忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 東京は台風一過です。
 この時期の台風ということもあり,しかも勢力は随分小さくなっているということもあり,そんなに心配はしておりませんでした。
 もちろん,今朝大きな被害があったわけではないのですが,昨日の夜半から激しい雨と風でした。
 8月の後半から9月の台風シーズン本番と同じくらいの感覚だったなあという感じです。自然って本当侮れませんね。

 ということで,まあ,小ネタ集です。ちょっと時機後れなのですが,今週の月曜の日経の法務面の特集が「知財高裁設立10年その評価は」という話だったので,これにインスパイアされた内容で行きましょう。

2 まずは,その日経です。大きく元特許庁長官の荒井さん,と元知財高裁所長の飯村さんのインタビュー記事で始まります。

 で,荒井さんの方は,「(1)損賠額の引き上げ(2)特許裁判の情報公開(3)書面中心の審理にビデオなどを導入し、争点を裁判官や当事者に分かりやすくする(4)(無効判断などで重複する)裁判所と特許庁の役割の見直し」を提言されております。
 まあ,この話はいいとして,いつも思うのですが,この荒井さんって,何者?
 え!元特許庁長官だから・・で?法曹なの?学者なの?弁理士なの?実務家なの?ってなると何者でもないですわな。

 要するに立派な肩書のようではあるが,知財に関してずぶの素人ってわけですわ。
 まあ,最近は,野球経験者ではない指導者とか野球評論家みたいな人も居ますので,一億総評論家でもよしとは言え(もうそんなに野球人気はないかな。),何か重要な話のときに,伝聞の情報しか持っていない人が口を挟むとややこしくて仕方ありませんわ。
 そう,私も別に大したことはありませんので,素人なのは仕方ありませんが,伝聞情報をひけらかすのはやめてちょうだい~♡って感じですニャー。

 他方,飯村さんの方ですが,こちらはこちらで経験全面に押し出し過ぎ~。
 もうあなたは裁判官ではないのですよ~成功体験がイノベーションを阻害するのはよくあること,それは会社だけではなく,個人でもそうなのです。
 提言としては,「(勝訴率が低い、損害賠償額が小さいなどの結果として)日本の裁判所が選択されないといった指摘もある。だが特許訴訟の件数欲しさに偏った紛争解決システ ムをとれば、パテント・トロールを呼び込み、「法の支配」の価値観を崩すことになりかねない。中長期的に失うものは大きい。」と結んでおります。これはこれで分かる話ではあるのですがね。

 で,日経の結論としては,編集委員の渋谷さんの「10年にわたる知財高裁への評価は難しい。裁判官は個々の事案にまじめに取り組み、判例を積み上げてきた。だが発足前、企業や政策担当者が抱いた「知財の権利が広く強力に認められるようになる」との期待には応えていない。  原因のひとつは知財を扱う裁判所なのに、技術に関する知識を積み上げる仕組みが不足していることだ。」に尽きると思います。

 まあ,これも要因の一つであるかもしれませんよ。でも技術に関する知識を積み上げると,知財の権利が広く強力に認められるようになるかどうかは極めて疑問です。
 何でかっていうとそりゃ簡単ですよ。技術ってわかり過ぎるとよくないです。本来発明当時にしては画期的な技術だったのに,今現在の積み上げた知識から俯瞰すると,陳腐でしょうもない技術に見えるのですよ~。
 だから,私は今後の知財高裁の行くべき方向はそっちじゃないと思いますね。

3 次は裁判所です。
 知財高裁の統計データが更新されております。
 これを見ると,昨年,地裁1審での新件は552件でした。現在の知財高裁の所長である設楽さんの「偽善と欺罔 4月号」の論文によると,高裁の控訴審レベルでは,特許権及び実用新案権に関する事件は45%位だそうです。

 一審にそのまま当てはまるわけではないでしょうが,大凡変わらないでしょうね。とすると,地裁レベルでの特許の事件の新件は昨年で,250件程度になります。

 4月の末に,修習の同期で教官を招いて飲み会をやったことを書きました。そこで,東京高裁の現部長をやっている民裁教官に,いやあ特許の事件は200件くらいしかないんですよ~と言ったら,怪訝な顔をされました。
 いや,交通事故とか債務整理とかだと年間200件っていうのは,そこそこ中堅の,ある程度の専門事務所だったら,あり得る話なわけです。つまり,教官はお前の事務所が一年に扱う事件のことか?そりゃ頑張っているんじゃねえの,と勘違いされたようなのです。

 違いますよね。日本の全裁判所に提起される特許の事件(とは言え,侵害訴訟は東京と大阪のみなのですが。)が,年間でたった200件しかない!という話です。それを説明した所,さすがに教官もびっくりされてましたね。

 いやあこれだけじゃ食っていけねえでしょ,そうなるとこんな根性のねじ曲がった人間になっちゃうのです~♪

 次に,審決取消訴訟ですが,昨年は278件でした。やはり,上記の設楽さんの論文によると,特許権及び実用新案権に関する事件は75%位だそうです。
 そうすると,210件程度にしかなりません。

 このように,日本全国で,特許の訴訟事件は,1年で460件くらいしかないってことです(この他に控訴事件も有りますが,一審を経ていますので,新件ではありません。)。

 どうですか~お客さん,やばい感じですよね。

4 で,最後に官邸です。
 ヤバイ感じと思っているのは,私だけでも荒井さんだけでもありません。結構な人達がヤバイ感じと思っているようです。

 その代表が官邸ですね。だって,小泉政権下で,知財立国でどうのこうのって大々的に打ち上げたにも関わらず,知財の一審事件は654件(H16)→552件,審決取消訴訟は527件(H16年)→278件と減少しているのですからね。

 いくらパテントトロールが来なくていいじゃねえかって言っても,パテントトロール以外のイノベータの皆さんも来なくなっているようですし,しかも元々いた日本企業も出て行っちゃいそうですよね。あーあ。

 ですので,官邸としては,現在「知財紛争処理タスクフォース」を作ってその辺の議論を始めております。

 メンバーはこんな感じです。
座長 相澤 英孝 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授
  荒井 寿光 東京商工会議所 知的財産戦略委員会 委員長
  飯村 敏明 ユアサハラ法律特許事務所 弁護士
前 知的財産高等裁判所 所長
  大野 聖二 大野総合法律事務所 弁護士
  奥山 尚一 久遠特許事務所 弁理士
前 日本弁理士会 会長
  上柳 雅誉 セイコーエプソン株式会社 知財顧問
元同社 常務取締役 知的財産本部長
  杉村 純子 プロメテ国際特許事務所 代表弁理士
  高倉 成男 明治大学法科大学院 教授
  長澤 健一 キヤノン株式会社 取締役 知的財産法務本部長
  宮川 美津子 TMI総合法律事務所 パートナー弁護士

 
 まあ,このメンバーを見るにつけ色んな感想もありますが,そんなに悪くないのではないのでしょうか。

 議論の項目も大体決まっています。
 1.証拠収集手続
 2.損害賠償請求
 3.差止請求権
 4.権利の安定性
 5.情報公開・海外発信
 6.知財司法アクセス

 これねえ,本当知財について本丸だと思いますよ。職務発明って何か行きがかり上乗った感じがありますが,これらの6つの項目はどれもこれも重要で,職務発明なんかこれらに比べたら屁みたいな話です。

 上で,ちょっと言ったこともここである程度の意見集約ができ,決着がつくといいなあと思いますね。ですので,このタスクフォースがそのまま法改正に結びつくものかどうか今の時点ではわかりませんが,きちんと見ておく必要がありますね。

 で,今日は,上から順に見てきましたが,要するに,低迷する特許の訴訟~っていうことがテーマでした。
 個人的な意見ははっきりしています。私はこういうときに,何か玉虫色の話をして誤魔化そうなんて思いません。後で間違っていたとなってもはっきり言いますよ。

 それは単純~。賠償額です。これが低すぎです。
 あれだけの苦労して,あれだけの思いをして,そりゃ勝ちましたよ,勝ったには勝ったけどこれっぽっち~??。
 これを再投資して,何ができるの~製造装置の一つも買えない,弁護士の費用を払ったら20円くらいしか残らない,いやいや弁護士の費用の方が高かったじゃん,差し止めは認めてもらったけど,もう販売していない旧製品なんて効果薄~。

 こうなるのは単純に額ですよ,額。資本主義の世の中なんだから,所詮は銭ですよ~。別に悪いことじゃありません。
 上の問題を解決するには,銭!これだけです。

 もっとも,飯村さんのように解決しなくていいって言うなら,別に今のままでもいいんじゃな~いですかね。
PR
1121  1120  1119  1118  1117  1116  1115  1114  1113  1112  1111 
カレンダー
07 2017/08 09
S M T W T F S
3 4 5
11
13 15 19
20 23 24 25 26
27 28 29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]