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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 特許権(特許番号:特許第3737801号,発明の名称:プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物)を有するハンガリーに本社を持つ製薬会社のテバ社が,被告(東理)による医薬品であるプラバスタチンナトリウム(被告製品)の輸入及び販売行為が上記特許権を侵害しているとして,被告製品の輸入・販売の差止等を請求した特許侵害訴訟の上告審です。

 あ,最初に言いますけど,これ知財高裁大合議判決の上告審ではありませんからね。
 ちょっと,ネットを見ると勘違いしている方がチラホラ見られます(こちらの方が先に最高裁HPにアップされたからでしょうね。)。
 とは言え後に述べるとおり,裁判官すら勘違いしている方もいますので~ムフフフ。

 まず,一審東京地裁(47部,阿部さんの合議体です。)は,「本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであると認められるから,原告は,被告に対して本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3)。」として,原告テバ社の請求を棄却しております。

 次に,二審の知財高裁一部(当時,飯村さんの合議体でした。)は,「(1) 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における特許法104条の3第1項に係る抗弁の判断の前提となる当該発明の要旨は,当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべきである。
(2) 本件発明には上記(1)の事情が存在するとはいえないから,本件発明の要旨は,当該製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。そして,本件発明は,当業者が容易に想到し得たものであるから,本件発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであり,上記訂正の請求がされているとしても,本件訂正発明に係る特許も同様に特許無効審判により無効にされるべきものである。」として,テバ社の控訴棄却,つまり請求棄却しました。

 ま,要するに,製法限定して発明の要旨を認定したものの(そうすると本来無効にはなりにくくなります。),乙13というかなりドンピシャの引例があったため(知財高裁1部の判断によると,引例と本願との相違点は,精製されたプラバスタチンナトリウムの濃度だけで,そこは想到容易とされました。),進歩性なし!と判断されたというわけです。

 ほんで,これに不服の原告(テバ社)が上告受理の申立てをしたのが,本件というわけです。

 で,結論としては,最高裁第二小法廷(千葉さんの合議体ですね。)は,破棄差し戻しとしました。つまりは,知財高裁の大合議のやつの上告審と同様,知財高裁でもう一回というわけです。

 しかしながら,上にも書きましたが,大合議の上告審のやつと論点は違いますからね!要注意です。

2 問題点
 問題点は,PBPクレームの場合,発明の要旨認定の際のクレーム解釈はどんなやつ?ってことです。

 他方,知財高裁大合議の上告審のやつは,PBPクレームの場合,技術的範囲の認定の際のクレーム解釈はどんなやつ?ってことです。

 このように,本件と,大合議の上告審のやつとを比べるとその違いがよくわかると思います。にわかでも弁理士試験受験生でも結構ですが,この違いを理解できないと何の話かさっぱりわかりませんので,兎に角ついて来てください。

 まず発明の要旨認定というのは,早い話特許性の判断です。典型的なものは審査のときです。そのとき先行技術(引例)と本願発明を比べるわけですね(差がなければ新規性なし。差があっても少しなら進歩性なし。)。
 とは言え,本願発明=クレームの言葉ですので,引例とそのまま比べられるかというと,通常そうではありません。本願発明と引例では,用語が違うことがよくあります。
 例えば,コンピュータを使った発明で,本願発明はCPUという表記のところ,引例にはMPUと載っていたとします。CPUとMPUは言葉は異なりますよね,確実に。でもこれ違うものなんですか?
 こういうときに,本願発明のCPUは,これこれこういう機能があるから,こういうものだ・・・とすると,これはMPUに等しい~てなことを解釈するのが,発明の要旨認定ということになります。

 つまり比べる相手は,過去の抽象的な別発明であることが多いものです。

 他方,知財高裁の大合議の上告審のやつはこれじゃないのです。
 技術的範囲の認定,つまりは構成要件充足性の判断のところです。つまり,本願発明と,現実の具体的な製品を比べるわけです(差がなければ技術的範囲に含まれる。差があれば非侵害。)。
 ほんで,やはり,本願発明=クレームの言葉ですので,現実の製品とそのまま比べられるかというと,発明の要旨認定以上に,そうではありません。
 だって,ニャーニャー鳴いている小動物がいたとして,それが「猫」かどうか,確実に誰が何と言おうともわかるためには凄い手間がかかりませんかね。
 猫とは,これこれの特徴がある哺乳類で,DNA配列はこんなもんで・・・と,現実のその小動物と比べられるほどの解釈をやっておかないといけません。これが技術的範囲の解釈です。

 このように,同じクレームの解釈なのですが,この発明の要旨認定と技術的範囲の認定は,違う場面のものです。
 その二つのクレーム解釈が,同じか違うかはまた別の話(非常に面倒くさい議論があります。)なので,ここでは措いておきますが,知財高裁1部は,PBPクレームの場合,「① 発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときは,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと認定されるべきであるが,② 上記①のような事情が存在するといえないときは,その発明の要旨は,記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。
 この場合において,上記①のような事情が存在することを認めるに足りないときは,これを上記②の「特許請求の範囲に記載された方法により製造された物」に限定したものとして,当該発明の要旨を認定するのが相当である。」
 と,①の真正PBPクレームと②の不真正PBPクレームとに分類し,本件の場合,①の事情が存在することを認めるに足りないとして,製法に限定し,しかし,引例とくらべて進歩性なしとしたわけです。

 問題点が理解できましたかな~。
 それでは判旨の方へ。

3 判旨
「4 しかしながら,原審の示した上記3(1)の基準は是認することができず,そうすると,それを前提とした上記3(2)の判断も是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集第45巻3号123頁参照)という役割を有しているものである。そして,特許は,物の発明,方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。
 したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その発明の要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。
(2) ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点から(2) ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして発明の要旨を認定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。
 他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として発明の要旨を認定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号登載予定参照)。
5 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を認定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」

4 検討
(1)形式面からすると,まず,この裁判の要旨は1つしかありません。知財高裁大合議の上告審では要旨となっていた明確性の話は,要旨から外れています。
 つぎに,早くも,知財高裁大合議の上告審は,判例扱いです(「最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号登載予定参照」のところです。)。あと,判例と言えるのは,基本,最高裁の判決だけですからね。この辺,弁理士の人は注意ですね。
 最後に,この判決も裁判官五人の全員一致です(知財高裁大合議の上告審も全員一致でした。)。あの~,山本裁判官の「意見」は反対意見ではありませんからね。これも注意ですよ。

 さて,この判決の言いたいことは,PBPクレームの場合,発明の要旨認定も,物同一性説でやるってことです。つまり,技術的範囲の認定と同じってことになりますね。

 で,これは重要なことですよ。ふーんじゃありません。

 特許権者からすると,発明の要旨認定を物同一性説でやると非常にマズいことになりますからね。他方,技術的範囲の認定は物同一性説でやってもらったほうが,特許権者は有利です。

 というのは,物同一性説は,製法に関わらないということですので,非常に広い解釈なわけです。ですので,技術的範囲は広くなります(侵害となりやすい。)。
 他方,発明の要旨認定も広くなりますので,過去の引例とかぶる可能性は高くなります(無効となりやすい。)。

 でね,本件の場合,二審の知財高裁の一部の判断では,製法限定だったわけです(不真正PBPクレームだったので。)。つまりは,かなり狭く解釈されたのです。にも関わらず,乙13で進歩性なしで無効になったのですよ。
 それが広い解釈の物同一性説で有効になるわけがありません!しかも,何かようわからん,明確性の要件まで付けられましたしね。

 なので,差し戻しとなっても,知財高裁大合議の上告審以上に,特許権者の勝ち目はないというのが私の見立てです。


 さて,本質とは全く関係ないけど,恥ずかしい間違いの指摘です(先週の金曜,ちょっと指摘したやつです。)。判決の千葉勝美裁判長の補足意見に,明らかな間違いがあります。11頁です。

(2) この点につき,原審である知財高裁大合議部の判決が示す基準によれば,

 上記のとおり,原審は知財高裁1部です。残念!コピペしたのでしょうね~。
 いやあ,千葉ちゃんは,24期ということで,同期の裁判官は皆退官して,公証人とか弁護士とか大学の先生になってることでしょうが,あいつは昔から慌てもので~とか詰めが甘いんだなあ~とか言われていることでしょう。アメリカの判決がどうのこうのなんて書いて物知り顔をしている間に,自分の書いた?判決を読みなおした方が良かったですな。
  
 民訴法には257条という判決の更正というものがあり,これが297条を通じ,313条で使えるので,更正するのですかね。いやあ格好悪い~。

(2)で,金曜と,そして本日,プロダクトバイプロセスクレームの発明についての2件の最高裁判決を検討してきました。

 こうして思うことは,知財高裁の判決も(大合議も1部も),そもそも一審判決も,別段そんなまずくないし,具体的な妥当性を図るという司法作用の根源からすると,それで十分だという気がします。

 にも関わらず具体的な妥当性の権現とも言える最高裁が,結論を変えた(破棄差戻し)のは何故か?というところが引っかかります。

 それは上記の千葉ちゃんの補足意見に挙げられた最高裁平成10年(オ)第1579号(平成10年11月10日判決)の存在でしょうね。所謂「衿腰に切替えのある衿」事件です。

 これはある特定の作図法による衿腰に切替えのある衿の発明(衿は「えり」です。)が問題となったもので(PBPクレームと言ってよいでしょう。),物同一性をとったものです(結論は非侵害)。

 これ最高裁ですからね。

 ですので,この最高裁がある以上,一審も知財高裁も,これと異なる判断が出来るわけがない~,これが大原則なのです。仮に,これと異なる判断をする場合には大法廷!ってことになりますね。大法廷で判断されない以上は,破棄で差し戻すのが当然と言えます。

 しかし,じゃあ何故一審も知財高裁も,今回のような感じで,上の平成10年の最高裁判決を無視したような形になったかというと,この最高裁判決,どの判例集にも載っていないのですよ(ま,知る人ぞ知るって感じでしたけどね。)。つまり,判例ではない,先例性がない,無視しても構わない~という判断になったのではないでしょうかね。

 ところが,最高裁って所は,きちんと最高裁の判断を踏まえるわけです。なので,大法廷で最高裁平成10年(オ)第1579号の判例変更をしないのだから,その判断と同様の判断をしたというわけです。
 ただし,その結論だと具体的妥当性を維持することができませんから,取って付けたような明確性の要件を置いたのでしょうね。

 まあ私も迂闊でした。やはり既存の論点で,最高裁の判断がある以上,その判断がまずは優先というかそのままだ~,という基本中の基本を忘れていました。

 今回の一連の最高裁の判断で,特許庁実務,ひいては知財部・特許事務所実務にも変更が生じるのは当然です。でも一番大事なことは,基本の基本を疎かにしてはいけないってことなのかもしれませんね。

5 追伸
 毎度おなじみ流浪の弁護士,散歩のコーナーでございます。
 本日はここ,ソニーの旧本社前に来ております。
 
 これがNSビルですね。
 そして,4号館はこんな感じです。
 
 両方ともさっぱりしていい感じになっております。

 もはや後片付け~って感じです。

 さて,本日,東京も梅雨入りしたらしいですよ。これからやく一ヶ月半くらい,うっとおしい梅雨の季節ってわけです。
 まあでも季節って本当きちきち変わりますよね。死ぬほど寒いと思っていたのに,もう梅雨ですわ。

 あ,そうそう,この散歩の目的としてはメタボ,生活習慣病からの脱出~♪ということなのですが,今年の健康診断がいよいよ今週木曜です。
 何とか去年よりましになっていることを願いますが,どうなんでしょうね。


 そうだそうだ,今日は閲覧数が物凄いですね。やはりみなさん気になるようです。
 勿論,一ヶ月二ヶ月待てば,権威ある学者や弁護士の方々からの色んな評釈が出ることと思います。でもねえ,今の世の中そんなんじゃ遅いって気がしますね。

 少なくとも,今回の結論を実務,ひいては商売に結びつけるには,そんな評釈が出揃ってからじゃ遅いと思いますよ。

 実際の戦争でも,ロジスティクスとインテリジェンスで,帰趨が決まるくらいなのですから,人の死なない商売なら尚更ですよね。

 ま,兎も角も,今回の二つの判決は色んな要素がありますので,是非全文を読んでみて欲しいですね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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