パッパパッパ答えられないとダメだってわけです。

 もう16年前にもなりますが,私は,そのころ使っていた本などはいまだに持っていますので,ときどき見返しますね。特に,特許法概説は,変わらず,自分の手元に置いております。で,私のこの本を見ると,98年の12月7日に買ったようですね。ちなみに,吉藤先生が亡くなられたのは,95年です。

 と,やはり本題からずれるのですが,今回の問題点は,もう審決のとおりでしょう。

(1) 明確性要件について
 本願発明は,いずれも,「放射性物質から放出される放射線量を低減する」との特定事項(本件特定事項)を有するが,本件補正後の明細書及び図面(以下,まとめて「本願明細書」という。)には,本件特定事項の具体的内容を示す記載はない。
 本願明細書の実施例の記載(【0021】【0022】)によれば,本件特定事項は,「放射性元素の付着した灰のような残留物から放出される総量としての放射線量」を指すものと解することもできるが,そうすると,本件特定事項は,「放射性元素の付着した灰のような残留物」を洗浄液で洗浄することによる除染を含む可能性もあるこのように,本件特定事項が,放射性元素から放出される放射線量自体が低減されることを指すのか,放射性元素の付着した灰のような残留物から放出される総量としての放射線量の低減を指すのか等,具体的にどのような内容を指すものなのかが,本願明細書の記載を参酌しても明らかでない。
 さらに,本件特定事項が本願の出願時点において,当業者にとってどのような内容を示すのかが自明であるとする根拠もない。
 そうすると,本願発明は,明確ではない。
(2) 実施可能要件について
① 本件特定事項は,上記のとおり明確ではない。
② 仮に,本件特定事項が,原告が意見書(甲4)で主張する「放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数が減少」すること(本件仮特定事項)であるとすると,本願発明1の「磁力還元水を放射性物質と合わせること」又は本願発明5の「放射性物質を含有した水が磁気水処理装置が付設されて内部に磁石による磁力線が通った路を少なくとも一部に有した循環路を循環すること」で本件仮特定事項が実現することを示す根拠はない。
 原告は,平成25年7月10日及び同月17日株式会社同位体研究所測定に係る追実験(原告実験)を根拠として,本件仮特定事項が実現できた旨を主張しているが,[1]シーベルトを用いた本願明細書とベクレルを用いた実験結果との関係についての検証がないことや,[2]原告実験の結果に様々な外因が関係している可能性を排除できないこと,等から,本件仮特定事項が実現できたとはいえない。
③ 本願の出願時点において,本件仮特定事項が当業者にとって自明であるとする根拠もない。
④ そうすると,当業者といえども,本件仮特定事項を有する本願発明を容易に実施できるものとは認められない。
 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

 いやいやどうですか~。
 このブログの記事を書くに当たって,この明細書もざっと読んだのですが,肝腎なその放射線量の低減の作用のところがさっぱりわかりませんね。

 明細書の最後の方に,
【0048】
〔磁力還元水の放射線消去効果〕
 以上説明した磁気水処理装置で生成される水、磁力還元水による放射線消去効果として以下の説を挙げる。
 放射線が放つ電子を磁力還元水の磁力線の電子が受け取り還元化する、よって放射線が放つ電子は磁力還元水で消去される。
とあるのですが,さっぱり???です。まあ,このメカニズムが仮に正しいとしても,審決のいうどのパターンの放射線量を低減するのかようわかりませんなあ。

 一言,何のこっちゃ~♪

3 判旨
①明確性のところ
「本件特定事項は,「放射性物質から放出される放射線量を低減する」というものであるところ,これは,①放射性物質から放出された放射線を消失させるとの技術事項とも(削除前の【0048】のような理解をいう。),②放射線の発生それ自体を抑制するとの技術事項とも,③放射性物質を除くことにより放射線量を低減するとの技術事項とも解される(なお,「放射性物質」が,α線,β線,γ線,中性子線などの放射線を出す能力を有する物質〔元素〕を意味することは,自明な事項である。)。
 そして,本願明細書の【0014】【0017】【0021】【0022】そのほかの記載や本願発明出願時の技術常識を参酌しても,そのいずれかであるかを決することはできず,本件特定事項は不明確なものというほかない。」

②実施可能要件のところ
「以下,念のために,多義的に解釈できる本件特定事項につき,仮に,本件特定事項が原告において主張する「放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数が減少すること」との本件仮特定事項を意味するものとして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載が,実施可能要件を充足しているか否かを検討する。
 前記2(2)にて認定したとおり,放射性物質が物質ごとに固有の一定不変の半減期を有することは技術常識であるから,本願発明1の方法や本願発明5の装置を用いることにより,この半減期を調整できるとする技術事項は,この技術常識に反するものである。しかるに,本願明細書には,放射性物質と「磁気還元水」とを混合等すること,又は放射性物質を含有した水を磁力線の中で通過させること(【0017】【0018】【0021】【0022】)により,放射性物質から放出される放射線量が低減できるとの記載しかなく,そのほかには,「磁気還元水」を発生,循環処理するための装置の構造が開示されているにとどまる。
 したがって,本願明細書からは,水を磁場環境下に置いたものを「磁力還元水」と呼んでいることは理解できるが,その「磁力還元水」がどのような性質のものでどのような作用を有するか,「磁力還元水」が放射性物質に対していかなる作用効果を及ぼすかなどの具体的な原理については,本願明細書は何ら開示をするものではない
 このように,本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても,本願発明がその発明の効果を得るためにとった課題解決原理は明らかではないから,当業者は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本願発明を実施することはできない。」

4 検討
 いやあ,いまどき珍しいUFO型の明細書ですね。
 UFO型の明細書とは何かというと,私の書いた本「知財実務のセオリー」を持っている人は,そのp132を見て下さいな。そこにUFO型明細書が何かっていうのが一目瞭然に書いてあります。

 この事件,まさか弁理士が出願も代理して~と恐る恐る見たのですが,弁理士が出願の代理してますね,本人出願じゃありません。いやあ,これは恥ずかしいです。

 まあ,この出願の出願日(2012.4.27)からすると,出願人は何かこれで一山当てようかなあと思ったかのかもしれませんが,これは弁理士の方で何とかしないと。世の中色んな事情があるってえのは,世の中の99%はプロレスだと豪語する私にはよくわかりますが,それでもやはりって所です。あーあ。

 来月一弁の勉強会で判決を紹介することになっているのですが,この判決は実に面白いので,これにするかなあ。
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