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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「美顔器」とする特許(特許第4277306号)についての特許権を有する原告が,被告に対し,被告が製造,販売等を行っている別紙被告製品目録記載1及び2の製品(被告各製品)が,本件特許に係る発明の技術的範囲に属すると主張して,特許権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金5億6174万4000円の一部である2500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める特許権侵害訴訟の事案です。

 これに対して,東京地裁民事29部(嶋末さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。均等侵害はない,としたのですね。

 ま,均等論で,珍しいということで取り上げたのですが,棄却で均等論論点なんてごくありきたりじゃね,よくあるパターンじゃねと思われるかもしれません。

 そうそう,均等論って基本負け筋です。でも負けの理由が面白い~何と均等論第4要件で切っているため,取り上げたのです。

 まずは,クレームです。
「A      所定量の化粧水を収納する化粧水収納カップと,
 B-1  該化粧水収納カップを装備すると共に,前記化粧水収納カップから滴下された化粧水が引き込まれる導管を内蔵し,
 B-2  且つ該導管の先端に設けられた噴出ノズルを有する
 B-3  スプレー本体と,
 C      更にこの導管内において前記滴下化粧水と混合して炭酸混合化粧水を噴出ノズルから霧状に噴出させる炭酸ガス供給用ボンベと,
 D      この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体内の導管とを接続する炭酸ガス供給用パイプと,
 E      而も前記スプレー本体に備えられた炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子とで成した
 F      ことを特徴とする美顔器。」

 まあそんな難しいクレームじゃないです。スプレーガンというかエアブラシというか,それでCO2との混合化粧水を顔にぶっかけるっちゅうようなやつですね。

 明細書の図だとこんなやつです。まあ,しかし実に大掛かり~♡こんなの家に持っている奴はいねえよね。BtoB用なのですかね。

 ほんで,均等論第4要件なので,被告製品はこうです。
 被告製品
「a      所定量の化粧水を収納するボトルと,
 b-1  該ボトルを装備すると共に,炭酸ガスが流れる炭酸ガス流通路を内蔵し,
 b-2  且つ該炭酸ガス流通路の先端に設けられたエアノズルを有する
 b-3  エアブラシと,
 c      更にエアノズルの出口よりも外側において前記ボトルから吸い上げられた化粧水と混合して炭酸混合化粧水を霧状に噴出させるための炭酸ガスをエアブラシに供給する炭酸ガスカートリッジと,
 d      炭酸ガスカートリッジと前記エアブラシ内の炭酸ガス流通路とを接続するエアホースと,
 e      而も前記エアブラシに備えられた炭酸ガスの噴出量を調整することにより炭酸混合化粧水の噴出調整を行うエア調整用ダイヤルとで成した
 f      ことを特徴とする美顔器。」

 本来は,この被告製品と,上のクレームを比べるのが技術的範囲の話なのですが(均等論もそう。),ここでは均等論第4要件の論点なので,クレームとは比べないのです。

2 問題点
 ということで,問題点は,均等論第4要件を満たすか?(消極的要件なので,満たさないか?というのが正確ですけどね。)ってことです。
 
 この第4要件は次のとおりです(最高裁平成6年(オ)1083号, H10.2.24 判決)

 「(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく

 というものです。
 つまり,昔から公知技術の抗弁と言われていたやつです。要するに,特許出願時に既に公共材となっていたもの,またそれから容易推考なものって,誰も特許なんかとれない技術なんだから,好き勝手にやってOKでしょ~ってことです。

 ですので,被告製品と公知技術等を比べることになるわけです。
 ただ,公知技術と同一性を見たり,公知技術から容易推考を考えたりというのは,新規性や進歩性と同じ基準ではあるのですが,対象となるのが,特許ではなく具体的な技術であることに注意しなければなりません。

 わかりますよね。普通,新規性がないとか進歩性がないとか言う場合は,特許つまりクレームつまり言葉が対象です。
 ところが,この均等論の第4要件で,公知技術と同一とか容易推考とか言う場合は,現実に存在する物(言葉じゃありません。)が対象なのです。

 ですので,構成要件該当性を調べるときと同じように,物を言葉に置き換えないといけないという作業を介さないといけないのですね。とすると,本来ここで争いが生じることは必至です。

 その後,その争いが生じそうな置き換え言葉を対象として,公知技術を探す必要があるのです。

 ま,要するにクソ面倒なわけです。どうせ同じ公知技術を探すなら,特許そのものをつぶすべく,(被告製品の公知技術じゃなく)特許の公知技術を探した方が早いんじゃねえの~と思うのが通例です。→これが無効の抗弁の方です。

 ということで,均等論第4要件が問題になることは少ないですよね~。元々均等論自体が少ないし,争い方としても第4要件で・・・??っていうところはありますもんね。

 でも今回,何故か第4要件で争っています。これは恐らく良い公知技術が見つかったのでしょうね。でも何故その公知技術が見つかったのかは判決からはわかりません。

3 判旨
「原告は,乙1発明は,役者やモデルのような舞台に上がる者を対象としたメイクアップの技術であるのに対し,乙4発明は,模型等を対象とした塗装技術であって,技術分野が全く異なること,また,乙1発明と乙4発明の解決課題が異なることから,乙1発明に乙4発明を適用する動機付けがないと主張する。しかし,証拠(乙1)によれば,乙1文献の「問題点を解決するための手段」には,「本発明者は,上記の問題点を解決するために,化粧料を,手作業によって塗布する代りに,工業的に吹き付けることに気が付き,塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付けることを考え付いたのである。」との記載があり,この記載はまさに,塗料を噴霧して吹き付ける塗装技術を,化粧料を吹き付ける技術に応用することが可能であることを示唆するものであると認めることができる。したがって,上記記載に照らせば,化粧料の吹付けに関する乙1発明に塗装技術である乙4発明を適用する動機付けがあるというべきであり,これに反する上記原告の主張は採用することができない。 」
「したがって,相違点1ないし6に関する被告各製品の構成はいずれも,本件特許の原出願時点で,乙1発明に乙4発明を適用することにより,当業者が容易に推考し得たものというべきであるから,均等のその余の要件について判断するまでもなく,被告各製品が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属すると認めることはできない。 」

4 検討
 公知技術のうち主引例に当たるのが乙1(特開平1-110304公報)で,副引例に当たるのが乙4(特開2003-88781公報)した。
 乙1は美顔器なのですが,被告製品との差はたくさんあり,相違点は結構大きいものがあると思います。
 他方,その相違点はほぼ乙4で埋めることができます。
 ですので,問題は乙1と乙4を組み合わせることができるか?つまりは動機付けの問題です。

 ここで問題なのは,乙4が塗料のスプレーなのですね。
 なので,普通は,技術分野が違い,課題も共通しておらず,私がここで散々特許庁などの判断を貶してきたように,機能が同じだからって,そんな簡単に結び付けられっかよ!バーカバーカ,ってなるパターンです。
 しかし,今回上記の判旨のとおり,乙1に示唆があったのです!ガーン~これは痛い。

 ですので,これは上訴してもなかなか覆らないでしょうね。

 うーん,でも本当,今回の事案は非常に珍しいと思います。あと,この第4要件で,新規性・進歩性ときたら,29の2に当たる公知技術というか先願技術を見つけてきたらどうなんだろう?っていうのが思い当たるかもしれません。

 つまり,特許出願時に,公開公報はまだ出ていないけれど,先願があって,そこには被告製品と同一のものが載っているような場合です。
 実は,特許ではないのですが,実案でそのような案件があります。東京高裁平成13(ネ)2630号(平成13年11月28日判決)です。

ある登録実用新案が、その出願日前の他の実用新案登録出願であって当該実用新案登録出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された考案と同一であるときも、実用新案法3条の2本文の規定により、当該考案は何人も実用新案登録を受けることができなかったはずのものであることに変わりはないから、このような場合には、上記④′の要件に規定する場合と同様、これを登録実用新案の技術的範囲に属するとすることは相当ではない。したがって、対象製品が登録実用新案の先願に係る実用新案法3条の2本文に規定する明細書又は図面に記載された考案と同一である場合には、出願時における公知技術に準じ、対象製品が実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとしてその登録実用新案の技術的範囲に属すると解することはできないというべきである。

 均等論がそもそも類推解釈で,これだと類推解釈の類推解釈にはなるのですが,第三者の自由を確保する方向ですから,これもまたあり!ところでしょうかね。

 ところで,本日の東京は,どうしたんだろう?という位寒いです。約1箇月ぶりに,完全冬装備で出勤しました。で,ちょっとは暑くなるかと思えばこれで丁度いいのですから,本当に寒いわけです。
 いやあ,先週の沖縄は29度だったのになあ~いやあ寒いのは嫌だなあ。

5 追伸 2016.10.3
 本件の控訴審の判断が出ております(知財高裁平成27年(ネ)第10067号,平成28年9月28日判決です。)。
 基本的に,一審の判断を是認したということです。

 また,本件の無効審判に対する,審決取消訴訟の判決も同日に出ております(知財高裁平成27(行ケ)10144号,平成28年9月28日判決)。
 こちらは,逆転で審決取り消し(進歩性なし系)です(主引例は,侵害訴訟の乙1でした。)。

 ということで,これは特許権者負けの筋でおしまいになりそうです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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